Interview

Creepy Nutsがキャリア初のフルアルバムに込めた非音楽家のやる音楽=ヒップホップの矜持と開き直りの格好良さ。

Creepy Nutsがキャリア初のフルアルバムに込めた非音楽家のやる音楽=ヒップホップの矜持と開き直りの格好良さ。

昨年11月、「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」をリリースしてメジャーデビューを果たしたCreepy Nutsがキャリア初となるフルアルバム『クリープ・ショー』を完成させた。「イケてない」ことを逆手に取り、屈折した視点と自虐的なやり口でインディーデビューしてから約3年。その間にR-指定は『フリースタイルダンジョン』のモンスターとしてブレイクし、グループはヒップホップの垣根を軽々と超えて各メディアに引っ張りだこの人気者となった。かつて自身を内気なボンクラと呼び、脇役のベンチウォーマーと卑下していた2人は、今、どんな気持ちで音楽に向き合っているのか。アルバムに込めた2人の思いをたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 猪又 孝 撮影 / 板橋淳一

今まで培ったものを全部吐き出して、俺らのヒップホップってどういうことなんか?っていうのを詰め込んだ。

キャリア初のフルアルバムになりますが、今回はどんな作品をめざしたんですか?

R-指定 今までの自分らの作品を一旦全部まとめて、名刺というか、「これが俺らです」ってわかってもらえるようなものにしようと。プラス、最後に、ここからどうしていくかっていう意思表明をするような流れにできたらなと。

DJ松永 もともとは全部新曲でいこうとしてたんです。マインドの変化もあるだろうから、全部新曲で、新しいフェーズに行った俺らを出そうと。けど、そうするよりは今まで培ったものを全部吐き出して次に行った方がいいんじゃないか、という話になって過去曲も入れることにして。実際、俺らのマインドも「次に進みました」じゃなくて、「次に進まなきゃ、進みだそう」くらいの変化だったんですよね。だから、最初は「スポットライト」を1曲目にしようとしたんです。「スポットライト」のラストヴァースで「次に進み出すぞ」と歌って、2曲目から新しいフェーズっていう構成を考えてた。でも「スポットライト」を最後に置いて、アルバムを終えるカタチにしたんです。

収録曲の「トレンチコートマフィア」は、DJ松永のソロアルバムにR指定がフィーチャリングで参加した曲で、Creepy Nuts名義じゃないですよね。そこまで遡って入れたのは、この曲がCreepy Nutsの起点と言えるということですか?

R-指定 そこまで意識的に作ったわけじゃないけど、結果的に俺らのヒップホップってどういうことなんか?っていうのを詰め込めた曲になった、っていう感じですね。いまだにライブでやる機会も多いし、好きと言ってくれるお客さんもいて、「だったらコレは入れといた方がいいんじゃない?」って。

アルバムを制作して行く上でキーになった曲は?

R-指定 「スポットライト」ですね。まさしくキーになった。曲というよりは、「スポットライト」の最後のヴァースがいちばんキーかも。最後の16小節がアレじゃなかったら、また違ってきたやろうし。

そのヴァースには過去の自分たちの曲名も織り込んでいますが、意図的に入れたものなんですか?

R-指定 この曲は最初、バスケットボールのタイアップの話をもらっていたから、それを意識しすぎてぼんやりとした勝負事を書いてて、うまくまとまらなかったんです。俺って、1個、決まったワードとかその曲の顔になるフレーズが出てこないと作業が転がり出さないタイプなんですよ。その1個のワードが出てこなくて手探りで何回も書き直してた。で、もうギリやけど、俺もバスケやってたし、「助演男優賞」でも自分のことをベンチウォーマーって言ってるから、そこをちょっと触ってみるかと思って。そこから「I’m a No.1 player 元ベンチウォーマー」っていうフレーズが出てきて、そのフレーズが思いついたのとほぼ同時にその最後のヴァースが出てきたんですよね。そのヴァースが最初にカチっとハマって、そこから作っていけたんです。

「ぬえ」ってヒップホップやなと思って。いろんなものが合わさって何とも形容しがたいモンになってる。

リード曲の「ぬえの泣く夜は」は、ロック調の激しいギターサウンドが印象的なナンバーです。本作には、代表曲の「合法的トビ方ノススメ」をSPARK!!SOUND!!SHOW!!によるバンド演奏でリメイクした「新・合法的トビ方ノススメ」が収録されていますが、「ぬえの鳴く夜は」も彼らによる演奏なんですか?

