Interview

橋本愛 映画『残穢【ざんえ】― 住んではいけない部屋―』を語る

橋本愛 映画『残穢【ざんえ】― 住んではいけない部屋―』を語る

「今住んでいる部屋で奇妙な“音”がするんです……」。 小説家と共に数十年の時を経た壮大なる戦慄の真相に辿り着く女子大生を好演した女優・橋本愛。 今冬誕生、邦画史上に輝く本格ミステリーを語るロング・インタビュー。


観ている間ゾクゾクしっぱなしで、観終わってからもさらにジワジワと怖さが後を引く作品でした。橋本さんは完成作を観て、どんな感想をお持ちですか。

撮影に入る前、衣装合わせの時に、中村監督が「いじわるな映画にしたい」とおっしゃっていたのがすごく印象的だったんです。最初に観た印象としては本当にその言葉通り、あの結末も含め、「ほんとにいじわるな映画だな」って思いました(笑)。 それから脚本を読んでいた時は「赤ちゃんの顔が床からボコボコ湧き出る」ってどういう感じなんだろうとか、いろいろ想像していた部分があったので、それを実際 に映像として見ることができて、「なるほど、こうなったんだ」って発見していく面白さもありました。

あのシーンは怖かったです……。ホラー小説家を演じた竹内結子さんは、怖すぎて脚本を読み進められなかったとか。

確かに竹内さんはすごく怖がっていらっしゃって、脚本を読むまで一カ月かかったそうです。それってホラー 作品においては理想的な反応ですよね(笑)。最終的には日中の事務所で、あらゆる照明をつけて読んだそうで、それも自分のセリフを重点的にバーッと読み進めたから、私の演じた“久保さん”は「男かと思ってた」って言われました(笑)。私はその点、鈍感というか、フィクションと思えばそれほど恐怖を感じないので、脚本を読んだ時はむしろ物語のミステリー要素に惹かれていました。だから竹内さんの反応を見て 「ああそうか、これはものすごく怖いホラーなんだ」と実感できてよかったというか、助けられました。

謎解きとしても、見応えのあるストーリーですよね。

そうですね、まず初めに、すごくきれいな脚本だと思いました。時間軸が行ったり来たりする中で物語が 進んでいくので、すごく複雑なんだけど、とても丁寧に描かれていて。さらにそれを中村監督が映像として、どう立体化していくのかも楽しみでした。というのも私、中村監督の数々の作品を観る中で、時代や時間が交錯する時の描写が一番好きだったんです。今回も脚本に書かれていた複雑な時間軸は崩 されることなく見やすくなっていて、ストーリーに忠実に、誠実に映像化されていったんだろうなとうれしく なりました。まるで本のページを一枚一枚めくっていくような感覚のある映像だと思います。

その感覚、すごくよくわかります。橋本さんは、自分の部屋で妙な物音を聞く“久保さん” という女の子を演じられましたが、彼女はざっくり言うと“普通”の女の子ですよね。

まず、脚本には“久保さん”を特徴づけるような場面やセリフがなく、キャラクター描写が ほとんどなかったんです。衣装合わせをした時も、ごく普通の服装というか、周囲に溶け込むような特徴のない印象だ ったので、そこで作為的なキャラクターを作り上げていくと物語の邪魔をしちゃうかもしれないなと思いました。なので、キャラクター設定より、物語を運んでいく運転手のような役割を担うことを重点的に考えていましたね。

ai_hashimoto_bamen01

確かに、竹内さんが演じる小説家を筆頭に風変わりなキャラクターばかり出てくる中で、 “久保さん”は唯一普通の感覚を持っていて、物語と観客をつなげる役目を果たしていますね。

