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明治23年の東京を生きた若者たちの恋と青春。舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』観劇レポート

明治23年の東京を生きた若者たちの恋と青春。舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』観劇レポート

舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』が絶賛上演中だ。原作は、畠中恵の人気小説『若様組まいる』と『アイスクリン強し』(共に講談社文庫刊)。文明開化の花咲く明治23年の東京を舞台に、当時では珍しい西洋菓子店を開いた主人公のもとに舞い込む、様々な騒動を描いた連作短編集だ。舞台版も、時代物ながらポップな原作の持ち味はそのままに、うららかな春にぴったりの軽やかな作品に仕上がっている。ほかの舞台とはひと味違うスイーツな余韻をぜひ劇場で堪能して欲しい。

取材・文 / 横川良明

西洋菓子店を舞台に次々と騒動が勃発! 新時代に生まれた若者たちの爽快青春群像劇

近年、舞台で時代物を取り上げる場合、見せ場になるのはド派手な殺陣シーン。あるいは、史実の余白をついた大胆奇抜な創作劇が人気を博している。

だが、この舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』はひと味違う。一部アクションシーンは登場するが、決してそれが物語の根幹ではないし、伊藤博文に代表されるような明治時代の有名人が登場するわけでもない。市井の人々の名もなき日常が描かれるだけだ。けれど、そこに本作の面白さが詰まっている。

明治23年と聞くと大昔のようにも感じるが、現代から数えれば128年前。今自分たちのいる場所の地続きに、彼らはいる。自分たちのほんの少し前の先祖たちも、彼らと同じように江戸から東京へと名前が変わった、あの街で生活していたのかもしれない。そう、この舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』は、どこにでもいる若者たちが恋や夢に模索する姿を描いた、ごく普遍的な青春グラフィティだ。

その中心に立つのは、主人公の皆川真次郎――通称ミナ(玉城裕規)だ。築地の居留地で孤児として育ったミナは、現在、西洋菓子店の店主としてスイーツづくりに取り組んでいる。大政奉還から23年、その間に廃刀令が発布され、士農工商は廃止。街には鉄道が開通し、貨幣の基準単位は“両”から“圓(円)”に切り替わった。たった23年の間に、文化も価値観も激変した端境期に彼は生まれ育った。

だからだろうか。ミナはとても伸びやかだ。まだ本格的な西洋菓子店がほとんどない時代に店を開いたのも、ただやりたいことがやりたかったから。旧来の慣習や価値観にとらわれないミナに、新時代の息吹を感じる。

明治23年と平成30年。時代は変われど、若者たちが生きる姿は変わらない

ちょうど今から23年前と言えば、1995年。阪神大震災に地下鉄サリン事件。次々と重大な災害や事件が発生し、社会は不安の渦中にあった。その一方で、野茂英雄が大リーグに挑戦し、トルネード旋風を巻き起こしたのもこの年。Windows95が発売され、一気に家庭にもパソコン文化が広がった。

そう思うと、私たちもまたミナたちと同じように激動の時代を歩いてきたのかもしれない。急速に進むデジタル革命。23年前には想像できなかったIT社会を私たちは生きている。一方で、遠い国の出来事だと思っていた戦争の気配は年々色濃くなってきた。先のことなんて何も予想できなくて、未来はいつも不安が募る。

でもそんななかでも、いつだって若者は元気だ。「夢を持った若者が少なくなった」なんて言われる現代にだって、自分たちの将来と必死に向き合い、何かを掴もうとする若者はたくさんいる。その姿が、劇中のミナや、旧幕臣の子息で現在は巡査を務める長瀬健吾(入江甚儀)、大商家の令嬢ながらおてんば娘の小泉沙羅(宮﨑香蓮)に重なるから、時代背景はまったく違うはずなのに、不思議と愛着や共感が湧くのかもしれない。彼らを見ているだけで、なぜか元気や希望を感じるのかもしれない。

お人好しのミナは次々と厄介ごとに巻き込まれる。だけど、彼はどんなときもまるで屈託がない。血の気の多い幕末期の若者とは正反対の、平和的なキャラクターだ。それでいて、物腰に似合わぬ男気もある。思わぬ襲撃に遭い、大事なパーティのための料理を台なしにされたあとも、ミナは決して諦めない。知恵を振り絞って新たなメニューを考案し、仲間たちに指示を飛ばす。その姿に、在りし日の武士に似た男の気概と頼もしさが覗く。

