Interview

おばあちゃんだって、欲も夢もある!著者・おざわゆきに訊く『傘寿まり子』にみる老いとのポジティブな向き合い方

おばあちゃんだって、欲も夢もある!著者・おざわゆきに訊く『傘寿まり子』にみる老いとのポジティブな向き合い方

「生涯現役」が叫ばれる時代。たとえ結婚して子供や孫に恵まれ、仕事をリタイアしたとしても、私自身の人生は生きてる間、ずっと続いてゆくわけで。できれば自分らしく楽しく人生を謳歌したいけれど、高齢女子のロールモデルはまだまだ少なくて…。漠然とした不安を抱えている人はきっと少なくないはず。
そんな今“マンガ”という枠を超えて、大きな注目を集めているのが『傘寿まり子』だ。
御年80歳で作家のまり子さんがひょんなことから家を飛び出し、さまざまな冒険を繰り広げながら、自分の居場所を見つけようともがく。その自由でイキイキした姿を見ると、年を取るのが怖くなくなるのと同時に、たかだか30-40歳で「もう年だし」と言い訳して、いろんな可能性を潰している自分に気付き、“がんばらなきゃ!”と奮起させられる。
そんな素敵ヒロインを生み出した著者のおざわゆきに同作に向けた思いを伺った。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 荻原大志


「傘寿まり子」ストーリー
ベテラン作家の幸田まり子は自分の家で息子夫婦と孫夫婦の間で住居問題が勃発。老人の自分には居場所がないことを感じ、家出を決意。ネットカフェで暮らし始めるが……。立ちはだかる世間の壁、初恋の人との再会と別れ。現実の壁にぶつかりながらも書くことに情熱を燃やしていた自分を思い出し、再起を決意。しかし連載誌から突如の打ち切りを告げられ、窮地に立たされたまり子はネットを通じて知り合った同世代のゲーマー・ちえぞうとネットおたくの若者の協力のもと、webマガジンを立ち上げようと奔走するーー。

欲も捨てられず、今と同じ気持ちのまま見た目だけ年を重ねるという感覚

まず80歳という異例の高齢ヒロインを描こうと思ったきっかけは?

私が以前、踊りを習っていたんですが、そのときの生徒さんが60歳以上の高齢の方ばかりで。同じ生徒として並列に接してみると、自分がそれまで思っていた「おばあちゃん」と全然違ったんです。皆さん好きなところに行って、好きなものを食べて、すごく元気で楽しそう。うちの母親も今85歳なんですけど、あれが食べたい、あれが欲しい…って欲だらけで、文句も言うし、口もすべらせる(笑)。よく老人の方のエッセイを読むと、欲を減らして人と仲良く、食べるものも程よく、丁寧な暮らしを…みたいなことが書いてあって、“絶対ムリ!”って思っていたんですけど、年をとったからといって誰もが欲を捨てられるわけがないよなー、むしろ、捨てない方が楽しそう!と思って、そういうおばあちゃんの話を書こうと思ったんです。

最近は70歳位でも見た目も若いし、いわゆる老人って感じではないですよね。

そうなんですよ、80歳でも全然元気だなって。だから、最初は70歳ぐらいと思ったんですけど、既に書いてる人がいるかもしれないから、もう10歳あげちゃおうって(笑)。

「傘寿」って言葉は私、このマンガで初めて知りました。

実は私もそうで、タイトルは当時の担当編集さんが考えて下さったんです。打ち合わせの時に「すいません、タイトル考えたんですけど『傘寿まり子』ってどうでしょう?」って(笑)。傘寿ってインパクトがあるし、一度聞いたら憶えちゃうから、それがいい!って。まり子って名前はそれまでに自分で決めていて、夏木マリさんとか年齢を超越した元気でかっこいい女性のイメージで付けました。

なるほど。高齢者が元気とは最近よく言われることですが、まり子さんはいわゆる悠々自適ともまた違って、いい意味でジタバタ足掻いてる感じが人間臭くていい。

まり子さんのキャラクターはベテラン作家ということもあって、当初はもっとすごい、ラスボスみたいな感じで考えてたんです。でも、うまく行かなくて。やっぱり80歳の人って、老人としてベテランの域になるじゃないですか?そういう人が考えてることが全然想像できなくて…。そんな時に『ヘルプマン』という介護士のマンガを書かれた、くさか里樹さんのトークイベントがあったので行って「高齢者をキャラクターとして出すときに気持ちが判らなくて苦労しませんでしたか?」って質問したんです。そうしたら「高齢者だからといって別の人間とは思わない、自分と同じだと思って書きました」と仰って。それでいいんだ!って、自分とつながるキャラクターとして描こうと思ったんです。

だからでしょうか。最初は80歳!という物珍しさもあったのですが、読み進めるにつれて、どんどん自分と変わらないなーと感情移入していきました。

そうなんです。考えてみれば、自分が30年前と比べてすごく変わったか? といえば意外と変わってない。じゃあ、30年後もそんなに変わっていないんじゃないかなって。今の自分が30年シフトするだけで、欲も何も捨てられない、同じ感覚を持ち続けたまま見た目だけ年をとっていくものなのかもしれないーーという感じで描いてますね。

まり子さんが作家という設定もご自身を投影されたのでしょうか?

