黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 15

Interview

『鉄拳』原田勝弘氏(上)文武両道な少年はいかにしてナムコ社員になったのか

『鉄拳』原田勝弘氏(上)文武両道な少年はいかにしてナムコ社員になったのか

さらに『ゴルゴ13』どハマリ、生き方まで影響を受けました

けっこう大人びていたんですね。

原田 はい、その頃から『ゴルゴ13』(注4)も大好きでした。でも、親からは(マンガを)禁じられていたんですよ。僕は長男で、しかも3人目の末っ子だったから、多分姉と違う教育をしたかったんでしょうね。とにかくマンガもアニメもゲームもバカになるからダメだと。

注4:国籍、経歴、本名すべてが謎に包まれた超A級のスナイパー、ゴルゴ13の活躍を描いた、さいとう・たかをによるアクション劇画。1968年に連載が開始された長期連載作で、現在も小学館の『ビッグコミック』にて連載中。

(笑)。

原田 親はそこまで厳しくしたつもりはないそうですけど、全部シャットアウトされてた記憶があります。で、そうなると何が起きるかというと、意地でもゲームをしたい、マンガを読みたいとなるわけです。とはいっても、自分の手許にはなんにもないですから、そうなるとやることはもうふたつですよね。ゲームは親の目を盗んでゲームセンターに行くしかない。

そうですね、はい。

原田 じゃあマンガはどうするかというと、姉がいるときにこっそり見せてもらうか、もしくは親戚の家に行ったときに、その親戚のお兄ちゃんの棚にあるものを見る。でも、親戚のおじさん、お兄さんは年上ですから持っている本が全然違っていて、ちょっとアダルトな感じのヤツがあるんですよ、『実験人形ダミー・オスカー』(注5)とか・・・。

注5:普段は気弱だが、ショックを受けると自信満々のマッチョな男・オスカーに変貌する主人公が活躍する、原作・小池一夫、作画・叶精作のセクシーコミック。掲載誌が男性誌の「GORO」だったこともあってきわどい描写が多い。

ありましたねえ~、分かりますよ。

原田 そういうのしか読めなかったんですけど、その中でも一番これはと思ったのが『ゴルゴ13』で、もう一個が『マカロニほうれん荘』(注6)。あのふたつには、どハマりしました。『ゴルゴ13』はそのときから現在の最新巻までずっと読み続けています。

注6:70年代に絶大な人気を誇った鴨川つばめの不条理ギャグマンガ。同時期に連載されていた『がきデカ』とともに、のちのギャグマンガに多大な影響を与えた。

へえ~、すごいですねえ。

原田 小学生には難しかったですけどね。でも、『ゴルゴ13』はすごかったですよ。中学・高校・大学の授業で、もしくは自分自身で世の中のニュースを学んでいくじゃないですか。ところが、僕はそうした歴史上のいろんな事件を、なぜかすでに知っていたんですよ。で、なぜだろうと思ったら全部『ゴルゴ』で読んでいたんです。

『ゴルゴ』の世界って面白くて、ゴルゴ13の存在だけがフィクションで、他はだいたい史実や現実の世界に基づいていたりするんです。だから、「そういうことだったんだ」って授業とかでいろいろ追体験できたんです。そういう構図もあったので、余計どハマりしました。あのマンガにはいろんな意味で、生き方も含めてだいぶ影響を受けましたね。

40センチぐらい掘ると縄文時代と弥生時代の土器が出る奈良県

ちなみに、ご出身は秘密ですか?

原田 いや、それは大丈夫です。生まれは大阪の豊中市で、3歳までいたんですけど、4歳になる手前ぐらいで奈良県に移りました。

幼少時代

大阪や奈良という土地が、ご自身の人生観に与えた影響などはありますか?

原田 大阪は4歳ぐらいまでしかいなかったので、あまり記憶にないですね。せいぜい伊丹空港(大阪国際空港)から飛んでく飛行機がうるさかったくらいでしょうか。やたら低いところを飛行機が飛ぶことがあって、けっこううるさかったんですよ。だから、奈良に来たとき、空を見上げると飛行機がはるか上を飛んでいて、やたら静かなところに来たなって思ったことは覚えています。大阪で印象に残っているのはそれぐらいですね。でも、奈良に住んでいたことは思い返すと、いろんな影響が自分の中でありましたね。

たとえばどんなことでしょう。

原田 奈良県ってけっこう尋常じゃない県なんです。あそこって日本発祥の地と呼ばれているような場所じゃないですか。で、地殻変動とかがそんなに起きてない場所でもあるんですよ。だから、40センチぐらい掘ると縄文時代と弥生時代の土器が、ほぼ同じ場所から出てきたりするんです。

そういうものなんですか。

原田 簡単に出てくるんです。小学校の文集に「趣味、土器集め」とか、みんな書いちゃうぐらい。近所のお兄ちゃんが小さな鏡を掘り当てて、それを調べたところ教科書の鏡の伝来の記述が〇〇年さかのぼっちゃった、みたいなことも。

