雲田はるこ「昭和元禄落語心中」特集  vol. 10

Interview

第8回 インタビュー 雲田はるこ Part3

第8回 インタビュー 雲田はるこ Part3

『昭和元禄落語心中』の「音表現」をクローズアップする、原作者・雲田はるこインタビュー。最終回はアフレコ現場のようすや裏話、雲田さんならではのこだわりなど、アニメ制作現場にまつわるお話をご紹介する。そこから浮かび上がってきたのは、落語という話芸、その「音の喜び」をあじわってほしいという強い思いだった。

アニメには、どのあたりから関わられていたんですか?

オーディションの最終選考の音源を聞かせて頂くところからです。石田さんが「死神」、山寺さんが「野ざらし」を演じられてて、とても聴き心地がよかったんです。すぐに落語をお好きなんだなということがわかりました。「この落語、フルで全部聴きたい」と思いながら、3分弱のオーディション音源を何度も聴いて、原稿作業中のBGMにもしていました(笑)。
アニメでは〈八雲と助六篇〉ということで、まずはメインのふたりである菊比古と助六が決まりました。それから、老境の八雲を選ぼうと、それと同じ年頃の声優さんのテープもいただきました。けれど、なんだか菊比古さんの声が変わるのがさみしくなってしまって、私から「石田さんに通してやってもらえませんか」とご提案しました。

そうだったんですね!

rakugo_#3main

10代から70代までひとりの方に演じていただく。それって、前例もなくてとても難しいことだとは思ったんですが、アニメでならできるんじゃないかと思ったんです。石田さんが「やってみます」と言ってくださったときはうれしかったですね。実際、ご本人はもちろん、音響のスタッフさん、プロデューサーさんにいたるまで相当緊張されたみたいです。でも結果、見事に演じてくださった。音響監督の辻谷耕史さんも大絶賛されていました。
皆さんのご英断には感謝しかないです。このアニメを最後まで見て頂いたら、一人の方にやって頂く意味もきっと実感して頂けるんではないかなと思っております。

辻谷さんも「石田彰の新たな代表作」って語っておられましたね。ファンとしても、石田彰そのものみたいな菊比古さんと、孤高の八雲さん、両方堪能できるのは幸せです。実際にアフレコなどを見学されて、気づいたことなどありますか?

また言いますけれども、江戸弁って、音としてほんとうに気持ちいいじゃないですか。

はい。「あたし」とか「あのしと(あの人)」とか、するする耳に入ってきますね。

始まる前は、江戸弁に関しては不安いっぱいでした。台本は標準語に近い形の文章で、発音のことまでは書いていないんですよ。ところが、声優の皆さん、全部ご自分で江戸弁に直してルビを振ってらっしゃるんですよ。表には出されませんが、収録までに予習復習してくださって、「あたし」と一言いうのでも、ちゃんと江戸弁の男性の「あたし」に聞こえるように試行錯誤されてるんです。
アフレコ前にテストを一度するだけで、もう本番。どれだけ大変だったんだろう、と感動しました。絶対にいいかげんな仕事はしないというプロ根性、執念――すごいものを見ました。日本の声優さんの技術は世界最高水準だと、あらためて思いました。

DSC02459

石田彰さんが「死神」全編を収録した際に使用したものとおなじ台本。落語の話し言葉が文章になっているので、かなり新鮮な印象を受ける。

感動的ですね。ほかに印象的だった場面はありますか?

関さんは、現場のノリでチューニングしていくスタイルでした。与太ちゃんは最初、ちょっとかわいいかんじだったんですけれど、音響さんに「もっと元ヤクザのチンピラ感がほしいです」と言われたら「はい」と仕切りなおして、次の瞬間にはお聞きいただいたとおりの「おいちゃん」になっていた。これにも驚きました。
そんな関さんが「出来心」の長尺の収録には苦心されて、終わったあとはまさに「出来心」が終わった後の与太ちゃんみたいな顔でスタッフルームに駆け込んでいらっしゃいました。もうスタッフルームも万雷の拍手(笑)。

うわあ、マンガみたい(笑)。そんな声優さんたちの演技に効果音やBGM、そして画がついて。完成したものを観たとき、いかがでした?

