Interview

角松敏生、新作となる再構築作品を語る。「過去の心残りへの清算と止まることのない進化」とは!?

角松敏生、新作となる再構築作品を語る。「過去の心残りへの清算と止まることのない進化」とは!?

1988年にリリースされた、トランペッター数原晋を中心としたブラスセクションバンド、TOKYO ENSEMBLE LABのアルバム『Breath From The Season』は角松敏生プロデュース作品であった。そして大阪の名門ビッグバンド、アロージャズオーケストラとのライブでは、角松楽曲をスウィング化して大阪ビルボードで2015年から毎年開催している。
30年前に挑戦したジャズへの思い残しへのリベンジ。現在のスキルをもってブラスをフィーチャーしたビングバンドジャズへのリメイク作品が今回の『Breath From The Season 2018 ~Tribute to Tokyo Ensemble Lab~』である。サウンドはポップスをベースにしたアダルトなアーバンジャズであり、新機軸ながら素晴らしい演奏による再構築。最高傑作といえる仕上がりになっている。
さて、近年の角松敏生のアルバムには、本人によるロングランナーノーツが恒例。アルバムについての想いはもちろんのこと、各曲解説も十分に、ファンには嬉しい情報量で書かれている。プラス、初回限定盤のみ収録のインタビュー映像でもジャズに対して語られているが、今回は事前にそれらをすべて読んで、見たうえでのインタビューと本人にお願いして敢行した。

取材・文 / 井桁学

大きな目標に向けての重要な布石が今回のアルバム

前作の『SEA IS A LADY 2017』でのインタビューでは、次作はオリジナルアルバムを作るという話が出ていましたが…。

オリジナルって言いました? よく覚えていないなぁ(笑)。昨年の『SEA IS A LADY 2017』はセールスとして成功したので、僕にとっては『SEA BREEZE 2016』に続いて、2年連続ビジネス的戦略が功を奏したようです。次の期待がある中で、ただ新曲を作ることではダメだろうって思ったんですよね。単なる「何年ぶりの角松敏生オリジナルアルバム」というのはつまらないなと思って。僕自身は思い描いている1つの大きな目標があるんですが、機が熟して縁がつながったら達成できるとは考えているんです。それを2016年の暮れぐらいから本格的に道筋を立てて行こうと思い始めました。『SEA IS A LADY 2017』にしても、今回の『Breath From The Season 2018』のリリースにしても、そう言った1個1個の点が自分の構想しているその目標に対して線として最終的に結びついていく様をみせていけたらいいなと思って。
『SEA IS A LADY 2017』を作ったころは、その構想の軸がはっきりしてなかったから、そういう(オリジナルを作るっていう)受け答えだったんだと思うんですね。去年のツアーを始めたころからいろいろ目覚めたことや出会いもあって構想がわいてきたんです。ただ、それを仕掛けるにはいろんなものが熟さないといけないので、まだ点としての布石を打つ必要がある。その重要な布石が今回のアルバムなんです。

1988年のプロデュース作品であるTOKYO ENSEMBLE LABの『Breath From The Season』と、毎年恒例になっているアロージャズオーケストラとの共演もあって、今回ジャズアレンジのリメイクを記録に残したい思いがあったわけですね。

『SEA IS LADY』と同じ時代に出たTOKYO ENSEMBLE LABの作品に関しても自分としての思い残しがあったので、これは思い残しという共通のテーマで、2年連続でやるっていうのは、お客さんたちのフックにもなると思いました。そしてアロージャズオーケストラさんとの3年にわたってやってきたことが、TOKYO ENSEMBLE LABの思い残しに対して、自分がもうチャレンジしてもいいなと思えるようなキッカケでもあったんですね。さらにジャズ的なものとか、ビッグバンドとかそういったものが自分が思い描いている構想にすごくつながる布石だったりもするので、このキャリアはすごく重要だなとも思いました。これでいこうと思ったのは去年の夏でしたね。

昨年の『SEA IS A LADY 2017』のツアー中に今回のアイディアが固まったと。

ツアーも商業的にも成功したんです。全国回ってみて動員やお客さんの温度とか、非常にエネルギーがあったんですよ。そういう力を自分が新たにやりたいものへの追い風にしていきたいなと思い始めまして。だから次行くぞじゃなくて、より慎重になって手堅く布石を打っていきたいというのもありましたが。
いやぁ、それにしても、その大きな目標についてまだ何も語ってないですよね(笑)。ごめんなさい、それはまだ言えないんです。分かりやすく言うと、将来構想しているオリジナルアルバムを含めた新しい試みに対してその環境を良くするために、その前にどんどん温度を上げていって、お客さんのトルクも上げていきたいっていうことですね。そのような意味合いもあって今作のような作品を作ったとも言えます。

アロージャズオーケストラさんとのライブでは、すでに20曲ぐらい演奏されているとのことですが、今回の選曲は?

