雲田はるこ『昭和元禄落語心中』特集  vol. 4

Column

音楽にあこがれるマンガ家 前編

音楽にあこがれるマンガ家 前編

なぜ『昭和元禄落語心中』は何度も“聴きたく”なるのか?

結論から言うと、『昭和元禄落語心中』が音楽的なのは確信犯である。

そもそも落語は、音楽同様“聴く”芸なのだ。作中で、与太郎や小夏が落語のLPを抱いて幸せそうに語る場面が何度も登場するのが象徴的だ。

落語、そして音楽は、絵画や彫刻とは異なり、実演(ライブ)のたびに違う、再現芸術でもある。

古典としての噺(楽曲)をそれぞれの噺家(アーティスト)が自分の解釈で再現するということについては、クラシックやジャズといった音楽に近いところもある。レコードショップでは、だいたい落語の棚はクラシックの棚の隣にある。私がはじめて寄席に行ったのも、落語ファンの音楽仲間がいたからだった。

『昭和元禄落語心中 アニメ公式ガイド』(講談社)で原作者らと座談をする噺家・立川志ら乃は、落語と音楽についてこんなふうに語っている。

落語を演劇や芝居に近いものと位置付ける人がいるんだけど、全然違うんですよね。どちらかというと音楽に近い。たとえばAメロ、Bメロを飛ばして、「ここのサビがいいんだよ」って、さびだけ聞いて一緒に歌って、二番は聞かない、とか音楽ではあると思うんだけど、落語はそういう楽しみ方ができる。(略)落語を演るほうとしても、一曲の長い歌を歌うような感じで演ってますからね。

これを雲田はるこは、わかって描いている。そう、確信できる。

なぜなら雲田はるこは、音楽を描くことにあこがれるマンガ家だからである。

くもはる流音楽理論

雲田さんと私の出会いは、「音楽マンガであるないにかかわらず、なぜマンガ家は音楽を描きたがるのか」を謎解きした拙著『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)を執筆中の出来事だった。「マンガに登場する音楽が大好きで、そのことを書いています」と打ち明けたときの、雲田さんの劇的な反応が忘れられない。

「私もずっと、(マンガと音楽には)関係があるって思っていましたよ! 『音楽を描く』ということについてずっと興味があって、音楽家と画家を主人公にした物語を構想したこともあります!」*

私の考える「マンガのなかの音楽理論」についてここまでの即答、しかもこんなにも強い思い入れを示してくれた作家ははじめてだった。私たちはその後、萩尾望都や大島弓子の作品のなかの音楽について語りあったが、当然のことながら私以上に「作画としての音楽描写」を感じ取っている雲田さんの話は最高におもしろく、感動の連続だった。

そもそも雲田作品との出会いは2011年、話題となった『昭和元禄落語心中』第1巻が最初だった。読みはじめるや否や、その鳴りやまない「音楽」に気持ちが高揚し、号泣してしまったのを覚えている。

まるで寄席にいるかのような臨場感で響いてくる、三味線や太鼓の音。

ざらついたレコードの音声や、軒下の風鈴。

そして登場人物が話す江戸弁――まるで生の芝居を観ているかのような「音楽」の嵐に、感極まったのだ。?

そう話すと、雲田先生はノートに描かれた『落語心中』のネームを見せてくださった。そこにはキャラクターやエピソードの断片とともに、江戸弁のセリフがびっしり書き込まれていた。

「江戸弁のもつリズム、まさに『音楽』を意識して、『音楽』として聴かせたいと思って書いていますから。あの作品には江戸の文化、その風情を伝えたいっていう使命感が強くあるんです。私自身、落語を聴いているときにその心地よさをすごく感じるので、そういう感動を読者さんに伝えたいんです」*

構成・文/高野麻衣

→雲田はるこ「昭和元禄落語心中」特集 第3回
「音楽にあこがれるマンガ家 後編」はこちら

インフォメーション

TVアニメ「昭和元禄落語心中」
MBS、TBS、CBC、BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送中
オフィシャルサイト http://rakugo-shinju-anime.jp/
【公式twitter】 @rakugoshinju
(c)雲田はるこ・講談社/落語心中協会

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*引用元:高野麻衣/雲田はるこ 画『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)
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