横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 2

Column

男も女も骨抜きにする天下無双のオリジナル演劇

男も女も骨抜きにする天下無双のオリジナル演劇
今月の1本『龍よ、狼と踊れ~Dragon,Dance with Wolves~』~草莽の死士~

ライター・横川良明がふれた作品の中から、その月のベストオブベストをチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は、『龍よ、狼と踊れ~Dragon,Dance with Wolves~』~草莽の死士~をピックアップ。新撰組VS伝説の剣豪の魂震える戦いを語り尽くします。

新撰組VS伝説の剣豪。胸焦がす名キャラが、動乱の京都に集結!

時は、幕末。黒船来航を火種に開国の道へひた走る幕府に対し、攘夷派の長州藩は反発。倒幕を旗印に、次々とクーデーターを起こす中、京の治安を守るべく誕生したのが、会津 松平容保公御預 京都守護職・新撰組だ。浅葱色のだんだら羽織をはためかせ、男たちは倒幕浪士と戦いを繰り広げていた。

しかし、そんな最強の剣客集団の前に、思いがけぬ強敵が現れる――佐々木小次郎(鐘ヶ江 洸)ら遥か昔に死んだはずの伝説の剣豪たちだ。権力を手中におさめんと画策する岩倉具視(ウチクリ内倉)が、武器商人・トーマスグラバー(鈴木ハルニ)と手を組み、イギリスの科学技術と陰陽師の呪術を融合させた禁断の転生術を用いて、古の剣豪たちを甦らせたのだった。

昨年の第1章では、イギリスの侵略から日本を救うべく清国からやってきた姫君・麗貴人を守るために、侍を夢見る少年・ハジメ(赤澤遼太郎)と新撰組が奔走する姿が描かれた。麗貴人は天子と対面を果たし、公武合体を進言。国を守りたいという麗貴人の勇気と聡明さが認められ、一時はその提案が受け入れられたかのように見えた。しかし、岩倉の陰謀に嵌められ、麗貴人は捕われの身に。さらに、仲間と慕っていたはずの坂本龍馬(萩野 崇)の裏切りによって、麗貴人はハジメの目の前で命を落とす――。

愛する人を守れなかった失意と無力感、そして龍馬への憎しみから、ハジメは打倒・龍馬を誓い、新撰組に加入。三番隊組長を任される。さらに、いよいよ長州藩士・高杉晋作(鎌苅健太)らが登場し、新撰組VS長州藩の構図が本格化。前作以上の壮絶な戦いの火蓋が切って落とされるのが、この第2章だ。

少年漫画やRPG、格闘ゲームなど、日本には誇るべきカルチャーがある。これまでも数々の名コンテンツから名バトルと名キャラクターが生まれ、僕たちの血肉になっている。そんなDNAを有している人が本作を観たら、もう“性癖”を刺激されるところだらけ。

まずは西村キヌのキャラクターデザインが“性癖”。特に新撰組の前に立ちはだかる敵陣がカブリなしの個性派揃い。たとえば栗色の髪に真紅の軍服が映える高杉は、侍の時代に終止符を打つように古式銃をぶっ放す。金髪頭がトレードマークの宮部鼎蔵(村田 恒)は、ビジュアルもさることながら、常に背中を丸め、獲物を駆るように低く身を屈めて襲いかかる戦闘法がワイルド。そのくせ、吉田稔麿(横田龍儀)には忠犬ハチ公のように懐いているのだから、もういとしさしかない。

宮本武蔵(山口大地)に至っては筋肉が最強の衣裳。彫刻よりも美しいシックスパックを持つ男・山口大地が天下無双を肉体で表現。もうその存在が、生きる鬼神がごとしだ。謎の女(大野未来)なんて、役どころから口調から衣裳まで完璧。鎖帷子を彷彿とさせる網衣裳にガーターベルトはちょっとエロくて、こういう戦闘モノの女子キャラには欠かせない存在。もうひとりの女性キャラであるフランス人剣士・フラン(前島亜美)のイケメンっぷりとの対比もいい。

とにもかくにも、これがゲームなら「コイツでプレイしたい!」と取り合いになるキャラが勢揃い。「コイツは俊敏性はあるけど、打撃力が低い」「コイツは二段攻撃が武器」など頭の中で勝手に設定を考えたくなるほど魅力に溢れている。そんな猛者たちが舞台上を所狭しと入り乱れるのだから、その光景は壮観の一言。

その刀を振るうとき、男たちは「人を斬る」ことの意味を知る

ストーリー展開も“性癖”がぎっしり。主に今回特筆しておきたいポイントは3つ。

1つは、少年心をくすぐる台詞群。ストレートで、ちょっとキザでカッコいい。松崎史也の書く台詞は、子どもの頃、ひとり空想の世界で諳んじていた憧れのバトル漫画そのもの。それを役者たちが気持ち良く決めてくれるので、アドレナリンが大放出する。

2つめは、「死体を使って転生する」という設定の巧さだ。前回は剣豪を転生させるという点が最大の特色だったが、今回はその“器”となるのが誰かという点にドラマがある。ネタバレのため詳細は伏せるが、新撰組にとっても、ハジメにとっても、簡単には受け入れられない相手が目の前に現れる。どれだけ中身が別人だとわかっていても、その肉体が本人である限り、そう容易く刀を振るうことはできない。その葛藤とジレンマが男たちのドラマを一層熱く盛り上げる。