DJ松永 SPARK!!SOUND!!SHOW!!がライブ会場限定で出したEPに「Swinga!」っていう曲があって、カッコイイなと思ってたんです。で、サンプリングネタは別に最近のロックバンドの曲でも構わないよなと思って、その曲のデータを貸してもらって。「ぬえの泣く夜は」はそれを組み替えてベースとなるトラックを作って、上で鳴ってるギターは自分でプラグインで弾いて作って、それを今度は違うミュージシャンに生で弾いてもらって差し替えたんです。

サンプリングで作ってたんですね。

DJ松永 そうなんです。SPARK!!SOUND!!SHOW!!自体、いろんなジャンルの要素を自分たちのセンスで咀嚼するバンドで、トラップっぽいのを作っていたり、結構メチャクチャいろんな曲を作ってるんです。で、彼らに聞いたら、「Swinga!」は「肉体関係」みたいな曲を作りたかったんだと言ってて。「肉体関係」はクレイジーケンバンドが作った曲で、それをライムスターがカバーして、それに触発されて曲を作ったバンドがいて、さらにそれをサンプリングした俺たちがいるっていう構造になってるんです。だからすっごい家系図がドロドロしてるというか。

近親交配しちゃった、というか。

R-指定 そう。その結果生まれたのが「ぬえ」という異形の化け物っていう。

それにしても、「ぬえ」というワードをよくもまあ、ひらめきましたね。

R-指定 これはリリックもちょっと不思議なできあがり方で。「楽器ひとつも弾けないくせに 楽しむ器ならあるちゃっかり」っていうフレーズが火種になってて。そのフレーズが出てきて、じゃあ、ヒップホップというか俺らのアートフォームのことを歌おうと。で、そのフレーズを他の表現でできるかな?って考えてたときに、昔の映画のトレーラーとか見るのが好きなんですけど、そこで『悪霊島』っていう映画の宣伝コピーで「鵺の鳴く夜は恐ろしい」っていうのが出てきて、「このフレーズ、あったな」と思い出して。ぬえの鳴く夜っていう言葉の響きも気に入ったし、「ぬえ」ってヒップホップやなと思って。いろんなものが合わさって何とも形容しがたいモンになってるっていう。よう考えたらSPARK!!SOUND!!SHOW!!もだいぶ「ぬえ」なバンドだし、俺らもだいぶ「ぬえ」だし、そこから数珠つなぎ的にブワーッと歌詞ができていったんです。

楽器も弾かれへんくせに堂々と威張る。その感じがヒップホップのいいところやなと思うんです。

そんな「ぬえ」を題材にしていますが、この曲は自虐ソングじゃないんですよね。むしろ、攻めの姿勢を感じました。

R-指定 どっちかというと開き直りに近いですね。この姿で何が悪いねん、みたいな。

プライドすら感じましたから。

DJ松永 そうですね。そもそもこの制作方法はプライド持たないとやってらんないし(笑)。

R-指定 これぞ非音楽家がやってる音楽っていう。特に俺らは楽器も弾かれへんし、楽譜も読めない。そのことに引け目はあるし、コンプレックスでもあるんですけど、それでもどっかで勝ったるぞっていう気持ちがある。そこが、俺らみたいな全然ヤンチャでもないヤツが、ヒップホップに感じるファッション的なことじゃない不良性というか。心のヤンチャというか。楽器も弾かれへんくせに堂々と威張る。その感じがヒップホップのいいところやなと思うんです。非音楽家のやる音楽の矜持として開き直りみたいなところの格好良さがある。特に日本語ラップをやってる人にはそういうメンタリティーがどっかにあるんじゃないかと思うんですよね。

「Stray Dogs」はハードボイルド風情な曲ですが、歌ってる内容は風俗遊びのことですよね(笑)。

R-指定 そうです。けど、ハードボイルドって言われたのはメッチャ嬉しいです(笑)。

DJ松永 誉めすぎですよ、ハードボイルドは(笑)。

地元のエリアコードは072。中学時代からの仲間と2人でラップした曲が元になった「Stray Dogs」

けど、メジャーに行っても、変わらずそういうネタをやるところに安心しました(笑)。

R-指定 もともとこの曲は2ヴァース目が4年前くらいからあったんです。地元のラッパー仲間が作ったものすごいドープなビートで、俺の中学時代からの仲間と2人でラップした曲があって、それを松永さんがすげえ気に入ってくれてて。

DJ松永 そのヴァースのファンだったんです。ずっと応援してて、俺は。

R-指定 だから、いつかはこれをしっかり世に出したいって言ってて。じゃあ、このタイミングでやってみるかって。

DJ松永 でも、ただのフザけた曲にしたくないから、音は全力でかっこよくしたかったんですよね。内容とのギャップで面白がって欲しいから。

リリックに出てくる「072」は市外局番なんですか?

