若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 6

Column

オリジナリティ溢れる「サンプリング」音楽の世界、必聴作品4選

オリジナリティ溢れる「サンプリング」音楽の世界、必聴作品4選

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


「サンプリング」が生む、オリジナリティ溢れる音楽

みなさんは音楽における「サンプリング」という行為に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。
昔のレコードに収録された音源の一部を抽出し、それを利用して作り上げたヒップホップでしょうか?
それとも野外に出て、環境音をサンプリングして(フィールド・レコーディングのことです)加工した実験音楽?
もしくは、インターネットの海に転がっている昔のテレビCMの音源を切り取って作ったコラージュを聴いたことがある人もいるかもしれません。
既存の音を切り取る「サンプリング」は、作り手によって多様なポテンシャルを発揮しながら、長らく音楽制作に携わる人々を魅了し続けています。

本稿では、そんな「サンプリング」という方法を利用することで作られた、2017年~2018年の間にリリースされた新しい音楽をいくつか紹介しようと思っています。
これから紹介する4枚は、「サンプリング」という行為を通じてオリジナリティ溢れる音楽を築き上げているということ以外、共通点はほとんど無いといっていいでしょう。
ジャンルも国籍もバラバラです。彼らを繋ぐのは「サンプリング」というキーワードだけです。それでは最後までお楽しみください。

1. Superorganism『Superorganism』

Superorganism
『Superorganism』

※ハイレゾ音源

最初に紹介するSuperorganismは、2017年にロンドンで結成された8人組の多国籍バンドです。
今や時の人になっている音楽家のフランク・オーシャンがApple Musicのラジオで彼らの楽曲をプレイしたり、イギリスのニュースメディアBBCが毎年注目すべき音楽家やバンドを選出する「BBC Sound of 2018」のリストに加えられるなど、今や世界で最も注目されているバンドの一つであると言えます。
彼らの音楽はベックやフレーミング・リップス、MGMTといったアクトと比較されることも多い、実験性と大衆性を兼ね備えたものです。
随所で楽器の音色を変性させた奇妙なバンド・サウンドとサンプリング音源を組み合わせ、そこに日本人のオロノのキャッチーなヴォーカルが乗ることによって出来上がるキモ可愛い(死語でしょうか)ポップ・ソングが彼らの武器です。

サンプリングという点に注目して彼らの音楽を聴くと、たとえば前述したベックが依拠していたターンテーブリズム(簡単に言えばヒップホップっぽいテイスト)とは異なったベクトルで、駅のホームやアラーム、会計の際のレジ、流水など数多くのサンプル音源が配置されていることがわかります。
象徴的な音源がループ的に使用されるといったものとは違い、ギターやベースといった楽器と遜色ないくらいの重要さで、サンプリング音源が自然に配置されています。
むしろ、楽器たちがサンプリング的な扱いをされているといってもいいかもしれません。そんな本作はいわゆるコラージュのような雑多さも携えつつ、きちんとポップスとして成り立っているところに彼らのセンスを感じます。

このようなサンプリング音源の使い方は、ある意味ではDTM的なアプローチといってもいいかもしれません。
日本の例でいくと、Seihoが『Collapse』で試みたサウンドのコラージュを徹底的に90年代的なローファイ感を施し、バンド・サウンドに組み込んだと考えてみるとわかりやすいでしょうか。
こういうアプローチって、これまでなかなか無かったのではないでしょうか。
日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドと様々な出身地のメンバーから成り立っているこのバンドですが、今はロンドンの一軒家で共同生活をしているらしく、音楽だけではなく、バンド形態そのものがコラージュ的といえるのではないでしょうか。


2. TOMC『Yesternow Once Now』

TOMC
『Yesternow Once Now』

次は日本の音楽レーベルPURRE GOOHNに所属している福島県出身のビートメイカー、TOMCの作品です。
『Yesternow Once Now』を初めて聴いたときに抱いた印象は、「アヴァランチーズmeetsブレインフィーダー」というものです。
無数のサンプリング音源から唯一無二のポップ・ミュージックを作り出すことで知られるアヴァランチーズが、アメリカで最先端のビート・ミュージックを提供してくれるレーベル「ブレインフィーダー」の影響を受け、コラージュを作ったらこういうものになりそうだなと。

そんなTOMCの音楽的な素養がどういったところで培われたのか気になったので、ご本人に直接聞いてみたところ、「コーネリアスさんや砂原良徳さん、DJ Shadow や Madlib などは音楽を作りはじめる前から聴いていました。コラージュ~編集感覚が自作のアイデンティティ・個性だと気づいてからは都度聴き返しています。」とのこと。
他にも文学やアートからの影響も大きいようで、「大学時代は文学を専攻しており、USのトマス・ピンチョンやビート文学などの情報量や突飛な展開からの影響は今もあると思います」と教えてくれました。

コラージュの面白さについて、彼は「集約性」にあると言っています。
「インターネットの情報の洪水(からの取捨選択)を若いうちから体験できた平成生まれの人間としては、自分の興味・関心をダイレクトに、かつほぼ無制限な情報量を持ちつつそれをコンパクトに反映できることに面白さを感じています。また、編集次第でスマートさや猥雑さ・いなたさなどで繊細な演出を施せるところも現代的ですよね」という話には頷かされますね。

自分の気の向くままに好きなサンプリング音源を詰め込んだだけでは、音楽としてはつまらないものになりがちです。しかし彼の音楽は聴いていてキャッチーな面を持っています。
その点については「幼少期に歌謡曲~フュージョンのボックスセットやUS/UKのオールディーズのコンピが家に大量にあってそれらを聴き倒していて、その後はブックオフを通じて90sのJ-POPやアシッドジャズ〜ニュージャック・スウィングに慣れ親しむなど、展開や情報量が集約されたコンパクトなフォーマットに愛着を持っている」というころがその要因だそう。