まず、音の再現度に驚きましたね。どれも自然で、嘘くさくなくて、昭和っぽさや、寄席の臨場感もありました。
椎名林檎さんの主題歌もね。林原めぐみさん(みよ吉役)の声の音域やアニメ本編サントラを聞きこんで作曲してくださったそうですね。まさに職人技です。

アニメって、音が心地よくないと繰り返し観ないし、物語に入りこめないことさえある。その点で、『落語心中』ほど音にこだわりぬいたアニメはない気がします。職人技のぶつかりあいを知って、ますます確信しました。

はい。そういうところもじつは、落語に似ていると思っていて。落語は、聴いていて気持ちよくないと、何度も聞きたいものにはなりません。そこがふつうの音読と落語の、いちばんの違いだと思うんです。

つまり落語のほうが、より音楽に近いんですね。

落語家の立川志ら乃師匠にお伺いしたんですが、落語家さんも、一曲の音楽のようにやりなさい、と教えられるんだそうです。歌うように、AメロBメロがあって、サビがあって、というふうにやるとまとまりがよくなるんだそうです。江戸弁も、上方の言葉も、メロディのように聴いても喋っても心地いいですしね。

4_#2main

私は与太ちゃんの贔屓筋になる作家の「センセイ」の、文人風のセリフも好きです。江戸弁の与太ちゃんと会話をしていると、ふたつのリズムがセッションしているみたい。音楽の根源って、リズムだな、と思いますね。
そのセンセイが6巻で「大衆芸能の寿命は50年」という話をしますよね。対して与太ちゃんが「落語ってのは共感の芸だから」と返す。ジャンルが違えど、おなじ古典芸能=クラシック音楽に携わる私としては、大衆に寄りそいながら楽しまれつづける落語のすごみを感じました。

落語がずっとこのままあってほしい、という思いは強いです。高尚になりすぎず、いつも私たちのそばにある芸能。それでも、少しずつ内容は変わっている。30年前の「芝浜」といまの「芝浜」では、ぜんぜん違うと思うんです。三木助師匠や談志師匠が伝説の名演を作り上げて、落語家さんがそれをお手本にするとまた落語が変わって新しい伝説が作られる。噺家さんの「我々は時代とともに変わるべき」という思いを強く感じます。映像まで鮮明に残って行くようになったのは、1970年代辺りからなので、その影響も今後は出て来るんでしょうね。

そういえば今回のアニメ、落語シーンが10分以上あることにびっくりしました。王道音楽ものである『のだめカンタービレ』ですら、ベートーヴェンの交響曲を数分まで削っているのに。

「落語の話芸の楽しみを味わってほしい」というアニメさんの志を感じますね。高座を後ろから横から移してみたり、途中で音楽が入ったり、落語に不慣れな方が見飽きない工夫もしてくださって。私なんかは落語を真正面から固定カメラでずっと観たいと思っちゃったんですけど、それは落語好きの言い分みたいで(笑)。やっぱり耳慣れない方からは好評な落語シーンだったので、すごくよかったと思っています。でも皆さんが見慣れてきたら、今後は固定カメラにも挑戦してみてほしいです(笑)!

かつての落語ドラマ『タイガー&ドラゴン』で落語シーンを劇中劇みたいにしちゃうというのも、なんとか親しんでほしいという工夫だったと思うんですが、やはり落語という「音楽」を楽しみたいわれわれとしては、あのシンプルだけどこだわりまくった演出が最良だったと思います。

落語はストーリーよりも、演者さんの話芸を楽しむものだと思っているので。音の喜びを、アニメで味わってほしいですものね。

やっぱり、それを引き寄せたのは原作の力ですよ。コマのあいだから、音楽が鳴ってますから。

「落語って気持ちいいよ」って、右脳で感じたままに描いてるだけですが、その気持ちよさをメディアを超えて再現していただけてうれしい。アニメを観てくださるみなさんにも、もちろんマンガを読んでくださるみなさんにも、音の喜びを受け取ってほしいです。

取材/文/写真:高野麻衣

インフォメーション

TVアニメ「昭和元禄落語心中」
MBS、TBS、CBC、BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送中
オフィシャルサイト
【公式twitter】 @rakugoshinju
(c)雲田はるこ・講談社/落語心中協会

原作コミックス「昭和元禄落語心中」第1巻~第8巻(講談社刊) 好評発売中
最新第9巻は2016年2月5日(金)発売!

9巻書影
vol.9
vol.10