Interview

4人のジャンキーたちの不毛な夢。谷賢一と細田善彦が目指す『High Life/ハイ・ライフ』の世界──そこは地獄か!? 天国か!?

4人のジャンキーたちの不毛な夢。谷賢一と細田善彦が目指す『High Life/ハイ・ライフ』の世界──そこは地獄か!? 天国か!?

カナダの劇作家、リー・マクドゥーガルの戯曲処女作『High Life/ハイ・ライフ』。欧米はもとより、日本国内でも数多く上演されている人気作が、異色の音楽劇『三文オペラ』で注目を浴びた谷 賢一の演出で上演される。4人のドラッグ中毒の男たちが大金欲しさに渋々手を組む破滅的な悲喜劇。その中で、女性関係で追い込まれている最年少のビリーを演じるのは、初主演映画『武蔵–むさし-』の公開が控える細田善彦。反社会的で過激なジャンキーしか出てこない舞台にどう挑むのか。谷と細田、2人が目指すものとは──。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 冨田望

救われなさみたいなものの凄まじさに驚きを感じた

国内外で数多く上演されている原作の戯曲を読んで、どんなところに面白さを感じました?

谷 賢一 最初に本を読んだ印象としては、本当に不毛な話だなと思いました。まったく望みのない人生を送っている人たちが約2時間という劇世界を生きるわけですが、結局、また同じ地獄に落ちていくっていう、救われなさみたいなものの凄まじさに驚きを感じましたね。ドラッグ中毒者たちの話ですけど、僕もドラック中毒みたいなものでして……私の場合は酒とタバコですけど、彼らのことをまったく笑うことができないジャンキーでございます故、“依存”というものが人間を粉々に破壊していくということは他人事じゃないな、と思うのです。私も、年々、酒量が増えて、どんどん脳細胞が死んでいってる感じを日々痛感しておりまして……(苦笑)。

細田善彦 あはは!

 先輩の俳優さんからも「谷、お前、その飲み方をしていると、60を超えたら大変なことになるぞ」と。「有能だった劇作家、演出家が、酒でダメになっていった例を俺はたくさん見ている」という風にアドバイスをいただきまして。私もそういう廃人の地獄道を毎日、一歩一歩突き進んでいるんだなと思うと、将来が怖くなります(笑)。なので、彼らの気持ちは痛いほどわかるし、日本でも薬物依存や薬物所持の報道は定期的にありますから、決して遠い世界の話じゃないなと思いました。

細田 男4人の設定の話で、そこに薬物と銀行強盗という大きな二つの要素が入ってきて。まず、薬物の摂取をどう描くんだろうなっていう単純な興味がありました。今や日本ではテレビだと表現に制限もあって扱うには難しい題材ですし、いろいろな規制があるなかで、舞台ではいろいろな縛りなくできるのかもしれないっていう楽しみが大きかったですね。

谷 賢一

谷さんは細田さんにどんな印象を持っていますか? 細田さんをビリー役にキャスティングした理由をお聞かせください。

 直接お会いしないタイミングで決めているので、映像だったり、人の話だったりっていうところでの印象のお話になってしまうんですけれど、“抜けるような青い空”とか“透き通るような肌”っていう表現があるじゃないですか? そういう方だなって。シミひとつないというか。なかなか、邪心のない表情とか笑顔、雰囲気を持っている人っていうのは少ないんですよね。僕は邪心の塊なので、そういう人を見ると、内心は殺してやりたいと思ってますけど(笑)、ビリーという役は、銀行に押し入ってもみんながにっこり手を振ってしまうような愛される天使のような容貌、雰囲気を持った男であるということで、顔や声から受ける、透き通るような印象がありました。

細田 それ、何度か言っていただいているんですけど、嬉しいですよね。そんなこと普段言われないですから(笑)。

 僕も男性に対して言ったことはないですね(笑)。

細田善彦

細田 20代の頃はどこか突っ張っていたのか、あんまり素直に笑えなかったように思うんですけど、最近、素直に笑えるようになったんだなっていう発見が自分の中にもあって。20代の頃は斜めがかっこいいとか、ダークで荒れてるほうがいいとか思い描いて、ちょっと荒らくれてみようというふうに、ごっこ遊びのように試している時期があって。自分なりにいろんな時期を踏んできて、最近は全部を排除して、「まんまでいいや!」みたいな心境になっているんです。好きなことを好きなようにやろうっていうふうな心変わりというか、そういう心情の変化があるなかで「純粋な感じだよね」って言っていただくと、すごく嬉しいですね。

 荒れてたの? それでナンパばっかりやってたんだ(笑)。

細田 あはは! いや、ナンパというか、話しかけたいなって思った人が目の前にいたら、その瞬間にしかその人と出会えないかもしれないので、話しかけますよね?

 かけません!(苦笑)

細田 え!?  誰かと仲良くなりたいなと思ったら自分から行かないと。

 いや、知らない人にはまず話しかけないよ。でも、さっき、ナンパのテクニックを教えてもらったので、これからは僕も使っていこうと思います(笑)。

(笑)細田さんは谷さんにどんな印象を持っていました?

