横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 3

Column

天才たちに立ち向かう唯一最強の武器の名は“絆”

天才たちに立ち向かう唯一最強の武器の名は“絆”
今月の1本:舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONE

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は、舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONEをピックアップ。ウインターカップ本選に突入し、ますます過熱する戦いを語り尽くします。

文 / 横川良明

凡人VS天才。その真っ向勝負が、あなたの心に火をつける

『黒子のバスケ』には様々な天才が登場する。その代表格が中学バスケの頂点に君臨した超強豪校・帝光中の「キセキの世代」。中学バスケを制した5人のスーパープレイヤーを打ち倒すことが、本作のメインプロットだ。「10年に1人の逸材」と呼ばれる天才たちに挑むのは、主人公・黒子テツヤ(小野賢章)ら誠凛高校の選手たち。黒子は「キセキの世代」の元チームメイトであり、彼らから一目置かれた「幻の6人目(シックスマン)」。だが、決して天才というわけではない。バスケ技術は平凡。運動能力はむしろ平均以下。持ち前の影の薄さを活かした特殊な戦術で、かつての仲間たちと火花を散らせる。

そう、『黒子のバスケ』は、凡人が天才に真っ向勝負を挑むドラマだ。勝算なんてなくても、たとえ実力はかけ離れていても、逃げずに、堂々と立ち向かう。そのまっすぐさに人は胸を打たれる。そんな眩しい汗と情熱の煌めきを存分に楽しめるのが、現在上演中の舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONEだ。

前半の山場は、「キセキの世代」のエース・青峰大輝(小沼将太)擁する桐皇学園との一戦だ。桐皇学園と言えば、インターハイ予選で敗北した相手。しかもダブルスコアの大敗だ。黒子ら誠凛高校のメンバーにとっては、才能の差を見せつけられた痛恨の試合だった。いつか必ず倒さなければいけない宿敵との再対決。絶望的な敗戦を乗り越えた誠凛高校の渾身のリベンジが繰り広げられる。

そして後半の山場は、「キセキの世代」のセンター・紫原 敦(鮎川太陽)ら陽泉高校との初対決だ。この陽泉高校との戦いには、黒子と紫原の因縁のみならず、兄弟分として同じボールを追いかけた火神大我(安里勇哉)と氷室辰也(斉藤秀翼)、さらに中学時代に対戦した過去を持つ木吉鉄平(河合龍之介)と紫原、といった様々な糸が絡み合い、熱い人間ドラマを編み上げていく。

チームは守るものではなく支え合うもの。かつての敗者の逆襲が始まる

本作がこれだけ爽快な感動をもたらすのは、天才VS凡人という構図が、観客一人ひとりの人生に色濃く重なり合うからだろう。たとえば、誠凛メンバーの中で青峰に1on1で勝てる者は恐らく誰もいない。「キセキの世代」との対決を通じて、徐々に天才性を覚醒させていく火神でさえ、まともに青峰と勝負をすれば、そう容易くは勝てないだろう。

紫原に至っては、その屈強無比な「破壊の鉄槌 (トールハンマー)」によって、誠凛メンバーはなす術もなく吹き飛ばされる。「イージスの盾」の異名をとる鉄壁の守備に、点をもぎ取ることさえ不可能に見えた。

だが、誠凛は諦めない。何度コートに這いつくばっても、必ず立ち上がり、走り出す。かなわない相手だからと言って、勝負を投げ出したりしない。かなわない相手だとわかっていても、1%の可能性を信じて喰らいつく。おおむね天才ではない観客は、そんな凡人たちの奮闘に、忘れかけていた勇気や闘志を取り戻すのだ。

では、才能では劣る彼らが、天才と伍するための武器とは何か。それはやはり仲間の絆だろう。桐皇戦の中で、プレイ中に膝をついた青峰が若松孝輔(和成)から差し伸べられた手を払う場面があった。一方、黒子と火神はお互いの肩を借りて立ち上がる。そこに、黒子たちと青峰との違いがあった。たとえ一人では勝てなくても、二人なら勝てる。強い想いが、試合を動かしていく。

紫原との対戦では、そのメッセージがより鮮烈に際立つ。体格で勝敗が決まるバスケットボールを「欠陥競技」だと切り捨てる紫原。中学時代に試合をした木吉のことなど記憶にもなかった。超高校生級の体格と身体能力に恵まれた紫原にとっては、才能の差は歴然としているのに、努力を惜しまない他のプレイヤーが理解できなかったのかもしれない。

だが、歯牙にもかけなかったはずのかつての敗者が、「イージスの盾」に牙をむく。最強のセンターの牙城を切り崩していく。そこに、木吉本人の成長が見えるからまた感無量だ。

