山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 33

Column

ジミ・ヘンドリックス / エレクトリック・ギターで宇宙へ到達した男

ジミ・ヘンドリックス / エレクトリック・ギターで宇宙へ到達した男

エレクトリック・ギターという楽器の可能性を誰よりも早く見抜き、誰も想像し得なかったパフォーマンスで世界のロック・シーンを極彩色に塗り替えた男。
いまも<ロック史上最も偉大なギタリスト>の名を譲らない彼の本当の凄さはどこにあったのか。
ギタリストならではの観察眼と感性豊かな筆致で、山口洋がミラクルな存在の核心に迫る。


編集部のリクエストで、大好きなジミ・ヘンドリックスのことを書いてみる。

彼の音楽を初めて聞いたのは高校生になりたての頃。その演奏と風貌に度肝を抜かれた。誰よりも魂に近い場所からギターを弾き、エレクトリック・ギターで宇宙へと到達した人類初めての男。ときには宇宙の存在そのものを、彼の音楽から感じることもある。あまりの才能ゆえ生き急ぎ、デビューからわずか4年、27歳で夭折。世界を疾風のように駆けぬけた。死から50年近く経過した今も、ワンアンドオンリーの存在であり続ける男。

ずいぶん後になって知ったことだけれど、彼の父親はアフリカ系の父親とチェロキー・インディアンの母親との間に生まれた。幼い頃、祖母が住んでいたリザベーション(インディアンの居留区)に預けられていたことが、彼の特異なメンタリティーを形成するにあたって影響を与えたであろうことは想像に難くない。希望のないリザベーションでの差別的生活、アイデンティティー、そしてインディアンが本来持っているはずの宇宙感。それが彼の表現の出発点ではないかと想像してみる。

高校生のある日、ラジオから流れてきた「Little Wing」。サウンドも歌も、何もかもがそれまでに聞いたことのないものだった。エアチェックしたカセットテープが伸びるまで、何度も繰り返して聞いた。僕のギター人生において、完全コピーを志した数曲のうちのひとつ。そこには僕がギターに求めるすべてがある気がしたから。

photo by Michael Bakkum_Authentic Hendrix

チューニングは半音下がっている。それにより、ジミの声域とマッチして、音楽のボトムは太くなり、チョーキングが容易になる。3段階にしか切り替えられないストラトキャスターのピックアップ・セレクターを中間位置に無理やりセットすることによって得られるフェイズがかかったハーフトーン。レズリースピーカーやユニヴァイヴによって得られる揺らぎの効果。おそらくスタジオに置いてあったはずのグロッケンの効果的な響き。右用のギターを逆さに持っているために弦のテンションのかかり方が通常と違うことによって得られるサウンド、エトセトラ、エトセトラ。

突き詰めていくほどに、彼のサウンドが独自のものであることが明らかになってくる。あれから約40年。ライヴにおける僕のエレクトリック・ギターのサウンドチェックはいつもこの曲なのだけど、未だに完璧じゃない。つい先日も土屋公平さんに楽屋で教授を受けたところ。未だに20代のジミヘンにたどり着けない54歳。嗚呼。

ロックンロールの黎明期を現場で体験した海外のアーティストやエンジニアに「当時いったい誰がすごかったのか?」という質問をすると、口を揃えたように「ジミだ」と応えが返ってくる。まったくもって存在が別次元で、開いた口が塞がらなかったと。ジェフ・ベックですらジミの演奏を初めて聞いたとき、廃業を考えた、と。

僕も含め、世界中の多くのフォロワーは彼を超えることはできない。

たぶん、魂とギターが直結しているからだろう。そこに一切の思考はなく、ただただ「感じて」いるのだろう。彼にだけ見えている世界があって、ギターという翼を使って、そこにたどり着こうとする。そのためにギターやエフェクターやアンプが必要で、それらは目的地にたどり着くための手段に過ぎないのだと思う。ひとことで言うなら誰よりも自由なのだ。

唯一、僕が彼より勝っていること。混迷のこの時代を生きて新しい曲を生み出すこと。でも、それすら今年彼の新譜!が出たことによって覆されてしまう。

もうひとつだけ。標高3~4000メートルでのスノーボードに一番合うのもジミの音楽。意外に感じられるかもしれないが、大自然とフィジカルに響きあおうとするとき、彼の音楽はこころとジャストフィットする。魂の深いところから奏でられているから、水の流れのように、自分が自分で居られる。異次元の世界で、自分を取り戻すことができる。雪山でその体験をさせてくれたのは、他にはジェリー・ガルシアだけだ。

