Report

竹中直人&生瀬勝久の「竹生企画」第3弾は、生きることの根源を問うサスペンスコメディ──舞台『火星の二人』フォトコールレポート

竹中直人&生瀬勝久の「竹生企画」第3弾は、生きることの根源を問うサスペンスコメディ──舞台『火星の二人』フォトコールレポート

俳優・生瀬勝久の「竹中直人さんと二人芝居がやりたい!」という熱情を発端に、竹中がラブコールを送った倉持 裕を作・演出に招き、ヒロインには2人が共演してみたい旬な女優を迎えるというサブルールを加え、始動したユニット「竹生企画」。2011年に第1回公演『ヴィラ・グランデ青山~返り討ちの日曜日~』を、2015年には第2回公演『ブロッケンの妖怪』を上演。そして第3回公演となる『火星の二人』が、4月10日の東京・シアタークリエから幕を開けた。
6人芝居から漂う緊迫したサスペンスの様相と笑いの緩和がもたらすジェットコースターのようなスリリングな芝居。初日前にフォトコールと、合わせて会見が行われた。その模様をレポートしよう。

取材・文・撮影 / 竹下力

とある家族を巡る濃密なサスペンスコメディ

客電が暗くなると舞台はとある一軒家であることがわかる。正面のソファーには、朝尾(竹中直人)と志波(生瀬勝久)がお互い苦々しい表情で並んで座っている。舞台の真ん中の階段を登った上手には書斎があり、そこの椅子に朝尾の妻・素美(高橋ひとみ)が座っている。さらに下手には冷蔵庫があるキッチン、そこには、朝尾の息子である正哉(池岡亮介)と恋人のさやか(上白石萌音)がいる。

朝尾と志波が神妙な面持ちで話しているのは、とある事故の話。1年前、郊外にある遊園地のジェットコースター事故で7人が車外に落下し、そのうち5人が即死してしまった。そして、朝尾はどういうわけか奇跡的に助かった1人であったのだ。

そのことを志波が仔細に尋ねているのだが、朝尾が嫌がる面持ちで話しているように見えるのは、もう事故のことを思い出したくないからだ。朝尾はとある大学の教授で、彼のゼミ生も事故が起こったジェットコースターに乗っていたこともあって、歯切れが悪い。しかし、執拗に問いただそうとする志波。この時点では、朝尾家とさやかは、志波を取材に来た新聞記者だと思い込んでいる。だから朝尾は嫌々ながらも事件のことを答えているのだが、双方に思い込みというすれ違いがあり、2人のこのちぐはぐなやりとりが面白くて、まず目が離せない。

朝尾の自分を許せない気持ちと、許されたい気持ちがないまぜになって、居間を煩悶しながら縦横無尽に動き、まるで拷問にかけられているほど苦悶の表情で朝尾を演じる竹中の演技には目をみはる。

志波は朝尾を圧倒するように話しているのだが、事件の顛末を話すに連れて、彼は新聞記者ではなく、どうやら、朝尾と同じあの事故の生存者であることが明らかになる。ここでの志波は、なぜ我々だけが助かったのかと執拗に朝尾に問いかける。2人が助かったのは、何かの因縁があるのではないかと。その生への執着に似た狂気を孕んだ生瀬の演技力にも圧倒される。

一方、正哉もさやかと話が噛み合わない。どうやら正哉も父親の事故を経て、自分に対して何かしらの違和感を感じている様子。果ては自分の将来の夢まで諦めるという。それをさやかは許せない。エンタメステーションのインタビューで、池岡は「正哉は俳優を目指していたのですが、ある大事故から父親が生還したことをきっかけに人が変わったように諦めてしまう。どちらかといえば、一貫性がなくて、だらしない中途半端な男の子」と語っていたが、それを地でいくウジウジした表情の煮え切らない男の子役を好演していた。

さやかを演じる上白石は、池岡が「上白石さんは目力が本当に力強くて、怖いぐらいなんです(笑)」と語っていたとおり、まさに、優柔不断な正哉に睨みを利かせた姿は小柄な体躯なのに迫力があり、ドスを利かせた声やかすかな色気も感じさせる表情豊かな声色の使い分けが絶品だった。

素美 役の高橋は、前野朋哉が「怒ったり笑ったりするメリハリに感心させられます。実は裏がある女性の外と内の表現が生々しい」と語っていたが、この物語での彼女にはコメディエンヌの雰囲気が漂っている。朝尾に「事件のことは忘れましょうよ」と突っかかったかと思うと、突然「どうでもいい」といったような態度を取る。まさにオン/オフのスイッチがどこで入れ替わったのかわからなくなる。ちょっと怖くて、ちょっとお茶目、そんな“あるある”なお母さんを演じていて、彼女の存在はシリアスなシーンに笑いのスパイスとなっていた。

続いてのシーンは、正哉と恋人のさやかがテントを張っている裏庭。そこに楠見(前野朋哉)が2階の窓から顔を出し、ぶっきらぼうに朝尾を探していることを告げる。楠見は前野がインタビューで話してくれたように「朝尾にパラサイトする役。朝尾のゼミ生で亡くなった登羽という女性のいとこ。朝尾との関係性は薄いのですが、登羽の名前を利用して朝尾の弱みにつけ込んで悪巧みをする」というピカレスク。しかも「楠見は、朝尾に舐められないように自分を演じている部分がある」というふてぶてしい態度を要所要所で取るのだが、前野のどこかコミカルな表情がふてぶてしさを超えた面白味を醸し出していて必見だ。

