Interview

のん、ファースト・アルバム『スーパーヒーローズ』を語る。スペシャルな音楽人と彼女が音楽で表現したかったことは?

のん、ファースト・アルバム『スーパーヒーローズ』を語る。スペシャルな音楽人と彼女が音楽で表現したかったことは?

のんのファースト・アルバムが完成した。昨年、自主レーベルを興し、本格的に音楽活動をスタート。カセット、CDシングル、アナログをリリースし、自身のガールズ・バンド、Non Cigarettesを率いて、「のん、KAIWA フェスVol.1 ~音楽があれば会話が出来る!~」などでライブを行い、その活動の行方が集めてきた彼女。記念すべきファースト・アルバムは『スーパーヒーローズ』。昨年のデビュー・シングル「スーパーヒーローになりたい」の高野寛、「RUN!!!」の大友良英に続いて、高橋幸宏、矢野顕子、尾崎亜美、真島昌利というビッグネームが彼女のために書き下ろしの楽曲を提供していることも話題だが、それが実現したのは、のんとして音楽の世界に飛び込んだ彼女への熱いエールに他ならない。ベテランの作家たちが彼女の新たな魅力を引き出す一方、特筆すべきは、のん自身が作詞・作曲したオリジナルが5曲収録されていること。ロック/パンクの初期衝動に溢れた彼女のオリジナルは、自らが開いた新しい扉のその先の景色を感じさせてくれる。音楽で表現したいことを鮮明に描いた初のアルバムへの思いをのんが語る。

取材・文 / 佐野郷子

ホントは自分の曲以外はすべてシングルカットしたいくらいなんです。

アルバムがついに完成しましたね。

はい。去年の6月からレコーディングを始めて、ようやく出来ました! 良かったー! 初めてアルバムを通して聴いたときは、感動しました。時間をかけて、ミュージシャンやスタッフや曲を提供していただいたみなさんと素敵なアルバムを作り上げたと思います。スタッフのみなさんと試行錯誤しながら、この曲順に決まったときは「完璧!」だなって。私も時々1曲買いすることはあるんですけど、自分がアルバムをつくってみて、アルバムはやっぱり全部を通して聴いてもらいたいという意識になりました。

アルバムはどういう方向でいきたいと思っていましたか?

自分のつくる曲がロックなので、ロックな方向でやっていきたいというのはありました。でも、それだけではなく、色んなタイプの曲を歌っていきたいので、スペシャルな人たちに私のアルバムの曲をつくっていただけたらいいなと思ってダメもとでお願いしてみたんです。それが実現したのがいちばん嬉しかったですね。

高野寛さん、大友良英さんに続いて、アルバムでも豪華作家陣が楽曲を提供していますね。

ホントは自分の曲以外はすべてシングルカットしたいくらいなんです。それだと、アルバムが売れないけど(笑)。

アルバムはのんさんのオリジナル「へーんなのっ」から始まります。

シングル「スーパーヒーローになりたい」のCWで出したとき、「パンクだね」「怒りがあるね」という反響がたくさんありました。最初は可愛く書いてるつもりだったんですけどね(笑)。矢野顕子さんやコトリンゴさんに、この曲を誉めてもらったのは嬉しかったし、とても自信が持てました。

ファンには、もしかしたら衝撃を与えた曲かもしれないですが?

そうですね。私、ふわふわしてる人だというイメージを持たれているので、意外だって受けとめた人もいたと思います。でも、正直に言いたいことを書くとこうなってしまう。ロックでもストレートでシンプルなのがいちばん好きだからですかね。

今のところ歌詞は自分が思ったことしか書けなくて。言いたいことは言ったかなと(笑)。

アルバムにはのんさん作詞・作曲のナンバーが5曲収録されています。前半の「正直者はゆく」「あることないこと」もパンク精神が溢れていますね。

ちょっと「怒り」が多めになりすぎたかな、もう少し客観的になって書いた方がよかったのかなと思うところもあるんですが、今のところ歌詞は自分が思ったことしか書けなくて。ある人が「ファースト・アルバムはわがままにつくっていいんだよ」って仰っていたし、言いたいことは言ったかなと(笑)。

まさに、「正直者はゆく」なんですね。

はい。音楽をはじめて、自分で歌詞や曲をつくってもいいんだと分かってから思ったことをそのまま書いてみようと。全部で10数曲つくりましたけど、コード進行が同じような曲もあって、それは今後の課題ですね。歌詞は映画やライブを観て興奮した後に書きたくなるんです。

ご自身の音楽の参考に聴いたり、影響を受けた人はいますか?

