LIVE SHUTTLE  vol. 258

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ユーミン、井上陽水を始め豪華な出演者が集った歴史的な1日。武部聡志によるコンセプト・ライブ『SONGS & FRIENDS』第一回を振り返る

ユーミン、井上陽水を始め豪華な出演者が集った歴史的な1日。武部聡志によるコンセプト・ライブ『SONGS & FRIENDS』第一回を振り返る

SONGS & FRIENDS
2018年3月17日 武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ

3月17日、武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナで“PERFECT ONE presents SONGS & FRIENDS”の第1回目が開催された。これは荒井由実のデビューアルバム『ひこうき雲』をテーマにしたコンセプト・ライブで、この日は3部構成。第1部はJUJUなどの参加アーティストが、それぞれの解釈で『ひこうき雲』の曲を中心にカバーする。第2部はレコーディング・メンバーである荒井由実&ティン・パン・アレーが、現時点での『ひこうき雲』をライブで再現する。第3部はユーミンと参加アーティストがコラボするという、充実の内容。会場を埋めた8000人の音楽ファンが、開演を待った。

暗転になって最初にMCの中井美穂が登場。音楽好きの中井は、みずからの思いを込めてこのイベントについて語り、プロデューサーの武部聡志をステージに呼び込む。武部は「『ひこうき雲』を聴かなかったら、音楽をやっていなかった」など、このライブのプロデュース意図をオーディエンスに伝えてから、キーボードの前に座ったのだった。第1部のバックを務めるハウスバンドのメンバーは、音楽監督&キーボード武部聡志 ドラムス小田原豊、ベース須長和広、ギター鳥山雄司、キーボード清水俊也、シンセ・オペレーター山中雅文の6人。ユーミンのみならず、今のJ-POPの重要部分を支えるミュージシャンたちだ。

1曲目「雨の街」のイントロが始まる。最初に歌うのは原田知世だ。ピンクのドレスをまとった原田は、妖精のような雰囲気でマイクの前に立つ。♪夜明けの雨はミルク色♪という歌い出しで、原田はさすがに緊張しているようだった。そんな緊張をバック・サウンドが柔らかく包む。45年前に作られたとは思えない洗練されたコード進行に、須長のウッドベースがよく似合う。そんなミュージシャンたちの心づかいが伝わったのか、続く「ダンデライオン~遅咲きのタンポポ」で原田の表情に笑顔が浮かぶ。途端に歌が立体的に聴こえてきた。原田のユーミン作品へのリスペクトが、会場にあふれ出した瞬間だった。

2番手は、ユーミンが以前から注目していたバンド“Suchmos”のボーカルYONCEだ。“Suchmos”はロックに、ソウルやジャズやヒップホップを独自のセンスで取り入れて、他のバンドとは一線を画す洗練された音楽でブレイクを果たした。このあたりのチョイスがユーミンらしい。『ひこうき雲』発表当時、誰もやっていなかったリズム“スカ”のアレンジが、イマドキのアーティストYONCEにぴたりとハマる。1991年に生まれたYONCEは「僕が生まれた直後にユーミンのアルバム『THE DANCING SUN』(94年)を聴いてた母親に感謝です」と言って、『THE DANCING SUN』収録の「Hello,my friend」を歌った。

次も若いボーカリストの家入レオだ。彼女の硬質なハイトーン・ボイスが、ユーミンを彷彿とさせる。「紙ヒコーキ」では鳥山が、メロディアスなスライド・ギター・ソロを披露。「ファースト・アルバムって、2度と作れない。テレくさくもあり、いとおしいものです」と家入はコメント。武部が「今までやったことのないアレンジで」と前置きして、ロック・バージョンの「卒業写真」が始まる。家入の声のポップな側面がいつもより強調されていて、新しい発見のある1曲になった。

出演者が、ユーミンと『ひこうき雲』に対するリスペクトをMCに混ぜながら、それぞれに合ったアレンジでカバーする。非常によく練られた企画であり、それをライブとして目の当たりにすると、ユーミン作品や出演者の“いつもと違う”魅力が浮かび上がる。さらには『ひこうき雲』が、その後の音楽シーンに与えた影響を、楽しみながら確認できる。

第1部の後半には、クレイジーケンバンドの横山剣が登場。「ベルベット・イースター」をロック歌謡のようなアレンジで歌う。これがめちゃハマって、会場から大きな拍手が起こった。「横浜から自分で運転してやってきました。ここ、調布はユーミン・ワールドの入り口です」と自分のキャラクターを前面に出したMCで会場を和ませる。横山は「雨のステイション」をソウル・バラード風に歌って、オリジナルとは完全に別の世界を構築していた。この曲では小田原のソウルフルなドラムが印象的だった。

