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かいてきた汗に嘘はない──演劇「ハイキュー!! 」〝はじまりの巨人〞開幕! 彼らの深い絆が見せる、さらに進化を果たした熱きパフォーマンスを

かいてきた汗に嘘はない──演劇「ハイキュー!! 」〝はじまりの巨人〞開幕! 彼らの深い絆が見せる、さらに進化を果たした熱きパフォーマンスを

前作を超える──それは、シリーズものに携わるカンパニーの多くが口にする言葉だ。けれど、それを実現することは決して容易いことではない。つねに自分たちをアップデートしなければ自己ベストを更新し続けることなどできないからだ。
だが、このカンパニーはそれをやってのけた。4月28日(土)開幕のハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝はじまりの巨人〞はシリーズ5作目にして最高峰。これまで自分たちで築いてきた壁を、キャスト・スタッフが一丸となって乗り越え、さらなる金字塔を打ち立てた。そんな興奮の2時間25分(途中休憩15分あり)をここにレポートする。

取材・文・撮影 / 横川良明

これが、33人のキャストで送る〝はじまりの巨人〞

今回、この〝はじまりの巨人〞ではシリーズ最多33人のキャスト(+その他映像出演あり)が登場する。当初からそう大々的に謳われていたが、シリーズ最多キャストがなぜ見どころになるのだろうと少しだけ不思議に思っていた。上演尺が限られている以上、キャストが多いと、そのぶん、ひとりひとりの描き込みが薄くなるデメリットだってある。キャストの多さと演劇としてのクオリティは決してイコールで結べるものではない、と考えていたからだ。

だが、そんな疑問は完全に的はずれだった。この〝はじまりの巨人〞には、33人のビッグカンパニーだからできる躍動とドラマが詰め込まれていた。

まず圧巻なのは、オープニングだ。演劇「ハイキュー!!」にはいつも血湧き肉躍るオープニングが用意されているが、今回も観客の期待をはずさない。白鳥沢学園高校の牛島若利(有田賢史)との遭遇。日向翔陽 役の須賀健太自身がずっと待ち焦がれていた「コンクリート出身 日向翔陽です」という名台詞が、バックの映像と共に爽快に決まった瞬間、心は一気にトップギアに。

お馴染みの各校のパフォーマンスで繰り出されるのは、和田俊輔の音楽に乗せたクリエイティブな映像表現と超絶アクロバットの数々。タイトルインでは、全キャストが総登場し、キービジュアルを再現したようなポージングを決める。この迫力、この臨場感。これが、33人のキャストで送る〝はじまりの巨人〞なのだと選手宣誓するようなカッコよさだ。

そのまま休むことなく、ストーリーは烏野高校と条善寺高校戦へ突入! “遊び”がモットーの条善寺高校らしく賑やかで、舞台上はいつになくエキサイティング。動けるキャスト揃いの条善寺高校が次々と決める鮮やかなアクロバットは、ダンス作品を観に来たのかと錯覚するほど。その怒濤のパフォーマンスに、客席さえも条善寺高校のリズムに呑み込まれてしまう、まさに最高の顔見せだ。

続く和久谷南高校戦もたまらない。ロックダンスを基調としたダンサブルな動きで観客の視線を釘付け。中でも見惚れるのはエース・中島 猛(柳原 凛)の跳躍力だ。演じる柳原自身がバレー経験者ということもあるのかもしれないが、とにかくスパイクの打点が高い。かつての〝小さな巨人〞に最も近いと言われる男を、その身体能力で見事に表現。演劇「ハイキュー!!」伝統の盆舞台も復活し、めまぐるしく展開する試合の高揚がダイレクトに伝わってくる。

逃げた自分を知ることで、根性無したちは、強く、優しく、たくましくなる

ド肝を抜かされるギミックとパフォーマンスが満載の演劇「ハイキュー!!」だが、やはり改めて語っておきたいのは、その共感度200パーセントのストーリーだ。どのキャラクターもそれぞれに魅力的なのだが、あえて名前を挙げるなら、今回は縁下 力(川原一馬)、澤村大地(田中啓太)、そして山口 忠(三浦海里)の3人を推したい。