“久保さん”で始まり、“久保さん”で終わる物語でもあるので、地に足を着けていなければという思いはありました。大学でミステリー研究会の部長をやっているという設定だったので、ホラー系に興味があるという一面を土台に、最初は好奇心90%くらいの表情を見せています。でも次第に恐怖心が大きくなり、それと同時にどんどん好奇心がしぼんでいって、物語の終盤、 北九州の廃屋を訪ねるシーンでは恐怖マックス。「 もうイヤだ、帰りたい!」っていう気 持ちになるように、自分の中で調整していきました。

ai_hashimoto_02

初めて“久保さん”が恐怖の表情を 見せる、“最凶物件”の真辺家ですね。 最高潮に恐怖を煽られるシーンですが、真辺家のセットはやはり不気味でしたか。

実際の現場は正直に言うと、暑くて埃っぽいし、暗いし、過ごしにくい場所だなと思ってました(笑)。でもあのセットはすごくクオリティが高くて、画面に映らないところまで作り込んであって、見ていて面白かったですね。

やっぱり「怖い」より「面白い」なんですね(笑)。役作りについて、監督から何か言われたことはありますか。

役作りというより見せ方として、「もう少しゆっくり振り返って」とか、「!マークを3つ増やして」といった技巧的な演出が多かったですね。あと監督には、「橋本さんの顔が面白い」って言われました(笑)。電気店のシーンで壁に貼ってあるスタッフカードをじーっと見ていたら、「あ、ちょっとそのまま」って言われて、その顔を撮ってケラケラ笑っていらっしゃって(笑)。今回はホラー映画なので、そういう表情はあまり使われないにしても、どんどん面白いことしちゃおうって思いました(笑)。

(笑)。現場で、これはホラー映画らしいなって感じることはありました?

そうですね、なんて言うか……役者さんたちの喋り方がヘンでした(笑)。みなさん、気持ち悪い喋り方をされるんですよ(笑)。いわゆる人間ドラマだと、役者は自然な演技に見えるよう、表情から違和感を取り除いていくものなんですが、今回は役者のみなさんが異質すぎる感じを出してきて、それを監督が直さずに撮っていく。間(ま)もヘンだし、テンションもトーンもすべておかしくて、それで成立するというか、「これがいいんだな」って思えるのがすごく面白かったですね。

なるほど(笑)。

ちなみにホラー映画の撮影には怪奇現象がつきものと思われるかもしれませんが、私は何も感じませんでした。でも後から監督に聞いた話はあります。アフレコの時に女の人の声が入ってたとか、あるはずのない手が映ってたとか……(笑)。

うわあ。橋本さんはそういう怖さに耐えられるタイプですか。

自分の半径10メートル以内じゃなければ大丈夫かな。他人から怖い話を聞くのは平気だけど、自分が何かを直接見るとか聞くっていうのはダメですね。

これまで心霊現象的な経験は?

地方のホテルに泊まった時、ずっと壁からコンコンって音が聞こえてうるさかったという経験があります。音のするほうに行ってみても、どこから聞こえるのかわからなくて、だんだん怖くなってきて。隣の部屋のハンガーがぶつかる音だったのかもしれないけど、いつまでも等間隔に鳴ってるなって……。

それ、“久保さん”の経験に近いじゃないですか。

確かにそうですね(笑)。そういえば以前、ある部屋に住み始めてから「ここ、昔は墓場だったんだよ」って言われた経験もあります。でも別に何も起こらなかったし、大丈夫でしたよ(笑)。

ai_hashimoto_bamen02

じゃあ、“久保さん”のように、常に奇妙な音のする部屋に住むことになったらどうすると思いますか。

すぐに引っ越します(笑)! あんなの絶対ムリですよね。その部屋で何があったかなんて、知りたいと思いませんし(笑)。

ですよね(笑)。そこに住み続ける“久保さん”は、一見普通の女の子だけど、かなり変わったところもありますよね。

好奇心だけで北九州の物件を見に行っちゃいますからね(笑)。私なら絶対行かない。そんな彼女のおかしさが普通っぽく描かれているのが、面白いところですよね。

確かに(笑)。

今回はホラーなのでシリアスなシーンが多いですが、中村監督の手がける人間ドラマって、人間のおかしさやおもしろみをすくい取るような作品が多いと思うんです。今回の現場でも、監督のそういう視点をたくさん感じました。さっきの電気店のシーンもそうですし、たとえば私が店でお総菜を買う時も、何を買うか迷って「その焼き鳥、やっぱり砂肝じゃなくて“とりみ”にします」とか言ってるのを監督が見て、すごく笑ってて(笑)。「いやー、あそこで買い替えるのが面白いよね」って(笑)。きっと監督は、人間のそういうちょっとした部分、ほんのささいなおかしさが好きなんだなって思います。

