Interview

巨匠・植松伸夫はなぜ、今回リリースするCDの選曲を『VII』に絞ったのか

巨匠・植松伸夫はなぜ、今回リリースするCDの選曲を『VII』に絞ったのか

FINAL FANTASYシリーズの楽曲を “吹奏楽”で演奏するオフィシャル企画『BRA★BRA FINAL FANTASY』。この最新作『BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra』が2018年4月4日(水)CDリリース。4月14日(土)のオーチャードホールを皮切りに、9都市+台湾を巡る全国ツアーもスタートする。
『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽の生みの親であり、本企画の制作総指揮も務める植松伸夫氏に今回のアルバム、そしてツアーの話を伺った。

取材・文 / 斉藤健二 撮影 / 河邉 有実莉(WATAROCK)


『VII』に絞って選曲した意図

今回の『BRA★BRA FINAL FANTASY』は、シリーズの中から『VII』に絞った選曲となっていますが、なにかご意図はあるんでしょうか?

植松 それはよく訊かれるんですが、特にないんです。これまで3回やってきて、4回同じことをやってもな……ということがまずありました。もうひとつは、『VII』って国内だけでなく国外でもすごく人気があるんですよ。どのタイトルも人気がありますが、特に『VI』『VII』『VIII』あたりって『VII』を頂点にすごく人気があるタイトルで。内輪では1つのタイトルに絞ってCDやコンサートを作ることが可能なのではないかという話はもう何年も前からしていたんですが、BRA★BRAも4回目だし、ここらで一発やってみようかと。で、そうなるとやはり『VII』なのかなと。

なるほど。1つのタイトルに絞ると選曲の幅も広がりそうですが、いかがでしたか。

植松 広がりそうで、狭まりそうで、難しい(笑)。例えばこれまでのFFシリーズの中から選曲して一本コンサートを作りますとなった場合、曲調で曲順を考えればいいじゃないですか。「この曲は派手で明るいから1曲目にしよう」とか、「次はしんみりいこう」とか曲調で選べるんですけど、1つのタイトルで選曲しちゃうと、どうしてもある程度のゲームの進行に沿ったセットリストにしていかないと、例えばオープニングが第一部の最後に来る訳にはいかないじゃないですか(笑)。そういう意味では作りにくい部分はありました。

なるほど。今度行われるコンサートでは、収録される楽曲を全て演奏されますか?

植松 やります、やります。

その他の曲も……。

植松 やります。「エアリスのテーマ」とか「FFVII バトルメドレー」とか、今回の収録曲に何曲か付け加えてやります。

今回『VII』から選曲した中で、アレンジが面白い曲やこの曲が聴きどころ、という曲はありますか?

植松 「牧場の少年」は、チューバとユーフォニウムに加えてピッコロという編成で面白いですよ。中音域を担当する楽器がない編成なんですが、アレンジャーの小林さんからアレンジにするときに、「でっかい象の上に小鳥がいると思ってください」と教えてもらって。そういうイメージで作ったというのがすごく理解できる可愛らしいアレンジになっています。中々ないですよ、チューバとユーフォニウムとピッコロのための曲って。

確かに。チューバとユーフォニウムのアンサンブルはありますが、そこにピッコロが入るのは面白いです。曲を聴いた時に面白いアイディアだし、吹奏楽ならではのアプローチで良いなと思いました。この曲が最後なのも意外な感じでしたが。

植松 そうそう「片翼の天使」で終わってもね……またかよって(笑)。それはあざとく意図した感じですかね。

なるほど。

植松 シリアスに「片翼」をやって最後にちょっとおまけというか、かわいらしく短い曲をちょこっとやって。

他の曲で、原曲からアレンジを加えた曲ってありますか?

植松 うーん。改めてみると、ガラっと変えた曲は意外と少ないかもしれないです。

元々、吹奏楽アレンジに合うという所も意識して選曲されましたか?

