若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 3

Column

変化するアニソンの状況と奥深さを象徴する作品2選

変化するアニソンの状況と奥深さを象徴する作品2選

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


アニソンに起きている「ある変化」

時代はアニソンである。

この言葉は大げさではなく、2018年現在ではアニソンの売上が伸び(他の音楽の売り上げが落ち)、オリコンやビルボードのチャートにアニソンが頻繁に登場するようになった。
カラオケで『新世紀エヴァンゲリオン』の「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)、『デジモンアドベンチャー』の「Butter-Fly」(和田光司)、『マクロスF』の「ライオン」(May’n / 中島 愛)などを歌うことに抵抗はなくなったし、中には見るアニメを主題歌で決めている人もいるのではないだろうか。
かつては一部のオタクだけが楽しんでいたアニソンが、今は大衆音楽となっているのだ。
なお本稿ではゲームなど、アニメに近い作品の音楽も含めて「アニソン」としている。

そんなアニソンに、実はここ数年である変化が起こっている。

かつてのアニメの主題歌はアニメのタイトルが曲や歌詞にわかりやすく入り、「アニソン歌手」が努めていて、あくまでアニメを彩る飾りとして聴かれていた。2000年代頃からは邦楽バンドがタイアップを取ることが一般的になり、主題歌は本編とは別の作品として成立するものとなった。実際に、アニメの主題歌がきっかけでそのバンドのファンになった人もいるだろう。

だが、ここ最近は本編に出演している声優がキャラクターとして歌う「キャラソン」形態のものが主題歌に起用されることが増えたのである。
一度はアニメ主題歌が本編の手を離れ、主題歌と本編が別のものとして作られていたが、主題歌にまたアニメ本編の文脈が大きく入り込んだ。
しかし以前と違うのは「見るアニメを主題歌で決めている」人もいるように、主題歌もひとつの「作品」として成立しており、本編の評価の良し悪しにまで影響するほど重要な要素になったことである。

アニソンとストーリーの新しい関係

そんな現在のアニソンの中から、本稿では作品の評価を上げるような曲を女性向けアニメ2作品分紹介する。男性にも馴染み深いよう、男性向けアニメにも関わっている作曲家を選んだので安心してほしい。

まずは、『けものフレンズ』の主題歌「ようこそジャパリパークへ」で有名な大石昌良が作詞・作曲をしている、A3ders![佐久間咲也、皇天馬、摂津万里、月岡紬(CV:酒井広大、江口拓也、沢城千春、田丸篤志)]の「MANKAI☆開花宣言」と「春夏秋冬☆Blooming!」。
この2曲はスマートフォン専用ゲーム『A3!』の第一部主題歌と第二部主題歌だ。
A3!は春夏秋冬をモチーフにしたイケメン役者育成ゲームで、他にもボカロPであるsasakure.UKとゆよゆっぺ、アイドルマスターシンデレラガールズの「あんきら!?狂騒曲」を作曲したヒゲドライバー、元Cymbalsの沖井礼二など様々な作曲家が曲提供をしている。

A3ders![佐久間咲也、皇天馬、摂津万里、月岡紬(CV:酒井広大、江口拓也、沢城千春、田丸篤志)]
「MANKAI☆開花宣言」

※ハイレゾ音源

A3ders![佐久間咲也、皇天馬、摂津万里、月岡紬(CV:酒井広大、江口拓也、沢城千春、田丸篤志)]
「春夏秋冬☆Blooming!」

※ハイレゾ音源

この2曲を聴くとどちらもキーが同じで、コードの展開がとても似ていることが素人耳でもわかる。更にキメのリズムのタイミングも共通していて、「春夏秋冬☆Blooming!」を聴くと必ず「MANKAI☆開花宣言」を思い起こしてしまうだろう。同じ曲には決して聴こえないが、それほど曲そのものがさりげなく似ているのだ。