アローさんとのスコアは、「SHIBUYA」「I’LL CALL YOU」「RAIN MAN」「Can’t You See」「AIRPORT LADY」の5曲。それ以外は新しくプロダクションされたものです。

TOKYO ENSEMBLE LABの『Breath From The Season』に提供した2曲も収録されています。

この2曲は是非入れておきたいと思いましたね。インストの「Lady Ocean」は、「SEA LINE」と同じぐらいテレビでCMとして流れていたので、『SEA IS A LADY』に続くインスト第2弾と勘違いしている人がいたくらいです。「Morning After Lady」は、数原晋さんに参加してもらうということで、急遽決まったんです。

「Morning After Lady」の原曲は角松さんは作曲とアレンジでの参加でした。

原曲はラ・メール・ヒュームが歌っていますが、今回はピアノと僕自身の歌だけ。英語歌唱にトライアルしたのも今だからできたんでしょうね。そこに見事に数原さんのフリューゲルホーンのソロが入って、めちゃくちゃいい締まりになりましたね。

カバー曲が2曲収録されています。

「Nica’s Dream」はTOKYO ENSEMBLE LABのアルバムにも収録されているのですが、僕自身は制作に携わっていないんです。この曲をコントロールできるスキルはなかったですね。前田憲男さんの仕事にただただ感嘆するだけでした。今回そのオリジナルの前田さんのスコアで自分が歌ってそこへ切り込んでいくっていうことができたらいいなと思ったので、絶対入れたかったですね。あと、「A Night in New York」は大好きだったので絶対カバーしたかった曲なんです。これをやるときには女性ボーカルと2人で歌うイメージがずっとあったんで、機会を伺っていたというわけです。

あとは角松さんの既存曲のリメイクです。

スウィングジャズに特化した作品と思われるのもなんなので、ラテンやファンク、16ビートも入れたかった。選曲は悩んだんですけど。僕の独断と偏見(笑)で「Have some fax」「Gazer」も収録しました。

今回の「Nica’s Dream」は特に素晴らしかったです。ジャズのスタンダードナンバーとして名高く、インストでカバーするミュージシャンも多いですが、歌バージョンです。

前述したように30年前にTOKYO ENSEMBLE LABのインストを一聴したときには理解不可能でしたね。これはどういう構成になっているんだって。今、30年経って、検証してみるとずっと実はテーマを繰り返しているだけなんですね。ただ繰り返されるたびに毎回微妙にテンションコードやリズムアプローチを若干変えたりするから複雑に聴こえるんですね。前田さんアレンジのスコアはすごかったなと思いますね。テーマがあって、サックスソロがあって、トランペットソロがあって、サックスのソリがあって、ピアノソロがあって、ギターソロがあって、テーマに戻るという。それを微妙に変化させながら展開しているんですが、それが凄いなと思って。その凄さをを分かりやすくするために、今回は歌をフィーチャーしたんです。歌があるとテーマがハッキリ見えるし、劇的に説得力が増すんですよね。ものすごく難しいメロディですけど、吉沢梨絵と一緒にオクターブユニゾンで歌いました。

最終的に自分の中にストーリーがある

スキャットソロから始まるソロ回しも聴き応えがあります。

あそこをスキャットにしたのは、楽器に対抗するためですよね。30年前のオリジナルの前田さんのスコアはテーマがあって、サックスが全部、トランペットが全部、そしてサックスのソリだったんです。今回は歌があって、半分がスキャット半分がサックスになって、次が、半分がトランペットで半分がトロンボーン。サックスのソリがきて、ピアノソロがきて、ギターソロがきてっていう全員総出の構成にしました。

