Interview

「an・an マンガ大賞」、「マンガ大賞2018」第3位の『凪のお暇』著者・コナリミサトに訊く“なりたい自分との向き合い方”

「an・an マンガ大賞」、「マンガ大賞2018」第3位の『凪のお暇』著者・コナリミサトに訊く“なりたい自分との向き合い方”

「空気を読むこと」がクレバーとされる社会で、うまくやろうとがんばればがんばるほどうまく行かず「やっぱムリ!」と自己嫌悪を抱えてしまっている人は少なくないのでは?
そんな今、注目を集めているマンガが『凪のお暇』だ。
空気を読んで人と合わせすぎた結果、過呼吸でぶっ倒れた大島凪・28歳は、自分を変えるべく仕事をやめて、モラハラ気味の彼氏との連絡も断ち、郊外のボロアパートで新たな生活をスタートする。
貧乏ながらも心地よい暮らしとあたたかな人々との出会いによって、少しずつ自分を解放してゆく凪だが、現実はなかなか思うようにはいかずーー。
ふわふわとファンシーな絵柄とリアルでシニカルな人間/人生観のギャップもたまらない、一筋縄ではいかない“凪ワールド”を生み出した著者のコナリミサトに、本作に込めた思いを伺った。

取材・文 / 井口啓子


若い時に漠然と思い描いていた自分になれてない自分に気付く時期がある

凪のお暇 1卷

まず「空気を読みすぎて自分を見失ってしまったヒロイン」というのが、物語の主人公としては新鮮であり、今の時代にはリアルで唸らされました。

作品の構想として「抑圧されてた女の子が解放される物語」というのが漠然とあって。やっぱり、ここ10年ぐらい「空気を読むこと」がヨシとされているじゃないですか。バラエティ番組でも大御所のお笑いの人が「空気読めや!」って言ったり。もちろん、バラエティはテレビの中のことだからいいんですけど、それが一般に生きてる私たちの日常にも根付いていることに違和感があって。

『凪のお暇』1卷より 空気を読むのに必死な凪
©コナリミサト(エレガンスイブ・秋田書店)

「空気を読むこと」をヨシとする空気ってどうよ?と。

 

そうですね。そういう空気にイラッとするし、普通に生きてる中で「空気読めよ」って言う人ってあんまりおもしろくない気がします(笑)。そのワードチョイスをする人って何なんだろう?みたいな苛立ちはずっとあった気がしますね。

本作の凪チャンは、そうやって空気を読みすぎた結果、過呼吸で倒れて人生リセットを試みるわけですが、実際その年代の女性って模索の時期って気もします。

そうそう、女性の28歳って、社会に出てひととおり揉まれて、周りとの違いが出てくる時期というか。周りと比べて「若い時に漠然と思い描いていた自分になれてない自分」に気付く時期だと思うんです。だからヒロインが28歳という設定は最初から決めてましたね。

なるほど。凪チャンのOL時代のエピソードで女性グループのマウンティング合戦の描写がすごくリアルで苦笑してしまいましたが、ああいうのも28歳ぐらいが一番激しい気がします(笑)。

女子社会って、無意識にマウントとられた気がしちゃって、こっちも返すみたいな、謎のマウンティング合戦ってありますよね。いかにも殺伐とした感じじゃなくても、あのとき「羨ましいな~そういうところ」とか言ってくれてたけど、あれは本当は…みたいに後でモヤーンって(笑)。逆に自分も、私がああ言ったのって、もしかしてマウンティングになっちゃってたかな…って後でもんどりを打ったり。いま思えば、28歳の頃って、そういうのが多かった気がしますね。

『凪のお暇』1卷より 会社でマウンティングされる凪
©コナリミサト(エレガンスイブ・秋田書店)

『凪のお暇』では、ヒロインの凪だけでなく、いろんな登場人物の「ホントはこう思ってた」みたいな内面が細やかに描かれていて、すごく多面的で歪なんだけど魅力的なキャラクターばかりです。凪の元カレの慎二にしても、たんに外面のいいモラハラ男かと思いきや、実は歪な家庭環境ゆえに屈折しちゃった人で、凪へのモラハラも本人の中では愛情表現であることを知るとアホかーと思いつつ憎めなくなります。

慎二は最初は悪役のつもりで描いてて、こんな子になるとは思ってもいませんでした。でも、1巻の後半で帰り道に号泣させちゃって…。超不憫!って、私の性癖も反映されて思いもよらないキャラクターに育ちましたね(笑)。

『凪のお暇』1卷より 号泣する慎二
©コナリミサト(エレガンスイブ・秋田書店)

アパートの隣人のゴンさんもフリーダムな「いい人」と思いきや、悪意なきメンヘラ製造機で、もう片方のお隣のうららちゃんも妙に達観した小学生と思いきや、意外と健気で必死だったり。歪なだけに妙なリアリティがある。

ゴンさんは隣りに住んでたら恐ろしいですよね(笑)。やっぱり、「表から見えることだけがすべてじゃない」みたいな思いはあって。どのキャラクターも、こういう意外なところがあったらおもしろくない? びっくりしない?という気持ちで描いています。
あと私、全員「いい人」のつもりでは描いてなくて。さっきのマウンティングじゃないけど、明らかな悪意はなくても、自然に人を傷つけたりすることってある。凪にしても人によってはイラッとさせられるキャラクターだと思うし、そういう「絶対正義」ではない人たちを描いていきたいなという思いはあります。

なるほど。確かに、凪ちゃんはいい子で応援したくなるんですが、自分の身近にいたらイラッとしちゃいそうです(笑)。

ですよねー。そこが最近、描いてると楽しくて。私、凪が身近にいたら足立(事あるごとに凪にマウンティングしてくる元同僚)みたいになっちゃうと思います。なんかジリジリさせられるし、自分のイヤなところが引き出されそうでランチも一緒に行きたくない(笑)。

『凪のお暇』1卷より 人生リセットしてボロアパートで新生活をスタートした凪
©コナリミサト(エレガンスイブ・秋田書店)

凪ちゃん不憫(笑)。少女漫画のヒロインって、いわゆる「愛されキャラ」が多くて、その子を中心に都合よく世界が廻っていくパターンが多いですよね。でも、コナリさんの場合は、凪ちゃんの不器用さをあたたかく肯定する描写もあるけど、すごくシニカルに突き放してしまう描写もある。それはやっぱり、現実はそんなわけないでしょ!っていうアンチ的な…?

 

そうですね。主人公のことっていつも好きになれないというか、天の邪鬼で、好きなんだけど突き放しちゃうようなところはあるかもしれません。なんだこいつ、恥ずかしい!みたいな。たぶん自分のことも入ってるからだと思うんですけど、照れちゃって、なかなか輝かせてあげられてないです。そろそろ旨味も味あわせてあげたいんですけど、変わっていく姿を描きたいので甘やかさないように…(笑)。愛しているからこそ厳しくしちゃう感じはあるかも。

1 2 >