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明治座に咲いた、満開の桜。和田雅成らが築き上げる新たな“薄ミュ”──始動したミュージカル『薄桜鬼 志譚』とは

明治座に咲いた、満開の桜。和田雅成らが築き上げる新たな“薄ミュ”──始動したミュージカル『薄桜鬼 志譚』とは

ミュージカル『薄桜鬼』の第2シーズンとして、ミュージカル『薄桜鬼 志譚』が始動した。4月21日(土)~23日(月)新神戸オリエンタル劇場の神戸公演にて開幕し、4月28日(土)~5月1日(火)には東京・明治座にて特別公演を上演。“新生”らしい勢いの中に、脈々と受け継がれる“薄ミュ”への真摯な姿勢が感じられるステージを披露した。客席からの“薄ミュ”愛が、広い劇場を包み込んでいた明治座初日の模様と、4月26日(木)に行われた囲み会見のレポートをお届けする。

取材・文 / 片桐ユウ

和田雅成の姿勢と、“誠”を信じて突き進む土方歳三の生き様が重なって見えた

4月の末、函館が桜の開花宣言をした。今まさに桜が咲き誇っている五稜郭は、新選組副長であった土方歳三の終焉の地である。

時を同じくして、明治座にも桜が咲いた。それも満開に。

情報解禁以来、ファンが首を長くして待っていたミュージカル『薄桜鬼』の11作目。タイトルは幕末を駆け抜けた新選組の志士たちの“志の物語”の意味を込めて、ミュージカル『薄桜鬼 志譚』と改められた。

ひとりの少女が新選組と出会ったことから始まる恋愛アドベンチャーゲーム『薄桜鬼』を原作に、ステージ上で“殺陣×ダンス×歌”を融合させた内容が話題を集め、大人気シリーズとなったミュージカル『薄桜鬼』。“薄ミュ”の愛称で親しまれ、初演の2012年の「斎藤 一 篇」から2017年の「原田左之助 篇」までにシリーズ10作品を上演している。

これまでのシリーズで脚本・演出を担当していたのは「少年社中」主宰の毛利亘宏。今回は音楽の佐橋俊彦、振付の本山新之助は継続。殺陣には六本木康弘を迎え、脚本は前作の「土方歳三 篇」と同じでありながら、演出を「AND ENDLESS」主宰の西田大輔に託して“新シリーズ”としての上演を迎えた。

東京公演は“特別公演”と銘打ち、若手俳優を中心とした舞台、2.5次元ミュージカルでは珍しい明治座での上演。普段とは客層が変わった明治座だが、これから始まる舞台を待ちわびる観客の空気は劇場の初日共通の色合いである。そして、満席の劇場でミュージカル『薄桜鬼 志譚』は開幕を迎えた。

幕開けは和太鼓の力強いリズム。新選組の面々がスポットで浮かび上がり、花道のスッポン(切り穴となっており、下から登場できる舞台装置)から土方歳三(和田雅成)が登場した。そして、新選組の隊士たち、沖田総司(山﨑晶吾)、斎藤 一(納谷 健)、藤堂平助(樋口裕太)、原田左之助(小鳥遊 潤)、永倉新八(岸本勇太)、山南敬助(輝馬)、山崎 烝(椎名鯛造)、近藤 勇(井俣太良)らとオープニング曲を力強く歌い上げる。

舞い落ちる桜の中で瞬くような刀のきらめきと、殺陣の格好よさは健在。それでいて、これまでのシリーズを踏襲しているわけではない不思議な瑞々しさが序盤から迸っていた。

ストーリーは、旧幕軍のひとりとして転戦を続け、北の地・蝦夷まで辿り着いた土方歳三が、総督である大鳥圭介(橋本汰斗)に過去の戦いを語り聞かせるところから始まる。

回想と土方の現在が入り交じりながら話は進む。その中で清い光を放つように現れるのがヒロインの雪村千鶴(森 莉那)だ。連絡の途絶えた父・雪村綱道(川本裕之)を探して京都を訪れた千鶴は、新選組の秘密を偶然に目撃したことから、土方の小姓として彼らと行動を共にすることになる。

幕末に起こった戦いの中心部にいた新選組の軌跡を追いつつ、物語は新選組の秘密と千鶴の秘密を絡み合わせて解き明かされていく。

千鶴を巡って新選組と因縁が芽生える、鬼の一族の風間千景(中河内雅貴)、天霧九寿(兼崎健太郎)、不知火匡(校條拳太朗)も登場し、新選組内では山南の負傷、沖田の労咳、斎藤と藤堂の離反……と怒涛の展開を見せるが、回想という形を取ることによって、謎がよく整理されている。

さらに、ほどよく挿入される笑いどころからは新選組の絆が伺え、スピーディーな運びの中にあっても新選組に感情移入ができる。メリハリをきかせた“動”と“静”の芝居に終始惹きつけられた。

新選組キャストは、誰ひとり埋没しない存在感。ひとりひとりがドラマを持つ新選組隊士に、しっかりと血を通わせていた。中でも、藤堂平助を演じる樋口の卓越した身体能力と切なげな表情が印象的。

鬼の一族たちの迫力も、この舞台に重厚感を与えている。土方と対峙する風間千景を演じるのは、久々の2.5次元ミュージカル出演となった中河内雅貴。ともすれば浮世離れになりそうなプライドの高さを持つ風間に“「幕末」を生きる鬼”としてのリアリティを持たせて好演していた。

時代と己の出生に翻弄されるヒロイン・千鶴 役の森が持つ、透き通るような歌声が心地いい。序盤は健気なイメージが強い千鶴が、次第に土方に惹かれ、彼に欠かせない存在になっていく様はまさに“ラブストーリー”。一幕の戦いでは斬り合いから目を逸らしていた千鶴が、二幕のクライマックスで繰り広げられる一騎打ちをまっすぐに見届ける姿に胸を打たれた。

そして、主演の和田雅成が演じる土方歳三。様々なドラマで数々の名優が演じてきた“土方歳三”だが、和田の土方は、その誰とも被ることなく、それでいてこちらが思う土方歳三の良さをすべて持ち合わせている人物だった。田舎で武士になることを夢見て以来、旧友の近藤 勇を大将にすることを目指して奮迅する土方歳三。激動の京都で新選組を率いるために“鬼の副長”と呼ばれるほどに厳しく振る舞う土方歳三。そして運命の女性と出会い、不器用な優しさをこぼれさせていく土方歳三。

シリーズの“新生”で主役を張ることを本人がどのように捉えていたのかは、役を演じている舞台上では当然語られない。だが、全身全霊をかけて作品に打ち込む和田の姿勢と、“誠”を信じて突き進む土方歳三の生き様が重なって見えた。また、場面によって大きくも小さくも見える、和田の土方歳三はとても魅力的だった。

明治座ならではの花道、セリ、きらびやかさの魅せ方、そして血しぶきに代わって舞い上がる桜の花びらと照明の美しさも演出の素晴らしさとして挙げておきたい。

2013年に上演された「土方歳三 篇」の脚本の上手さに、演出の西田が持つ“見せ場”を引き立たせる手腕と、新旧入り交じるキャストたちの熱演が重なり、新しい情趣を持ったミュージカル『薄桜鬼』が誕生したのだと感じた。

このあとは、4月26日(木)に行われた囲み会見の模様をお届けする──。

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