Interview

創刊31年目に大改革を行った『TV Bros.』。 変革の首謀者・木村編集長に訊く、“ブロスらしさ”の再定義と未来像

創刊31年目に大改革を行った『TV Bros.』。 変革の首謀者・木村編集長に訊く、“ブロスらしさ”の再定義と未来像

1987年に創刊、テレビ雑誌でありながら「テレビ誌らしくない」誌面づくりでコアな読者から愛され続けてきた『TV Bros.』。カルチャーシーンの雄たちが連載コラムを持ち、メジャー/マイナー問わず独自の視点で対象を深く掘り下げて、マニアをも唸らせる特集には定評がある。そんな〝テレビ誌の異端児〟が、この4月24日に発売された号から、隔週刊から月刊へとリニューアル。しかも、テレビ誌のアイデンティティーとも言える番組表をなくすという、大改革を敢行した。このドラスティックな決断は発表当初、衝撃とともに受け止められたが、リニューアル第1号は注文が殺到、発売前から増刷が決まるという上々のリスタートを切った。
しかし、なぜこのタイミングで、番組表を撤廃するほどの改革を行う必要があったのか?
同誌の木村親八郎編集長に、その経緯と真意を訊く。

取材・文 / 平田真人
写真提供 / 東京ニュース通信社
撮影 / エンタメステーション編集部

むしろ〝もっともテレビ誌らしいのは我々です〟と、高らかに宣言したいなと思っております(笑)。

月刊化第1号『TV Bros. 2018年6月号』

2017年の9月に創刊30周年という節目を迎えてから、間もなくのリニューアル月刊化ということで、ネット上では賛否両論が巻き起こりました。それだけ『TV Bros.』が媒体として注目されているということでもありますが、やはり番組表の撤廃は大きな決断だったと思います。まずは、そこへいたる経緯からお聞かせ願えるでしょうか。

僕が『TV Bros.』編集長になってから、もうすぐ2年になるんですけど…そのころから、「ブロスをどうしていくか?」みたいな論議がなされてはいたんです。でも、具体的に何かあったというわけではなくて。創刊30周年のころでも、まだリニューアルするかどうかは決まってはいないながらも、ビジネス的な観点もふくめて考える余地は大いにある、という見方は社内的にもされていました。僕が前にいた『B.L.T.』編集部では、月刊で本誌をつくりながらムックや写真集を出したりというビジネスモデルができあがっていて、「ブロスでもそういったことができないかな」と思ってはみたものの、隔週刊のサイクルだと本誌の作業で手一杯なんですね。
『TV Bros.』のブランドを活用しきれていないという率直な課題があるのはわかっていて、単行本やウェブ上での展開をしていきたいけれど、現状の私たちの体制で、2週間に1号を出すサイクルでは物理的に難しいという状況がある。だったら、月1回の発行にして、〝ブロス・ブランド〟をもっと広げていく方向性に舵を切るという選択肢もあるんじゃないか──と可能性を探っていって、具体化していったというのが今回のリニューアルにいたる経緯です。とはいえ、30年も隔週で出してきて、すでにフォーマットが定着しているので、そこを変えるというのは、やはり大きな決断ではありました。

リニューアル号の木村編集長の所信表明文にありますが、「だってブロスだから」というキャッチフレーズに、いわゆる〝ブロス・ブランド〟のキモがあると考えてよろしいでしょうか? たとえば、「だってブロスだから、こんな特集をやってもいいよね」といったような。

そうですね。確かに、表紙・巻頭特集によって売れ行きが上がる号もあるんですけど、実は号によってそんなにバラつきがあったわけでもないんですよ。つまり、数万単位の固定読者が毎号「ブロスだから」購読してくださっていたと。裏を返すと、その方々がどんな反応をするのかという不安が、『TV Bros.』を改革していく上で一歩を踏み出せなかったのも確かなんです。特に番組表をなくすということに対しては、大きな反発を招きかねないなという懸念がありました。

そういったところも踏まえて、改革を決断するにいたった理由とは何だったのでしょう?

実を言うと、昨年の10月ごろに『TV Bros.』という雑誌の存在を1回リセットしようか、という論調もでてきたんですね。でも、僕としては「ウチの会社にとってブロスは絶対に必要な雑誌だ」という揺るがない思いがあって。
なぜなら、まだまだブロスでいろいろなことができる、という確信があったからです。会社の〝顔〟であり軸である『TVガイド』は幸い好調ですけど、コンテンツそのものはけっして多い会社ではないので、『TV Bros.』という媒体の存在は極めて貴重でもあるんですよね。なので、「リセットするにしても月刊化の方向で、という発想に切り替えていきましょう」と各部署の方々と調整をしていきました。正直、そのころは心身ともに疲弊しましたけど(笑)。

なるほど。競合誌、というカテゴライズが正しいかはわかりませんが、カラーがわりと近い『Quick Japan』も数年前にリニューアルをはかり、成功を見ています。その辺りも鑑みた、ということはありますか?

