若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 4

Column

アニメ作曲家へ触れるためのエチュード―田中秀和 作曲アニソン3選

アニメ作曲家へ触れるためのエチュード―田中秀和 作曲アニソン3選

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


アニソンの最先端を牽引する作曲家

アニメソングをよく聴いているという人こそ今や少なくないが、アニメソングを歌っている歌手についてだけでなく、その曲の作曲家について興味をもったことも一度や二度ではないと思う。今聴きまくっている曲についてもっと知りたくて作曲家を調べてみたら、自分が数年前にハマっていた曲と同じ人が作曲していた、なんてことも一度や二度ではないはずだ。

思い返せば、アニメ本編とともにアニソンが社会現象を引き起こして色々な文化に波及する現象が起こりはじめたのが2006年の『涼宮ハルヒの憂鬱』だった。それ以後、有名アーティストのタイアップの場ではなく、アニソンそれ自体がポップソングとして多くの人に聴かれ始めるようになる。
ところで、『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇伴(BGM)を担当していた神前暁が、2005年に岡部啓一と立ち上げた楽曲制作集団「MONACA」が、それ以後も『アイドルマスター』や『アイカツ!』『化物語』など多くの有名アニメ作品に楽曲を提供しているのはご存じだろうか。

この「MONACA」に所属している作曲家は極めて粒ぞろいで、紹介すると一人ひとり詳しく触れなければいけないのだが、今回はMONACAに2010年に加入し、特に際立った個性を発揮しながら現在のアニソンの最先端を牽引している田中秀和について紹介したい。
その紹介にしても、あれもこれもというわけにいかないのは承知しているが、有名なものと特徴的なもの、野心的なものをそれぞれ一つずつ紹介しよう。

1曲目:「太陽曰く燃えよカオス」

田中秀和は登場時からすぐに頭角を現してきた作曲家だったが、彼の初期作品でも頭1つ抜けて有名な、アニメ『這いよれ!ニャル子さん』の主題歌、「太陽曰く燃えよカオス」をまず紹介したい。

「太陽曰く燃えよカオス」は、MONACAの筆頭である神前暁の代表作「もってけ!セーラーふく」の流れを継ぐ、ファンキーでそのままダンスフロアで流せそうな曲だ。
また、この曲は「もってけ」と同じく作詞家(集団だとも噂されている)の畑亜貴が担当しているのだが、冒頭の〈うー!にゃー!〉の部分がフックになっていて、耳にいつまでも残るような「電波ソング」的ギミックが意図的に用意されている(勿論その通り、これは「ジンギスカン」のパロディーだ)

「太陽曰く燃えよカオス」

アニメ『這いよれ!ニャル子さん』主題歌

しかしここでもう一つ強調しておきたいことがある。

この「燃えよカオス」も、こんなに明るくてイケイケな(バカっぽい)曲なのに、聴き込むと曲のメロディー自体はハロウィン音楽のようなおどろおどろしいマイナー調なのがわかる。
この、むしろ「恋のダンスサイト」(モーニング娘。)的な曲調(田中秀和はダンス✩マンの影響も公言している)についてだが、これはこの曲がOPに使われたアニメ『這いよれ!ニャル子さん』の作風とも少なからず関係がある。
『這いよれ!ニャル子さん』は、19世紀の怪奇小説家H・P・ラブクラフトの想定した壮大な「クトゥルフ神話体系」を極めてアニメ風にパロディした作品で、タイトルにもなっているヒロインの名前である「ニャル子」も、実はその神話の中の怪奇である「ニャルラトホテプ」から取っていて、見た目には美少女に見えるけど本当の姿は怪物、という仕掛けになっている。
本当はこわい世界観がかわいい見た目で上演されている、という仕掛けが、声優のポップな声の下で悲しげな曲、とリンクしている、というわけだ。

楽曲制作集団MONACAはアニメ及びゲームを対象にして曲を制作しており、「物語」性、つまりアニメ作品の世界観とOPの間の綿密なフィードバックがあるわけだが、田中秀和はその中でも特に楽曲が使われる作品との一対一の関係を常に追求した作風をその後も展開することになる。その特徴がこの一曲に既に現れている。

2曲目:「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS

さて、2016年の6月~8月に放送されたアニメ『あんハピ♪』の主題歌「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」は、キャリア全体を見回しても、そのかなり個性的な特徴のために紹介に値するだろう。

