雲田はるこ『昭和元禄落語心中』特集  vol. 9

Interview

第7回 インタビュー 雲田はるこ Part2

第7回 インタビュー 雲田はるこ Part2

『昭和元禄落語心中』誕生秘話をご紹介した前回につづき、今回のテーマは「なぜ“心中”なのか?」。キャラクター論から裏話まで盛りだくさんでお届けする。音楽を愛し、音楽にあこがれるマンガ家・雲田はるこ、3年ぶりの“音楽的”インタビュー、第2回。


八雲さんが最初に産声を上げ、このひとはどういう人生を生きてきたのか、と構想していったわけですね。『落語心中』は、現実世界よりもちょっと危機に瀕している落語界のお話だと思うんですが、それはどうしてですか? 八雲さんの人物造形が関係しているんでしょうか?

落語ものというと、下町人情ホームコメディとか、おもしろおかしい太鼓持ち、みたいなイメージがあります。私は落語の、そうではない側面も描いてみたいと思いました。落語には、喜びや楽しみだけじゃない、人間のすべてと言っていいほど多様な感情が描かれています。そういう落語の幅を表現できる人として、八雲さんを考えていきました。

たしかに、八雲さんが暮らすあの家の、とても静かな空間にあえかな三味の音色が響いている。そうした情景ひとつにも、「これは私が知ってる落語ものと違う」と感じました。

そうですね。落語家さんて、表に出ているときは陽気にされているんですけど、その裏では、自分との戦いという意味で、ものすごいご苦労をされているのではないかと思ったんです。表舞台と裏腹に、ハードな世界。落語家さんが表に出したがらない、そういう部分を描きたいと思いました。

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たしかに、私たちはテレビなどの影響で、落語家さんを芸人さんに近い、とても親しみやすい存在と感じがちです。

落語の黄金期は昭和30年代なんですけど、その頃の落語家さんって、いまと少し雰囲気が違いますよね。テレビが主流ではない時代に、落語が娯楽の王道で、寄席やラジオ、落語会で芸だけで生きていく世界。そういう人たちにしか無い品や色気というものを感じまして、今は昔の名人を生で見れない事が悔しすぎて、それを描いてみたいと思いました。

『落語心中』によって、落語というものへのイメージが塗りかえられた人は多いんじゃないでしょうか。音楽で言ったら、たとえばモーツァルトの陽気なソナタしか知らなかったのが、せつないト短調のシンフォニー――笑顔の下の悲しみを知って、ますますいとおしくなる、みたいな経験に似ています。
7巻の歌舞伎座での親子会で、八雲さんが倒れた直後の与太郎の顔も忘れられません。まさに、落語にとりつかれている。師匠である八雲がのりうつったかのような表情ですよね。

あれは、自分でもまったく予想してなかった表情になりました。ネームともまるで違うんです。与太ちゃんは、いつも予想外の動きをしてくれる面白いキャラクターです。

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ネームノートに描かれた与太郎。最新9巻に収録予定の一場面だが、ここでも最終的に、まったく違う表情に変化したという。

いちばんジャズっぽいキャラクターですよね。あと、私は昔から小夏さんが大好きなので、彼女と与太ちゃんによくぞ、こんなに素晴らしい関係性を築いてくれたと感謝しております。ただのファンレターですが(笑)。倒れた八雲さんをめぐってのかけあいは、まさしくバディ。

八雲さんを守る会(笑)。

(『新選組!』の)近藤さんを守る土方と沖田(笑)。

ふたり、仲が悪いけれど目指すものは一緒なんです。夫婦ですから、もうちょっとラブラブした場面が見たいです、というリクエストもいただくんですけどね。恋愛を経ずに結婚する、というのもやりたかったことのひとつです。

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読者からの評価はまっぷたつに分かれるという小夏さん。落語という男の世界で葛藤を抱えながら生きる「ザ・父の娘」だ。

ふたりの息子である信ちゃんもかわいいです。ツンデレ「じいじ」の八雲さんも。

時を経て関係性が変わっていく、ということも描きたいことのひとつです。マンガの時間の経過が早いねと言われることもあるんですが、「読んでて楽しくない、移動や苦悩などのまどろっこしい所はカラスカアですっ飛ばして進める」というのも落語の様式美のひとつ。『落語心中』の中で意識してやってみようと思っているところではあります。

そこもオマージュなんですね。あと、最近の展開では萬月アニさん、人気ありそうですね。アニメでは遊佐浩二さんが声を演じています。アニメ放送開始記念イベントの帰り道、第1話で一瞬登場した萬月さんについて熱く語る女子たちに遭遇しましたよ。あの関西弁がいいんだよね?って(笑)。

遊佐さんご自身も、京都のご出身なんですよね。萬月さんはこっそりと人気ありますね。落語シーンもありますし、すくすくとよく育った脇役です(笑)。

おかげで最近では、上方落語も気になっています。

ハメモノ(三味線などの劇中音楽)も入るので、より音楽に近いです。きっとお好きですよ。

東京でも聴けるんですか? 聴きたいなあ!

聴けます、聴けます。上方のみなさんは、東京でも頻繁に落語会を開いてくださってます。私もあの上品で華やかな雰囲気も大好きなんですが、いま上方落語を聴いちゃうと、頭のなかの江戸弁とごちゃまぜになっちゃうので、涙を飲んであまり聞かないようにしているんです(笑)。

ああ、そうですよね。ここまで築き上げた江戸弁ゾーンが崩れてしまう。普通に話していても雲田さん、ちょっと江戸弁のときありますもの(笑)。やっぱり、聴きこまれてるんですねえ。

ネームをやっていると、だんだんすべてが江戸弁になって、日常の考え事まで江戸弁でするようになるんです。ネームの末期には、飼い犬のぱるにも「モタモタしねえでちゃっちゃと歩きゃあがれベラボウメェ」みたいに話しかけています(笑)。連載が終わったら、上方落語もたくさん聴きたい。いまは遊佐さんの声だけですが、あの方もベテラン声優さんなのに、有難いです。

それで言ったらキャストのみなさん、ベテラン中のベテランばっかりですからね! イベントで石田彰さん(八雲役)や山寺宏一さん(助六役)がおしゃってたオーディションの話、ほんとうにびっくりしましたもの。「このクラスの人たちが、試験みたいなことさせられたの!?」って。

そんな中、オーディション無しでするっと入ってきてくださった関智一さん(与太郎役)は、そのまま与太ちゃんみたいですよね。

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冒頭でジャズが鳴って、与太ちゃんが現れて、「おっちゃん、いまかかってんの『死神』だね」。あの入り方、いいですよね。声に惹きこまれます。

アフレコも拝見させていただいて、本当に感激しました。あんなにもベテランのみなさんが、七転八倒しながら演じてくださっている。すごいアニメです。ほんとうに有難いことです。

取材・文・写真 / 高野麻衣

インフォメーション

TVアニメ「昭和元禄落語心中」
MBS、TBS、CBC、BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送中
オフィシャルサイト
【公式twitter】 @rakugoshinju
(c)雲田はるこ・講談社/落語心中協会

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