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奇才・谷賢一が、男4人の怪演に音楽&映像をミックスし描く「愉快に狂った世界」──パンキッシュな舞台『High Life』開幕

奇才・谷賢一が、男4人の怪演に音楽&映像をミックスし描く「愉快に狂った世界」──パンキッシュな舞台『High Life』開幕

SMA_STAGE第1弾公演『High Life/ハイ・ライフ』の公開ゲネプロを観てきた。有楽町線の東池袋駅と直結したビルの2階にある劇場・あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)。客席数301席とキャパシティは小さめなのだが、舞台も客席もホワイエも広々とした空間が取られている。しかしながら、施設案内にあった「スタイリッシュな」劇場で上演されたのは、ステージの中央に無粋に置かれたシルバーの便器を囲んで繰り広げられるジャンキーの物語だ。

取材・文 / 永堀アツオ 写真 / 宮川舞子

役者たちが全身全霊をもってぶつかり合い、音楽や映像や舞台美術が生き生きとしたグルーヴを見せる青春の挽歌

登場人物は薬物中毒の4人の男のみ。保護観察中でつねに大金を手に入れる計画を考えているディック(古河耕史)、暴力的でキレやすいバグ(伊藤祐輝)、腎臓がひとつしかないドニー(ROLLY)、そして、誰彼構わずナンパする女性関係にだらしのないビリー(細田善彦)。生活も人生も行き詰った彼らは、ディックが思いついた“ある計略”に乗って、銀行のATMを襲うため渋々と手を組むことになるのだが……。

原作は、カナダでミュージカル俳優としても活動しているリー・マグドゥーガルの戯曲処女作。1996年にトロントの小劇場・クローズシアターでの初演以降、カナダ国内各都市および、ニューヨークやロンドンでも上演され、日本でも2003年の流山児☆事務所を皮切りに数多くの劇団やプロデュース公演が上演された人気作となっている。

日本の演劇、映画、小説ではあまり多くは取り扱われない題材だが、欧米では“薬物中毒”がより身近で、若者のカルチャーと密接に結びついており、ガス・ヴァン・サントのデビュー作『ドラッグストア・カウボーイ』やダニー・ボイル『トレインスポッティング』をはじめ、名作と評される作品も多く生まれている。

L-R:伊藤祐輝、細田善彦、ROLLY、古河耕史

本作で演出を手がける谷 賢一は、イギリスで演劇を学び、フィリップ・デュクフレ演出『わたしは真悟』やアンドリュー・ゴールドバーグ演出『マクベス』などに、それぞれ脚本や演出補などで参加している。また、脚本、演出に加え、海外戯曲の翻訳や海外演出家とのコラボレーション作品も数多く手がけていることも、彼が“ポップでロックで文学的な創作スタイル”と称される要因のひとつだろう。谷は初日を迎えるにあたり、こうコメントしている。

谷 賢一 演劇を始めて20年が経ちまして、そうするとだんだんと普通のお芝居にも飽きてきまして、毎度毎度「観たことないものを作ろう」「初めてのことをやろう」と心がけているのですが、それができました。Open Reel Ensemble with 山口元輝(moltbeats)さんによる素晴らしい音楽と清水貴栄(DRAWING AND MANUAL)さんによるキッチュな映像がアクの強い俳優たちとの演技と融和し、愉快に狂った世界を楽しんでもらえると思います。

彼が「観たことのないもの」と胸を張って宣言していたひとつに、芝居と映像と音楽の融合によって、トリップ状態を視覚的、体感的に表現した点が挙げられるだろう。

冷蔵庫やテレビ、ソファーやタンスなどが乱雑に置かれたガラクタ置き場のようなディックの部屋(この部屋が銀行強盗の車になるところも必見です!)。両脇には2台のオープンリールテープレコーダーや打楽器が置かれており、Open Reel Ensembleの吉田 匡と吉田 悠、molbeatsの山口元輝が控えている。さらにステージの背面には巨大なスクリーンが配置されており、登場人物たちの心理状態が様々な色で表現される。ディックはどぎついレッド、ドニーはグリーン、ビリーはスカイブルー。これが、それぞれの平常時のイメージカラーで、麻薬を打った瞬間に、サイケデリックな映像へと変化してゆき、時にノイジーで、時に天国のような音楽が生演奏で鳴り響く。