コラージュと聞いてしまうと、何やら難解な音楽を連想してしまうかもしれませんが、この発言を読めばわかるように彼は難解さの罠に陥らず、クールなものとして響くビート・ミュージックを作り上げています。


3. V.A.『ASYNC – REMODELS』

V.A.
『ASYNC – REMODELS』

坂本龍一さんの新作『async』は2017年もっとも話題になった作品の一つですが、本作はそれのリミックス盤です。リミックスを担当するのは、どれも有名な音楽家ばかりです。

全員の説明をすると冗長になってしまうので控えますが、最近は『グッド・タイム』という映画のサウンドトラックを手掛けたことで話題になった、電子音楽のトップランナーであるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、グリッチ・ノイズを繊細に操るエレクトロニカのパイオニアとして知られるアルヴァ・ノト、ビョークとのコラボレーションを通じインダストリアル・テクノという枠をはるかに逸脱する異才、アルカ、先日惜しくも他界してしまったポストクラシカルの最先端、ヨハン・ヨハンソン、昨年『mellow waves』が高い評価を受けたコーネリアス等々、錚々たるメンバーです。
そんな彼らが「リミックス」ならぬ「リモデル」したのが、『ASYNC – REMODELS』です。

リミックス~リモデルには様々な方法があるので、一概にはいえないのですが、オリジナル曲の一部をサンプリングしてそれを加工し、自分の要素を加えながら展開するというのはメインなやり方の一つです。
たとえばアルカの「async」は、原曲からのサンプル音に自身のヴォーカル(しかも日本語です)を被せたりしていますね。
コーネリアスの「ZURE」は、原曲のシンセをループさせながら、彼ならではのエディットを加え、巧みな空間配置をおこなうことで、楽曲を見事にリモデルしていますよね。
各リモデラーたちがどのような細工を施すことで『async』の楽曲を自分のものにしているか、元のアルバムと聴き比べながら検証するのも楽しいと思います。

さらに付け加えると、坂本龍一『async』はフィールド・レコーディングの作品である点もまた重要なのです。
ハリー・ベルトイアやべルナール・バシェ兄弟の音響彫刻(楽器としても使える彫刻作品のことです)や、虫の鳴き声や足音をはじめとした様々な環境音をアルバム内で使っています。
音環境をサンプリングすることが一つのテーマである作品からサンプリングをしてリモデルするというのは、考えてみればユニークですよね。


4. James Blake『If The Car Beside You Moves Ahead』

James Blake
「If The Car Beside You Moves Ahead」

ぼくは現代のポップ・ミュージックの肝の一つに、ヴォーカリズム(ヴォーカルの扱いについての方法論、思想)の開拓があると思ってます。
声を楽器として考え、それをどうやって用いて音楽を作るかが問われているのではないかと。

こうやって書くとなんだか難しそうですが、USメインストリームのヒップホップやR&Bを聴いていたら、やたらとヴォコーダーやオートチューンで声にエフェクトをかけた音楽に突き当たったことがあると思います。
インディー・ミュージックな好きな人だったら、ボン・イヴェールがプリスマイザー(ひとりでゴスペルをやっているような効果を産み出します)を使って『22, A MILLION』という傑作を作ったり、ダーティー・プロジェクターズが声をスローダウンさせた「Keep Your Name」という楽曲を作っていたりします。
他にも昨今ポストクラシカルの中心地的レーベル「イレーズド・テープス」と契約したハチスノイトは、電子音楽家・マトモスが彼女の声に様々な加工を施しながら楽曲を作りました。
テクノロジーの発達やそれに伴ったアイディアの拡張によって、多様なヴォーカル/ヴォイスの使用法が現代では可能になり、ジャンルや国境を越えて、様々な音楽家たちがヴォ―カリズムの可能性を開拓しようと勤しんでいます。

そんな現代の音楽的状況を仮に「変声音楽の時代」と捉えたときに(注:成長期に起こる声変わりとは関係ありません)、ジェイムス・ブレイクの新曲「If The Car Beside You Moves Ahead」は、そのような状況の中でまた一つ面白い方法論にトライしているといえます。
この曲で彼は、自身のヴォーカルの一部をサンプリングし、ピッチを上げてまるでヘリウムガスを吸わせたような声色にします。それを通常のヴォーカル・メロディの中に配置し、通常のヴォーカルとハイ・ピッチなヴォーカルが混在する楽曲に仕立て上げました。
また、さらにユニークなのは、それらのヴォーカルが吃音的になるように配列されていることです。どもりの中でメロディが展開されていくという不可思議な魅力を持ったこのポップ・ソングには驚かされます。
ジェイムス・ブレイクは初期もこれと似たようなヴォ―カリズムを試みていたことがありましたが、ここまで明確なメロディの中ではトライしておらず、歌モノとして成立させているところにこの楽曲の素晴らしさがあります。
また、技巧的なことのみではなく、ピッチや言葉のズレを利用して、自身の固有性やコミュニケーションの不安定さを音楽的に表現している点もまた、評価されてしかるべきでしょう。
ポスト・ダブステップの寵児としてシーンに登場し、今やビヨンセやケンドリック・ラマ―とコラボレーションするようにもなった彼は、今後もぼくたちを楽しませてくれそうです。

執筆者プロフィール:八木 皓平(やぎ・こうへい)

『Mikiki』『iD-Japan』『ユリイカ』『The Sign Magazine』等々、さまざまな媒体で音楽とその周辺について書いています。プロレスラー八木哲大の兄。連絡先は下記メールアドレスかSNSでのDMになっております。お気軽にご連絡ください。

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