若手ライターが選ぶ!買ってでも聴くべき本当の名曲  vol. 5

Column

惑わされずにやりたい音楽を奏でる、今注目すべきミュージシャン3選

惑わされずにやりたい音楽を奏でる、今注目すべきミュージシャン3選

多種多様な配信サービスの乱立、ジャンルの限りない細分化、アナログレコードやハイレゾ音源といった「音質」にこだわる聴き方の広まり――
「どのように」音楽を聴くかということと「どんな」音楽を聴くかということが複雑に絡まりあう現代において、音楽作品を「買って聴く」ということはどのような体験なのか。

今回、エンタメステーションでは、新進気鋭の若手ライター12人に「買ってでも聴くべき本当の名曲」というテーマで作品のセレクトを依頼した。
最前線の音楽シーンを見つめる12人は、それぞれどのような切り口でこの課題に応えてくれたのか。ぜひ紹介されている音源を実際に「買って」「聴いて」その違いを楽しんでみてほしい。


「時代と敏感に共鳴する」ミュージシャン3組

「ガールズ・バンド」という言葉に違和感があります。その理由は「女流作家」とか「女子力」とかいう言葉に対する嫌悪感と一緒で、創作をしている本人たちには微塵も「女らしさ」とか「女性ならでは」みたいなことは頭にないからです。享受する僕らが都合の良いようにカテゴライズするのは、間違った行為なんじゃないかと思ったり……(そもそも演奏しているかれらのジェンダーの自認すらもわからないし。彼女たちと呼ぶのも本当ははばかられる)。
今回、選んだミュージシャンたちが「女性」に偏ったのは、僕自身がどうしようもなく今この3組のミュージシャンの表現に惹かれているからで。時代と敏感に共鳴して2010年代後半の今を生きる実感を切実に鳴らすミュージシャンを集めてみると、それがたまたま「女性」であった……というだけの話な気がしています。

1. CHAI

CHAI
『PINK』

※ハイレゾ音源

もちろん、男性でなく女性がそのような表現をしているという事実を社会的状況と照らし合わせて突き詰めていくことはできると思います。例えば、CHAI。

つまんないなんて変じゃない?/全部同じ顔なんて変じゃない/そのままがずっと/誰よりもかわいい(N.E.O.)

という強烈なフックをもつ歌詞に描かれるように、「コンプレックスはかわいい」というCHAIが歌いあげるスローガンは、従来のKawaii文化を一段階上のレイヤーに引き上げ、性差の別なくありのままの自分でいることが一番良いというフェミニズムの思想とリンクしています。
ただでさえ、暴力的なルッキズムやミソジニーが跋扈するこの世の中で、しがらみなど一切なく自由に音楽を鳴らす彼女たちの姿に勇気を与えられている人たちも多いのではないでしょうか。
彼女たちに自覚的なところはなくとも、CHAIの楽曲は社会的な規範に窮屈さを感じている人たちへの応援歌になっていると思います。

2. Superorganism

Superorganism
『Superorganism』

※ハイレゾ音源

そんなCHAIと今年2月に初来日した際に親睦を深めたのがスーパーオーガニズムです。
現在、イギリス・ロンドンを活動の拠点としているこのバンド。18歳の日本人女性・オロノがヴォーカリスト兼コンポーザーを務めています。
イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、韓国と多岐にわたるルーツを持つ8人のメンバー構成のごとく、ヒップホップやオルタナティヴ・ロック、現行のメイン・ストリームのポップ・ミュージックなど、古今東西の音楽を咀嚼し再構築した限りなく自由なクリエイティヴィティには、音楽好きならたまらないワクワク感を覚えるはず。
スーパーオーガニズム=超個体というバンド名も最高。

it Doesn’t matter the cost, seems like /Everybody wants to be-famous(何が何でも、みんな有名になりたがっている)

という、アンディー・ウォーホルの「人は15分間だけ世界的に有名になれる」という言葉を彷彿とさせるような歌詞は、インターネット時代に自我が自我としての意味を失い、もはや個体というよりは群体と化した人類そのものをシニカルに嗤っている――そんな感覚を持ち合わせているところが鋭いなぁ、と思うのです。

3. The Wisely Brothers

The Wisely Brothers
『YAK』

※ハイレゾ音源

さてさて、再度、話を国内に戻しますと。デビューの時から媚びない姿勢がカッコいいなぁと思っているのが、The Wisely Brothersです。
オルタナティヴ・ロック・バンドとしての真っ当な音を志向していて。3ピースバンドで女声ヴォーカルというのはロックバンドとしての一つの強みだと思うのですが、それを過度にポップあるいは激情に振り切るのではなく、あくまで平熱に近い温度でルースでキッチュなロックンロールを立ち上げていく様に潔さを感じます。
2月にリリースされた『YAK』は、彼女たちのこれまでの作品の中でも最も開けたものだったと思うのですが、それでも切れ味が落ちることはなく。
リードトラックの「庭をでて」のラストで

すべてはどこかおかしいんだから

と、言い放ってしまえるThe Wisely Brothersの世界そのものに対する冷静な視線には、グッときてしまいました。これから、どう変化していくのか楽しみなバンドです。

「ありのままが一番カッコいい」

と、特に気になっているバンドを紹介してみましたが、この3組に共通しているのはとにかく「自由である」ということ。
シーンがどうとか、今流行ってる音楽はこうだ……とか、そういうことに惑わされずに、自分たちがやりたいように、したいように音楽を奏でているスタンスにどうしようもなく惹かれてしまいます。
この3組はリスナーからの期待や「売れる」ということに対するプレッシャーを跳ね飛ばしながら純粋に音を楽しんでいるように見えるのです。
そうした音楽家としての純粋性が今一度、リスナーの心に響くようになったのは、偏にアマチュア、プロの垣根がなくなり、多種多様な音楽の聴き方が音楽リスナーに定着したがゆえ。
今、この3組のような音楽を創作することを心の底から楽しんでいるバンド/ミュージシャンこそが、多くの人に求められているような気がしてなりません。
CHAIではありませんが、「ありのままが一番カッコいい」。自分たちのやりたいことを突き詰めながらやっているバンド/ミュージシャンに、もっともっと今年も出会えるといいなと思っています。

執筆者プロフィール:小田部 仁(おたべ・じん)

1989年11月20日生まれ。東京都豊島区出身。上智大学文学部英文学科卒。2013年、太田出版に入社。ユースカルチャー誌『Quick Japan』編集部に配属。2015年、退社。現在はフリーランスで文筆・編集業に携わる。

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