JUJUは、家入とは対照的に低い声に魅力がある。「きっと言える」ではその特長が活かされていて、ユーミンのオリジナル・テイクよりずっと大人っぽいニュアンスで歌われていた。続く「曇り空」でもエモーショナルなJUJUの歌の魅力が発揮される。サビに入ると、突然、男性ボーカルのハモが聴こえてきた。ステージに入ってきたのは、久保田利伸だった。拍手が巻き起こる。このイベントの最初のサプライズだ。ボサノヴァ・テイストのアレンジなので、「曇り空」がオシャレなデュエット・ソングになる。エンディングではJUJUと久保田がスキャット合戦を繰り広げ、会場の“音楽熱”をグッと上げたのだった。

JUJUを送り出した久保田は、武部の弾くフェンダー・ローズをバックに「雨の街」を歌い出す。原田知世の1曲目と同じなのだが、参加アーティストが自分で希望曲を申告するので、こういったことも起こり得る。しかし、まったく違うアレンジがなされているので、聴いていてストレスはない。それどころか、その“違い”が楽しかったりする。ポップなファンクにアレンジされた「雨の街」を、久保田は完全に自分のものとして歌っていたのはさすがだった。曲が終わりかけたとき、なんと原田がステージに入ってきて久保田と一緒に歌い出した。2度目のサプライズに、会場がどよめく。2人の美しいハーモニーで、第1部が締めくくられた。同じ曲を選んだことを逆手にとった、見事な演出だった。

再び中井が登場して、第2部の開幕を告げる。実は『ひこうき雲』のレコーディングのとき、バックの4人は“キャラメル・ママ”を名乗っていた。そして『ひこうき雲』をキッカケに、プロデュース・チームに特化する決心をして、“ティン・パン・アレー”を名乗るようになった。中井はそのことを説明した後、「あえて、こう紹介します。荒井由実&キャラメル・ママ!」。待ちかねたオーディエンスから、大歓声が上がる。

ベース細野晴臣、ギター鈴木茂、ドラムス林立夫、キーボード松任谷正隆に、武部が加わったスペシャル・セットがスタンバイしている中、「ベルベット・イースター」がユーミン自身によるピアノのアルペジオから始まった。

このアルペジオが凄かった。ユーミンの音色、ユーミンのリズムでピアノが鳴った瞬間、僕の耳は45年前に連れ去られていた。音楽が時代を連れ戻してくれる経験をこれまで何度もしてきたが、それらのほとんどは“歌”や“声”がきっかけになっていた。だからこの“ピアノの不意打ち”には面食らった。だが、このピアノこそ、ユーミンであり、『ひこうき雲』なのだ。以前からそれはわかっているつもりだったが、改めて快いショックを受けた。アルバムの曲順どおりの「ひこうき雲」からではなく、「ベルベット・イースター」から始まったことにも関係があるのかもしれない。

3曲目の「返事はいらない」は第1部でYONCEが歌っていたが、同じスカのリズムでもニュアンスがまったく異なる。第1部のハウスバンドの重さに対して、キャラメル・ママのサウンドは独特の軽さを持っている。しかも、まったく古さを感じさせない。70年代に現われた音であるのに、それは2018年の音でもあった。僕は第1部を楽しんだからこそ、この新鮮さに気付き、ユーミンのピアノが持つ魅力に強く反応したのかもしれない。会場の人々も、目の前で展開される『ひこうき雲』の世界に、ますます浸っていく。

その時、まさかのサプライズが起こった。ユーミンが「何の曲か、わかる? これから来るゲストがアレンジしてくれました」と言った後、悠然と現われたのは井上陽水だった。「空と海の輝きに向けて」の歌い出しの♪月のまなざしが まだ残る空に♪という歌詞が、陽水の声によく似合う。意外だった。今まで気付かなかったユーミンの世界の広さに触れた気がした。高い声の陽水に、ユーミンが下からハモを付ける。ボーカリストもミュージシャンたちも、かつて作り上げた名曲を惜しげもなく変貌させて楽しんでいる。これが“レジェンド”たちの仕業なのだから、驚く。終わって、ユーミンと陽水は熱いハグを交わしたのだった。

「さすがのオーラ! 次にやること、忘れちゃった(笑)・・・じゃ、武部さん、イベントのタイトル・チューンを」とユーミンが言って、第2部の最後の曲「ひこうき雲」がユーミンのピアノから始まる。僕がずっとアナログ盤で聴いてきた、あのスモーキーなサウンドは健在だった。会場中の人が目を閉じて聴いているように感じたシーンだった。