ここでフォトコールは終わりだが、ここから物語はいったいどんな展開を見せていくのだろうか。なぜ2人だけ生き残ったのか、そこに何か意味があったのか、朝尾と志波の関係は? 正哉とさやかの仲は? 楠見の悪巧みとは? 本作も展開に圧倒的なカタルシスがあり、作・演出の倉持 裕の手腕の見せどころが遺憾なく発揮されている。6人芝居というまさに家族のように濃密な舞台。彼らがどんな結末を迎えるのかワクワク・ドキドキしながら観劇しよう。きっとそこに生きる意味が見つかるはずだ。

東京での公演は4月25日まで。その後、全国15ヵ所を巡り、千秋楽を迎える福岡公演の6月3日まで続く。

「私自身も客席から観たいと思うほど楽しい」舞台

フォトコールの前に、竹中直人、生瀬勝久、上白石萌音が登壇し、会見が行われた。

まず初日を前にした心境を聞かれた竹中直人は「どんな舞台でも初日は緊張しちゃって嫌ですよね。胃が痛いし、お腹が痛いし、あー苦しい」とジョークを交えて挨拶。生瀬勝久も「僕も同じように緊張していますが、今日をとにかく乗り切って、その勢いで演じ切りたいです」とコメント。上白石萌音は「昨日の夜はよく眠れなくて、お2人が緊張していると聞いてちょっとホッとします」と胸をなで下ろしていた。

竹生企画が3回目を迎えた感想について、竹中は「変わってきたことはないですが、続けてこられてきたことがすごいこと。これからも続けられたらと思います」と決意を新たにし、生瀬は「竹中さんに憧れてこの世界に入りました。2011年に“竹生企画”が実現してもまだ憧れの人です。口が聞けないくらい緊張しますが、同じ舞台の上で楽しく過ごせるので至福の時間です」と感慨を語った。

上白石は「舞い上がるような気持ちでした。前回の『ブロッケンの妖怪』を観劇したとき、第2弾とあったので、第3弾はどうなるんだろうと思っていたら、まさか出演することに(笑)。倉持さんの舞台は大好きですし、竹中さんとは、初めて主演した映画でご一緒させていただいて、いつか舞台をやろうねとおっしゃってくださっていたので、こんなに早く実現するとは思わなかったので嬉しいです」と出演が決まったときのことをしみじみ思い出していた。

今回のヒロインに上白石に声をかけたことについて竹中は「上白石さんの風情に、女優として階段を上って行きそうな雰囲気があったんです。声の音色も素敵だったので、一度倉持さんの世界に上白石さんが出たらどんな感じになるんだろうと思ったから」と上白石を見つめ満足そうな表情を浮かべた。

さらに、「とても充実した稽古で、無駄口がいっさいなかった。静かに淡々と進んでいきました」と竹中が稽古場での様子を話すと、生瀬は稽古の最終日に上白石と一緒に鍋を食べに行ったエピソードを明かす。「僕と萌音ちゃんで6人前食べたよね」と言われた上白石は「美味しかった。今年一番食べました」と満面の笑みに。

そして今作の見どころについては「新たな倉持さんの一面が見えます。そして、生瀬さんと僕が絡んでいるところも。さらにこの2人に上白石さん、池岡亮介くん、高橋ひとみさん、前野朋哉くんという面白俳優もいるから楽しいですよ」と竹中が答え、生瀬は「そんなに難しい芝居ではないので、ちょっとしたサスペンスコメディと考えてください。今までの作品をご覧になった方にも新たな倉持ワールドが出来上がったと感じてもらえると思います。6人のお芝居ですが、豪華絢爛な俳優が出ているので楽しみにしていてください」と応じた。

最後に竹中は「ものすごく面白いのでぜひ劇場に」と照れながら挨拶し、生瀬は「ちょっと不思議だけど楽しい舞台です」と熱意を込めて重ねてアピール。上白石も「私自身も客席から観たいと思うほど楽しくて、時間が経つのも忘れてしまうほどなので劇場に足をお運びください」と微笑み、会見は幕を閉じた。

Toho & cube present 『火星の二人』

東京公演:4月10日(火)~4月25日(水)シアタークリエ
大阪公演:4月28日(土)~4月30日(月・休)サンケイホールブリーゼ
愛知公演:5月2日(水)~5月3日(木)刈谷市総合文化センターアイリス
富山公演:5月5日(土)~5月6日(日)富山県民会館
     5月7日(月)クロスランドおやべ
石川公演:5月10日(木)本多の森ホール
長野公演:5月12日(土)サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)
宮城公演:5月15日(火)東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
岩手公演:5月17日(木)北上市文化交流センター さくらホール
栃木公演:5月19日(土)小山市立文化センター 大ホール
新潟公演:5月21日(月)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
香川公演:5月24日(木)レクザムホール 大ホール(香川県県民会館)
広島公演:5月26日(土)JMS アステールプラザ 大ホール
鹿児島公演:5月29日(火)鹿児島市民文化ホール 第1ホール
長崎公演:5月31日(木)長崎ブリックホール 大ホール
福岡公演:6月2日(土)~6月3日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール

STORY
大事故から奇跡的に生き延びた男・浅尾(竹中直人)は事故のあと、生きる気力をなくし別人のようになっていた。そして彼の息子・正哉(池岡亮介)も人が変わったようになり、その恋人・さやか(上白石萌音)は悩んでいた。そこに、やはり同じ事故から生還した男・志波(生瀬勝久)が訪ねてくる。
生死の境が曖昧になってしまった男と、同じ経験からむしろ活力をみなぎらせている男の、恐るべき因縁……そんな2人の果てしなき口論から垣間見える、生き抜くことを巡る物語。

作・演出:倉持 裕
出演:
朝尾 役:竹中直人
志波 役:生瀬勝久
さやか 役:上白石萌音
正哉 役:池岡亮介
楠見 役:前野朋哉
素美 役:高橋ひとみ

オフィシャルサイト