山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 30

Column

『THE LAST WALTZ』から40年〜その映画から受け取ったもの/ザ・バンド

『THE LAST WALTZ』から40年〜その映画から受け取ったもの/ザ・バンド

1980年。福岡・中洲にある映画館に、高校2年のギター青年は足を運んだ。
名だたるミュージシャンの見本市のようなその映画が“堅気の生き方”から彼を遠ざけ、遥かな孤高の道を歩ませることになるとも知らずに。
伝説のラスト・ライヴから42年、映画公開から40年。
デジタル・リマスター版で劇場公開される『THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ』の衝撃を、今、山口洋が綴る。


ザ・バンドが1976年にサンフランシスコのウインター・ランドで行なった解散ライヴの記録映画『THE LAST WALTZ』。監督はマーティン・スコセッシ。1978年に公開されてから今年で実に40年。デジタル・リマスター版がこの4月から全国でロードショー公開されることに合わせて志願の投稿。笑。なぜなら、田舎の少年がスクリーンから受け取ったものは計り知れないから、感謝を込めて。

劇場公開から遅れること2年。僕は高校2年生。福岡の中洲にある映画館でそれを体験した。確かレッド・ツェッペリンの『狂熱のライヴ』と2本立て。動くザ・バンドを見たのはもちろん初めて。しかもそれが解散コンサートで、次々に登場する素晴らしいミュージシャンの佇まいと名演に、開いた口が塞がらず。僕にとってはとてつもないミュージシャンの見本市のようで、パンドラの箱が目の前で勝手に開いてしまったようだった。もう堅気の生き方はできそうにない。そう思ったのはこの映画と『イージー・ライダー』の影響だろう。

©2018 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

瞬きすら惜しかった。ヴィデオもDVDもYouTubeもない時代。すべて網膜に焼きつけるしかないのだ。でも、その体験は今となっては愛おしい。後に何度も何度も観たから、ファーストインプレッションは随分書き換えられてしまったと思うけれど、記憶を頼りに書いてみる。

まずザ・バンドには優れたシンガーが3人も居ることに驚く。それぞれの歌が個性豊か。ガース・ハドソンのマッド・サイエンティストみたいな風貌と変態的なフレーズ、リック・ダンコの妙なリズムの取り方と歌の説得力、リヴォン・ヘルムのまるで歌っているようなドラムス、リチャード・マニュエルに漂う哀愁、いかにも頭がキレそうなロビー・ロバートソンの統率力と印象的なピッキング・ハーモニクス。バラバラな個性が集まってこそのザ・バンドの芳醇な音楽。

そこに登場するゲストたち。まずはチンピラたちの親分、ロニー・ホーキンス。ドクター・ジョンの音楽はそれまでに聞いたことがない種類のもので、転がるようなピアノがどえらく格好よかった。どう見ても眼力が尋常ではない(コカインでラリラリだったらしい)ニール・ヤングが歌う「ヘルプレス」、誰も真似できない浮遊する音楽を奏でるジョニ・ミッチェル、巨人、マディー・ウォーターズ。これがブルースってものなのか。ポール・バターフィールドの歪んだブルースハープ、まだ若いエミルー・ハリスは“アルプスの少女”のクララみたいで、ディランの佇まいは才気に溢れている。後にいちばん影響を受けることになるヴァン・モリソン。彼もこのとき初めて観たが、失礼ながらピンクの豚にしか見えなかった。若い僕にその素晴らしさはまだ理解できなかったのだ。

©2018 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

このイベントの開催によって、ロビー・ロバートソンと他のメンバーの間に確執が生まれたと云われているが、田舎の少年にとって、めくるめく本物のミュージシャンを体験する機会を作ってくれたことには感謝しかない。

あのような本物になりたくて、僕はヤクザな道を突っ走ってきた。そして40年経過して、出演していたミュージシャンたちはほぼ全員が年下。リチャード・マニュエルは自死、リック・ダンコとリヴォン・ヘルムは鬼籍に入り。

うーん。なんと言えばいいのか。40年。音楽を続けることはたいへんなこともあったけれど、音楽がなければ世界とコミットできていたかどうかも疑わしい。だから、もう一度劇場で観てみたい。この40年は僕をどう変えたのか、変えなかったのか。この映画はそれを教えてくれる気がする。

観たことのない人のために、これ以上映画の内容を記す野暮はやめておく。当時体験したみなさんも、観たことのない若者たちも、この時代に40年前の祝祭を劇場で観るって体験、悪くない気がする。

僕にとってのザ・バンドのハイライトは90年代初頭にNYで観た、再結成されたザ・バンド。ロビーは居ないし、リック・ダンコは肉団子みたいな体型になっていたし、リヴォン・ヘルムも全曲でドラムを叩く体力は残っていなかったけれど、それでもザ・バンドはバンドだった。リヴォン・ヘルムの50cm前であの音楽を体験したことは忘れられない。気がつくと僕は両隣の白人の大男に肩を抱かれていて、二人は号泣していた。ちょっと気持ち悪かったけど、我慢した。そして会場にひとりも黒人がいないことがとっても不思議だった。


THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ:1976年11月25日、サンフランシスコのウィンターランド。ボブ・ディランをはじめ、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン、マディ・ウォーターズ等、音楽史に大きな足跡を残した偉大なミュージシャンたちが次々とステージに現れ、ザ・バンドと競演した伝説の解散ライヴを記録したドキュメンタリー。バンドの中心人物となっていたロビー・ロバートソンがマーティン・スコセッシ作品の音楽センスに惚れ込んで監督を依頼。スコセッシは『タクシー・ドライバー』の名手マイケル・チャップマンを中心に、ラズロ・コヴァックス、ヴィルモス・ジグモンド等、7人の撮影監督を巻き込んで、臨場感溢れるステージの映像化に成功した。舞台美術と照明は『ウエストサイド物語』でオスカー受賞の大ベテラン、ボリス・レヴェンが担当。1978年公開。
公開40周年を記念して2018年デジタル・リマスター版による上映が決定。4月14日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国で順次公開される。

監督:マーティン・スコセッシ
製作:ロビー・ロバートソン
出演:ザ・バンド、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン、ニール・ダイヤモンド、リンゴ・スター、ロン・ウッド、ドクター・ジョン、ポール・バターフィールド、ロニー・ホーキンス、マディ・ウォーターズ ほか

オフィシャルサイト

THE BAND / ザ・バンド:1963年までロニー・ホーキンスのバック・バンド、ホークスとして活動していたリヴォン・ヘルム(drums)、ロビー・ロバートソン(guitar)、リック・ダンコ(bass)、リチャード・マニュエル(piano,drums,sax)、ガース・ハドソン(piano,sax)が1964年、ボブ・ディランのマネージャーの目に留まり、ディランのバック・バンドに抜擢。1966年、交通事故で負傷したディランに誘われ、彼の隠遁地であるニューヨーク郊外のウッドストックに住みつく。彼らの家はピンクのペンキで塗られており、“ビッグ・ピンク”と名付けられた。1968年、ホークスはバンド名をザ・バンドと改め、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』でデビュー。シングル・カットされた「ザ・ウェイト」は翌年の映画『イージー・ライダー』に使われた。リヴォン・ヘルム以外はカナダ出身にもかかわらず、ロックにカントリー、フォーク、R&Bといったアメリカン・ルーツ・ミュージックの要素を色濃く反映させた音楽性は高い評価を獲得し、当時の多くのミュージシャンたちに大きな影響を与えた。1969年8月17日にはウッドストック・フェスティバルに出演。同年9月、2作目にして最高傑作の呼び声も高いアルバム『ザ・バンド』を発表。トップクラスのライヴ・バンドとしての名声を得る傍ら、リンゴ・スターやエリック・クラプトン、マディ・ウォーターズのアルバム制作に参加。アルバム制作か、ライヴ活動か、バンド内の亀裂が深まるなか、ロバートソンは1976年にライヴ活動の停止を発表。彼以外のメンバーは解散を望んでいないなか、11月24日にサンフランシスコでラスト・コンサートを行う。この模様は映画『THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ』として1978年に劇場公開され、3枚組サントラ盤もリリースされた。同年、アルバム『アイランド』をリリースし、ザ・バンドとしての活動に終止符を打った。1983年にはロバートソン以外のメンバーが再結成、メンバー・チェンジやサポート・メンバーを加えながら1999年まで活動。1989年にカナダのCanadian Music Hall of Fame殿堂入り、1994年にロックの殿堂入り。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第50位。ミュージシャンズ・ミュージシャンとして、今なお多くのアーティストから尊敬を集めている。


『THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ』

ワーナーミュージック・ジャパン
(2CD)WPCR-11771-2 ¥3,400(税別)
デジタル・リマスターによる2枚組。

『THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ』(ハイレゾ音源)全30曲
『THE LAST WALTZ / ラスト・ワルツ』全54曲
THE BAND / ザ・バンド

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年にアルバム『柱』でメジャーデビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二 (drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”の活動も続けている。今年は6月29日に“MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend ”の開催が決まった。6月2日からはリスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“ YOUR SONGS 2018”で全国を廻る。

オフィシャルサイト

LIVE情報

山口洋 SOLO TOUR “YOUR SONGS 2018”
6月2日(土)静岡 LIVEHOUSE UHU
6月4日(月)名古屋 TOKUZO
6月6日(水)大阪 南堀江 knave(16th Anniversary)
6月8日(金)京都 coffee house 拾得
6月10日(日)豊橋 HOUSE of CRAZY
6月16日(土)千葉 Live House ANGA

詳細はこちら

HW SESSIONS 2018
5月18日(金)横浜 THUMBS UP

詳細はこちら

MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend
6月29日(金)東京 下北沢GARDEN

詳細はこちら

vol.29
vol.30
vol.31