黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 14

Column

ゲームクリエイター小口久雄氏が語るエンタメ論(中)一番深い部分で感じる楽しさは「貢献」と「達成」

ゲームクリエイター小口久雄氏が語るエンタメ論(中)一番深い部分で感じる楽しさは「貢献」と「達成」

母親は「セガって何?」「ゲーム? やめてくれる」みたいな(笑)

あ、もう採用なっちゃったんだ。

小口 後から聞いたんだけど、僕らの年から幹部候補生として大卒を積極的に取りましょうってなったらしいんだよ。それに、当時は大学出のまともなヤツはセガなんて行かないんで、そこそこ良さそうなのは取れっていう風にちょうど言われていたみたい。それで、採用って言われたんだけど、「どうしようかな~」って思っちゃって。いまだに覚えているけど面接の帰りに大鳥居のパチンコ屋で、なんかいろいろ考えながらパチンコをした記憶がある。

パチンコ屋、あった、あった。

小口 それで、母親に電話で報告したんだけど、相変わらず母親は「セガって何?」「ゲーム? やめてくれる」みたいな(笑)。田舎の人だし、弁護士になれとか、お役所に入ればいいとか言ってたのがゲームだからね。でも、子供の頃、さんざんゲーセンに連れていったのは自分だろって。

そうですよねえ。

小口 だけど、セガの社長になったときは泣いて喜んでた。こうやってお前に投資したのが実った、無駄じゃなかったって、オフクロとオヤジに言われたことがあるよ。僕は学生時代に教科書なくしたとか財布なくしたか言って、けっこう親からカネ引っ張ったからね。

いや、小口さんは掘れば掘るほど面白いですね。ちなみにナムコの方はどうしたんですか?

小口 まったく音沙汰なかったね。

まったく連絡なかったんですか。それはちょっと残念ですね。

小口 それで、まあセガでいいかって。でもね、正直言うと、そんなにセガに長くいるつもりはなかった。当時のゲームってアメリカンドリームじゃないけど5、6人で作って一儲けみたいなことができたんだよ。だって、バックが黒でオブジェクトを動かして、弾を撃って当たったら点数入ればいいってだけだよ? 背景にデザインがあったのなんて『ゼビウス』くらいで『マッピー』とかもバックは黒だったでしょ。

確かにそうです。

小口 『インベーダー』とか数人でも作れるじゃん、みたいなね。だから、ちょっとセガで勉強して、そのあと独立して自分でゲームを作って一山あてようっていう考えがあったんだよ。でも、思ったより早くゲームの企画をやることになって。昔は企画って責任者、リーダーだったからね。で、けっこうプロジェクトをいろいろ任されて忙しかったから、そのうち独立してどうこうなんて考えはなくなっちゃって。

老人になって家でゲームとかやって過ごすのはイヤだよ

現在はどうですか?

小口 気づけば定年前だけど、定年後はもうゲームは作らないな。それ以外で何か人を楽しませる仕事をやりたいなって思ってる。

これまでいろいろなエンタテインメントをやってきたけど、ゲーミングは喜ぶ人もいれば、そうじゃない人もいるわけじゃない。そういった良いも悪いも含めたところでやってきて、ゲーム以外の人生の経験とかもいっぱいあるから、また全然違うものを人にサービスできると思ってるの。昔に比べたら人の痛みも分かるしね。

なるほど~。小口さん、情熱が枯れないですね。

小口 だって今日誕生日(※)だけど、老人になって家でゲームとかやって過ごすのはイヤだよ。

※取材当日は小口氏の誕生日と重なった

それは僕もイヤです(笑)。でも、小口さんは昔から人の痛みが分かる人だったと思いますよ。だから、僕なんかも親しくさせてもらったし、よくしてもらった記憶があるし。それに、小口さんは若い頃からギャンブルとかの危ない部分も見てきているから、その奥深さもゲームに生きているんだろうなってずっと感じていたんです。

