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劇場アニメ『リズと青い鳥』を味わいつくすための音楽レビュー 『聲の形』の牛尾憲輔がめざした“息を呑むような空気感”とは?

劇場アニメ『リズと青い鳥』を味わいつくすための音楽レビュー 『聲の形』の牛尾憲輔がめざした“息を呑むような空気感”とは?

不思議だけどどこか懐かしい空気感が漂っている劇伴

それら実際の学校に赴いて録音した具体音を交えながら、基本は打ち込みをベースに制作していったという今回の劇伴には、たしかに無人の学校でひとりポツンと佇んでいるような、不思議だけどどこか懐かしい空気感が漂っている。音響面でも全体的に遠くで鳴っているようなエコー感がノスタルジックな効果を生んでおり、聴いていると思春期の不安定な心情や青春の甘苦い時間が甦ってくるようなリアリティーがある。

「映画『聲の形』のときも思ったんですけど、アニメは背景に描かれない部分は存在しないですけど、コンテの絵を見ていると、例えば廊下を曲がった先に描かれていない空間があると思うんですよね。僕も実際に学校に行って思ったんですけど、コンクリートの建物でリノリウム張りの廊下というのは音がすごく響くので奥行きが見えるんですよ。その響いている空間があることで学校が鳥かごのようにも見えるし、彼女たちの秘めやかな日々をギリギリな感じで浮かび上がらせることができるんじゃないかなと思って、部屋鳴りみたいなものも切らずに処理しました」(牛尾)

山田監督自ら作詞を担当し、豊かな余韻を与えてくれるエンディング曲

さらに、みぞれと希美の足音がそのまま音楽へと繋がっていくオープニングおよびエンディング楽曲も素晴らしい仕上がりだが、劇中音楽の中でひと際耳を惹くのはおそらくEDテーマとなる歌唱曲「girls,dance,staircase」だろう。ボーイソプラノの神秘的な歌声をフィーチャーしたこの楽曲は、山田監督が自ら作詞を担当。少女たちの儚くも甘やかな心を映したようなその内容は、牛尾が手がけたノスタルジックな響きを持つ楽曲の魅力も相まって、豊かな余韻を与えてくれる。

「山田さんからは『コンセプトワークを反映したボーイソプラノの曲を作ってほしい』と言われたんです。ボーイソプラノの性差のない感じは、さっき言った学校の視点みたいな主観と客観の入り混じるものとも合うし、素晴らしいと思いました。でも、ホーリーな感じだけど少女の秘めやかさもないといけないので、そのギリギリのラインを曲にするのが難しかったですね。山田さんの歌詞も、みぞれから希美への気持ちのようにも見えるし、実はもう少し大きな視点も入っているようにも見えるし、全体がダブルミーニングになっていると思うんですよ。繊細なうえにそういったレイヤーが重なっているのは素晴らしいですね」(牛尾)

みぞれと希美の心の機微に焦点を当てることで、吹奏楽に打ち込む高校生の懸命な姿を描く『響け!ユーフォニアム』とはまた違った形で、少女たちの青春模様を描写したアニメーション映画『リズと青い鳥』。映画『聲の形』で大きな評価を得た山田監督と牛尾憲輔のタッグによる、新たな代表作となることは間違いないだろう。

「主人公2人の秘めやかでひそやかな関係は、呼吸をするだけで崩れてしまうような、すごく繊細なものだと思うんです。アニメはそういうものを表現することが難しいアートフォームだと思いますけど、山田尚子という人はそれを本当にやり遂げる方なので、『リズと青い鳥』ではその息を呑むような空気を感じていただければと思います。もちろんずっと緊張しているだけというわけではなくて、可愛らしい部分や楽しい部分もあるので、観終わった後に心に残るような作品だと思いますね」(牛尾)

劇場アニメ『リズと青い鳥』

2018年4月21日全国ロードショー

【スタッフ】
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:髙橋博行
撮影監督:髙尾一也
3D監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

【キャスト】
鎧塚みぞれ:種﨑敦美
傘木希美:東山奈央
リズ/少女:本田望結
中川夏紀:藤村鼓乃美
吉川優子:山岡ゆり
剣崎梨々花:杉浦しおり
黄前久美子:黒沢ともよ
加藤葉月:朝井彩加
川島緑輝:豊田萌絵
高坂麗奈:安済知佳
新山聡美:桑島法子
橋本真博:中村悠一
滝 昇:櫻井孝宏

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

『リズと青い鳥』オフィシャルサイト

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