イベントのテーマソングを歌い切ったユーミンが、嬉しそうにメンバー全員の名前をみずから紹介して第2部は幕を閉じた。

そろそろコンセプト・ライブは大団円に向かう。ハンドマイクでステージ中央に立ったユーミンが、「リフレインが叫んでる」をピアノ1本で歌い出すところから第3部がスタート。ハウスバンドがそこに加わると、オーディエンスたちは立ち上がってハンドクラップをし始めた。そのタイミングでJUJUが登場して、ハモを付ける。ユーミンとJUJUの声の相性は抜群だ。と、思っていたら、次の「時をかける少女」のイントロで、原田知世が合流する。純度の高いユーミン・ポップスを、この3人が歌うという夢のようなシーンが出現して、会場の熱気はさらに高まる。「COBALT HOUR」では女性陣に変わって、横山剣が登場。ユーミンとケンさんのダブル“イイネ!”ポーズが見られた。「中央フリーウェイ」の歌い出しは久保田利伸から。ファンキーなアレンジに、まったく違和感がない。ビブラートしないユーミンと、ビブラートしまくる久保田のデュエットにも違和感がない。「恋のスーパーパラシューター」では出演者全員がステージに並んで歌い、ハウスバンドの演奏も絶好調。JUJUと家入の女性コーラス隊も、とてもいい感じ。出演者とオーディエンス全員のリスペクトがユーミンに集まって、このコンセプト・ライブならではのエンディングとなった。

アンコールはユーミンと武部が、2人で登場して「45年間で最高の日です」と感謝を表わす。ラストソングは、武部のピアノだけで「やさしさに包まれたなら」。最後のサビに差しかかると、ユーミンはピアノを弾く武部に静かに歩み寄ったのだった。とても気持ちの良い終わりだった。

未来に残したいアルバムをテーマとしたコンセプト・ライブ『SONGS & FRIENDS』を、武部は今後も続けていくという。次回はどのアーティストの、どのアルバムが選ばれるのだろう。日本にはまだまだ多くのすぐれたアルバムがあるので、楽しみでならない。

この記念すべき第1回の模様は、WOWOWで『PERFECT ONE presents SONGS & FRIENDS 荒井由実「ひこうき雲」Produced by武部聡志』として5月13日(日)夜8:45からオンエアされる。

また松任谷由実の45周年記念ベストアルバム『ユーミンからの、恋のうた。』が、4月11日にリリース。40周年記念ベストアルバム『日本の恋と、ユーミンと。』から5年。今の時代にこそ聴いてほしい、3つのテーマ別自薦45曲が、3枚組CDに収録される。「ベルベット・イースター」のピアノにやられてしまった平山としては、DISC1に入っている、「ジャコビニ彗星の日」と「スラバヤ通りの妹へ」あたりを、ぜひ聴いてほしいと思う。

文 / 平山雄一 撮影 / 上飯坂一、中嶌英雄

SONGS & FRIENDS
2018年3月17日 武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ

セットリスト
<第一部>
01.雨の街を 原田知世
02.ダンデライオン~遅咲きのタンポポ 原田知世
03.返事はいらない YONCE
04.Hello,my friend YONCE
05.紙ヒコーキ 家入レオ
06.卒業写真 家入レオ
07.ベルベット・イースター 横山剣
08.雨のステイション 横山剣
09.きっと言える JUJU
10.曇り空 JUJU×久保田利伸
11.雨の街を 久保田利伸

<第二部>
12.ベルベット・イースター 荒井由実
13.そのまま 荒井由実
14.返事はいらない 荒井由実
15.空と海の輝きに向けて 荒井由実×井上陽水
16.ひこうき雲 荒井由実

<第三部>
17.リフレインが叫んでる 荒井由実×JUJU
18.時をかける少女 荒井由実×原田知世×JUJU
19.COBALT HOUR 荒井由実×横山剣
20.中央フリーウェイ 荒井由実×久保田利伸
21.恋のスーパーパラシューター 荒井由実×ALL GUEST

<ENCORE>
EC.やさしさに包まれたなら 荒井由実×武部聡志


PERFECT ONE presents
SONGS & FRIENDS 荒井由実「ひこうき雲」
Produced by 武部聡志

放送日時: 5/13(日) よる8:45
放送局:WOWOW
出演:家入レオ/久保田利伸/JUJU/原田知世/横山剣/YONCE/荒井由実&ティン・パン・アレー(細野晴臣/鈴木茂/林立夫/松任谷正隆)

武部聡志プロデュース、さまざまなアーティストたちが集い
「100年後も聴き続けてほしい名アルバム」を演奏するアルバム再現ライブ!
第1回として3月17日に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで行なわれた公演の模様を放送。
さまざまなアーティストたちが世代もジャンルも超えて集い、
1973年に発表された荒井由実の1stアルバム『ひこうき雲』の楽曲をパフォーマンス!
一夜限りのプレミアムコンサートをお見逃しなく。

番組HPhttp://www.wowow.co.jp/detail/112712/001

荒井由実「ひこうき雲」

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