佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 39

Column

生命体が光を放っているかのように思えたフラメンコギターの響き

生命体が光を放っているかのように思えたフラメンコギターの響き

9月に来日公演を行う予定が発表になったフラメンコギターの名手、カニサレスが4月11日に発売したばかりの最新アルバム『洞窟の神話』を聴いた。
これは想像した通りに、いや、想像を超える極上の作品だった。

その柔らかで自然な音が奏でる音楽はあたかも、生命体が光を放っているかのように思えた。
そして神秘的なギターの響きは伝統という大河を流れて行きながらも、1曲ごとに異なる新しい景色を次々に見せてくれた。
豊かで深い表現から生まれてくる音楽は、人間にとってかけがえのない宝ものであることを、あらためて知らされる思いがした。

CDにはカニサレス本人による解説が添えられており、フラメンコは彼にとって幼少時代からごく身近に存在しる、当たり前のものだったということが書かれている。

私の両親はフラメンコを歌っていたし、兄はフラメンコギターを弾いていました。
私にとってフラメンコは普段の生活の中に存在する、ごく自然なものでした。
それは、息をするのと同じくらいに無意識的に、そして家族や社会の伝統とともに常にそこにありました。
 

日本にも雅楽から和太鼓にいたるまで、伝統の音楽というものはいくつもあるし、伝統の楽器もまたたくさん存在している。
だが多くの人にとって、それらは日常生活に溶け込んでいるといえるほどには、身近な存在ではないように思う。
それというのも日本の大衆音楽の基盤にあるのが、明治以降に西洋から持ち込まれた外来の音楽だからだろう。

カニサレスは古代ギリシャの哲学者、プラトンの“洞窟の比喩”になぞらえて、フラメンコを洞窟の中の「影」としてとらえている。
そしてフラメンコ以外の音楽と、そこから得られる知識のことを、洞窟の外の「光」だとしてこう述べている。

フラメンコの音楽を始めてから数年後に、音楽院で音楽の基礎を学ぶことによって、先の比喩でいう太陽の光の言語を手に入れることができました。
この新たな音楽的知識を身につけることにより、新しい音楽の世界を旅することができるようになりました。
 

そんな新しい音楽の世界から言語で学んだことが、カニサリスの音楽的な視野を広げてくれたことはいうまでもない。

昭和の時代に海外から入ってきた主として西洋の音楽は、日本のポピュラー・ミュージック(大衆音楽)においては洞窟の外の光であった。
そこから発展したのが日本の思考や日本語による情念の表現と、世界中の音楽が結びついて生まれたポピュラー・ソング、すなわち昭和の時代における歌謡曲だったといえる。

ジャズやカントリー、ロカビリー、ルンバ、タンゴ、シャンソン、スカ、レゲエ、ハワイアン、そしてフラメンコなど多種多様な外来の音楽が入ってきて、日本の歌謡曲は一気に活気づいていった。
にもかかわらず、現在の日本で音楽が今ひとつ活気づいていないと思われるのは、そうした多様化から生じる面白さが不足しているからのような気がしてならない。

アルバムを聴いてくれる人のために、カニサリスは自分の思いをこのように記している。

このアルバムでは、光と影のふたつの世界のバランスを保つことをひとつの目標としました。
クラシック音楽やフラメンコ音楽、そしてその他の多彩なジャンルの音楽に精通する人たちが、この作品を楽しんでくださることを願ってやみません。
 

こうした音楽に親しむことによって、光と影のふたつの世界のバランスを保ちながら、もっと楽しめる日本の新たな歌謡曲が生まれてくる日が来てほしいと、願わずにいられない気持ちでいる。

「カニサレス・フラメンコ・クインテット」来日公演スケジュール

9/16(日) 福島 いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
9/17(月・祝) 山形 山形テルサ
9/20(木) 兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
9/22(土) 静岡 静岡音楽館 AOI
9/23(日) 神奈川 よこすか芸術劇場
9/24(月・祝) 東京 三鷹市公会堂 光のホール
9/26(水) 宮城 えずこホール
9/28(金) 千葉 船橋市民文化ホール
9/29(土) 東京 めぐろパーシモンホール 大ホール
9/30(日) 埼玉 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール

お客様用お問合せ:プランクトン
http://www.plankton.co.jp/canizares/index.html

出演:カニサレス・フラメンコ・クインテット
カニサレス / Cañizares(ギター)
フアン・カルロス・ゴメス / Juan Carlos Gómez(セカンド・ギター)
ホセ・アンヘル・カルモナ / José Angel Carmona(カンテ、マンドラ、パルマ)
アンヘル・ムニョス / Ángel Muñoz(バイレ、カホン、パルマ)
チャロ・エスピノ / Charo Espino(バイレ、カスタネット、パルマ)

カニサレス / Cañizaresの楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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