小口 たまーに大学の後輩とかの前で話してくださいって呼ばれることがあるんだけど、そういうときに話す得意なテーマがひとつだけあってね。エンタテインメントに一番大事な「楽しさ」って何かっていう。

面白そうですね。どんな内容なんですか。

小口 ちゃんと話したら5回ぐらいの講座になっちゃうんだけどね。もともと人間には快感原則論っていうものがあって、世の中の出来事全部を苦しいことと楽しいことに分けると、誰もが苦しいことから逃げて楽しい方向に行こうとするわけ。

そうでしょうね。

小口 すべての行動の源泉っていうか、誰も苦しい方向に自ら行こうなんて思わない。たとえば何かを苦しんで作った人も、それを作ることによって人を喜ばせてあげようとか、会社での自分の成績を上げようとか、そういった楽しいことを考えているから作るわけでね。

それで、何十年もやってきて最近分かってきたんだけど、面白さや楽しさっていろいろなカテゴリーや項目にある程度分解できるの。たとえば、知らないことを知ると楽しいとか。「○」とか「△」の形をしたところに同じ形のものをはめていって、全部コンプリートできたら楽しいとか。暑いから涼しくなりたいとか、お腹空いたから何か食べたいみたいな生命維持に関わる部分の快感もそう。で、そういった楽しさの項目にランクを付けていくと一番上、高次元の方に何があるか知ってる?

……なんだろう。人に好かれること?

人に認められることが一番楽しいということなんだよ

小口 うん、なかなかいいとこいってる。言葉で言うと「貢献」と「達成」。このふたつが人間が一番深い部分で楽しいと感じていることだと、今のところ僕は認識してるのね。たとえば勲章とかがそうだよね。今の僕もそうだけど若い頃は勲章なんかいらないとか思うわけよ。そんなものより金をくれとか。だけど、歳を取ってきた人たち、みんな勲章もらって喜んでるじゃない。これって「貢献」と「達成」でしょ。つまり、人に認められることが一番楽しいということなんだよ。逆に言うと、人間が一番苦しいことは人に無視されることになるんだよね。分かる?

分かります。やっぱり人はひとりでは生きてはいけない。お互いの相関関係の中で生きているから、他の人からどう思われるかって常に気にするわけだし。特に今はSNS時代ですからね。

小口 人に無視されんのがイヤだからって1日中LINEやってる人の話とか、朝のテレビでやってたけど、そういうことだよね。子供のイジメとかも無視されるのが一番苦しくて悲しいことで、その対極にあるのが人に認められることなんだよ。

だから、なぜRPGが日本人に流行るのかっていうと、これも「貢献」と「達成」なんだよ。RPGってストーリーがあってチームを組んで、最後に相手のボスやっつけて「やったね」とか自分で思うわけじゃない。それで自分はこの世界に貢献したっていう……アレがいいんだよね。だから、RPGは比較的万人に受ける。だけど、世の中ってもっと本能に近いところで、すごく面白いこともいっぱいあるので、そういうものをいろいろ組み合わせていったら、もっともっと違うゲームもできるはずなんだよ。

そうですよね、うん。


続きは第3回インタビュー
4月3日(火)公開

ゲームクリエイター小口久雄氏が語るエンタメ論(下)今後のエンタメのキーワードは「アナログ」

ゲームクリエイター小口久雄氏が語るエンタメ論(下)今後のエンタメのキーワードは「アナログ」

2018.04.03

著者プロフィール:黒川文雄【インタビュー取材】

くろかわ・ふみお
1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDEにてゲームソフトビジネス、デックスエンタテインメント、NHN Japan(現LINE・NHN PlayArt)にてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。株式会社ジェミニエンタテインメント代表。DMMオンラインサロンにて「オンラインサロン黒川塾」を展開中。
黒川塾主宰。ゲームコンテンツ、映像コンテンツなどプロデュース作多数。

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