『Quick Japan』が取りあげる、アイドルをはじめとするポップカルチャーへのアプローチによって、従来の〝QJブランド〟が下がったかというと、けっしてそんなことはなかった。ビジネス的にも成功したと言っていいと思うんですね。ただ、ブロスは雰囲気的に…それこそ「だってブロスだから──」というところで、大胆に舵を切れない部分が以前はあったように感じていて。なので、僕が編集長になった時に、まずはその壁を壊そうと考えました。
ただし、あくまで〝ブロスらしく〟というアプローチで、です。そうすれば独自の見せ方ができるし、中面でも〝ブロスらしい〟特集をどんどん組んでいくことで、媒体の特性も維持できると思う…といった話を、編集部員たちにもしていくうちに、だんだんと部内で方法論が浸透していった感があって。単に売れるから取りあげるんじゃなくて、売れる題材をどう〝ブロスらしく〟見せるかというところを、ちゃんと考えて実践することが、媒体のアイデンティティの確立にもつながると僕は思っているので。

そもそもの話にして、ものすごく広義的になるかもしれませんが、〝ブロスらしさ〟あるいは〝ブロスイズム〟って何なんでしょう?

僕は11代目の編集長なんですけど、歴代の編集長によって、その都度カラーが変わってきたというところは正直あるんですね。ある時は特撮やアニメに重点が置かれたり、ある時はロック色が強かったり。
でも、いつの時代であっても、やっぱり〝ブロスっぽい〟雰囲気というのが必ず匂っているんです。それが何かと言うと──あの…リニューアルが決まってから、編集部員1人ずつはもちろん、連載陣の関係者の方々、テレビ局に映画会社、レコード会社の方々ともお話をしたんですけど、ほとんどの方が「ブロスだから○○」と、おっしゃるんですよ。たとえば映画会社の方からは、『この映画、ブロスだから取りあげた方がいいと思うんです』と。編集部の人間も「ブロスだから、やってもいいと思うんですよね」とか、連載陣からも「ブロスだから書いているんだよ」という文言が出てくるんですね。つまり、ブロスそのものが形容詞となっているのだ、と。その「ブロスだから」という解釈は50人いれば50通りあると思うんですけど、「ブロスなら、どんな題材でも面白く料理ができるんじゃないか」というところでは一致しているんです。
そういう懐の深さというか、面白がれる姿勢が、もしかすると〝らしさ〟なのかなと、ようやくわかってきた気がしていて。連載陣の方々が口をそろえて言っていたのが、「月刊になっても、〝ブロスらしく〟いてね」ということで、あらためて背筋がピッと伸びたところがあるんです。実は当初、ちょっとスタイリッシュな感じにしてみようかなという構想もあったんですけど(笑)、そっちにいかなかったのは、多くの方からの「ブロスらしさを失わないでほしい」という要望だったんですね。で、今までのテンションと、ある種なんでもアリな多様性を引き継いでいくことにしたんです。基本的には「面白い」と思えるものを取りあげていくスタンスで、かつ「面白がる」寛容さも持ち合わせていこうという感じですね。そのベースは崩れていないので、リニューアルとは言いつつ、連載陣も隔週刊時代からほとんどの方が残ってくださっていて。顔ぶれをガラッと変えてしまったら、それこそ〝らしさ〟が失われてしまったかもしれないですね。

隔週刊の最後の号が出て、誌上で「月刊化リニューアル、番組表撤廃」を発表した時、「ブロスは終わった」とか「事実上の休刊」とネットでは言われたりもしたわけですが、その反響をどう受け止めたのでしょう?

そこは真摯に受け止めました。爆笑問題さんも当初は「番組表をなくすべきじゃない」と、おっしゃっていましたし…いろいろな意見があって然るべきだ、と。実際、『TV Bros.』が30年もの歴史を積み重ねてこられたのは「番組表があってこそ」と心から思っているんです。
創刊してから間もないころのサブカルチャー路線も番組表というメインコンテンツがあったからこそ成立したのだと思いますし、テレビ雑誌という体裁、ジャンルだったからこそ10万部(公称)という部数をキープし続けてこられたんだなと、今でも認識していて。テレビにEPGが付いているのが当たり前になった現在でも、購読者の2割ぐらいの方は番組表を活用してくださっていたそうなんですよ。お年寄りの愛読者の方から、「番組表をなくさないでほしいです」というお電話をいただいたりもして…。そうやって考えていくと、番組表という存在には本当に感謝しています。

妙なことを聞くかもしれませんが、番組表を撤廃したことで『TV Bros.』は純然たるテレビ雑誌ではなくなる、ということには…?

あ、それはありません。いろいろなカルチャーを取りあげていく中で、テレビは映画や音楽と並んで、やはり中心を担っているジャンルであるという認識は変わっていないので。それもあって、リニューアルで番組表がなくなったかわりに「番組レコメンド」という解説コラムを27ページにわたって設けています。単に番組を紹介するのではなく、テレビに一家言ある書き手の方々に、番組の面白さや魅力をフィーチャーしたコラムを書いてもらっていて、1つの大きな柱としているんです。以前は〝テレビ誌らしくない〟と言われてきた『TV Bros.』ですが、視聴率や出演者、放送時間帯にとらわれず、ブロスが「面白い!」と思った番組をレコメンドしていくので、むしろ〝もっともテレビ誌らしいのは我々です〟と、高らかに宣言したいなと思っております(笑)。

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