最後にジミの有名な言葉を。色褪せないどころか、この時代だからこそ有効だと僕には思える。至言だ。

「愛国心を持つなら地球に持て。魂を国家に管理させるな!」

感謝を込めて、今を生きる。


photo by Chuck Boyd_Authentic Hendrix

ジミ・ヘンドリックス:1942年、米シアトル生まれ。本名:ジェームズ・マーシャル・ヘンドリックス。幼少時からチェロキー族の血をひく父方の祖母ノラ・ヘンドリックスに預けられて育つ。15歳のとき、古いアコースティック・ギターを父親に与えられ、独学でギターを学ぶ。1961年陸軍に志願し、入隊。パラシュートの降下訓練で負傷し、除隊したあとは、アイク&ティナ・ターナーやアイズレー・ブラザーズ等数々のアーティストのバック・ミュージシャンとしてレコーディングやライヴに参加。1966年、ニューヨークで知り合ったチャス・チャンドラー(アニマルズ)に見出され、渡英。ロンドンでオーディションを行い、ノエル・レディング(b)、 ミッチ・ミッチェル(dr)と「ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス」を結成。第1弾シングル「ヘイ・ジョー」は全英6位を記録。革新的なギター・サウンド、卓越したテクニック、創造性に富む楽曲、圧倒的なインプロヴィゼーションで一般のリスナーはもちろんのこと、プロのミュージシャンにも衝撃を与える(エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ビートルズ、ローリング・ストーンズのメンバーも舌を巻いたといわれる)。1967年発表のアルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト?』は最高2位を記録、全英が注目するロック・スターとなった後、アメリカに凱旋帰国。モンタレー・ポップ・フェスティバルでは、凄まじいギタープレイに加え、ギターに火をつけ燃やすパフォーマンスで、全米はもちろん世界にその名を轟かす存在となる。1967年『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』、1968年『エレクトリック・レディランド』(全米1位)を発表。ノエル・レディングの脱退後、1969年7月、ビリー・コックス(b)を加え「ジプシー・サンズ&レインボウズ」として活動を開始。同年8月に行われたウッドストック・フェスティバルではトリを務め、伝説的なライヴを残す。同年10月にはビリー・コックス(b)、バディ・マイルス(dr)と「バンド・オブ・ジプシーズ」を結成。バンド名と同タイトルのライヴ・アルバムを発表。1970年、英国ワイト島フェスティバルに参加した3週間後の9月18日、ロンドンのホテル滞在中に昏睡状態に陥り急逝。享年27歳。2003年、2011年、ローリング・ストーン誌<歴史上最も偉大な100人のギタリスト>第1位。

『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』

¥2,400(税別)
SICP-5667
『ヴァリーズ・オブ・ネプチューン』(2010年)、『ピープル、ヘル&エンジェルス』(2013年)に続く未発表スタジオ録音音源を編集した3部作の第3弾。収録されているのは1968年1月から1970年2月までに録音された曲で、ほとんどが初出の未発表音源。ジミとバディ・マイルス(ドラムス)、ビリー・コックス(ベース)によるバンド・オブ・ジプシーズのセッションは5曲を収録。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(Bass)、細海魚(Keyboard)、池畑潤二(Drums)とHEATWAVEとして活動。2018年3月31日、渡辺圭一が脱退。5月18日には新生HEATWAVEで初セッション・ライヴを行う。6月2日からスタートするソロ・アコースティック・ツアー“YOUR SONGS 2018”のリスエストを現在受付中。6月29日には仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと “MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend”を東京・下北沢GARDENで開催。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HW SESSIONS 2018
5月18日(金)横浜 THUMBS UP
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山口洋 SOLO TOUR “YOUR SONGS 2018”
6月2日(土)静岡 LIVEHOUSE UHU
6月4日(月)名古屋 TOKUZO
6月6日(水)大阪 南堀江 knave(16th Anniversary)
6月8日(金)京都 coffee house 拾得
6月10日(日)豊橋 HOUSE of CRAZY
6月16日(土)千葉 Live House ANGA
7月27日(金)熊本 ぺいあのPLUS
7月29日(日)福岡 ROOMS
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MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend
6月29日(金)東京 下北沢GARDEN
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VORZ BAR × GROOVE COUNCIL presents Mix Up & Blend vol.2
6月30日(土)仙台市市民活動サポートセンターB1Fシアター
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山口洋×藤井一彦(THE GROOVERS)OUR SONGS 2018
7月13日(金)吉祥寺 STAR PINE’S CAFE
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