まばゆい光に満ちたかと思えば、急激に闇へと収束、テンポが速くなったり、遅くなったり、巻き戻ったりもする。演者も破壊的になったり、興奮のあまりにバク転までする者もいれば、ここではないどこかへと飛び、恍惚の表情を見せる者もいる。さらに、麻薬の質によってまったく異なる精神状態になることも、芝居と音と映像で伝わってくる。どんな幻覚が見え、どんな幻聴が聞こえ、どんな気持ちになるのかを身体全体で疑似体験できる舞台となっているのだ。

よくあるジャンキーものであれば、幻覚や幻聴と戦いながら、なんとか薬物中毒から抜け出そうともがく過程が描かれるのだが、本作にはそんなものはない。4人全員が薬物を手に入れるためだけに考え、行動し、生きている。やがて悲惨な破滅を迎える者もいるのだが、彼らの生きる目的の明確さといったら、清々しいくらいだ。薬物の使用は違法だし、決して容認できるものではないが、“薬物”を自分なりの何かに置き換えて考えてみたときに、果たしてそれほど熱中できる何か、人生の目的と言えるほどの何かがあるかというメッセージを投げかけられた想いがした。そういう意味で本作は、麻薬に情熱をかけた男たちの青春群像劇である。役者たちが全身全霊をもってぶつかり合い、音楽や映像や舞台美術が生き生きとしたグルーヴを見せる青春の挽歌である。その言葉を裏付ける、キャストたちのコメントを最後に紹介したい。

古河耕史 なにかしら、どこかしら、なぜだか、気になってくださるのなら、どうかご自身の目と耳で、確かめに来ていただきたい。数ある舞台、数ある演劇、数あるエンターテインメントの中で、私はこの芝居と歩む4月を、愛しています。身を粉にしています。楽しんでいます。評判・評価もございましょうが、ひととき「クダラネェ」と共につぶやいいただけたなら、実はそれこそ恐悦至極な作品なのであります。

伊藤祐輝 稽古では、谷さん、キャストのみなさんと、役や作品についてじっくり話し合う機会を多くとっていただき、とても幸せな時間でした。今日は初日を迎える嬉しさと緊張で落ち着きません。全身全霊でぶつかり合う4人の姿を見ていただけたらと思います。

ROLLY 男子4人だけのお芝居、歌も歌わない(ほんとはちょっとだけ歌うかも)ギターも弾かない、50歳をとうに過ぎての大きなチャレンジですが、必ずやROLLYの歴史に残る作品になるはずなので、みなさま! 見逃すと後悔しますよ! ぜひマヌケなニューキャラ、ドニーを応援してくださいね!!!

細田善彦 注)これは、青春モノです! が、汗水流して追い求める青春モノは青空のもと追う白球ではなく、暗闇を掻き分けてつかむ白い粉! そんな、我々ジャンキーたちが一世一代の大仕事、銀行強盗をする。そんな、夢の扉を開ける瞬間! この謎の疾走感を劇場で体感して欲しい。

『High Life/ハイ・ライフ』

2018年4月14日(土)~4月28日(土)あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)

STORY
集まった男4人はいずれもジャンキー。保護観察中のディック(古河耕史)、出所したばかりのバグ(伊藤祐輝)、女性関係で追い込まれているビリー(細田善彦)、腎臓がひとつしかないドニー(ROLLY)…… 人生に行き詰まった彼らは、一発逆転を狙って大金を手に入れようと、ディックが思いついた“ある計略”に乗って、銀行のATMを襲うために渋々手を組む。ディックの期待、バグの苛立ち、ドニーの緊張、ビリーの高揚……盗難車の中で息を潜める4人のテンションが極限まで張り詰めて、一触即発の事態が──。
※この物語は、違法薬物の使用等についての反社会的な思想や行為を容認するものでは決してありません。

作:リー・マクドゥーガル
翻訳:吉原 豊司
演出・上演台本:谷 賢一

出演:古河耕史 細田善彦 伊藤祐輝 ROLLY

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