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暴力でしか欲情できない…かつてない衝撃作!『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました』ペス山ポピー

暴力でしか欲情できない…かつてない衝撃作!『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました』ペス山ポピー

どこまでが「普通」で、どこからが「異常」?

©ペス山ポピー/新潮社

ずっと気になっていることがある。

ときどき報じられる、ある人物の自宅から、大量に保管されているハイヒールや自転車のサドルが見つかった、という類のニュース。

概ねは盗品で、つまりそれは犯罪だ。その罪は罪として、変態、異常、キモチワルイといった言葉や空気が巻き起こる。

確かにね、と、思う。けれど同時に、そうせざるを得なかった切実さを、どう理解すればいいのかと考えてしまうのだ。

©ペス山ポピー/新潮社

性的嗜好のどこまでが「普通」の範疇で、どこからは「異常」なのか、学校では教えてくれない。性的マイノリティーというけれど、どんなものがあるのか、詳しく知る機会はあまりない。

特に自分が「普通」だと認識していれば、そんなことは必要としない情報、なのだろう。

暴力でしか欲情できない。
そんな自分が、ずっと気持ち悪かった。

ところが。
生粋のマゾヒスト、暴力をふるわれることでしか欲情できない被虐趣味をもった作者が、自身の性的嗜好と向き合う葛藤を赤裸々に描いた本書『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』は、新潮社のWebマンガサイト「くらげバンチ」で連載中から、大いに注目を集めた。

©ペス山ポピー/新潮社

誤解を恐れずに言うと、私は本書を読むまで、「マゾヒスト」なる人は=乱暴にされることが好きなのだと思っていた。

殴られたい、蹴られたい、締められたい。

作者もまた、そうした性的欲求が幼い頃から絶えずあったと描くが、一方で、心は暴力を嫌悪していたという。

好きで殴られたいのではなく、嫌だけど暴力でしか欲情できない。そんな自分が、ずっと気持ち悪かった、と。

出会い系掲示板に<暴力系プレイのパートナーを探しています>と書き込み

23歳、処女、恋愛経験皆無。

ままならぬ性癖を持て余し、ついに追い詰められた作者は、出会い系掲示板に<暴力系プレイのパートナーを探しています>と書き込み、何人かの男性と「プレイ」を経験する。

暴力はセックスの前戯だという男たちの思い込み。経験してみてはじめて分かった新たな性癖。そこから気付いてしまったセクシャリティの問題。

本書にはその一部始終が、叫びと共に綴られていく。その声に、自分だけではなかったのだと、救われた思いを抱く読者も少なくないだろう。

©ペス山ポピー/新潮社

けれど、正直に言おう。

私が本書を読んだのは、ヤジウマ的好奇心100%でしかなかった。寄り添いたいとか、共感しましたなんて、とても言えない。

それでも、一度聞いてしまったこの声を、聞かなかったことにはもうできない。そう思う読者もまた、きっと少なくないはず。

始まったばかりの恋は、これからどこへたどり着くのか。
この世界にあることさえ知らなかったその恋の行方を、「知りたい」と、今、心から思っている。

文 / 藤田香織(書評家)

書籍情報

『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』

第1巻好評発売中!
ペス山ポピー:著
新潮社

生まれてはじめて泣くまで殴られた。その時、生まれてはじめて恋に落ちた。 暴力を受けることでしか興奮できない被虐趣味を持つ私。自分でも理解し難いこの欲望を、己の中に溜め続けた日々に、突然限界が訪れた――。23歳、処女、恋愛経験なし、性的嗜好がこじれまくった作者が恋に落ちた奇跡を描く、ちょっと過激な初恋エッセイ。

関連サイト

『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました』WEB連載
https://kuragebunch.com/episode/10834108156628844859

くらげバンチ
https://kuragebunch.com/

ペス山ポピーTwitter
@pesuyamapoppy

藤田香織(ふじた・かをり)

書評家、エッセイスト。著書に『だらしな日記』シリーズ、杉江松恋との共著『東海道でしょう!』(共に幻冬舎文庫)、『ホンのお楽しみ』(講談社文庫)など。
Twitter@daranekos