ライブ定番曲「TAKE YOU TO THE SKY HIGH」をラテン音楽のジャンルである、サルサにアレンジされました。

3,4年前ぐらいには構想があったんです。でもどういう場でどういうミュージシャンでやるかっていうのが、ずっと懸案だったんですが、中島徹くんという日本を代表するラテンピアニストと出会ったことと、大編成のビッグバンドでやれる環境があったので、ここでやらなきゃいけないなと思って。この曲は人気楽曲だったりするのもあって、お客さんにとっても話題性があるし、楽しんでもらえるファクターかなと思いました。

そして「A Night in New York」。

これは80年代の名曲ですよね。大体50代は涙ちょちょ切れの曲ですよ。ビッグバンドでやるなら自分でプログラミングしてね、オリジナルで叩いていた盟友の故・ヨギ・ホートンへの思いをはせながらプログラミングして、本田(雅人)君にはオリジナルを完コピで譜面を起こしてもらいました。これはやりたかったからうれしかったですね。

この曲もデュエットされています。

相方の女の子は、本当にずっと悩んだんですね。オクターブユニゾンで歌って、大サビになって僕は下にハモにまわるという構想はずっと前からあって。でも誰と歌うか。キュートな味が出せるっていう人。R&B歌ってますみたいな歌唱のイメージでもないし。絶妙に味が出せる人じゃないとダメでね。そこで今回の相方、コアラモード.のボーカルのあんにゅちゃんが出てくるんですが、もともと僕のライブによく来ているレーベルメイトで。去年も来て、これ聴いてくださいってCDを渡されて、うちのスタジオに置いていたんです。僕はあんまりそういうこと信じないんだけど、啓示っていうんですかね、ふってくる感じがありましてね。そのシングル(コアラモード.「大旋風」)のジャケットの顔が目にぐっと止まってひらめいたんです(笑)。そのCDを聴いたら、あ、この声いけるかもしんないって思ったんですよ。それで、やってみたらドはまりだったんですよね。

キュートな声質はオリジナルに近いですね。

若い子が一生懸命歌っているからよりオリジナルの白人の女の子のイメージになったんですよ。若い女の子が一生懸命背伸びしてやっている感じが、まさにこの歌の主人公そのものなので、ものすごくぴったりあったんですよね。あんにゅちゃんとメールでやりとりするようになって、本番はすごく楽しみです頑張りますって書いてあって、最後に一言、“でも私はキャビアの味を覚えないといけませんね”って(笑)。
面白かったなぁ…。彼女の感性。歌詞に出てくるんですけど、いわゆるバブリーなニューヨークの光景で、「今まで言い寄ってきた男はたくさんいて、いつもキャビアを振る舞ってもらったりリムジンで誘われたりするけど、私の心は動かないの」という女の子の話で、「でも私のことを本当に楽しませてくれる人がいたら何でもしてあげるわ」みたいな、いかにも80年代の都会の風情を感じさせる曲なんですよ。
だから、今の若い女性シンガーが歌うならかなり芝居っ気もないとダメなんです。それがすごくうまく当たって、めちゃめちゃ心地よかったですね。これは僕等世代のファンが聴いたらこの声、誰?誰?となると思いますよ。本当に嫌みがない個性的な声をお持ちですよね。

30年前のジャズへの思い残しにリベンジされていかがでした?

4ビート至上主義のジャズファンにとってみれば、こういうのはジャズじゃないっていうかも知れませんが、ミュージシャン側からみれば、4ビートかそうじゃないかだけで、ジャズはアプローチの仕方のことじゃないかなって思いますね。4ビートはキックによるビートの点がなくて、ベースが全部グルーヴの中心で点を作って、点から点にいくのを導いていくっていうメソッドがあると思います。そのメソッドに入り込んでくるとキックの点がなくてもあたかもそこにキックがあるように聴こえてくるんですよね。シンバルのシズルと、ベースのランニングだけで、グルーヴが聞こえてきだした時はたまらなく嬉しかったですね。

今回のツアーはビッグバンドになるのですか?

そうですね。4リズム(ドラム、ベース、ギター、ピアノ)に管楽器が13人編成(トランペット4、トロンボーン4、サックス5)です。昔の歌謡ショーみたいですよね(笑)。いや、豪勢なライブになると思いますよ。

今回のアルバムは、大きな目標への布石のためのリリースですが、その大きな目標というのはいつごろ教えていただけそうなのですか?