木吉もまた恵まれた才能を持つ選手だった。だが、「キセキの世代」との差は大きく、中学時代は「無冠の五将」という通り名をつけられた。当時の木吉は、体格にも恵まれた自分が率先してチームを守ることを大切に考えていた。しかしチームとは守るものではなく、お互いが支え合うもの。そう理解したとき、木吉は目覚めた。口癖の「楽しんでこーぜ」にこんなにも血が沸き立つのは、彼のその言葉が観客それぞれの人生へのエールでもあるからだ。そんな木吉に檄を入れつつ支える日向順平(牧田哲也)の存在もいい。

バスケの楽しさを忘れた天才たちと、バスケの楽しさを誰よりも愛している凡人たち。今まで以上に各キャラクターの描き込みが鮮明になった本作は、観る者の心に熱い炎をIGNITEする。そこに「キセキの世代」と比肩する潜在能力を秘めた天才・火神と、天才に一歩届かなかった氷室の邂逅が絡み合うことで、より天才VS凡人の構図は複雑化。敵味方入り交じり、いろんなキャラクターに感情移入できるつくりになっている。

ダイナミズムと意外性が加わったスーパープレイの数々に興奮!

ストーリーはもちろん舞台ならではの演出もパワーアップ。本作では、舞台の両脇にスノーボードのハーフパイプのような半筒状の舞台装置が設えらえている。これを使って二段ジャンプのように跳躍することで、俳優の動きに高さとダイナミズムが加わった。また、舞台上手と下手の前方後方にそれぞれ1箇所ずつ、さらに舞台中央奥にも出ハケ口が設けられており、試合中、俳優たちはこの出ハケ口をフル活用して縦横無尽に舞台を疾走する。仕掛けはシンプルだが、次にどこから俳優が飛び出してくるか読めない面白さがあり、「視線誘導(ミスディレクション)」に象徴される本作の神出鬼没な試合の動きを再現するのに多大な効果をもたらしている。

舞台上に実際と同じサイズのバスケットコートを用意することはできない。そのため、バスケのフォーメーションも本物の試合をそのまま再現しているというわけではない。だが、そんな「大きな嘘」も舞台ならではの視覚効果を生み出すのにひと役買っている。たとえば、陽泉との試合で、舞台中央で構える紫原に、誠凛の選手たちが舞台先端に立って、観客に背を向けるかたちで対峙する場面があった。この画が、何だかRPGのラスボス戦のようで、紫原の威圧感と、強大な敵に立ち向かう絶望感を一層際立たせているのだ。

映像と違い、舞台上に提示された画をどう切り取るかは観客の自由。そこが演劇の醍醐味でもある。こんなふうに1枚の画が別のイメージを喚起させ、変容していく面白さは、演劇でしか味わえない楽しみ。ある人は同じチームメイトとしてコートに立っているような感覚にもなるだろうし、またある人はスタンドで声援を送る観客の興奮を覚えるだろう。舞台ならではの『黒子のバスケ』を体感させてくれる、前2作をご覧の方にも、今回が初参戦の方にもおすすめの1本だ。

舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONEは現在も上演中。5月13日(日)に千秋楽を迎え、その模様はライブビューイングでの中継も決まっている。チームスポーツの感動を再確認させてくれる正統派青春劇。死闘の結末をぜひ一緒に共有してほしい。

舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONE

東京公演:2018年4月6日(金)~4月22日(日)サンシャイン劇場
大阪公演:2018年5月1日(火)〜5月6日(日)森ノ宮ピロティホール
東京凱旋公演:2018年5月11日(金)〜5月13日(日)日本青年館ホール
<ライブビューイング>5月13日(日)17:00開演の回

原作:藤巻忠俊「黒子のバスケ」(集英社 ジャンプ コミックス刊)
演出:中屋敷法仁
脚本:竜崎だいち
振付・ステージング:川崎悦子

出演:
〈誠凛高校〉
黒子テツヤ 役:小野賢章
火神大我 役:安里勇哉
日向順平 役:牧田哲也
伊月 俊 役:松井勇歩
木吉鉄平 役:河合龍之介
土田聡史 役:鍛治本大樹
相田リコ 役:田野アサミ

〈秀徳高校〉
緑間真太郎 役:畠山 遼
高尾和成 役:山田ジェームス武

〈桐皇学園高校〉
青峰大輝 役:小沼将太
今吉翔一 役:林 明寛
若松孝輔 役:和成
桜井 良 役:加藤ひろたか
桃井さつき 役:杉 ありさ

〈陽泉高校〉
紫原 敦 役:鮎川太陽
氷室辰也 役:斉藤秀翼
岡村建一 役:丸川敬之
福井健介 役:倉冨尚人

〈洛山高校〉
赤司征十郎 役:糸川耀士郎

オフィシャルサイト
http://www.kurobas-stage.com/

公式Twitter
@kurobasstage

©藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」IGNITE-ZONE製作委員会

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