歴史が変わるぐらいの発見だったと。

原田 はい。教科書が改訂になったとき、「あの発見をしたのは奈良のあそこのナントカお兄ちゃんらしいよ」「マジか!」みたいなことが起きるところなんです。土偶や埴輪も普通はバラッバラの破片で出てくるんですけど、ほぼほぼ原形留めたものがボンって出てくる例もあって。

ホントに? すごいところですね。

原田 ガードレールをひとつ付けるので、工事のために掘っただけで馬の頭の骨と刀みたいなのが大量に出てきたりしたこともあった。だから、大型スーパーとかが6月にオープンしますってなっても、みんな無理だなって絶対思うわけですよ。

何か出てくるから。

原田 はい。基礎工事をしたら古墳が出てきた。で、調査のために掘ったら、その古墳の下から、さらに古い年代の古墳が出てきたとか。だから、奈良県って駐車場が全部屋上にあったりするんですね。掘ったら大変なことになるから。

掘るとまた工期が伸びると。

原田 奈良って木簡(注7)なんかもよく出てくるんですよ。なんで木簡がそのまま残ってるかというと、泥と水が混じって密封状態で埋まっているから腐らないんですって。でも、水が抜けて、そこに空気が入ったりすると腐っちゃうんで、ヘタに掘れないっていうのもあるらしいんですよ。

注7:短冊状の木の板に墨で文字が書かれたもの。日本では飛鳥時代や奈良時代に記録用として使用されていたことから古代史研究のための貴重な史料となっている。

それは知りませんでした。

原田 だから、藤ノ木古墳(注8)が出て世の中大騒ぎになったところが、僕らが学校に行く途中の道だったりとか、マラソン大会のスタートが法隆寺だったとか、ご神体が山だったりとか。東大寺の奈良の大仏を見に行くのも大好きで、仏像とかああいう日本の精神性というかメンタリティみたいなものに対する理解が深まるんです。奈良にいると、そうしたことに気づくことが多くて、そこはちょっと面白かったですね。

注8:奈良県斑鳩町で発見された古墳。国宝指定の埋葬品がいくつも出土したことから大きな注目を集めた。

年上の人とのネットワークでロケーションテストを知る日常

面白い場所なんですね。ただ、これは僕の勝手なイメージですが、奈良にいてエンターテインメントに触れる機会がちょっと少なかったということはないですか。

原田 少なかったですね。それに、東京や大阪より入って来るのもちょっと遅いんです。

そうだと思います。ゲームだと高校生ぐらいで体感ゲームの時代という感じですか?

原田 いや、体感ゲームは中学のときから本格的に。

それは『アウトラン』(注9)とかの頃ですか。

注9:セガのAM2研が1986年に開発した体感ドライブゲーム。深紅のボディの可動筐体やヨーロッパを彷彿とさせる魅力あふれるコース、軽快なサウンドなどが注目を集めた。

原田 そうですね。で、大阪は比較的近いんですけど、子供だから融通きかないんです。学校区から出ちゃいけないとか、いろいろあるじゃないですか。だから、ゲームセンターが併設している大きな本屋とか、ボーリング場にあるゲームセンターとかに、そういうゲームが1台入ると奈良県中の人が集まってくるんです。それで、新しい筐体の周りをみんなで囲む、もしくは100円を握りしめてロケーションテストに並ぶっていうことを、ずうっとしてましたね。

でも、そうした情報をどこで手に入れていたんですか。当時はネットもないし。

原田 ないですね。だから、そういうネットワークが形成されるわけですよ。そのときやっぱり大人ってすごいなと思ったんですけど、年上はいろんな情報を持っているわけです。学年が1個上がっただけで、だいぶ違うんですよ。なので、年上と知り合いになるしかない。

僕は一番上の姉が6つ、2番目の姉が3つ上で、けっこう離れているので年上の人と話すのは苦にならなかったんです。なので、いろんな学年が上の人たちから情報をもらって、「原田君、店長から聞いたけれども、明後日『スペースハリアー』(注10)が入るらしいよ」、「アレか~、オレは写真でしか見たことねえ、朝から行くぞ!」みたいな。

注10:1985年にセガのAM2研が開発した3Dテイストのアーケード向けシューティングゲーム。戦士ハリアーを操り、次々に現れる敵を撃ち倒していくスピーディな展開や自機にあわせて可動する大型筐体などが大きな話題となり、絶大な人気を誇った。

『インベーダー』と『スペースハリアー』の間って、時代的にけっこう空きますよね。その間もゲームはされていたんですか?

原田 やってましたよ、ずうっと。ゲームセンターでシューティングゲームとか、ありとあらゆるものをガリガリと。あの当時のゲームセンターって確かに不良もいて、絡まれたり脅されたりしたこともありましたけど、そんなのはごく一部分で、95パーセントはまともな人。ホントにいいオッサンから子供までいて、みんなで情報交換しながらゲームを遊べるコミュニティだったんです。

ですよね、分かります。

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