Interview

末井昭のドラマティックな半生を淡々かつ飄々と演じた柄本佑。 『素敵なダイナマイトスキャンダル』に宿るエモさとは?

末井昭のドラマティックな半生を淡々かつ飄々と演じた柄本佑。 『素敵なダイナマイトスキャンダル』に宿るエモさとは?

映画的なエモい部分を見つけにくい作品ではあるけど、こたつのシーンはさりげなくエモいなと思います。

自分の人生は映画になるようなものだと意識していなかった、ともおっしゃっていて。もちろん、後から知るからスゴイなと思うんですけど、荒木経惟さんや森山大道さんの才能を見抜く眼力もお持ちなのに、そこもたまたまみんな売れる前だったんだと。

映画を撮っていていいなと思ったのは、そういう人たちがわだかまって喫茶店に集まっては、ワイワイやっていたことですね。人間関係の濃密さだったり、企み方に温かみがあって、そこが羨ましかったりもしました。今は企むにしても、顔が見えなかったりすることが普通だったりしますしね。冷静に考えると、それって怖いことだなぁと。

確かに。その場面に登場しますが、女の子のポラロイド写真をたくさん持って雑誌社に紹介する”手配師”みたいな仕事は今だと成立しないですもんね。

あれは冨永監督が、どうしてもやりたかったらしくて(笑)。この映画の構造って、僕──末井さんがいろいろな人の上を通り過ぎていくというつくりになっているじゃないですか。撮影中は、そのことをあまり考えてはいなかったんですけど、喫茶店で仲間たちが集まっている雰囲気に触れて、「あ、意外と俺は今日までひとりぼっちだったのかもしれないな」と感じたんですよね。なので、冨永監督と「なんか今日の撮影は楽しいですね」と話していたんです。楽しかったからか、ずいぶん長いこと撮っていましたね。聞いたら「いや、面白いからカットをかけたくなくて…」なんて、おっしゃっていましたから。

あと笑ったのが、編集部に電話をかけると、女性たちが喘ぐ『エロ電話』につながるシーンですね(笑)。

よく、ああいうことを考えつきますよね(笑)。しかも、女性たちがセロテープを指先でこねて、”クチュクチュ”と淫靡な音をたてたりして。あれは確か、冨永監督やスタッフが面白がって考えついたんじゃなかったかな? そういうくだらないことを真剣に考える面白さが、この映画そのものの魅力でもあるような気がします。

悪ノリ感がありますよね。

「今日は(セットの中にある)黒板になんて書く? とりあえずチンポコって書いとくか」みたいなノリが、バカバカしくて楽しかったですね(笑)。そういう世界観が徹底されてつくられていたのも、いいなと思って。メイクや髪型、衣装はもちろんのこと、美術で世界観が統一されていて、お膳立ては完璧でしたから、僕らはそこに入っていって、セリフを言うだけ──みたいな感じだったんですよ。だから、現場では本当にノンストレスで。だから、こうして聞かれてみるといろいろ思い出せるんですけど、自分では「え、何か話すことあったかな?」と感じるくらい、ヘラヘラして過ごしていたんですよね。

そんなところも、末井さん自身の語り口に通ずるのかもしれないですね。映画でも結構山あり谷ありな人生が描かれているのに…観ている側にも演じている側にもそう感じさせないところで。

そこはやっぱり、末井さんのお母さんが凄すぎたのかもしれないですね。だから、何が起ころうと、たいていのことは”母親が爆発した”ことに比べたらたいしたことじゃない、と驚かなかったんじゃないかな、と。
警察が編集部に踏み込んでこようと、潜在的にものすごい体験をしたというベースがあるから、お母さんのエピソードを超えてくることがない、というか。だから、さっきの3億円の借金の話にしても、お母さんのことに比べたら全然、という感覚だったんじゃないかなと思うんですよ。

