若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 2

Column

いまこそ、人類はaikoを聴くべきだ

いまこそ、人類はaikoを聴くべきだ

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


誰の心の中にも、aikoはいる

今年、aikoはデビュー20周年をむかえる。これまでに12枚のオリジナルアルバムと37枚のシングルを発表している。大半の曲の一人称は「あたし」であり、歌われるのは「あたしとあなた」の世界である。それゆえに、恋愛ソングの女王と呼ばれることも多い。

たしかに、aikoが歌うのは恋愛である。しかし私が強調したいのは、「あたしとあなた」という最小限の関係をひたすらに掘り下げていった結果、aikoの描く世界は普遍的なテーマに到達していることなのである。ひとりの人間が、たいせつな誰かを想うこと。これがaikoのテーマである。

だからこそ、「あたし」を恋する女子に限定する必要はない。「自分は男だからaikoを聴かない」と思う必要もない。人間であるかぎり、誰もがaikoの曲中における「あたし」になりうる。aikoの描く「あたし」の中に自分自身を見出す可能性を持っている。

誰の心の中にも、aikoはいる。あなたはaikoを聴くことで、自身の内にひそむaikoを発見しなければならない。

aikoに季節の変化を楽しむ余裕はない

あなたが好きだったの
今も今も…

「KissHug」

aikoが過去形で何かを歌っている時は気をつけたほうがいい。それはまったく過去のことではないからだ。「KissHug」という曲において、aikoは〈あなたが好きだったの〉と言う。しかしそれが即座に〈今も今も…〉と訂正される。過去のことかと思えば、とつぜん「今」に焦点が合う。aikoを聴いていると実感する瞬間である。

出来事は過去になる。しかし想いは過去にならない。「あなたが好きだったが、今はもう好きではない」ならば、aikoはそれを歌にしない。あなたが好きだった、そして今も好きなままだ。この感情が、aikoの音楽を作り出してゆく。aikoの歌詞に季節が頻出するのはそのためだ。季節とは、変わりゆくものの象徴なのである。

春が終わり夏が訪れ 桜の花びらが朽ち果てても
今日とかわらずあたしを愛して

「桜の時」

春が終わり、桜の花びらは朽ち果てる。「あたし」の気持ちは変わらないのに、季節の変化とともに「あなた」の気持ちは変わっていく。それを予感するからこそ、aikoは〈今日とかわらずあたしを愛して〉と言う。aikoの歌詞世界の根底にあるのは、この残酷な認識である。aikoに季節の変化を楽しむ余裕はない。それは「えりあし」の歌詞にもあらわれている。

季節に逆らい想い続けて
今もあなたを好きなままよ

「えりあし」

aikoにとって、季節は「逆らう」ものなのである。季節の変化はさまざまなものを押し流していき、「あなた」の気持ちさえも変えてしまう。しかし「あたし」の気持ちだけは変わらない。この想いの強さがaikoの特徴である。そして、この「好き」という感情をただの素敵なものとして扱わないところに、aikoの本領がある。

aiko
『まとめI』

※ハイレゾ音源

「桜の時」「えりあし」収録

aiko
『まとめII』

※ハイレゾ音源

「KissHug」収録

aikoの「好き」は「あなた」に降り注ぐ

もちろんaikoは、「好き」というストレートな感情をキラキラした美しいものとして描くことも多い。だが同時に、その強すぎる「好き」を、ぞっとするほどの恐ろしいものとして描くこともある。一例として、「あられ」(7thアルバム『彼女』収録)の歌詞が挙げられる。

この曲では、「あなた」への片想いが歌われる。〈時も忘れる程 こんなにあなたの事考えた〉という一文で始まり、〈こんなに辛いなら諦めようかな〉と曲は展開していく。片想いを描いた曲として申し分のない導入だと言えるだろう。

集まった星くずの様な想いが
チリとなって
消えゆくのならまだ気が楽だろう

「あられ」

aikoは、自分の中にある「あなた」への気持ちを〈星くずの様な想い〉と表現する。ここはまだロマンティックなaikoである。その想いが〈チリとなって消えゆくのならまだ気が楽だろう〉とaikoは言う。もちろん実際に消えることはない。「あなた」への強い気持ちが消えないからこそ、aikoなのである。

片思いに苦しみ、自分の胸にある想いを星くずに例える。ここまでは世間的なイメージにおける「乙女」である。しかし、徐々に雰囲気が変わりはじめる。

あたしの中に生まれたもの
目を反らしてはいけない

「あられ」

しびれるのは〈目を反らしてはいけない〉という一文である。そこにあるのは切迫感だ。aikoにとって、恋愛感情は暴力的に襲いかかるものなのである。それは「向き合え」とせきたてる。「爆発しそうな恋愛感情」はaikoの歌詞に初期から一貫して見られるモチーフである。それは自分自身の感情ではあるはずなのに、外から強い力で迫ってくる。それがaikoにとっての「好き」である。

さて、aikoの想いは「星くず」だった。われわれは星くずと言ったとき、自然にその大きさを縮小してイメージする。イラストに描かれるようなキラキラしたお星さまはかわいい。しかし、aikoの言う「星くず」はそうではない。それは〈あたしの中に生まれたもの〉であり、〈目を反らしてはいけない〉と主張するものなのである。このすさまじい「星くず」は、どうなるのか? それは以下の歌詞を見ればわかる。

同じように 同じように
あなたに降り注げばいい

「あられ」

冒頭で提示された「星くずの様な想い」は、最終的に、「あなた」へと降り注ぐことになっている。こうして「あられ」という曲名の意味もわかる。そしてわれわれは、aikoの使う言葉を小さく見積っていた自分に気づかされることとなる。aikoが「星くず」と言ったとき、それは本当に、宇宙空間を飛ぶ隕石としての星くずなのである。

一見するとかわいらしい星くずという言葉が、最後には「あなた」へと降り注ぐ。このような構造は、そのままaikoというミュージシャン自身の比喩として見ることもできる。つまり、親しみやすい外見やキャラクター、平易な歌詞やポップな音楽性にひかれてaikoを聴いていると、いつのまにか、心の奥深くにある切実で恐ろしいところまで連れていかれる。

そこにあるのはもはや、かわいくてポップなだけの世界ではない。誰かを好きになることの重たさや怖ろしさまで含めて、aikoは描いてみせる。そのことに気づいたとき、あなたの心のなかのaikoは言うだろう。「目を反らしてはいけない」と。

aiko
『彼女』

※ハイレゾ音源

「あられ」収録

執筆者プロフィール:上田 啓太(うえだ・けいた)

ブログ『真顔日記』http://diary.uedakeita.net
Twitter@ueda_keita

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