2018年春アニメ主題歌特集  vol. 4

Interview

【インタビュー】声優・悠木碧が語った歌手活動の信条。アニメ『ピアノの森』での楽曲作りに垣間見る“演技者としての”新たな目標とは?

【インタビュー】声優・悠木碧が語った歌手活動の信条。アニメ『ピアノの森』での楽曲作りに垣間見る“演技者としての”新たな目標とは?

アニメ『ピアノの森』のEDテーマ「帰る場所があるということ」を歌うのは、歌手活動も精力的に行っている声優の悠木 碧。歌の活動と声の芝居に相互作用があることは多くの声優が語るところだが、なかでも彼女の言葉はとても豊かで歌の表現にもその説得力が表れている。その背景となる考え方をうかがってみよう。

取材・文 / 日詰明嘉


歌詞がない状態で聴いても、森の木漏れ日みたいなものが想定できる

『ピアノの森』のEDテーマはコンペで決まったそうですが、悠木さんが「帰る場所があるということ」を選ばれた決め手はどんなところにありましたか?

悠木 碧 アニメの制作サイドからは「温かくて本編にあったことを消化する、ほっこりするような明るい気持ちで視聴者の方に見終えてほしい」というオーダーがありました。

この曲は歌詞がない状態で聴いても森の木漏れ日みたいなものが想定できるような様々な表情が入っていたんです。Aメロの「風の通り道 梢を揺らして」の部分では、葉っぱが光を遮るようなキラキラした音が想像つく感じがしたり、大地から肥沃の匂いがしたりして、それでいて大変爽やかだったところが良いなと思い、選ばせていただきました。

王道を掴みつつ、その範囲で遊んでくれているのがすごく良くて、それって私が歌手活動をさせていただくにあたっての「用意してもらった条件と縛りの中でなるべく遊ぶ」という信条に近いなと思って。

表現のしがいがありますね。

悠木 そうですね。先に決められている要望をすべて飲み込んだうえで「僕はこれが可愛いと思った」という表現がすごく入っていて、プロだしアーティストでもあるという感じがすごく良いなと思いました。

そうした歌の中で幅のある表現をしていくところと、さまざまな条件のもと声優としてお芝居をしていくことにはどこか共通点がありそうですね。

悠木 そうですね。 声優のお仕事というのは舞台やドラマの役者さんよりもどうしても限られた状況でのお芝居になります。その代わり別の誰かと合作してキャラクターを作っていくことができます。それは捉え方によっては縛りになるとは思うのですが、その中でいかに遊べるか、という考え方もあると思うんです。ちょうどゲームの縛りプレイのように(笑)。

だから私は声優としてお芝居をする方が楽しいと思っていて、それと同じものが今のソロ活動の歌の中にある気がしています。「この中で遊んでください」と提示されることにおいては得意分野ですから、そこで活かせる部分もありますし、勝手が違う部分もあります。アニメーションだと多くの方と一緒に作っていくのですが、ソロの歌手だと主人公を語らうのは私になりますので、そういう意味では自分の負う責務が大きくなりますね。

多幸感に満ち溢れた歌もいいなと思えるようになった曲

「帰る場所があるということ」の歌においてはどんな点を留意されましたか?

悠木 今回の曲はどちらかというと引き算の作り方をしていて、想像の余地を待たせたり余白を作って聴いた人が心の中で想像して初めて完成するような歌にしたいなと思いました。

今までたくさんの曲を歌わせていただきましたが、こうしたアプローチは私の中で初めての試みでした。それとは逆に「盛る」ことは表現を積み重ねていけば良いのですが、引いていくのはバランスが難しかったです。お芝居の中で引き算をした経験はこれまであったのですが。強い感情を訴えるのではなく、「このメロディを聴いていると心地良いな」とか「この人の声を聞いていると何か温かいな」といったモヤっとしたもので良くて、私はその材料を配布するだけで、そこでお客さんが何を作るかという形にしてみようと。

「こんなにキラキラなリボンと包装紙を準備したんですけど、みんながこれで何を作る?」という状態なんです。それぞれに受け取り方があって良いと思うし、みんなが「ただいま」と言って帰ってきた場所の BGM になったらいいなという気持ちで歌ったんですよね。「なんか、歌うのが楽しい」「みんなに聴いてもらうのも幸せ」という多幸感に満ち溢れた歌もいいなと思えるようになった曲かなと思います。

収録はテイクを重ねたほうでしたか?

悠木 その引き算の感覚がどの程度かという感覚が掴めてからはかなり早かったと思います。あと、ぶつ切りにすると感情が途切れてしまうのでこの歌は全部の流れで歌いたかったんです。それもあって、スイッチが入ってからは早かった感じがします。最初はもう少し盛っていたのですが、ディレクターさんに「ちょっと重たいかもしれない」と言われて、一度冷静になってどのぐらい引き算をしようかなというバランスを自分の中で整えていって、いちばんまとまりが良いところが見えてからは早かったですね。

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