それに相まって、「MANKAI☆開花宣言」では〈さあ 幕を開けましょう  僕らだけの物語〉〈夢をいっぱい咲かせよう 君とパッパッとパッとパッとね〉と歌い、「春夏秋冬☆Blooming!」では〈夢を紡ぐ ストーリーから 絆をつなぐ 物語へと 君を連れ出したいんだ〉と歌っていて、「夢の物語(ストーリー)」を経験して、次に「絆の物語」へ向かっていることがわかる。
このような曲・歌詞をキャラクターが歌うことで、第一部を思い出しながらまた第二部という新しいステージへと進んでいくキャラクターの姿が目に浮かぶのだ。主題歌を聴くだけでもドラマがわかり、面白そうな作品だと感じるだろう。そして実際に第一部をクリアしたファンが聴くとそこに実感が乗るため、「春夏秋冬☆Blooming!」はかなり感動する曲となる。

アニソンは「アニメそのもの」を表現することもできる

それだけではなく、原作を作った人が作詞作曲を行っている、つまり音楽家がアニメの制作全体に深く関わっているケースもある。

音楽制作チーム「Elements Garden」代表・上松範康は作詞・作曲だけではなく、女性向け・男性向け問わず音楽と本編が密接に関わった「音楽アニメ」の原作者でもある。
彼が手掛けた『うたの☆プリンスさまっ♪』『戦姫絶唱シンフォギア』『BanG Dream!』はどれもヒットし、アニメ内での音楽の使い方もそれぞれに特徴的だ。

その中でも一番長く続いている『うたの☆プリンスさまっ♪』はアニメが4期が終わり、来年には劇場版が公開される予定の、二次元男性アイドルブームの先駆けとなる作品のひとつである。
アニメ4期の最終話ライブシーンで披露されたST☆RISH「WE ARE ST☆RISH!!」は作品が始まってから7年分の彼らの曲のセルフオマージュがふんだんに詰め込まれている。
その中でも特に印象深いのは、ソロパートの始まりだ。アニメ4期中でメンバーがそれぞれで歌った曲名が含まれている歌詞(一ノ瀬トキヤの〈「強靭-Mighty-」な夢を〉など)の背後で、6人が(もう1人は途中加入したが)初めて一緒に歌った「Welcome to UTA☆PRI world!!」のサビのメロディが鳴っている。
原点を土台に、作中で得た言葉に乗せて、それらを乗り越えてきた最新の彼らが歌を乗せる。たとえアニメ本編を追っていなかったとしても曲さえ知っていれば、これまで7年分の物語、絆、経験、思い出など様々な「想い」が積み重なっていることが、音楽全体から感じられるだろう。

ST☆RISH
「WE ARE ST☆RISH!!(Live Size)」

このように、アニソンを聴くと作品をより楽しむことができ、ストーリーを理解することでより深く音楽を楽しむことができる。アニメとアニソンはお互いにお互いを高めあい、より私たちを感動させるのだ。

かつて、アニソンは「アニメの飾り」と思われていた。しかし実際はアニメの密度を更に濃くし、アニメそのものを音楽だけでも表現することができる。
アニソンは十分な密度を持ったひとつの「作品」なのだ。

執筆者プロフィール:高井 くらら(たかい・くらら)

1992年生まれ。批評誌『ヱクリヲ』で編集・執筆をしながら、ゲーム会社で勤務。ウォークマンの中身は邦楽バンド音楽、キャラソン、男性声優アーティストで埋め尽くされています。
ブログhttp://tkkrgr.hateblo.jp/

ヱクリヲとは: 批評家・佐々木敦の主宰する「映画美学校 批評家養成ギブス第三期」のメンバーを中心として、2014年11月に結成。映画・音楽・文学・美術といった領野を貫通する批評活動を展開している。現在は全国の若手研究者や「ゲンロン 批評再生塾」塾生とも協働し、おもに20代の書き手を中心に雑誌やweb上で活動している。今年の11月には最新号『ヱクリヲ7』(「音楽批評のオルタナティヴ」「僕たちのジャンプ」特集)を上梓、全国書店やディスクユニオン等約120店舗で発売中。

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