若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 1

Column

買ってでも聴くべき「データに価値のある音楽」5選

買ってでも聴くべき「データに価値のある音楽」5選

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


「データに価値のある音楽」とは

本企画のテーマは“音楽の聴き方が多様化する現代だからこそ「購入」してちゃんとアーティストに利益を還元させ、長く活動してほしい曲・アーティストを紹介する”とのことですが、どんな作品やアーティストをセレクトしようかと考えてみると、すぐに大きな問題にぶつかってしまいました。
それは「作品を購入することでアーティストに利益を還元してサポートしよう」というアイデアが自分にはほとんどないということ。もっとも、自分が資産家だとしたら、パトロンとしてサポートしたいアーティストもいるのですが、残念ながら大金持ちでは無いのです。

……振り返ってみれば、デビュー作から作品を追いかけ続けている10年以上のキャリアを持つアーティストなんて、カニエ・ウェストくらいではないかとも思います。
自分にとって重要なのは、アーティストを応援することではなく、その時にそのアーティストのその作品がいかに聴こえるかということなのでしょう。それは「今日最高の作品だとしても、明日には最高の作品だとは限らない」という考え方であり、同時に「今日たいしたことない作品だとしても、10年後には最高の作品となっているかもしれない」ということでもあると思います。

もし(後世への影響力による評価軸以外での)絶対的な名作があるというのなら、それは音楽に絶対的な正解があると考えているのと変わらないはず。つまり音楽に正解と不正解があるという思想です。そんな閉塞的なアイデアから逃げるため、我々は音楽やアートに触れるのではないでしょうか?

さて、話が逸れましたが、音楽を購入することでアーティストをサポートしたいという考えを持ち合わせていない自分からすれば、(物欲と直結しているフィジカルは別として)音楽ダウンロードサービスで音楽を購入する理由はただ一つ。「そのデータに価値があるから」ということになります。その基準は次の2つ。

  • Apple MusicやSpotifyのようなストリーミングサーヴィスで配信されていない楽曲であること
  • Apple MusicやSpotifyのようなストリーミングサーヴィスで配信されている曲ではあるが、それ以上の品質であること=ハイレゾ

この2018年においてアクチュアルであろうとする音楽は、よほどのコンセプトや思想を持った作品でなければ、そして所属レコード会社や事務所が特殊でなければ、ストリーミングサーヴィスで配信されています。だから上記の条件に当てはめるならば、ハイレゾ以外はほぼ旧譜となるはず。

というわけで、今回セレクトした5作品がこちらです。

「データに価値のある音楽」5選

『THE END OF EVANGELION』

※ハイレゾ音源

1997年に公開された映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に THE END OF EVANGELION』のサウンドトラック。

「G線上のアリア」や「主よ、人の望みの喜びよ」といったクラシック楽曲を除けば、全楽曲の作曲は鷺巣詩郎。ザ・ビートルズ「ヘイ・ジュード」を優しくも残酷な子守唄に変奏したような人気楽曲「Komm, susser Tod/甘き死よ、来たれ」もここに収録されています。

鷺巣詩郎が手がける庵野秀明作品のサントラは、ピアノとアコースティックギターとストリングスを好む庵野秀明のテイストに合わせたシンプルなプロダクションが多く、坂本龍一がピアノ、ヴァイオリン、チェロのトリオ編成で過去楽曲を再録した『1996』に通じる普遍的な要素を持ち合わせています。
その中でも通称「夏エヴァ」と呼ばれる本作は明るいシーンが一切ない映画であり、そのための音楽が収録されたこのサントラ盤は各楽曲のムードに差が少なく、アルバムとして聴くのには『エヴァ』シリーズを通して本作がベストでは無いかと思います。
無論本作はSpotifyやApple Musicで配信されておらず、その上ハイレゾです。鷺巣詩郎によるハイレゾへの態度も素晴らしいのでぜひご一読を。