植松 これまであまりアレンジされてこなかった曲というのは意識しました。例えば「ティファのテーマ」とか「ケット・シーのテーマ」とか。「ルーファウス歓迎式典」もオフィシャルではやってないし、「忍びの末裔」も「常に闘う者達(神羅カンパニー~神羅軍総攻撃~ウェポン襲来)」辺りも触ってなかった曲なので。そういう意味でアレンジされた時に新鮮味を感じる曲と、もう一つは「神の誕生」や「完全なるジェノヴァ」みたいなバトル曲は吹奏楽のパリパリのPOPな音が効果的じゃないかと思って選びました。

曲を聴いた時は「ケット・シー」などははじめから吹奏楽のために書かれたんじゃないか? と思うくらい馴染んでいました。

植松 コミカルなJAZZみたいな感じで。

はい。とてもよかったです。

指揮者や楽団とは「楽しみ合う関係」

これまで『BRA★BRA』ではCD制作やツアーを3年やってこられていて、指揮者の栗田さんや楽団のシエナさんとの関係も作られてきていると思います。それぞれどのような印象をお持ちでしょうか?

植松 栗田さんにしてもシエナさんにしても、同じ良い所があって、芯がまっすぐです。非常に音楽に対して真面目なんです。でもその周りについている肉がものすごく柔らかいんです。だから大概どんなことにも対応できる。シリアスなことにも、ゆるゆるのことにも対応できるし、大酒飲みにも二日酔いにも対応できる(笑)。どんな状況にも合わせていける柔らかさと絶対にブレない一本の芯を併せ持っているということに、すごくプロフェッショナルなものを感じます。周りからは「こいつらこんな楽しいことばかりやっていいな」って思われているかもしれないけど、一本芯が通った真面目さがないと3年は続けられない。一緒にやらせてもらってすごく光栄です。指揮者の栗田さんはクラシック音楽を振っている方ですが、クラシックだけでなく他の音楽にも興味をもって積極的に理解しようと努めてくれて、こんなのはどうだろうとアイディアを出してくれる。すごくラッキーなことです。「ガチガチのクラシック音楽をずっとやってきました」という指揮者さんだったら、なかなかこんな弾けたものは作れないでしょうし。

お互い楽しんでやられているんですね。

植松 そうですね。僕はやっていて楽しいです。

コンサートでも最後にお客さんと一緒に演奏するじゃないですか。そういう企画も、栗田さんもシエナさんも仕事だからというより、自分たちから楽しんでやっている感じがします。

植松 皆さんも楽しみたいんですよ。カツラつけて、鼻メガネつけて、やりたいんですよ(笑)。

その自然な感じがいいですね。

植松 そういうのを「やってくれ」って言ってやるんじゃなくて、「こうしたら面白いんじゃない?」って皆さんの方から言ってくださるっていうのがすごく楽しいです。

ツアーやレコーディングで面白いこととか、ハプニング的なことってありましたか?

植松 ハプニング……コンサートは台本があって、ツアーが始まった頃は台本に沿ってやってるんですが、リアルタイムで変えていきます。

ツアー中に?

植松 はい。シエナさんも演出に関しては誰にも言わず勝手に変えてきたりとか(笑)。

あとはアンコールで皆さんがステージに楽器をもって上がって来てくださるんですが、多すぎてね……。これ以上乗ると床が抜けるからやめてくれと会場側から言われたり、夜は指揮者の栗田さん、シエナの楽団さん、僕とかで一緒にカラオケいったり。僕は最近1時くらいには帰るんですが(笑)。楽しいことがみんな好きで、人に強制はしないし、迷惑はかけないし、勝手に楽しいことをやって生きている人達で、見ていてうらやましい。この人たちってホントに音楽と酒が好きなんだなと(笑)。楽しむことが好きな人たちなんだなあと思うとともに、僕ももっと楽しもうと思いますね。

ツアーでも一緒に移動されたりするんですか?