続いて、3つめは、史実とフィクションのバランス感覚だ。史実の余白を大胆に利用した展開に「そう来たか」と思わず膝を打ちたくなる。今回で言えば、高杉と赤祢武人(安達勇人)の関係はその好例。高杉から固い信頼を寄せられるも、やがて袂を分かつこととなった赤祢の顛末に独自の解釈を膨らませることで、トリッキーながらも胸高鳴る次章への“引き”をつくった。前回の「日本を今一度せんたくいたし申候」や、今回の「おもしろきこともなき世をおもしろく」など、歴史に残る名台詞を「ここで使うか」という遊び心にも肌が粟立つ。

忠勇義烈の俳優たちが己の“誠”を懸けて舞台に立つ

さらに最大の“性癖”は、こうした世界観を違和感なく、むしろ最大級のカッコよさで体現する俳優たち。「1年分の成長を見せたい」という意気込みでハジメ役を演じた赤澤遼太郎は、序盤は前回とは完全に別人。意図的に低く抑えた声のトーンに、常に睨みを効かせた眼差し。1年前に見せたはちきれんばかりの笑顔はどこにも見られない。

だが、その中でもハジメはハジメなのだと感じさせてくれた場面が2つ。1つは、久しぶりに龍馬と再会する場面だ。憎き仇敵を前に、いきり立って飛びかかるのではなく、むしろ実力差を痛感し、なす術を失う姿に、完全な復讐鬼になったわけではない、人間・ハジメを見た。

そしてもう1つが、土方歳三(谷口賢志)に喰ってかかる場面だ。全身の感情を放出するようにして叫ぶハジメに、この前のめり感こそがハジメなのだと、純粋な正義漢だった日の残像がよぎる。いかにも少年漫画の主人公らしい正統派のビジュアルと、キレのいい台詞回しが、赤澤の武器。曲者揃いのキャラクターの中で埋もれることなく、センターとしての輝きを放った。

そんな若侍を圧倒的な存在感で迎え撃つのが、土方だ。この貫禄と迫力は、谷口賢志の真骨頂。若手俳優を中心とした舞台で、これだけ華と腕を兼ね備えた中堅層は稀少だ。特に今回は、鬼の副長の人間的な部分にもスポットが当てられる。彼が“鬼”でいられたのは、自分を信頼し、足りない部分を補ってくれる友がいたから。苦しみを背負っているのは、ハジメだけじゃない。この“鬼”の背中にも、癒えない傷がいくつも刻みこまれているのだ。終盤の、ハジメと土方によるタッグ戦は、共に戦いながら、新撰組の“誠”を、土方からハジメへと説いているようで、男の絆に熱く爽快な感動が沸き上がる。

力演の多い座組みの中で、ひとり軽やかな演技で芝居にアクセントをつくった鎌苅健太は心憎く、石川五右衛門(村田洋二郎)の口上はまさに独擅場。沖田総司(大平峻也)のピュアに強さを求めるキャラクターは彼の十八番だし、今回出番がないにもかかわらず、いたるところで原田左之助の存在を感じさせてくれる藤堂平助(川隅美慎)、永倉新八(澤田拓郎)の友情は目尻が垂れる微笑ましさ。推しを挙げればキリがなく、「いいから観て!!」とDVDを差し出したくなる。

これもひとえに座組みが愛と誇りをもって作品づくりに取り組んでいるからだろう。新撰組の隊士たちが、正義も悪も混濁する時代で、己の“誠”だけを信じて生き抜いたように、キャスト・スタッフ一同が自らの“誠”を胸に、この舞台にすべてを懸けた。その生き様に観る者の魂は揺さぶられるのだ。

近年、こうした若手俳優を中心とした舞台にもっと男性客を集めたいという声は高まっている。本作はもちろん女性も十分に楽しめるが、漫画やゲームといったカルチャーに慣れ親しんだ男性たちなら骨抜きにされること間違いない。だからこそ、もっと多くの男性に、こんな面白い演劇があるのだということを届けたい一心で原稿を書いた。

予想外の結末で締め括った本作。次章の発表を今から心待ちにしたい。

舞台『「龍よ、狼と踊れ ~Dragon,Dance with Wolves~」 ~草莽の死士~』

2018年3月21日(水)~4月1日(日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

ハジメ 役:赤澤遼太郎
土方歳三 役:谷口賢志
高杉晋作 役:鎌苅健太
宮本武蔵 役:山口大地
沖田総司 役:大平峻也
吉田稔麿 役:横田龍儀
赤袮武人 役:安達勇人
宮部鼎蔵 役:村田 恒
女 役:大野未来
柳生十兵衛 役:水沼天孝
可児才蔵 役:原 勇弥
塚原卜伝 役:長瀬貴博
フラン 役:前島亜美
近藤勇 役:加藤靖久
山南敬介 役:松崎史也
藤堂平助 役:川隅美慎
永倉新八 役:澤田拓郎
葛木伊織 役:田口 涼
石川五右衛門 役:村田洋二郎
佐々木小次郎 役:鐘ヶ江 洸
岩倉具視 役:ウチクリ内倉
トーマスグラバー 役:鈴木ハルニ
坂本龍馬 役:萩野 崇

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