R-指定 よく「オナニーっていう意味の072でしょ」って言われるんですけど、マジで俺の地元、大阪の堺市の市外局番が072なんです。ラッパーのエリアコードってあるじゃないですか。横浜045とか東京03とか。最初その意味がわからなくて、それこそ、この曲の元になったリリックを書き合ったラッパーのヤツが中学生のときに調べてきて。そしたら「俺ら、072やったわ」って(笑)。

運命の出会い(笑)。

R-指定 そのとき、「うわーっ」と盛り上がるというより「……やっぱそうやってんな」「初めから決まっとったな」みたいな会話になって。だから、生まれるべくしたところにちゃんと生まれ落ちたというか。俺らはそういうセンズリの都に生まれたということなんです(笑)。

アルバムの流れでライブで見てもらっても絶対楽しいはずやっていう自信はあります。

「月に遠吠え」は、ノスタルジーを感じる温かな曲調で過去を振り返る内容になっています。それによって、そのあとの「スポットライト」の前向き感がより際立つなと思ったんです。

R-指定 アルバムが1本の道やとしたら、ずっと進んできて「月に遠吠え」のところでちょっと後ろを振り返って、最後、一歩踏み出すみたいな感じの流れになってる。「月に遠吠え」でアルバムをあったかく終わることもできたんですけど、ここで仲間と久しぶりに会って、仲良く喋って、「ほな、明日も仕事やし行くわ」って踏み出す一歩目が「スポットライト」っていうイメージはありますね。

あと、「月に遠吠え」を聞いたとき、R-指定さんはちょっとお疲れモードなんじゃないかなと思ったんですが。

R-指定 まさに。「できへんな、浮かばへんな」って難産が続いてて、「月に遠吠え」のときもレコーディングを延期してもらったくらい、だいぶ行き詰まってた時期だったんです。そのときにふと、KOPERUから「元気か?」みたいな連絡があって。そこでメチャメチャ長電話して、アイツと話したからできた曲というか。《「俺らどこで間違った?」…始めっからや》は、俺が冗談交じりでKOPERUに話しかけた電話の会話だし、地元の人間に対してはいろんな感情があるんですけど、この曲はホンマに実体験したことを書いていったんです。

最後に、6月から始まるツアーは、どんなものにしたいと思っていますか?

R-指定 今回のアルバムはトリッキーなことをしてないから。松永さんのDJと音と、俺のラップっていうストロングスタイルのアルバムなんで、それをライブでどう表現しようかなって考え中です。そのままストロングスタイルでやって終わるのか、いろんな仕掛けをするのか。でも極論、このまんまの流れでライブで見てもらっても絶対楽しいはずやっていう自信はありますね。

じゃあ、ギミックなしで見せていくことになりそう?

DJ松永 曲をかっこよく見せるライブにした方がいいのかなと思ってますけど、ツアーまで2カ月以上あるから、そのときの気持ちはどうなってるんだろうと。これからアルバムを出して、新曲を携えてイベントとかでライブをやってみて、そこでどういう反応が返ってくるか。その反応によって考えが変わってくるだろうから、そのときになってみないとわからないですね。

R-指定 俺らは直前でセットリストを平気で変えたりすることがあるからね。

DJ松永 本当そう。場の雰囲気によっても変えるし。だから、まずはこのアルバムにどんな反応が返ってくるか。それが楽しみだし、そのときの自分の気持ちに正直にアウトプットした方がいいだろうなと思ってます。

その他のCreepy Nutsの作品はこちらへ

ライブ情報

Creepy Nuts ワンマンツアー「クリープ・ショー2018」

6月8日(金) 神奈川・川崎クラブチッタ
6月10日(日) 兵庫・神戸Harbor Studio
6月14日(木) 茨城・水戸ライトハウス
6月15日(金) 群馬・高崎c l u b FLEEZ
6月27日(水) 岡山・YEBISU YA PRO
6月29日(金) 熊本・熊本B.9 V2
6月30日(土) 長崎・長崎DRUM Be-7
7月5日(木) 静岡・浜松窓枠
7月6 日(金) 京都・磔磔

Creepy Nuts(R-指定&DJ 松永)

MCバトル日本一のラッパー「R-指定」とターンテーブリストであり、トラックメイカーとして活躍する「DJ 松永」による1MC1DJのHIP HOPユニット。
業界屈指のスキルを持つこの2人だからこそ実現できる唯一無二のライブパフォーマンスは必見。これまでにリリースされた「たりないふたりふたり」、「助演男優賞」はスマッシュヒットを記録。満を持して2018年にシングル「高校デビュー、大学でビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー」でメジャーデビュー。テレビや雑誌を始め、数多くのメディアにも取り上げられ、ラジオではニッポン放送「オールナイトニッポン」の火曜日のレギュラーパーソナリティーを務めるなど話題に事欠かない。ライブシーンにおいては、クラブやライブハウスから大型ロックフェスまで、シーンを問わず数多くの観客を魅了している。

オフィシャルサイトhttp://creepynuts.com/