ハードな部活を経験したことがある人間なら、一度は逃げ出した縁下の気持ちはよくわかると思う。ズル休みをした期間なんて、ほんの数日かもしれない。真面目に頑張っていた時間のほうがずっと長いはずだ。それでも、“一度逃げ出した”という負い目は消えない。そんな縁下が、根性無しの自分を克服するための一戦が、この和久谷南高校戦だ。縁下が敵陣に向かって吠える場面は、今回最大のハイライト。初演からこの縁下を演じ続ける川原の魂の咆哮にぜひ注目して欲しい。

さらに、そこにもうひとりの根性無し・山口のエピソードが重なることで、縁下の魅力も山口の魅力も倍増する。恵まれた才能を有する同級生に対し、山口には誇れる技術は何もない。唯一の武器は、サーブ。だが、自分に自信の持てない山口は勝負の局面で逃げることを選ぶ。そんな山口を、縁下は責めない。「自分で一番わかってます」と庇うことで、山口は逃げた自分を思い知る。誰だって、簡単に強くはなれない。みんながみんな日向のようなヒーローにはなれない。観客の多くは、きっと縁下や山口のほうが近いだろう。だからこそ、2人の根性無しの姿に胸が揺さぶられるのだ。

そこへ、条善寺高校に「地味」と軽んじられながらも、実は土台としてチームを支え続けた主将の澤村も絡み合って、ドラマはより熱く燃え上がる。澤村の不在を埋める縁下を最後に支えたのが、一度逃げた自分を真っ先に受け入れてくれた澤村の言葉だった、という構図もいい。縁下に「ナイスレシーブ」と激励する西谷 夕(渕野右登)や、臍を噛む山口にタオルを突き出す月島 蛍(小坂涼太郎)など、ほんの一瞬でそれぞれの関係性が見える描写も見事。弱い人にも普通の人にも優しい眼差しが、演劇「ハイキュー!!」を普遍的な人間ドラマたらしめているのだろう。

最後のラリーは、実際のボールが使用される。なぜだろう、宙を舞うボールを追いかけながら、このまま床に落ちないで欲しいと願った。このボールが床に落ちなければ、ずっとこのまま彼らを観ていられる。この物語の観客でいられる。そう祈らずにはいられない恍惚感が全身を駆け巡っていた。

“代替品”なんていない、全員が主役の青春ドラマ

前作〝進化の夏〞のレポートでも触れたが、演劇「ハイキュー!!」の素晴らしいところは、舞台上に立っているすべての人たちが、そこできちんと生きていることだ。今回のキャストは、33人。だから、観客は知らず知らずの間に33人分(兼役も含めると60人以上!)の人生を体感させられるのだ。

例えば、澤村が離脱するシーン。精神的主柱を欠いたなか、お互い気合いを入れ合うように手を繋ぎ身を寄せ合う菅原孝支(田中尚輝)と東峰 旭(冨森ジャスティン)には3年生同士の絆と、ここで負けたら自分たちにはもうあとがないという覚悟が見えたし、ひとり虚空を見つめる田中龍之介(塩田康平)には普段の熱血漢ぶりとは正反対の、責任感の強さとそれゆえの繊細さを感じた。きっと同じ場面でも誰を見ているかでまったく感じ方が違うはずだ。だから何回観ても飽きないし、何回観ても初めてのような感動が沸き上がってくる。

そしてそれは、いわゆるメインキャストと呼ばれる者だけじゃないから、演劇「ハイキュー!!」は面白い。和久谷南高校戦では、中島の家族たちを別キャストが兼役で演じる。大事な次男坊の晴れ舞台を応援する彼らを観ているだけでも、熱い息吹がこみ上げてくる。烏野高校から見れば和久谷南高校は敵校かもしれないが、和久谷南高校にも和久谷南高校の勝ちたい理由があり、応援する人たちがいる。人の人生に“代替品”なんてものはない。スポットの当たらないように見える人にも人生があり、それは何にも代えられるものではないということを教えてくれるから、演劇「ハイキュー!!」は胸を打つのだ。