当初から、何か仕事を持ってる「80歳まで好きなことをやり続けてる女性」にしたいなと思っていて。作家というのは、当初の「すごい老人」のイメージで決めたんですが、キャラ変更によって大御所作家から、そんなに売れてない感じにシフトしました(笑)。描いているうちに自分とどんどん同化してきて、自分が日頃思ってることをまり子さんに託したりもしてます。

まり子さんは仕事もあって、四世帯同居もしていて、一般的にみれば恵まれてるはずなのに自分の居場所を見失って家出をする。そこでアパートを借りようとするんだけど借りれない。たとえ地位やお金があって元気でも社会では老人というだけで壁があるーーという描写はリアルでハッとさせられました。

あそこは描いた時点では、もし自分が不動産屋や大家だったら、きっとそういう障害があるだろうな…って想像だったんですが、後で「本当にそうでした」って声をいくつか聞きました。

©おざわゆき/講談社

でも、そこからネットカフェを発見して、書斎にしてしまう流れがまた最高で。こんな場所があったのね!と目をキラキラさせるまり子さんのポジティブさとバイタリティに拍手したくなります。

ネットカフェは私自身が以前からよく利用してたんです。集中したいときに家にいると、ついネットやテレビを見たりしちゃうので(笑)。でも、最近のネットカフェって本当に楽しくて、すごく綺麗だし、フードも充実しててびっくりします。ちょうど「ネットカフェ難民」みたいなことが社会問題になってた頃ですが、私が行っていたネットカフェはそういう暗いイメージはなくて。そんなに悪いもんじゃないよ、行き場所としてこういうのアリだよね?という気持ちも込めて描きました。
でも、後で聞いたら、最近はシニアサービスがあるネットカフェもあって、実際に使ってらっしゃる方も増えてるみたいで。若者の場所というイメージがあるけど、高齢者もウェルカムな世界なんだって嬉しくなりました。

©おざわゆき/講談社

「まり子さんは私の理想でもあるんです」(おざわ)ーこの作品から感じられる“生涯現役”ということ

憧れの人と再会して恋に落ちるドリーミーな展開の直後に、彼の痴呆症状&高速道路逆走事件など、シリアスな社会問題をぶっ込んでくる匙加減も絶妙です。

高速道路逆走は当初からぜひ描きたいと思っていて。当時そういう問題をニュースでも頻繁にやってたり、実際に一般道でそういう人を見たと聞くことが増えて、けっこう普通にあることなんだなと思って。逆走してる車に乗ってる人ってどういう感じなんだろう?というのを、当事者の側としてじっくり描いてみたいと思ったんです。まり子さんのかつてのライバル作家が孤独死するのも、今の時代、わりと普通にあることだと思うし。逆に恋愛要素はある種のファンタジーでもあって、実際はなかなかないだろって思いながら描きました(笑)。

©おざわゆき/講談社

先ほど、日頃思ってることをまり子さんに託してると仰ってましたが、恋破れたまり子さんが描くことに「自分」を見出してゆく下りや、仕事を突然打ち切られて愕然とする下りはーー。

私が日頃考えてたことを描いちゃいました(笑)。私自身、ずっと仕事を続けたいと思ってるし、世代交替みたいな、若い人に譲っていくことも大事だとは思うんですけど、いざ自分がその立場になったら、いや、譲りたくないってしがみついちゃうだろうなって(笑)。それが本当に好きなことだったら、続けられる限りは続けたいし。

©おざわゆき/講談社

確かに、たとえ会社員が定年でリタイアしたとしても、好きなことがなくなるわけではないし、夢中になれる何かないと悠々自適でも辛いですよね。

だから、隠居って言葉がなくなるんじゃないかと思うんですよ。もう私は引退するって人が昔に比べてどんどん減るだろうなって。先日新聞でインタビューをしていただいたんですが、そのとき一緒に載った一人が佐藤愛子先生で、もう一人が若宮正子さん。80歳を過ぎてからプログラミングを勉強して、82歳でアプリを開発してAppleのイベントに呼ばれてスピーチをして…みたいなことを、わりと普通の感覚でされてる方で。会社でも同僚で高齢者が当たり前にいたりするような社会になっていくんじゃないなかって。
ただ、年齢と共に自分が現役から外れたつもりはなくても、世間が外れましたねって言ってくることはあるかもしれないし、やりたいのにやれなくなる状況は、この先あるかもしれない。その時、どうしようって?