やはり、忌野清志郎さん、RCサクセション、THE BLUE HEARTS、あと、最近、BO GUMBOSのDVDを観て、すごくハマっています。「まっくろけ」という曲が大好きで。聴くものはふわふわした曲も好きですが、憧れるのはそういう方達ですね。

作曲するのはギターですか?

はい。それをiPadのGarageBandで録って。「へーんなのっ」の間奏のギターはそれがそのまま活かされているんです。のんの曲も屋敷豪太さん、根岸孝旨さんのドラムとベースですごくカッコよくしていただきました。

アルバムでは、腕利きのミュージシャンたちとほぼ全曲に渡って、のんさんもギターを弾いていますね。

頑張りました。レコーディングは毎回緊張しましたけど、すごいミュージシャンたちの中に混じって音が出せて実はメチャクチャ楽しかったんです。自分のギターや曲を褒めていただいて励みになりました。

大友良英さんに久しぶりにお会いしたときは、ちょっと照れくさかったんです。

真島昌利さん作詞・作曲の「さぁいこう」は、「最高」と掛けているところが面白くて、のんさんらしい曲ですね。

マーシーさんとはお会いしたことはないんですけど、THE BLUE HEARTSやザ・クロマニヨンズが大好きなので、曲をお願いできたら最高だなと密かに思っていたんです。だから、マーシーさんがアコギで歌っているデモテープをいただいたときはガッツポーズしました。しかも、カセットテープで届いたのもシビれました! この曲をのんのバンド、Non Cigarettesと一緒にレコーディングできたことも嬉しかった。

2ndシングル「RUN!!!」のSachiko Mさん×大友良英さんという組み合わせはファンには朗報でした。全速力で今を駆けるのんさんを刻んだ曲ですね。

大友さんは、のんになる前の自分を知っている方なので、久しぶりにお会いしたときはちょっと照れくさかったんです。レコーディングのとき「歌がうまくなったね」と誉めてくださったんですけど、くすぐったくて。でも、大友さんとまた一緒にお仕事ができる時が来たのは嬉しかったです。

ロック指数の高い曲が続く前半から、景色ががらりと変わるのが尾崎亜美さんの書き下ろした「スケッチブック」。

尾崎さんは私が絵を描くことを知らなかったそうなんですが、〈スケッチブック〉とか〈パステル〉という言葉が歌詞の中に出てきて驚きました。私のイメージだけで直感で書いてくださったそうで。

切ない歌詞とポップなメロディーが、ロックなのんさんとは別の魅力を引き出していますね。

さすが尾崎さん…と感動したのと、自分ではこういう歌は書けないのでとても新鮮だったし、自分の気持ちと重なるところがあってドキッとしました。

「君の世代にバトンを渡すから応援するよ」という高橋幸宏さんの言葉は心強かった。

高橋幸宏さん作曲・編曲の「My Day」では、初めて英語の歌詞に挑戦していますが?

ワールドワイドを視野に入れてもいいんじゃないかという意見もあり、ちょうど英会話を習いはじめたので、思い切ってチャレンジしてみようと。英語の発音は難しかったんですけど、幸宏さんの曲は声が出しやすかったんです。自分の曲は喉にかかるので歌いづらいんですけど(笑)。

昨年の「タイムマシーンにおねがい」や、『WORLD HAPPINESS 2017』での共演など、幸宏さんとはご縁が深いですね。

初めてお会いしたときは、怖いわけじゃないんですけど、やっぱりすごく緊張しました。そしたら「インスタ、フォローしてるよ」って声をかけていただいて、「音楽は上下とか年齢は関係ないよ」と。ワーハピの打ち上げで「これからは君の世代にバトンを渡すから応援するよ」と幸宏さんが言ってくださったことは本当に心強かったんです。気合いを入れなきゃって思いました。

〈従順にはなれない 私の心は生きてる〉と綴ったのんさんのオリジナル「ストレート街道」には、その気合いが注入されて。

そうですね。人とあまりうまく喋ることができないから、言いたいことは音楽の方が言いやすいんだと思います。音楽なら日常の色んな感情をそこに込めることができるから。

「私の大好きな歌」は、のんさんのオリジナルの中ではミドルテンポのポップな曲になりますね。

「主観的になりすぎずに、景色の見える歌詞も書いてみたら」というアドバイスを受けて書いてみたんです。〈遅延電車に揺られて〉とか情景描写を入れて、少しほっとできる曲もあるといいなと思って。

気持ちがすっーと入った矢野顕子さんの「わたしはベイベー」

大ファンの矢野顕子さんの「わたしはベイベー」は?