かいてきた汗は嘘をつかない。だから彼らは走り続ける

最後にもうひとつだけ書いておきたいことがある。本作でもリフトをはじめ、様々な集団パフォーマンスが用いられる。これらは観客に鮮烈な視覚的印象を与える一方で、かつて須賀自身が「相手に命を預けるような信頼関係がないとできない」と答えていたとおり、誰かひとりでもミスを犯せば事故に繋がる危険と表裏一体の技だ。仲間を100パーセント信じていなければ、跳ぶことなんてできない。

それは、バレーボールという競技にそのまま直結する。ひとりでは絶対にできないバレーボールは、信頼のスポーツだ。セッターの上げたトスを信じてスパイクを打つ。どんなに個人の能力が高くても、チームの信頼がなければ勝つことはできない。必ずコイツなら最高のトスを上げてくれる。そう信頼しているから、日向も、他のスパイカーも、みんな高く高く跳ぶことができるのだ。舞台の上で躍動する彼らを見ていると、バレーボールと演劇の相似性が合わせ鏡のように浮かび上がってくる。

では、そんな命を預けるような信頼をいかにして築くのか。その答えが、今回の冒頭とエンディングで提示されていた。本作は、烏野高校のランニング風景から始まり、ランニング風景によって結ばれる。みんなで声を出しながら一緒に走ること。運動部から見れば、何でもない光景なのかもしれないが、こんなふうに何でもない時間を共に積み重ねていくことが、信頼の土台を厚くしていくのだろう。共に走り、共に笑い、共に怒り、共に泣き、そしてまた共に走り出す。きっと演じるキャストたちも、そんな日々をこの初日を迎えるまで過ごしてきたに違いない。

囲み会見で影山飛雄 役の影山達也は「かいてきた汗は嘘をつかない」と自らに言い聞かせるように口にした。中島 猛 役の柳原 凛も「和久谷南チームは休みの日も集まってレッスンしていた」と証言した。どの言葉も、自分たちの過ごしてきた日々を裏打ちするような力強さがあった。新メンバーに触発された日向翔陽 役の須賀健太も「烏野も負けてられないなという気持ちになりまして、みんなで御飯を食べに行くことを習慣づけました(笑)」と話した。一見冗談っぽい口ぶりだったが、そこには座長・須賀健太の想いが垣間見えた。“同じ釜の飯を食う”ということは、命を預け合う信頼を築くということ。そう信じて、彼らは今日のこの日までやってきたのだ。そして、これからも一緒に、ずっと。

烏野高校をはじめとする登場人物たちの青春。そして演じる若き俳優たちの青春。両方が眩い輝きとなって観客の瞼を焦がすから、こんなにもボロボロと涙が溢れ出してしまうのだろう。

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝はじまりの巨人〞は5月6日(日)まで東京・日本青年館ホールで上演し、その後、兵庫、福岡、宮城、大阪とツアー公演を経て、再び6月8日(金)よりTOKYO DOME CITY HALLにて東京凱旋公演を果たす。一度も負けられない戦いへ挑む彼らの雄姿を、ぜひその目に焼きつけて欲しい。

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝はじまりの巨人〞

東京公演:2018年4月28日(土)~5月6日(日)日本青年館ホール
兵庫公演:2018年5月12日(土)~5月13日(日)あましんアルカイックホール
福岡公演:2018年5月18日(金)~5月20日(日)福岡国際会議場 3Fメインホール
宮城公演:2018年5月25日(金)~5月27日(日)多賀城市民会館 大ホール
大阪公演:2018年6月1日(金)~6月3日(日)オリックス劇場
東京凱旋公演:2018年6月8日(金)~6月17日(日)TOKYO DOME CITY HALL
<ライブビューイング>2018年6月17日(日)18:00開演の回