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

そのお母さんの存在の大きさがどこかしらに漂っていることを嗅ぎとった菊地成孔さんが、「マザコンの映画」だと評していて。

ほぅ~、そういう見方もあるんですね。僕はそこまでまだ客観的に観ることができていなくて。でも、お母さんの影がずっとあるというのは、わかるような気がします。

前田敦子さんが演じた奧さんも、実はすごく面倒見がよかったり。

そうそう、あっちゃん(前田)の演じた奧さんは、相当いい奧さんですよ。監督が末井さんに「別れる間際はどんな雰囲気だったんですか?」と聞いたそうなんですけど、「猫たちと一緒に自分の世界をつくっていましたね」と、辛らつなひと言が返ってきた、と言っていました…。
ただ、映画の中で好きなシーンがあって、僕がラッパを吹きながら、あっちゃんの顔を一度だけ見て家の外へ出て行っちゃうんですけど…あそこで完全に精神的には別れたんだなと思っていたら、その後でもう1回、こたつで2人して寝ちゃっているシーンが出てくるじゃないですか。心は完全に離れている2人なのに、そういう状況にもかかわらず一緒にこたつに入っているというのが、実は劇的だなって思ったんですよね。そういう面白さが、この映画にはあるんです。これは監督もおっしゃっていましたけど、起承転結じゃなくて、”起承転々”みたいな映画だって。で、ラストの末井さんと(尾野)真千子さんの歌で”結”になっていると。なので、映画的なエモい部分を見つけにくい作品ではあるんですけど、こたつのシーンはさりげないけどちょっとエモいな、いいシーンだなと自分では思っているんです。

体感的に上映時間が2時間18分もあるように感じなかったんですよ。

テンポはいいというか、笛子さんと不倫したと思ったら、ボートに2人で乗る次のシーンでは笛子さんに飽きていたりしますからね(笑)。話の飛び方がかなり大胆ですし、前半は特に疾走感があるんですけど、僕が髪の毛を短くするシーンを境に停滞するというか…スピードが緩まるんですよね。あれは冨永監督のリズムなのかな、と思いました。

確かに、長髪から短髪になるのがスイッチになっているような気がします。

あれを機にテンポが変わるとともに、末井さんが”怪物化”していくというか。監督いわく、ミステリーになっていくと。なので、喜怒哀楽としては髪を切る前と変わっていないんですけど、外側からは空っぽにしか見えないというふうにしよう、という演出があったんです。その空疎な感じと停滞する雰囲気は合致するのかな、と何となく感じたところがあって。まだ完全に客観的に見ることができてはいないんですが、撮影中に監督の頭の中で展開やリズムやテンポが組み立てられていく感じだったので、どちらかというと僕はそこを理解しないまま進んでいった感があって。でも、監督は男らしくていっさい迷いがなかったので、こちらは安心して演出に沿って芝居に臨むことができました。余計なことを考えずに演じられたからノンストレスだったという。それもあって、できあがった時に初めて「こういう感じの映画だったんだな」と思ったくらい。まぁ、まとめると楽しかったということです、女装したこともふくめて(笑)。

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

ディテールにこだわって、女性用の下着まで着けたそうですね(笑)。

それは、末井さんから「絶対に着けた方がいいよ、スイッチだから」と言われたからです。「かわいいよ! 」なんて、声援をおくってくださったんですけど、こっちもまんざらじゃない気持ちになったりしましたね(笑)。

映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』

3月17日(土)テアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国公開

キャスト:
柄本 佑 前田敦子 三浦透子
峯田和伸 松重 豊 村上 淳 尾野真千子
中島 歩 落合モトキ 木嶋のりこ 瑞乃サリー 政岡泰志 菊地成孔 島本 慶 若葉竜也 嶋田久作
監督・脚本:冨永昌敬
原作:末井 昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
音楽:菊地成孔 小田朋美
主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」(TABOO/Sony Music Artists Inc.)
配給・宣伝:東京テアトル
2018年/日本/138分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル/R15+
©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

オフィシャルサイトhttp://dynamitemovie.jp/

柄本 佑

1986年12月16日生まれ。東京都出身。
黒木和雄監督の『美しい夏キリシマ』(03)で主演デビュー。近年の主な出演作品として、映画では『ピース オブ ケイク』(15)、『GONIN サーガ』(15)、『追憶』(17)、「秘密の花園」(18)、舞台では「エドワード二世」(13)、「百鬼オペラ 羅生門」(17)、「秘密の花園」(18)、ドラマでは「あさが来た」(NHK・15~16)、「スクラップ・アンド・ビルド」(NHK/16)、「おかしな男~渥美清・寅さん夜明け前~」(NHK/16)、「コック警部の晩餐会」(TBS/16)、「平成細雪」(NHK BSプレミアム/18)、「ROAD TO EDEN」(CX/18)など。2018年は、主演の『きみの鳥はうたえる』、『LOVERS ON BORDERS』が公開を控える。

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原作者 末井昭さんインタビュー記事はこちら
絶版になってはゾンビのようによみがえり…ついには映画化! 末井昭と「素敵なダイナマイトスキャンダル」の数奇な運命

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2018.03.17

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