細田 舞台関係の方にお話を聞くと、やっぱり、お酒の話が多くて(笑)。「いったいどれだけ飲むんだろう」って思ってたんですけど、初めてお会いしたときに、谷さんの大きさにびっくりして。身長が186㎝あるんですけど、そこで「これは飲むわ!」と納得したんですよね。今日、この取材のあとに懇親会があるので、どれだけ飲まれるのかを楽しみにしています。

 今日は俺、烏龍茶を飲んでるかもしれないよ。俺、あんまり人と飲まないんだよね。いつもひとりで、最近は赤提灯でひたすら飲むっていう感じですから。

細田 そうなんですか!?  ペットボトルの焼酎やウイスキーを一晩で1〜2本空けられるって聞いていたので、どんなペースで飲むのか見たかったんですが(笑)。

 今日はうすーいウーロンハイを頼もうと思ってます。人と飲むときは深酒はしないって決めているので。これまで散々地雷を踏んで、間違いを犯し続けてきましたから(笑)。

では、本作はアルコール依存症とナンパ師が作る舞台だって言っていいですか?(笑)

 あはは! 大丈夫です! 僕、アルコール依存症だっていう自覚ありますから、アル中とナンパ師でやってます!(笑)

細田 あはは! 今の話だけ聞くと、たしかにぴったりっていう感じですよね。

(笑)男4人だけの舞台ですが、ほかのキャストの方はどんな印象ですか? まず、保護観察中で銀行強盗の計画を立てる中心人物、ディック 役の古河耕史さんは?

 ほかの皆さんは初めてのお手合わせなんですけど、古河くんだけ何回か一緒にやったことがあって。テクニックも非常にあるし、同時に、感覚的なところで芝居を腑に落としていく人なので、すごく信頼しております。野球で言ったら、2番ショートに置きたい感じです。

細田 あ〜、流れを変える感じですね。

 そう。ちゃんと流れを作ってくれる。

細田 時にはバントで。

 バントもするし、1番が凡退したときはちゃんと出塁もするし。守りの要にもなる人ですね。

細田 なるほど。たしかに、今回はディックが4人のリーダーという役まわりなんですけど、僕が稽古場でひとりでいると、「俺はこう思うんだけど、そのときのビリーはどうかな?」とかいろいろと気にかけて話してくださって。稽古場のリーダーとしてもいてくれているので、とても真面目な方だと思いますね。

 演劇マシーンみたいな人ですから。

では、古河さんが2番だとすると、出所したばかりで喧嘩っ早いバグ役の伊藤祐輝さんは?

 4番じゃないですかね。

細田 (取材)直前にやっていたお芝居を見て「目の前にゴリラが出てきた!」って思いました(笑)。椅子をかき分けて歩いている姿が、ただのゴリラにしか見えなくて。こんなすごい人と舞台に立ってるんだっていう感覚ですね(笑)。

 街を歩いていても「この人と目を合わせちゃいけない、見ちゃいけないな」っていう危なさを持った人っているじゃないですか? そういう人です(笑)。バグは大変な難役だと思いますね。最も粗暴で、かつ、最もドラッグに心を蝕まれている人間としての説得力を──もちろん自分に対して持つことは難しいと思うんですけど、良い意味での自己暗示力がある人だと思うので、迷いなく振り切った芝居をするのがすごいと思う。と、見えて、繊細かつ几帳面に分析しながらお芝居を考えているところもあるので、素晴らしい役者だと思いますね。

そして、腎臓がひとつしかないドニー役のROLLYさんは?

 応援団長とかにします?

あはは。ベンチにも入ってない!?

 入ってない(笑)。細田くんは8番、キャッチャーかな。

細田 逆に渋いところを。ROLLYさんは面白いですよね。

 そうだね。僕が演出をつけるときにわりと気をつけていることがあって。指示と指定が増えていけばいくほど、自分のイメージには近づくんですけど、逆に、その人本来の持ち味を殺してしまう場合もあるんです。ただ、放し飼いにしておいたほうが面白いタイプの俳優さんって、今までにも何人かいらっしゃったんですけど、そういう方って意外と「決めて欲しい」とか「もっとダメ出しして欲しい」とかこちらにいろいろ聞いてくる方が多いんです。だけど、あえて放し飼いにしておいたほうが面白いところがたくさんあって。ROLLYさんは非常にアイデアマンでもあるし、戯曲の中での自分の立ち位置をちゃんと理解したうえで、自分で自分をちゃんと演出している感じがするので、もう、ほったらかしにしとこうと思っています。

細田 今回、男しかいない空間なので、あの髪型や雰囲気が、ふと女性に見えてしまう瞬間があるんです(笑)。普段のROLLYさんは、とにかく話題を提供してくださる方で、それをいつもゲラゲラ笑いながら聞いていますね。

 話題の引き出しが多すぎるので、僕が十喋ると、そのあと、ROLLYさんが九喋るんですよ。「ごめんなさい、これ関係ない話なんですけど、思い出してしまったんで、言っていいですか?」ってワーッと喋り出して。しかも、実際にそれが関係ない話だったりするんです(笑)。話術が巧みなので面白がって聞いているんですけど、しばらくして「いったい、俺たちは今、何のためにこの話を聞いてるんだっけ?」っていう時間がありますね。

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