Review

『YUMENIKKI』は傑作ゲーム『ゆめにっき』をどのように再構築したのか?

『YUMENIKKI』は傑作ゲーム『ゆめにっき』をどのように再構築したのか?

日本のインディーゲーム史において、非常に重要な作品がある。『RPGツクール』を使ったゲーム制作が盛んな2000年代に公開されたフリー(無料)ゲーム、『ゆめにっき』だ。インディーシーンに大きな影響を与えた一本として、その伝説は語り継がれている。そしていま、『ゆめにっき』がもたらした独特な世界を未来へ引き継いでいくため、現代風のインディーゲームスタイルで新たに構築した『YUMENIKKI -DREAM DIARY-』(以下、『YUMENIKKI』)が、2018年2月23日に発売された。『ゆめにっき』はなぜそこまで支持されたタイトルとなったのか、そして新しく生まれ変わった『YUMENIKKI』はどのようなゲームになっているのか。インディーゲームシーンに燦然と輝く傑作を改めて解説しながら、『YUMENIKKI』を紹介していこう。

文 / 松井ムネタツ


世界中のインディークリエイターを刺激した『ゆめにっき』

まずは、オリジナルの『ゆめにっき』について説明する。『ゆめにっき』は、『RPGツクール2003』で制作されたフリーゲームだ。作者は”ききやま”氏という名前が公開されているが、まったく表舞台に出てこない方なので素性は明らかになっていない。2004年に最初のバージョンが公開され、2007年にver.0.10となって現在に至る。

▲PC配信プラットフォームのSteamでも無料版が配信されている『ゆめにっき』

『RPGツクール』は、プログラム知識がなくてもRPGを中心にいろいろなジャンルのゲームを作ることができるゲーム開発ソフトだ。グラフィックやサウンドなどの素材も用意されているため、「ゲームを作り上げるぞ!」という気合と根性があれば、ひとりでもプログラム知識ゼロでゲームを完成させることができる。

インターネットの普及により、2000年以降に『RPGツクール』製のゲームがネットでたくさん公開されるようになった。作者が自分のホームページやフリーゲームサイト等でどんどん公開していくようになり、フリーゲーム界隈ではちょっとした『RPGツクール』ブームにもなった。そのうちのひとつが、この『ゆめにっき』だ。とにかく『ゆめにっき』は異才を放っていた。

『RPGツクール』で開発されているが、いわゆるRPG的な戦闘はない。どちらかといえばアドベンチャーゲームなのだが……とにかく不思議なゲームだった。ベッドで寝ることで夢の世界に入り、12個ある扉からいろいろな夢の世界を自由にさまようことができる。頬をつねることですぐに現実世界に戻ることができるので、進行のミスに気づいたり、迷子になってもすぐやり直すことができる。

▲部屋のドアを開けると、さらに多くのドアがある。そこからいろいろな夢の世界を歩き回る

やることは夢の中を探索するだけ。“エフェクト”と呼ばれるものをすべて集めるという目的らしきものはあるのだが、基本は夢の中をひたすら歩き回るのみ。何ともサイケデリックなビジュアルなので、それを眺めているだけで本当に夢の中にトリップしたんじゃないかという気分になるから不思議だ。

▲夢の世界の一部。これらのシーンにいったいどのような意味があるのだろうか?

ゲーム中にテキストメッセージが表示されないので、明確なストーリーが開示されているわけではない。つまり、物語はプレイヤーがどう感じるかがすべて。だからこそ、プレイヤーは想像力を掻き立てられた。物語をどう解釈すればいいのか。「つまりこういうことだよね?」、「いやいや、そうじゃなくて……」との議論があちこちで起こる。開発者のききやま氏からは「こういうお話です」と明確な提示がないため、よけいにみんなの妄想は膨らんだ。遊んだ人のぶんだけ、『ゆめにっき』の物語があるといってもいいだろう。

『ゆめにっき』が多くの人に知られたキッカケのひとつに、ゲーム実況がある。ニコニコ動画でゲーム実況が流行りだした2008年ごろ、『ゆめにっき』を使った実況動画が数多くあった。あまりに不思議なゲームであったため、初プレイはとにかく混乱する。その様子がじつは面白いのではないかということで、「『ゆめにっき』を初めてプレイするよ!」という初見プレイの実況がアップされるようになった。初プレイの反応はさまざまで、実況動画を観ると「じゃあ僕もやってみようかな」という気持ちになる。そして、ゲームの全貌がある程度わかった段階で初見プレイ動画を観ると、「ここで僕もそんなふうに驚いたよなあ」と共感する。こうした連鎖もあって、『ゆめにっき』のファンはどんどん増えていった。

ファンが増えると、つぎに”ゆめにっき派生”と呼ばれるファンゲームが登場した。みんな『RPGツクール』を使い、『ゆめにっき』に影響を受けたゲームがたくさん生まれたのだ。ファンゲームは国内のみならず海外でも生まれていることから、『ゆめにっき』は世界中に影響を与えていたことがわかる。

なぜ、『ゆめにっき』はそれだけの熱心なファンを生み出したのか。その大きな要因は、ゲーム中に一切語られることがない謎めいたストーリーにある。いや、この”謎めいた”ということ自体が、すでに”そう思わされている”だけなのかもしれない。プレイしていると、「これは物語上の重要な何かを意味しているのではないか」と思わせるような場面が随所にある。さまざまな考察がプレイヤーのあいだで行われたが、作者自身は何も語っていないので明確な答えはない。だからこそ自分なりの正解を求めて、まさに夜な夜な『ゆめにっき』の世界を歩き回ってしまう。”画面から得られるビジュアルだけで物語を考察する”という新しい遊びかたを提供してくれた作品、と言ってもいいかもしれない。

1 2 >