Review

劇場アニメ『リズと青い鳥』を味わいつくすための音楽レビュー 『聲の形』の牛尾憲輔がめざした“息を呑むような空気感”とは?

劇場アニメ『リズと青い鳥』を味わいつくすための音楽レビュー 『聲の形』の牛尾憲輔がめざした“息を呑むような空気感”とは?

映画『聲の形』などで知られる京都アニメーション(監督:山田尚子)による劇場アニメ『リズと青い鳥』が、2018年4月21日より全国ロードショー中だ。吹奏楽部の高校生たちの青春を描いた武田綾乃の小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を原作とする本作。メインスタッフには映画『聲の形』と同じメンバーが集結しており、劇伴音楽も同作に続いて音楽家の牛尾憲輔が担当している。ここでは、牛尾への取材で得た発言を交えながら、『リズと青い鳥』の物語とそれに寄り添う音楽の魅力を紹介したい。

取材・文 / 北野 創


『響け!ユーフォニアム』のその後の物語

『リズと青い鳥』の主人公は、北宇治高校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルート担当の傘木希美という2人の少女。とある事柄がきっかけで疎遠となっていた2人が和解した後、3年生に進学して最後のコンクール出場を控える彼女たちの物語が中心となる。希美のことをかけがえのない存在として見ているみぞれと、コンクールの自由曲「リズと青い鳥」の別れの物語を「自分たちのようだ」と屈託なく話す希美――2人の繊細かつ緊張感のある関係性は、劇伴音楽のコンセプトにも大きく作用しているようだ。

「山田さんは〈デカルコマニー(転写画)〉という言葉を本作のキーワードであるとおっしゃっていて、これは心理学にあるロールシャッハテストのように(中央の線を挟んだ)右と左が似ているけど違う形の図形が描かれる手法なんです。それはみぞれと希美の関係性に繋がっていくコンセプトだと思うんですけど、僕はそれを実際に絵にして、(モートン・)フェルドマンみたいな図面楽譜として採譜したものを今回の劇伴のベーシックにしてるんです。採譜できないものは写真を撮ってデジタルデータに置き換えて、その配列を音に変えたりして。もちろん楽典的な意味で作った曲もあるんですけどね」(牛尾)

牛尾憲輔

この物語は、主人公のふたり以外に知られてはいけない、すごく秘めやかなお話だと思ったんです(牛尾)

現代音楽家のジョン・ケージが提唱した〈チャンス・オペレーション(偶然性の音楽)〉に倣うような手法を導入したそれらの楽曲は、アンビエントや環境音楽といった領域のサウンドに近い感触を持っており、どこか冷ややかで茫漠とした雰囲気のものが多い。

映画『聲の形』の劇伴でもノイズや残響音を効果的に用いていたが、前衛的な手法を取り入れつつ、それを物語に必然的な要素として整えるサウンドメイクは、ソロプロジェクトのagraph名義などで実験的なエレクトロニックミュージックにも取り組んできた牛尾だからこそできることだろう。また、一部の楽曲では何かを叩くような物音だったり、扉の閉まるような音が使われているのも、今作の劇伴の特徴だ。

「僕はシナリオを読んだときに、これは主人公のふたり以外に知られてはいけない、すごく秘めやかなお話だと思ったんですよ。それに、山田さんのロケハンの写真や絵コンテを見ると、主人公の二人を見ている視点が廊下の窓や音楽室の備品、生物学室のビーカーからのものになっていて、そういうものたちが見守っている視点のお話だと感じたんですね。なので実際に舞台になっている京都の学校に伺って、楽譜立てをバチで叩いたり、ビーカーを弓で引いたりして、物音のサンプルライブラリーを作ったんです。今回の劇伴にはそういう音も入っているから、彼女たちを見守る視点の音楽になってるんです」(牛尾)

1 2 >