鷺巣詩郎が語るスペックの進化を凌駕する「名人の耳と腕」


『NiGHTS into dreams… パーフェクトアルバム Vol. 2』

1996年に発売されたセガサターン用ゲームソフト『ナイツ』のオリジナルサウンドトラック。

ゲーム音楽といえば8bit~16bit時代のRAWな音像と印象的なメロディーのプリミティブ性やキッチュな魅力が取りざたされがちですが、32bit時代のゲーム音楽もまた捨てがたいものがあります。特に90年代中盤以降のゲーム音楽は当時ブームとなっていたクラブミュージックの影響色濃い作品が多く、そこに生じた誤解やデフォルメも含め味わい深い作品が多く存在しています。
そういう意味では、デトロイトテクノやビッグビートといった音楽と原始的なポリゴングラフィックスがミックスされることで、新たな世界観を描いた『バーチャファイター』シリーズのサントラを紹介したいところですが、ベスト盤がApple Musicに存在したのでひとまず除外。こちらをセレクトさせてもらいました。

本作の魅力はササキトモコ氏によるメロディックなスコアと、カラフルなアレンジメント。ロマンチックなオーケストラから、メロウなアブストラクトヒップホップ風、そしてドラムンベースまでそのジャンルは幅広く、32bit時代のゲーム音楽の豊かさを感じられるはず。
また本作では、ゲーム中の主人公に対するモブキャラの好感度によりインタラクティブにBGMのアレンジが変化するという仕掛けが組み込まれていましたが、こうしたアプローチはゲーム音楽ならではのものとして評価されるべき点だと思います。


aiko
『桜の木の下』

※ハイレゾ音源

さて、こちらはストリーミング配信なしの旧譜かつハイレゾ音源。aikoのようにカタログ自体が配信なしのアーティストの場合、必然的に購入せざるを得ないわけですが、彼女のようなビッグアーティストの場合TSUTAYAに行けば間違いなくアルバムが揃っていますし、それこそブックオフで100円~数百円で買えてしまうのが現実です。どうしてもすぐに聴きたい場合以外は、そうしたレンタルや中古で十分。……でも、ハイレゾとなるとそうはいきません。

「当時アーティストやエンジニアはこのように聞かれることを意図していたいのか」「彼らがスタジオで聴いていたサウンドはこれに近かったのかも」といった聴き慣れた旧譜をハイレゾで聴くことによる妄想的な楽しみは、マニアックではありますが、他のものでは替えがたいものなのです。


ボブ・ディラン
『Blonde on Blonde』

※ハイレゾ音源

これも上記と同じ理由で。
今年のフジロックのヘッドライナーも決定したディランですが、彼の作品はストリーミングサーヴィスにラインナップされています。しかし、ハイレゾによる試聴には、神格化された名作にかけられた魔法のベールの向こう側を覗けるような楽しさがあるのです。
音楽を購入するということは、もはやこんなにもマニアックなことなの? と自分で書いていて少し暗い気持ちにもなりますが、時代は変わるのです。


『Black Panther The Album』

※ハイレゾ音源

さて最後になりましたが、ようやく2018年の最新作。言わずと知れたマーベル映画『ブラックパンサー』のために、ケンドリック・ラマーとそのレーベル代表がプロデュースして作り上げたサウンドトラック盤です。こうした最新のポップミュージック、それも最大限の予算がかけられているであろう作品をハイレゾで聴くということは、何よりも「今」を知ることに他なりません。


「今この時代の最高峰をあますことなく堪能する」。そこには後世の人間が本作を聴くことでは得られない、その瞬間にしか存在しない意味と感動があるのです。
今を生きる人間だからこそできる最高の贅沢、それは今この瞬間の音楽を最大限に楽しみ尽くすことです。

執筆者プロフィール:照沼 健太(てるぬま・けんた)

編集者/ライター/カメラマン。MTV Japan、Web制作会社を経て、独立。2014年よりユニバーサルミュージック運営による音楽メディア「AMP」の編集長を務め、現在は音楽・カルチャー・広告等の分野におけるコンテンツ制作全般において活動を行っている。ブログメディア「SATYOUTH.COM」を運営中。
http://satyouth.com

vol.1
vol.2