モリコメンド 一本釣り  vol. 61

Column

FALSETTOS パンキッシュな精神性から生まれる、どこまでも自由でポップな音楽をまずは体感してみてほしい

FALSETTOS パンキッシュな精神性から生まれる、どこまでも自由でポップな音楽をまずは体感してみてほしい

2018年に2月にリリースされた1stフルアルバム「FALSETTOS」のリードトラック「6」を聴き始めて45秒の時点で完全にノックアウト。ジャンル的な説明をするなら、80年代のポストパンク、ニューウェイブ、90年代のオルタナ、00年代以降のインディーギターロックが自然に共存していて、だけどぜんぜん頭デッカチではなく、“とにかくやりたいことやってる!”という雰囲気に溢れていて、天然のポップネスと詩的な抒情性もたっぷり。たとえば「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」とか「シング・ストリート 未来へのうた」を観た後に“なんて素敵なんだ!”“バンドって最高だな!”“というかやっぱり女の子っていいな!”みたいな気持ちがドワーッと押し寄せてくる感覚にめちゃくちゃ近かったのだ。いや、これはホントに素晴らしい。期待のニューカマーを紹介する連載を担当させてもらっていながら、いままでこのバンドのことを知らなかった自分をぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいです。

彼女たちの名前はFALLSETOS。Miuko(G/V)、Yukiko(Key/Tp)、Ingel(Ba)、Fumie(Dr)というラインナップ結成され、精力的なライブ活動を展開。これまで共演したアーティストは、シーナ&鮎川誠(シーナ&ロケッツ)東京インディーシーンの雄“cero”、日本におけるオルタナティブミュージックの草分け的存“Phew”、優れた映画音楽、舞台音楽でも知られるピアニスト/作曲家の“阿部海太郎”と完全にジャンルレスだが、共演者がこぞってFALLSETOSを絶賛していることからも、彼女たちの音楽的ポテンシャルの高さ、底知れぬ魅力を備えていることが分かってもらえると思う。(アルバム「FALLSETOS」にも、快速東京のテツマル、ギターウルフのセイジ、日暮愛葉、ヒカシューの巻上公一など年代とジャンルを超えたアーティストが推薦コメントを寄せている。個人的にはジャパニーズ・ハードコアを象徴するGAUZEのHIKOが参加してるのが胸アツ)それぞれのコメントのなかで「自分は”FALLSETOS“のここが好き」と綴っているのだが、それが見事にバラバラなのもおもしろい。要は“何がどうなってこういう音楽が生まれているのかはわからないが、とにかく惹かれる!”ということらしいのだ。

さきほど「6」を紹介したときに“ポストパンク”“ニューウェイブ”“オルタナ”“因泥—ロック”という言葉を使ったが、じつはこれ、何の説明にもなっていない(本当にすいません)。それらは音楽的な手法を示す言葉ではなく、“その時代に起きた新しい動き”を表すタームだからだ。パンクロックが下火になった時期に音響的・音楽的な実験のなかで生まれたのがポストパンクやニューウェイブだし、産業として肥大化したロックに対するカウンターとして勃発したのがオルタナティブ・ロックだった。奔放なトライアルと新しい世代の価値観をぶつけ合い、ロック/ポップミュージックに爆発的なダイナミズムをもたらすーーFALSETTOSの音楽における“ジャンルで説明できない音楽性”“捉えどころのない魅力”とは、そういういものなのだと思う。

ノイジーなシンセサウンドから始まるレトロフューチャー的ポップ「Ink」(この楽曲は坂本龍一のラジオ番組「RADIO SAKAMOTO」のオーディションコーナーで2015年の年間優秀作を受賞)、ギター、ピアノのアバンギャルドなアンサンブルとノスタルジックな美しさを備えたボーカルがひとつになった「Kid Retreated」、サイケデリックなサウンドメイクのなかアジア的な響きを感じさせるメロディが自由に舞う「Hejira」。サウンドデザインのおもしろさ、予測不能に展開していくメロディ、プレイヤーとしての個性を存分に活かした演奏を含め、何度聴いても決して飽きることがない。偶発性と緻密な構築美をバランスよく兼ね備えた楽曲は、何度聴いても新しい発見があるのだ。

海外のインディームービーのような雰囲気の「6」のMV(監督/浅井一仁)、演奏するメンバーの手元と表情をカットアップした「Johnny」のMV(監督/ピエール・ブシュ)、ビビッドかつシックな色使いのアーティスト写真など、ビジュアル/アートワークにも優れたセンスを示すFALLSETOS。2016年には初のNYツアーを実施し、ヤー・ヤー・ヤーズのブライアン・チェイス(Dr)と共演を果たしているが、今後、彼女たちの存在は世界へ向けて放たれることになるだろう。パンキッシュな精神性から生まれる、どこまでも自由でポップな音楽をまずは体感してみてほしい。そのときあなたは、いつの間にか捉われていた“枠”が外れ、心が解き放立てる感覚を味わうことになるだろう。そして言うまでもなく、それこそが音楽の持つ本当のパワーなのだ。

文 / 森朋之

オフィシャルサイトhttps://www.falsettos.beer

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