そこでまり子さんは、自分でweb雑誌を立ち上げようとします。ネトゲで知り合った若者の提案で雑誌創刊をニコ動的なもので実況中継するくだりも最高です。ネットはわからないからやらないって否定するのではなく、わからないけどやりたいからって周りを巻き込んしまう。

愛されキャラですよね(笑)。どうしても高齢になると思い込みが強くなったり、過去に固執したり、それは自然現象としてあるみたいなんですけど、でも、だからこそ柔軟でいられたらいいなって。新しいことに興味を持って、わからないときは人に聞いて、反省するときはちゃんと反省する。そんなおばあちゃんになれたらいいなって、まり子さんは私の理想でもあるんです。

©おざわゆき/講談社

まり子さんと息子さんのやりとりや、ちえぞうさんと娘さんのエピソードなど、作中で描かれる家族の姿にも考えさせられます。お互い相手のことを思っているのにこじれてしまう、どういう距離感がいいんだろう?って。

家族だからこその難しさってありますよね。山田太一さんとか倉本聰さんとか向田邦子さんが好きなんですけど、描き方が本当におもしろくて。家族って癒しでもあり、時にハードな存在でもあり、未知の存在でもある。良しにつけ悪しきにつけ、その人の根幹をなすものでもあるので、何の作品でもベーシックな人間関係として家族を描きたい思いはありますね。
私の母はいま名古屋にいるんですが、介護が必要になっても自分は東京を離れられないだろうな。もし呼び寄せて娘の役割を果たしたとしても、長年住んだところから親を呼び寄せるってどうなの?って。今ってそういう悩みを抱える人は多いと思うんです。

©おざわゆき/講談社

そういうリアルな問題もいろいろ出てくるんですが、それでも『傘寿まり子』を読んでいると、そんなに怖がらなくてもいいかもって希望が沸いてきます(笑)。

そう言ってもらえると嬉しいです。読者の方の反応も、最初は私と同世代の方が「自分が(これから進む道として)考えていたことが描かれていた!」という声が多かったんですが、先日、NHKの朝のテレビ番組で紹介していただいて。高齢の、まさにまり子さん世代の方たちが一斉に書店に注文に行って下さったみたいで。「89歳ですが私もこんなふうになりたいです」とか「『フクちゃん』と『のらくろ』以来、久しぶりにマンガを読みましたがおもしろかったです」という手紙をいただいて、感激しました。

それは素晴らしいです。女性の場合は美魔女とか劣化とか、歳をとることをネガティブにとらえる風潮もまだまだありますが、いくつになっても今の自分を自分自身で肯定していければ素敵ですよね。

少し前に、ニューヨークのおしゃれなおばあちゃんの写真集(『Advanced Style–ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ』大和書房)とか、日本でも高齢者のファッションスナップ(『LOVE60 Street Snap』主婦の友社)が話題になってましたが、ああいうお洒落は若い子にはできないし、年をとるのもいいなって思えますよね。
高齢者の暗いニュースは日々いっぱい流れていて、私もつい見ちゃうんですけど、その上で『傘寿まり子』を読むことで、気持ちの抜け道を作ってもらえたら嬉しい。私自身、描きながら「自分も80歳になっても全然いけるんじゃないかな?」って元気をもらってるので、決してファンタジーではなく、自分もこうなれるんじゃないかというパターンのひとつとして読んでもらえたら嬉しいですね。

漫画『傘寿まり子』

著者:おざわゆき
1~5卷発売中
(2018年2月末現在)
BE・LOVE KCデラックス
講談社
©おざわゆき/講談社

おざわゆき

1964年、愛知県生まれ。
1980年、高校1年生時に集英社の少女マンガ誌『ぶ〜け』でデビュー。2012年、『凍りの掌―シベリア抑留記―』が第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。2015年、第44回日本漫画家協会賞コミック部門にて『凍りの掌』『あとかたの街』が大賞受賞。他の著書に『築地はらぺこ回遊記』『築地まんぶく回遊記』など。現在「BE・LOVE」(講談社)にて『傘寿まり子』連載中。


【募集終了】抽選で1名様に、おざわゆき先生の直筆サイン入り『傘寿まり子』第1巻をプレゼント!

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3月19日(月)~3月26日(月)23:59

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