長瀬ら若様組も、巡査らしく凜然と制服に身を包んでいるが、中身はどこにでもいる年頃の男の子たち。美人の紫堂志奈子(井上小百合)に熱を上げたり、社交ダンスにドキドキしたり。恋に胸ときかめせる小山孝(安川純平)の姿なんてなごみ度MAX。見ているだけでほのぼのとしてくる。そんなキャラクターの愛おしさが、本作の魅力だ。

持ち込まれる問題も、お家騒動だったりコレラだったり、ひとつひとつを見るとハードなものもあるが、作品全体としては決してシリアスになりすぎず、原作の畠中恵が持つハートフルな空気感が保たれているので、観ていて心地いい。肩の力を抜いて楽しめる、GWにぴったりの一本と言えそうだ。

若手俳優から可憐なヒロイン、個性派、実力派まで百花繚乱の役者陣

主人公・皆川真次郎 役の玉城裕規は、どちらかと言うとトリッキーな個性が光るタイプの俳優だが、本作では受けの演技でしっかりと芝居全体の土台をつくり、役者としての器用さ、堅実さを見せつけた。前作から続投となる宮﨑香蓮は健康的な清潔感があって好印象。そして、最初は憎まれ役だった志奈子が徐々に愛すべきキャラクターに見えてくるあたりは、井上小百合のうまさが光った。

入江甚儀、塩野瑛久、中村優一、安川純平と若様組の俳優たちもそれぞれに良いが、突出した個性を見せたという意味で印象的だったのは、牧忠行 役の和合真一、相馬小弥太 役の小早川俊輔、そして玉井和馬 役の鎌苅健太だ。

和合真一は若手俳優の中でもコメディセンスは随一。笑いをとることに対する貪欲な姿勢が、観客に愛される所以だろうか。彼が出てくるだけで何か面白いことをしてくれるんじゃないかという期待が高まる。このタイプの俳優は同世代の中でそう多くないので、今後も大いに活躍の場を広げて欲しい。

小早川俊輔は子犬のように愛らしく、出てくるだけで目尻が垂れる。感情表現も豊かで、硬軟どちらも対応できるところに、役者としての足腰の強さを感じる。

そして何と言っても鎌苅健太の存在感が大きい。よく通る声に、メリハリの効いた演技。緩急自在で、ちょっとした抜きどころもうまいから、なんてことはないひと言でもきちんと笑いを生むことができる。ちょっとイモっぽい薩摩弁もギャップがあって面白いし、それでいて歌唱場面では実力者としての腕前もきちんと見せて言うことがない。どの舞台でも的確な仕事をこなす、安心感のある俳優のひとりだ。

そこに粟根まこと、伊藤裕一、小野寺ずると演技派が脇を固め、布陣は盤石。個人的には小野寺ずるのなんとも言えない味のある演技が印象に残った。小劇場界で注目の女優だが、今後はこうした大きい舞台でもどんどん顔を見る機会が増えるだろう。

舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』は5月6日(日)までサンシャイン劇場にて上演される。待ちに待った大型連休、羽根を伸ばして楽しむのにうってつけの一本。ぜひGWの想い出のひとつにして欲しい。

舞台『若様組まいる~アイスクリン強し~』

2018年4月27日(金)~5月6日(日)サンシャイン劇場

STORY
時代は文明開化に華やぐ明治時代。舞台は、皆川真次郎が開いた西洋菓子店〈風琴屋〉。巡査勤務の合間にたむろする若様組やマドンナ的存在の沙羅の平和な日常に、大商人の小泉琢磨が仕掛ける事件が次々と巻き起こる! はてさて、皆川真次郎の運命やいかに!?

原作:『若様組まいる』『アイスクリン強し』畠中恵(講談社文庫刊)
脚本・演出:村上大樹

出演:
皆川真次郎 役:玉城裕規
長瀬健吾 役:入江甚儀
園山薫 役:塩野瑛久
福田春之助 役:中村優一
小山孝 役:安川純平
小泉沙羅 役:宮﨑香蓮
紫堂志奈子 役:井上小百合(乃木坂46)
牧忠行 役:和合真一
相馬小弥太 役:小早川俊輔
安野一馬 役:橋本全一
相馬格乃進 役:武子直輝
西宮浩光 役:松波優輝
加藤智恵子 役:小野寺ずる
玉井和馬 役:鎌苅健太
丹羽記者 役:伊藤裕一
小泉琢磨 役:粟根まこと

アンサンブル
木田晴香
中野佑香
疋田ちはる

オフィシャルサイト

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