来年か再来年ですかね。東京オリンピックの喧噪が落ち着いたところぐらいを狙ってやっていきたいですね。最終的に自分の中にストーリーがあるんですね。これをまずやって、これは実はここにつながっていて、最終的にここにつながる。その中にオリジナルアルバムがあるんですけど。このオリジナルアルバムは実はこれをやるためのオリジナルアルバムでしたっていうようなものがあるんです。
まだまだいろんな情報を集めなきゃいけないし、人との出会いもしないといけないし。実現するための現実的なオペレーションを考えていかないといけないので。とりあえず、来年何をやるかっていうのは、今回のアルバムの売れ行きやツアーの動員数とかによって。まだまだなのか、GOするのか。GOだったら次は間違いなくオリジナルアルバムでしょう。

ライブ情報

<TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018 “BREATH from THE SEASON”>
5月20日(日)大阪・オリックス劇場・大ホール
5月22日(火)愛知・日本特殊陶業市民会館・中ホール
5月26日(土)宮城・トークネットホール仙台・大ホール
6月1日(金)福岡・福岡市民会館
6月9日(土)埼玉・大宮ソニックシティホール
6月16日(土)広島・NTTクレドホール
6月17日(日)岡山・岡山市立市民文化ホール
6月22日(金)長野・レザンホール(塩尻市文化会館)
6月23日(土)静岡・沼津市民文化センター・大ホール
6月29日(金)東京・中野サンプラザ
6月30日(土)東京・中野サンプラザ

<TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018 “Tripod IX”>
2018年7月14日(土)、15日(日) 長野・軽井沢大賀ホール
14日開場:18:00/開演:18:30
15日開場:16:00/開演:16:30

角松敏生

1960年 東京都出身
1981年6月、シングル・アルバム同時リリースでデビュー。以後、彼の生み出す心地よいサウンドは多くの人々の共感を呼び、時代や世代を越えて支持されるシンガーとしての道を歩き始める。
1993年までコンスタントに新作をリリース、いずれの作品もチャートの上位を占める。同時に杏里、中山美穂、らのプロデュース作も上位に送り込んだ角松だったが、アーティスト活動を『凍結』。しかしこの“凍結期間”は、「プロデュース活動」を充実させた。また、1997年にNHK“みんなのうた”としてリリースされたAGHARTA(アガルタ :角松敏生が結成した謎の覆面バンド )のシングル「 ILE AIYE(イレアイエ)~WAになっておどろう~」は社会現象ともいえる反響を集め大ヒット。

『凍結』から約5年、角松敏生は遂に自身の活動を『解凍』することを宣言。1998年5月18日、活動を休止した同じ日本武道館のステージに再びその姿を現した。翌年リリースしたアルバム『TIME TUNNEL』はチャート初登場第3位を記録し、変わらぬ支持の大きさを実証してみせた。
その後『INCARNATIO』、再びスティーヴ・ガッドを起用した角松サウンドの集大成アルバム『Prayer』、大人の遊び心に溢れた『Summer 4 Rhythm』『Citylights Dandy』、30周年を記念したリメイク・ベストアルバム「REBIRTH 1」など、作品ごとに新しいコンセプトで挑むアルバムやライヴDVDなど、コンスタントにリリースを重ねている。  その妥協を許さないスタンスとクオリティで常に音楽シーンの最前線で活動をしている。
2016年デビュー35周年企画として『SEA BREEZE 2016』のリリースを皮切りに、7月2日には横浜アリーナでの35周年記念ライブ「TOSHIKI KADOMATSU 35th Anniversary Live 〜逢えて良かった〜」を大成功させた。

2017年も精力的な活動を行っており、5月に『SEA IS A LADY 2017』のリリース、そして『TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 “SUMMER MEDICINE FOR YOU vol3”〜SEA IS A LADY〜』で大成功を収める。
2018年4月25日『「Breath From The Season 2018」~Tribute to Tokyo Ensemble Lab~』をリリースし、5月からは全11公演のツアー「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018 “BREATH from THE SEASON”」を敢行、7月には「TOSHIKI KADOMATSU Performance 2018 “Tripod IX”」を行う。

オフィシャルサイトhttp://www.toshiki-kadomatsu.jp/