植松 するする。東北ツアーのバスなんかだと、3時間くらい缶ビール飲みながら隣の県に移動とか。そういうことやってると、作曲家と指揮者と演者、ではなくて友達になっちゃいますよ。すごく楽ですよね。仕事だけの関係だと言いにくいことも、友達になっちゃうと「あそここうしたいんだけどな~」とか、お互いに話しやすい。そういう関係を築き上げられたのが嬉しいですよね。

どうでもいい会話からアイディアが生まれたりとか。

植松 そうそう。真剣に1時間のミーティングをしても、面白いアイディアなんか出ないですよ。現場でね、「あれってこうしたほうがいいんじゃない?」と言うほうが面白いよね。指揮者や吹奏楽の演奏者は普段譜面を見て演奏するけど、実際は結構アドリブで動いているよね(笑)。

ツアーが4月から始まりますが、意気込みなどを聞かせていただければと思います。

植松 まず、一つのシリーズに絞ったコンサートが初の試みなんで、これを好意的に受け止められるのか、前のベスト的な選曲の方がいいよって言われるのか不安なところもありますが、こればっかりはやってみないとわからないので、ウケなければまたベストに戻すかもしれません(笑)。『BRA★BRA』コンサートは、バーっと思い切ってとりあえずやっちゃうんです。皆の面白いアイディアを集めてやってみる。やってダメなら次の公演で変えてみる。大阪ではこうしようとか、名古屋ではこうしようとか、来年のコンサートではこうやろうとか……それの繰り返しですよ。今でも完成形は見えていないんです(笑)。

楽しみにしています。

おわりに

最後に『BRA★BRA FINAL FANTASY VII BRASS de BRAVO with Siena Wind Orchestra』を聴いてくれる方、コンサートに来てくれる方へメッセージをお願いします。

植松 今回は『FF VII』縛りで選曲しております。曲を聴いてストーリーを思いだすもよし、原曲との違いを楽しむもよし、皆様それぞれの感じ方で楽しんでいただければと思います。そして、コンサートの方は音源と違うアレンジが施された物もありますので、それはコンサートの方でのお楽しみとなります。会場でお待ちしております。

植松さん、ありがとうございました。

植松伸夫

作曲家 / 株式会社ドッグイヤー・レコーズ代表 / 有限会社スマイルプリーズ代表
これまでに全世界で1億本以上を売り上げた、ロールプレイングゲームの金字塔『ファイナルファンタジー』シリーズをはじめ数多くのゲーム音楽を手掛ける。
その功績はゲーム音楽に留まらず、フェイ・ウォンに楽曲提供をした『ファイナルファンタジー VIII』のテーマ曲「Eyes On Me」は1999年度 第14回日本ゴールドディスク大賞においてゲーム音楽としては初の快挙となる「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞。今や女性シンガーとして絶大な人気を誇る アンジェラ・アキにもシングル曲「Kiss Me Goodbye」を提供している。
海外での評判も高まりを見せており、2001年5月アメリカ「Time」誌の”Time 100: The Next Wave – Music”にて音楽における「革新者」の一人として紹介され、2007年7月には「Newsweek」誌にて”世界が尊敬する日本人100人”の一人に選出される。2013年には、イギリスのクラシック専門放送局”Classic FM”がリスナーの投票により行うランキング「Hall of Fame(栄誉の殿堂)」において「ファイナルファンタジー」のサウンドトラックで第3位を獲得した。近年では日本国内をはじめ世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド”EARTHBOUND PAPAS”によるワールドツアーを開催し好評を博す。

植松伸夫オフィシャルサイト
http://www.dogearrecords.com/

公式コンサートBRA★BRA FINAL FANTASY VII ツアー情報
http://www.square-enix.co.jp/music/sem/page/brabraff/tour/2018/information/

BRA★BRA FINAL FANTASYとは?
2015 年より開催している、FINALFANTASYシリーズの楽曲を“吹奏楽”で演奏するオフィシャルコンサートツアー。作曲家植松伸夫を制作総指揮に迎え、指揮は栗田博文、演奏は日本を代表するプロの吹奏楽団シエナ・ウインド・オーケストラ。
ファイナルファンタジーの楽曲を吹奏楽演奏で聴けるだけではなく、来場者とメンバーが一緒に演奏できる参加型企画が盛り沢山!笑い、手拍子、「ブラボー」など自由に楽しんでいただける新たなスタイルのゲーム音楽コンサートです。