Review

「とにかく面白い」ドラマが起きないのになぜかハマる人続出!異色ラブコメ『うたかたダイアログ』稲井カオル

「とにかく面白い」ドラマが起きないのになぜかハマる人続出!異色ラブコメ『うたかたダイアログ』稲井カオル

いきなり全く興味ないであろう話題で恐縮なのだが、先日私は37歳になった。これくらいの年齢になると大学時代もはるか昔、高校時代はなおさらだ。もはや「自分がかつて高校生だった」ということすら忘れて暮らしている。

そうなると無責任なもので、恋に部活に友情に、感受性豊かで華やかな生活を送っている高校生を思い描いて、「いい時期だよね」なんていってしまう。しかし、自分の高校時代を思い返せば、青春時代なんて意外と薄ぼんやりしているものかもしれない。

そういう、青春時代の不思議な感覚を思い出させてくれるのが、『うたかたダイアログ』(稲井カオル)だ。

©稲井カオル/白泉社

ドラマらしいドラマは起こらない。
それなのに、とにかく面白い。

『うたかたダイアログ』はドラッグストアでバイトする女子高生・宇多川と、彼女に恋心を抱く同僚の男子高生・片野の日常を描くラブコメディだ。

青春ラブコメというと恋に胸を焦がしたり甘酸っぱくてキュンキュン……なんて作品を想像するが、『うたかたダイアログ』はそういうテンションの高さとは無縁の作品である。

例えば第1話は、宇多川と片野がスーパーに買い物に行く話だ。宇多川に手づくりジャムをもらった片野が、一緒にスーパーに行って一袋540円のお高い食パンを買うというお話だ。

このあらすじを見てもわかるように、そこにはほとんどドラマらしいドラマは起こらない。ドラマとは一切無縁の2人の会話劇がスーパーを舞台にひたすら続く。

だが、この会話がとにかく面白い。

©稲井カオル/白泉社

スーパーに行き慣れていない片野を面白がって宇多川はいろんなものを見せて回る。パイナップルのコーナーで「これが缶詰になる前のパイナップルだよ」と紹介してみたり、餃子の皮を見て「誰が買うんだ」と言う片野に衝撃を受けたり、しまいには片野を「心が生まれたばかりの餃子包みロボット」と表現したりする。

そういう、なんてことないけれど笑ってしまうような会話が延々と続いていくのだ。淡々と、それでいて隙間なく二人がボケを重ねていくその様子は、もはや漫才に近い。その読み味はラブコメの新種という感じである。

©稲井カオル/白泉社

さらっと読み進められながらも、ページあたりの笑いの量は非常に多く、実は濃度の高いコメディなのだ。逆にいえば、その濃さを感じさせず、読者にほのぼのと読ませてしまう稲井カオルの手腕は凄まじいものがある。

青春ものとはちょっと違う。
それでも記憶にある青春に一番近い。

徹底して大きなドラマが起こらない『うたかたダイアログ』はいわゆる「青春もの」とはちょっと色合いの違う作品だ。

だが、一方で自分の記憶にある青春に一番近いのは『うたかたダイアログ』なんじゃないかと、読み進めるうちに思うようになる。

別にこんなふうに女の子と仲がよかったという意味ではない。くだらない話をずっとしていられて、別に話に中身やドラマがなくても、ひたすら楽しかった。そういうものが青春時代なんじゃないか、と。

©稲井カオル/白泉社

思い出そうとしても薄ぼんやりとしてしまうけれど、何か楽しかった日々。おじさんが忘れてしまった青春時代の正体が、きっと『うたかたダイアログ』に描かれている。

若い人が読んでももちろん素直に面白い。だが、大人が読むと「残念」と表現される2人の青春がむしろ眩しく感じられるだろう。

文 / 小林 聖

書籍情報

『うたかたダイアログ』
1~2巻好評発売中!

稲井カオル:著
白泉社

とあるショッピングモールのドラッグストアでアルバイトをする高校生、宇多川と片野。部活で全国優勝を目指したり、胸を焦がすような恋愛をしてみたり、不思議な力を使って世界を救ったり……そんなドラマとは一切無縁な二人の高校生活。基本的には無駄口を叩いているだけですが、それが、何だかとても楽しいんです。話題沸騰!中毒性NO.1の最新型ラブコメ!


『しらぬい奇譚録』
ホラー短編集もチェック!

稲井カオル:著
白泉社

「奇譚」それは理屈では説明できぬ不思議な物語。神出鬼没、正体不明の奇譚蒐集家・しらぬい。彼が語り始める怪奇の数々とは……?

関連サイト

『うたかたダイアログ』特設ページ
http://www.hakusensha.co.jp/tokusetsu/utakata/

ザ花とゆめ
http://www.hanayume.com/thehana/

稲井カオル
Twitter@Kaoru_Inai

公式ブログ「171号室」http://171room.blog118.fc2.com/