Interview

井上芳雄、ともさかりえが語る、役者にとって贅沢な環境とは? ジョージ・オーウェル原作舞台『1984』まもなく開演!!

井上芳雄、ともさかりえが語る、役者にとって贅沢な環境とは? ジョージ・オーウェル原作舞台『1984』まもなく開演!!

2017年、アメリカで爆発的な売り上げを記録したジョージ・オーウェルの小説『1984年』。それは日本においても例外ではない。すべてが監視、統制される社会の恐怖を描いたこの物語は、全世界的な共感を持って迎えられている。そして舞台化された同作は、2014年にロンドンにて初演され、その年のイギリスで最も権威のある演劇賞・オリヴィエ賞にノミネートされた。そんな本作の日本語版初演が、新国立劇場の次期演劇芸術監督の小川絵梨子演出のもと、4月12日から新国立劇場にて上演を迎える。
本作で主人公・ウィンストン・スミスを演じる井上芳雄、さらにヒロインのジュリアを演じるともさかりえにインタビュー。彼らが放つ、役者として今作にかける熱意、そしてカンパニー“愛”を言葉の端々から感じて欲しい。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

ジュリアとウィンストンは、理想のカップルかもしれません

原作のジョージ・オーウェルの小説『1984』は、1949年に刊行されて以来、いまだに多くの国で愛されているSF文学の金字塔です。去年はアメリカで爆発的にヒットしましたが、日本でも例外ではありませんね。原作がここまで愛されている理由、実際にお読みになられた感想はいかがでしょう。

井上芳雄 1949年の刊行後、70年近くを経ても、オーウェルの社会にはびこる野蛮な暴力や閉塞感に対抗するほとばしるエネルギーを肌で感じますし、テンションが高くてどんどん読み進められる魅惑的な香りを秘めているからでしょうね。最終的には、すべてのストーリーが繋がると、現代への警句も感じさせますが、エンターテインメント小説としての要素もあるし、決して難しいわけではないのが魅力ですね。

ともさかりえ 心が折れそうになるぐらいの分量でしたが、自分が舞台に出る前提で、この小説はどんな舞台になるんだろうと読み進めました。

それでは、今作の役どころを教えてください。

井上 僕が演じるウィンストンは、僕の年齢と同じ普通の大人です。ですが、『1984』の世界では、すべての人の行動や考えが管理されて束縛されている。そんな監視社会を牛耳るビッグブラザーを頂点とする政党で、人の歴史を消すという仕事をしています。彼が他の登場人物と変わっているとすれば、昔の記憶がかすかに残っているんですね。どうして自分は記憶があって、過去のことを覚えているんだろうと悩みながら生活していきます。

ともさか 一番まっとうですよね。今作のキャラクターの中で人間的です。私はジュリアという女性を演じています。ウィンストンと同じように、自分が置かれている環境に違和感を持って生きている。同じ想いを持っている彼に惹かれていくラブロマンスでもありますね。

すべてが管理されている社会の中でもがき苦しむ人たちの話でもありますが、それぞれの役どころに思うところはありますか。

ともさか ジュリアは、自分が置かれている厳しい環境の中で自分を見失わないために、心を強固にプロテクトしながら社会で強がって生きている。けれど、ウィンストンと出会って、彼女の本心、まさに“素”がポロポロと見えてきます。

井上 絶望的な社会の中でも人間味が溢れているんですよね。

ともさか そこが女性らしいのかなと思いました。外で戦っているときの自分と大切な人にしか見せない本当の自分がいる。男性から見るとどう思います?

井上 ジュリアは、男性から見た理想的な女性の姿かもしれないですね。

ともさか そうなんだ!!

井上 ウィンストンの場合は、ヒーローではないし、人並みはずれた能力があるわけではないんです。そこが『1984』の世界では逆に並はずれたところかもしれないですが、自分に何ができるだろうと煩悶しつつ、世界を変えなきゃと決意するところは男性っぽいですね。ウジウジしているかと思えば、当たって砕けろと一気に行動する。

ともさか たしかに理想の男の子感がある。

井上 ジュリアとウィンストンは、男性と女性、それぞれの理想のカップルかもしれませんね。しかも現実の街で歩いていそうなリアルさもあって、思わず引き込まれる描かれ方ですよね。

演劇的に面白い仕掛けだし、演劇だからこそできる脚本

この舞台は、2014年にロンドンで初演され大ヒット。ロバート・アイクとダンカン・マクミランの脚本は、原作と大きく変わった点がありますか。

井上 これだけの分量の原作をよく脚本にできたという驚きが第一の感想です。戯曲は2050年以降のとても遠い未来から小説『1984』の世界を眺めるという設定です。原作には、物語が終わったあとに、小説で使われた言語を説明する“附録”「ニュースピークの諸原理」があるのですが、それをたくさんの人々が紐解きながら、『1984』の世界とは何かを考えつつストーリーを進めるんです。この戯曲が成功したのには、構成を未来から『1984』が書かれた過去へ遡るようにしたことが大きいと思うんです。未来の様々な人間の、まさに記憶で描かれている世界が板の上で再現されるわけですから、時と場所が曖昧になったり、ありえない方向に飛んだりすることに破綻がない。演劇的に面白い仕掛けだし、演劇だからこそできる脚本だと思うんです。

ともさか 何度も読み解いていく必要はありますが、自然と咀嚼できる。無理やり深読みする必要もないのは、実際はとてもシンプルなことが書かれているからですね。

井上 演出の小川絵梨子さんがすごいなと思います。読み込みが足りなくて僕らが解釈に戸惑っていると、「ここはこうなんです」、「ここは違うんです」と、適切にシーンを分析して演出してくれる。

ともさか よくわからないこと、腑に落ちないことをそのままにはしたくないという小川さんの信念のもと、立ち稽古まで時間がかかりましたね。

稽古の印象はいかがですか。

ともさか 立ち稽古に入るまでに長い時間ディスカッションをして、台本の言葉の意味をカンパニーで共有する。そこから『1984』という世界観をみんなで理解して、同じ方向に向かって立ち稽古をしていく。とても贅沢な環境ですね。

井上 そこは小川さんが本当に正直な方だからですね。世代も一緒なのもあって、稽古場では思ったことを正直にお伝えできる雰囲気で、「こっちはこうだ」、「そっちはそうだ」とディスカッションをして正解を導き出す。すごく健康的な稽古場だよね。

ともさか そうですね。

井上 どういう方向に行きたいかわからないときは「わからない」と小川さんも正直に言う。そうするとみんなでディスカッションをして答えを導き出す。新しい細胞を使って稽古をしている感じがして刺激的でゾワゾワします。

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