確かに劇中では、曰く付き物件を語る人の妙なテンションとか、役者さんの何気ない表情がやけに印象的に映し出されて、「こういう人、いるいる!」って何度も思いました。

そうなんですよね。なので現場は常に楽しくて、ずっと笑ってた記憶があります。中村監督と竹内さんはずっと一緒にやってらっしゃるので、竹内さんが出演されないシーンの時は、監督の隣でモニターを見ながらお話しをされていたり。そういう光景もなかなか見られないので、そんなおふたりの雰囲気が現場を和やかにしているんだなと思っていました。

ai_hashimoto_03

では最後に、この映画の見どころを教えてください。

最近の映画は、どんなに悲劇を描いても最後は救いのあるものが多いと思うんですが、この作品は、ラストで怒濤のように恐怖を煽られ、突き放されるように終わります。ある意味性格が悪いっていうか(笑)、そんなところが新鮮に感じられると思いますので、ぜひお楽しみください。

インタビュー・文/廿楽玲子 写真/斎藤大嗣
ヘアメイク/赤松絵利 スタイリング/髙山エリ

橋本愛

ai_hashimoto_prof

1996年1月12日生まれ。熊本県出身。’10年、映画『告白』に出演し一躍脚光を浴びる。数々の映画・ドラマ・CM に出演し、’12年『ツナグ』『桐島、部活やめるってよ』などの演技を高く評価され、「第86回キネマ旬報 ベスト・テン 新人女優賞」「第36回日本アカデミー賞 新人俳優賞」など、数々の新人賞を獲得。’13年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で、主人公の親友・足立ユイ役として出演。最新作に『シェル・コレクター』(2016年2月27日公開)、『うつくしいひと』(2016年公開予定)が控える。
オフィシャルサイトhttp://aihashimoto.com

残穢【ざんえ】住んではいけない部屋

1月30日(土)全国ロードショー
配給=松竹

zanne_cast

原作 小野不由美『残穢』(新潮社文庫刊) 第26回山本周五郎賞受賞
監督 中村義洋 脚本:鈴木謙一 音楽:安川午朗
出演 竹内結子、橋本愛、坂口健太郎、滝藤賢一、佐々木蔵之介 ほか

オフィシャルサイトhttp://zang-e.jp

奇妙な「音」の謎は、その部屋の「過去」につながる…。

小説家である「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)という読者から、1通の手紙が届く。「今住んでいる部屋で、奇妙な“音”がするんです」。好奇心を抑えられず、調査を開始する「私」と久保さん。すると、そのマンションの過去の住人たちが、引っ越し先で、自殺や心中、殺人など、数々の事件を引き起こしていた事実が浮かび上がる。彼らは、なぜ、“音”のするその「部屋」ではなく、別々の「場所」で、不幸な末路を辿ったのか。全ての事件をつなぐ<穢(けが)れ>の正体とは?「私」たちは、数十年の時を経た壮大なる戦慄の真相に辿り着き、やがて、さらなる事件に巻き込まれていく……。第26回山本周五郎賞を受賞した小野不由美の傑作小説『残穢』を原作に、一人称で語られる本格ミステリー。メガホンを取ったのは『予告犯』(’15年)のヒットも記憶に新しい、『ゴールデンスランバー』(’10年)『ジェネラル・ルージュの凱旋』(’09年)を手がけるヒットーカー、中村義洋監督。彼のルーツは知る人ぞ知る“恐怖”演出。小野不由美原作としては初の実写映画化、中村監督にとっては満を持しての”原点回帰となった。