原作:古舘春一「ハイキュー!!」(集英社「週刊少年ジャンプ」連載中)
演出・脚本:ウォーリー木下

出演:
〈烏野高校〉
日向翔陽:須賀健太/
影山飛雄:影山達也/
月島 蛍:小坂涼太郎
山口 忠:三浦海里
田中龍之介:塩田康平
西谷 夕:渕野右登
縁下 力:川原一馬
澤村大地:田中啓太
菅原孝支:田中尚輝
東峰 旭:冨森ジャスティン/
〈条善寺高校〉
照島遊児:船木政秀
母畑和馬:森永彩斗
二岐丈春:鈴木遥太
沼尻凛太郎:荒田至法
飯坂信義:安川集治
土湯 新:松原 凛/
〈和久谷南高校〉
中島 猛:柳原 凛
川渡瞬己:正田尚大
白石優希:木村優良
花山一雅:Goku
鳴子哲平:本川翔太
秋保和光:蓮井佑麻/
〈白鳥沢学園高校〉
牛島若利:有田賢史/
〈音駒高校〉
孤爪研磨:永田崇人
黒尾鉄朗:近藤頌利/
〈梟谷学園高校〉
木兎光太郎:吉本恒生
(代役:東 拓海)
赤葦京治:髙﨑俊吾/
〈烏野高校 OB・OG〉
嶋田 誠:山口賢人/
田中冴子:佐逹ももこ/
〈烏野高校 マネージャー〉
清水潔子:長尾寧音
谷地仁花:斎藤亜美/
〈烏野高校 顧問・コーチ〉
武田一鉄:内田 滋
烏養繋心:林 剛史
<映像出演>
〈青葉城西高校〉
及川 徹:遊馬晃祐
岩泉 一:小波津亜廉
松川一静:白柏寿大
花巻貴大:金井成大/
〈伊達工業高校〉
青根高伸:新井 將
二口堅治:木村 敦
作並浩輔:廣野凌大
黄金川貫至:羽富和大/

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の場所(チーム)〞

東京公演:2018年10月20日(土)~10月28日(日)TOKYO DOME CITY HALL
広島公演:2018年11月9日(金)~11月10日(土)はつかいち文化ホール さくらぴあ 大ホール
兵庫公演:2018年11月15日(木)~11月18日(日)あましんアルカイックホール
大阪公演:2018年11月23日(金・祝)~11月25日(日)梅田芸術劇場 メインホール
宮城公演:2018年11月30日(金)~12月2日(日)多賀城市民会館 大ホール
東京凱旋公演:2018年12月7日(金)~12月16日(日)日本青年館ホール
<チケット一般発売日>2018年9月9日(日)AM10:00

原作:古舘春一「ハイキュー!!」(集英社「週刊少年ジャンプ」連載中)
演出・脚本:ウォーリー木下

出演:
〈烏野高校〉
日向翔陽:須賀健太/
影山飛雄:影山達也/
月島 蛍:小坂涼太郎
山口 忠:三浦海里
田中龍之介:塩田康平
西谷 夕:渕野右登
縁下 力:川原一馬
澤村大地:田中啓太
菅原孝支:田中尚輝
東峰 旭:冨森ジャスティン/
〈青葉城西高校〉
及川 徹:遊馬晃祐
岩泉 一:小波津亜廉
松川一静:白柏寿大
花巻貴大:金井成大
矢巾 秀:山際海斗
渡 親治:齋藤健心
京谷賢太郎:北村健人
金田一勇太郎:坂本康太
国見 英:神田聖司/
〈白鳥沢学園高校〉
牛島若利:有田賢史
瀬見英太:瀬良祐介
大平獅音:横山真史
天童 覚:加藤 健
五色 工:菊池修司
白布賢二郎:佐藤信長
川西太一:辻 凌志朗 ※辻は一点しんにょう
山形隼人:高橋駿一/
鷲匠鍛治:川下大洋/
〈烏野高校 OB・OG〉
嶋田 誠:山口賢人/
田中冴子:佐逹ももこ/
〈烏野高校 マネージャー〉
清水潔子:長尾寧音
谷地仁花:斎藤亜美/
〈烏野高校 顧問・コーチ〉
武田一鉄:内田 滋
烏養繋心:林 剛史

オフィシャルサイト

©古舘春一/集英社・ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」製作委員会

原作コミック「ハイキュー!!」