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映画から学ぶ世界の“いま=社会問題” 。『フロリダ・プロジェクト』『ペンタゴン・ペーパーズ』『君の名前で僕を呼んで』…、この春公開の映画を一挙紹介!

映画から学ぶ世界の“いま=社会問題” 。『フロリダ・プロジェクト』『ペンタゴン・ペーパーズ』『君の名前で僕を呼んで』…、この春公開の映画を一挙紹介!

今年3月に開催された映画の祭典アカデミー賞ではギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞など4部門を受賞したが、監督賞に輝いたデル・トロ監督はトロフィーを手に「私は移民です」と語るところからスピーチを始めた。さまざまな国と地域から人々が集まるアメリカは人種や宗教も異なる人々が共に暮らす場所。おのずとそこで製作される映画も、さまざまな背景を持つ人々の考えや問題、苦しさが反映しされる。近年は性別や貧困に対する運動や、国民の自由に対する危機感も高まっており、今年のオスカー候補作を眺めるだけでも、近年、話題になっている問題を扱っている作品が多いことがわかる。

とはいえ、社会問題について描いている作品だけが、”いま”を反映しているわけではない。公開中の『君の名前で僕を呼んで』は今年のオスカー脚色賞を受賞した映画で、17歳と24歳の男性が出会い、恋に落ちていく物語を描いているが、本作は同性愛やLGBTの問題を扱う作品ではなく、性別や年齢に関係なく誰もが経験する恋愛の喜びや迷い、痛み、苦しさを繊細な演出と、俳優陣の見事な演技で綴っている。

一方、作品賞候補になった『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はタイトルの通り、アメリカ政府の最高機密文書を入手し、報道しようとする新聞記者たちと、彼らを支える女性社主の物語で、”報道の自由”をめぐるスリリングなドラマが描かれるが、実際に映画を観ると、名女優メリル・ストリープが演じる女性社主のドラマも重要な役割を果たしていることがわかる。女性の社会進出が今ほど進んでいなかった1971年にワシントン・ポストの社主を務めるキャサリンは、男だらけの社会の中で無視され、軽く扱われ、自身の意見が聞き入れられない中で戦い、圧力にも負けずに自身の進むべき道を見出して、重要な決断を下していく。2018年の私たちは、この映画の状況を”それは昔の話だね”と言い切れるだろうか?

社会問題について描いた作品だけが何かを教えてくれるわけではない。映画館でじっくり作品を鑑賞すると、そこから世界の”いま”が垣間見えることがあるはずだ。

フィクションの中に隠された“現在進行形”の現実社会の問題

『シェイプ・オブ・ウォーター』© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

ドキュメンタリー映画や実話を基にした作品でなくても、私たちは世界の問題や現状について学ぶことができる。先ほど紹介した『シェイプ・オブ・ウォーター』は、1962年のアメリカを舞台に、発話することができない女性と、アマゾンで神として崇められていた不思議な生物が出会い、恋に落ちるドラマだが、本作はファンタジックなラブストーリーでありながら、絵空事ではなく徹底的に“現実社会の問題”を描いていることがわかる。異形な存在と出くわした時の人間の態度、孤独な立場に置かれた人に対する想い、周囲から過剰に”男性的”や”女性的”な役割を期待されることの重圧……観客はこの映画からさまざまな“現在進行形”のメッセージを受け取れるだろう。

また、アカデミー賞で脚本賞を受賞した『ゲット・アウト』は、コメデイとホラーと社会問題が混ざり合った衝撃作だ。アフリカ系アメリカ人の男性が恋人の実家にあいさつに行くところから始まるこの物語は、ラストまで次から次へと衝撃的なことが起こるので、まだ観ていない人は可能な限り情報をシャットアウトして、DVDを入手することをおすすめする。ちなみに映画館ですでに観た人もDVDには”劇場版とは異なるエンディング”が収録されているので、これを観て、さらに本作が描いている”社会問題”について考えてみてもいいだろう。

“知らない”が発見できるから映画は楽しい!

遠いイタリアで起こった男性同士の恋のドラマが、男女関係なく人々の心をうつことがある一方で、私たちは自分が見たこともない風景、考えもしなかった問題に出会いたくて映画館に足を運ぶことがある。

間もなく公開になる『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、あの夢の国”フロリダ・ディズニー・ワールド”のすぐ外側にある安モーテルが舞台。そこには定まった家を持てずにその日暮らしをしながらモーテルを転々としている人々が暮らしていて、主人公の女の子ムーニーの”夢のような日々”が描かれる。本作の監督ショーン・ベイカーは本作を手がけるまで、フロリダにこのようなエリアがあることを知らず、現地に行ったり、調べたりする中でフィクションを交えて脚本を執筆したそうだ。”知らない”ことは悪いことや、敬遠するべきことじゃない。知らないから人は興味を持ったり、その問題について考えることができるのではないだろうか。

ほかにも、過激派組織”IS”の支配下にある街で手作りラジオ局を始まる若者たちを描いたドキュメンタリー『ラジオ・コバニ』や、軍事政権が人々を弾圧している模様を世界に伝えようと奔走する人たちのドラマを実話を基に描いた『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』、フィギュアスケート界最大のスキャンダルとその背後の人間関係を容赦なく描く衝撃作『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』など、観ている時は楽しく、同時に考えさせられる映画が続々と公開されている。

ワクワクして、涙して、見終わった後には考えさせられる。そんな映画が世界にはたくさんある。休暇中に少し余裕のある人は映画館に出かけて、知らない世界を覗き、少しだけ考えてみると、きっと豊かな時間が待っているはずだ。

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