レコーディングの後半にこの曲が届いたときは興奮しました! 矢野さんの弾き語りのデモが素晴らしくて、これをそのままリリースした方がいいと思ったくらい(笑)。

「ベイベー」は忌野清志郎さんのキメ言葉だし、歌詞にも清志郎さんの名前が出てきますね。

音楽を始めるより前から自分の趣味で、色んな歌い方を自分なりに研究していた時に矢野さんの歌を聴いたんです。矢野さんの「ひとつだけ」を聴いて清志郎さんに出会ったし、だから、この歌はホントに感激しました。

〈わたしの心は わたしが決める〉など、のんさんが歌うと響く言葉を丁寧に、繊細に選んでいますよね。

さすがです。頭の〈わたしを見てください あなたを見ているから〉から気持ちがすっーと入って、もしかしたら自分の曲より人の曲の方が気持ちを乗っけやすいかもしれないと感じました。ドラムで参加していただいた幸宏さんに、「難しい曲なのにすごくはまっている」と褒めていただいたし、最後に「ごきげんだぜ、ベイベー」という清志郎さんの声まで入って、アルバムを象徴する曲になったと思います。

アルバムのラストを素朴で優しい歌声が印象的な「おやすみ」にしたのも深い余韻を残しますね。

「のんちゃんが何を言ってくれたら嬉しいかなと考えたら、1日の終わりに『おやすみ』って言ってほしいんじゃないかな」って、大友さんにつくっていただいた曲なんです。私の曲はガンガン攻める曲が多いので、こういうホッとする優しい曲があって良かったなと思います。

アルバム・タイトルを『スーパーヒーローズ』にしたのは?

アルバムに参加していただいた音楽界の皆さんが私のスーパーヒーローという意味と、私もいつかはそうなりたいという願いも込めて付けました。

念願のアルバムをリリースして、今後の活動は?

アルバムができて、ライブで歌える曲が増えたので、Non Cigarettesとライブをやっていきたいですね。中学時代にバンドをやっていた楽しさが忘れられないし、去年の『WORLD HAPPINESS 2017』や、のんフェスのライブもすごく楽しかったので、ツアーもしてみたいです。もっともっと歌もギターも曲作りもうまくなりたいし、音楽に対する意欲はますます湧いています!

*5月9日(水)に発売されるファーストアルバム『スーパーヒーローズ』のアルバムリード楽曲「わたしはベイベー」の先行アナログ盤が、5月2日(水)にリリース。

その他ののんの作品はこちらへ。

ライブ情報

のんシガレッツ/ ファースト・ライブ

5月8日 東京・渋谷クラブクアトロ
Special Guest:大友 良英、高野寛、弓木英梨乃(KIRINJI)

YATSUI FESTIVAL! 2018

6月16日(土)TSUTAYA O-EAST  TSUTAYA O-WEST他合計12店舗
大友良英スペシャルビッグバンドwith のん+ Mats Gustafssonとして出演。

のん

女優/創作あーちすと。1993年7月13日、兵庫県生まれ。2016年に長編アニメーション映画『この世界の片隅に』で主役すずの声を担当。同作は第90回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・テン1位、第40回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞など多数の賞を受賞。様々なCM、広告に起用される他、写真集などを発売。2017年8月には自ら代表を務める音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」(カイワ・レコード)を発足。ライブイベント『WORLD HAPPINESS 2017』への出演を皮切りに音楽活動を開始し、スペシャルパッケージ『OHIROME PACK』を会場限定で販売。11月22日には1stシングル『スーパーヒーローになりたい』をリリース。年末には「のん、KAIWAフェスVol.1 〜音楽があれば会話が出来る!〜」を開催し、銀杏BOYZ 、堀込泰行らと共演。2018 年1月1日には2ndシングル「RUN!!!」をリリース。今春は「中島みゆきリスペクトライブ歌縁」全公演の案内役(ナレーション)や、坂本龍一が音楽監督を務める「東北ユースオーケストラ演奏会2018」に朗読で参加。4月19日~年5月8日には初の展覧会『‘のん’ひとり展-女の子は牙をむく-』(GALLERY X BY PARCO)を開催。

オフィシャルサイト
https://nondesu.jp/