雲田はるこ「昭和元禄落語心中」特集  vol. 3

Column

プロローグ:なぜ「昭和元禄落語心中」は何度も“聴きたく”なるのか?

プロローグ:なぜ「昭和元禄落語心中」は何度も“聴きたく”なるのか?

最近、「落語ブーム」らしい。

正月ドラマ『赤めだか』に映画『の・ようなもの のようなもの』、アイドルたちの落語教室やユーロライブの落語会「渋谷らくご」への関心――ここひと月のあいだにもさまざまニュースが飛び込んできたが、このブームの中心にあると言っていいのが、雲田はるこのマンガ『昭和元禄落語心中』ではないだろうか。

2010年より講談社「ITAN」で連載中のこの作品、単行本は現在8巻、2月5日には最新9巻が発売される。2013年に第17回「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門優秀賞、つづく2014年には第38回「講談社漫画賞」一般部門を受賞。同年に発表され話題となっていたアニメが、いよいよこの1月にスタートした。放映に先だって行われたイベントの模様は、こちらでご紹介したとおり。

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『昭和元禄落語心中』はその名のとおり、昭和を舞台にしている。

主人公は刑務所を出たばかりのチンピラ・与太郎。落語慰問会で見た大名人・8代目有楽亭八雲の「死神」が忘れられず、出所して真っ先に寄席へ向かう。弟子を取らないことで有名な落語家・八雲だったが、なぜかお許しが出て与太郎は住み込みの弟子に。向かった八雲の家には、彼と深い因縁のある小夏という女性が暮らしていた。小夏は、八雲の兄弟弟子で盟友だった故・有楽亭助六の遺児だった。こんなふうに、プロローグ〈与太郎放浪篇〉ははじまる。

この与太郎、あることで八雲から破門されてしまう。必死で許しを請う与太郎に、八雲は3つの約束を誓わせ、そこから盟友・助六との因縁を語る過去編〈八雲と助六篇〉が始まるのだ。1月にスタートしたアニメは、この〈八雲と助六篇〉がメインになる。物語は、八雲と助六が少年だった戦前へ。少年たちは悩みを分かちあいながらも切磋琢磨して成長し、やがて新進気鋭の若手落語家となる。しかし、そんなふたりの前に、謎めいた美女・みよ吉が現れて……。

落語心中_キービジュアル

私などはこの「ふたつの才能と宿命の女」といった人間ドラマが気になる口だが、この作品で極めて特徴的なのが、各界の落語ファンからの熱い支持である。

記憶にある限りでも「落語ブーム」というのは過去何度もあって、最近ではドラマ『タイガー&ドラゴン』『ちりとてちん』などがヒットした2000年代前半がそうだった。このときには、ドラマに登場した若手落語家の名を覚えたり、自分と同じ年頃の女子が寄席に殺到しているというニュースをおもしろく眺めたりした。しかし、今回の落語ブームが特徴的なのは、前回の「カジュアル落語路線」から一歩踏み込んだ本格派ぶりだ。

『昭和元禄落語心中』を読み、興奮した落語ファンたちは口をそろえて、昭和の名人たちへのリスペクト、落語愛が熱いという。

たとえば、主人公の与太郎の本名・強次というのは故・3代目古今亭志ん朝の本名だし、師匠である八雲にもインスピレーション源になった噺家が存在するという。しかし、どちらも明確なモデルを持ち忠実に史実をなぞっているわけではない。落語をめぐる状況も、「戦後のテレビ隆盛→衰退→古典か新作か」というシンプルな流れとして紹介される。むしろ「心中」という物語性のために、現実より落語が衰退した、ディストピアのなかで落語を存続させようとする人たちを描いているのだ。

そう、『昭和元禄落語心中』は、いわばパラレルワールドの昭和落語。しかし、いつの世もどんなジャンルにものしかかる、「芸を伝えていくこととは」という命題にはっとさせられるのだ。

1巻書影

雲田はるこ「昭和元禄落語心中」講談社

また、原作では落語の高座がていねいにコマを割いて描かれ、同時にフォントの工夫などによって、寄席の臨場感が緻密に再現されている。アニメでは、そこに当代一流の声優の演技やこまかい動きを加えてより現実に近づける試みがなされている。 そこからは見えてくるのは、作り手たちの「落語ファンを増やしたい」という情熱だ。

実際、アニメはDVD、イベント、本放送と繰り返し観ているが、何度観てもおもしろい。というか、BGVとして流しっぱなしにしたくなる。このことから、音楽ライターである私は、ここでひとつの仮説を立てたいと思う。 『昭和元禄落語心中』は、ここ数年でもまれにみる“音楽的マンガ”であり、“耳に心地いいアニメ”であると。

構成・文/高野麻衣

インフォメーション

TVアニメ「昭和元禄落語心中」
MBS、TBS、CBC、BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送中
オフィシャルサイト http://rakugo-shinju-anime.jp/
【公式twitter】 @rakugoshinju
(c)雲田はるこ・講談社/落語心中協会

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