最初の部分から曲と全くそぐわない不協和音の〈PAN-PAN PUNCH☆MIND〉の唱和。しかも唱和は一定ではないし、個々のボーカルが入れ替わりに歌う部分も個性が残りすぎていてかなりちぐはぐな印象を与える。
Bメロではとてもジャジーなラインが走り、サビに至るまでの間で綿密に暗く閉じられた雰囲気が作られるが、サビに入るとそれがブラスバンド風アレンジで破られ、華やかな演奏で脱出と開放の雰囲気へと誘われる。
大まかな流れこそ先程のアイドルソングに通じているが、メロディと構成に工夫があるため、まるで小さな飛び出す絵本を読んだかのような独特の感覚を味わえる。
そしてこの展開も実は『あんハピ♪』本編の世界観を反映している。「不幸体質の女の子たちが自分の不幸と向き合って悩みを克服していく」という作品世界が、この小さな作品の中で再現されているのだ。

「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」

アニメ『あんハピ♪』主題歌

3曲目:「灼熱スイッチ

さらに、2016年の10月~12月に放送されたアニメ『灼熱の卓球娘』の主題歌「灼熱スイッチ」は技術的な側面でも多くの反響を呼んだ。

〈チャイムが放課後を知らせたら…〉と歌い始めるこの曲は、一瞬耳を疑うほどの静かさで始まり、徐々に激しさを増していく。
そしてエネルギッシュな演奏に支えられたサビの部分が、最初不協和音を含んで開始することが話題になった。
また、この構成も作品上の世界観をぎゅっと凝縮したような構図になっている。
『灼熱の卓球娘』は「かわいくてほんわかしたキャラクターが、卓球が始まると熱血になる」という二面性が作品の鍵になっていて、この作品もそのような内面性を反映するような意図として、結果的に前半は極めて静かだが、サビではカオティックなほど激しい、という構成をとったことが伺える。

「灼熱スイッチ」

アニメ『灼熱の卓球娘』主題歌

アニソン作曲家は「黒子」に留まらない

特徴的なこの三つの楽曲の紹介を締めくくる意味で、最後に田中秀和の作風を総括するなら、「歌手や声優を引き立てる『黒子』に留まらず、楽曲の中に野心的な仕掛けや創意工夫をいくつも用意することをためらわない」ということがいえる。
しかも親切にも、その用意された特徴はそれほどコード理解に卓越していない私のようなリスナーにも聴き取れるような、きわめて生々しい部分として残されている(「灼熱スイッチ」の不協和音などまさにそうだ)。
さらにこれらの特徴が作品を突飛で歪んだものにするわけではなく、OP楽曲と作品世界のより深い融合というグランドテーマに向かうためにとても効果的に機能している。
器用な作家と言えばその通りだが、しかし常に器用なだけではない、荒削りで情熱を秘めた作風を貫く作家でもある。

この三曲で興味を持った、もしくは三曲の中のどれかを知っていて、この場で初めて作曲者の名前を知ったという方は、是非、これ以外にもキャリアの中で点在する多くの良曲に触れてほしい。
そうすれば、作曲家というのが「裏方」ではなく、明確にその独自の個性をもった存在であると知ることが出来るはずだ。

執筆者プロフィール:横山 祐(よこやま・たすく)

批評家。身長190cm。早稲田大学文化構想学部多元文化論系修了。総合批評誌『ヱクリヲ』所属。あらゆるジャンルに際限なく手を出しがちだが手元には映画のサントラが多い。現在はアニメソング(ワルキューレ)とUSヒップホップ(Lil Pump)ばかり聴いている。

ヱクリヲとは: 批評家・佐々木敦の主宰する「映画美学校 批評家養成ギブス第三期」のメンバーを中心として、2014年11月に結成。映画・音楽・文学・美術といった領野を貫通する批評活動を展開している。現在は全国の若手研究者や「ゲンロン 批評再生塾」塾生とも協働し、おもに20代の書き手を中心に雑誌やweb上で活動している。今年の11月には最新号『ヱクリヲ7』(「音楽批評のオルタナティヴ」「僕たちのジャンプ」特集)を上梓、全国書店やディスクユニオン等約120店舗で発売中。

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