Interview

田中哲司&大東駿介が生み出すブラックユーモアを気軽に楽しめる舞台──マクドナー最新作『ハングマン』ついに日本初演

田中哲司&大東駿介が生み出すブラックユーモアを気軽に楽しめる舞台──マクドナー最新作『ハングマン』ついに日本初演

イギリス気鋭の脚本家・マーティン・マクドナーの最新作『ハングマン』日本版が、2018年5月12日より彩の国さいたま芸術劇場にて初演を迎えた。本作は、マクドナーにとって、2010年にブロードウェイで初演された『スポケーンの左手』以来、待望の書き下ろし作品。本作は、2015年9月にロンドンのロイヤルコートシアターで幕を開けると評判を呼び、2016年にローレンス・オリヴィエ賞「BEST PLAY」に輝いた話題作だ。ニューヨークでは、2018年1月から3月までUS版を上演し、連日のソールドアウト。今作日本版で演出を手がける長塚圭史は、マクドナーの『ウィー・トーマス』の演出で読売演劇大賞優秀演出賞、朝日舞台芸術賞などを受賞。翻訳はこちらも数多くのマクドナー作品を翻訳・演出してきた小川絵梨子が手がけ、マクドナーを愛してやまない2人の初タッグが注目を集めている。
稽古最終日、主演のハリー役の田中哲司とムーニー役の大東駿介にインタビュー。マクドナー作品の魅力、演出家・役者としての長塚圭史、お互いの印象など、いろいろと語り尽くしてもらった。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶


※記事の後半には田中哲司さん&大東駿介さんの直筆サイン入りチェキのプレゼント応募情報を掲載しています!

マクドナー作品は、思わず笑ってしまう仕掛けに新たな自分を気づかせてくれる

今日が稽古最終日だとお聞きしました。ここまでの稽古の手応えを教えてください。

田中哲司 精一杯、稽古をしていただけで、まだ手応えはわからないのですが、カンパニーが「こうしたいね」というゴールまで近づいてきましたね。毎日、深みが増してます。イギリスバージョンとは違った日本の『ハングマン』になったよね?

大東駿介 そうですね。ここにきて、全体が繋がってきました。一昨日は衣装をつけて通し稽古をしましたが、徐々に落ち着いて演じられるようになりました。

現代を代表する脚本家マーティン・マクドナーの久しぶりの新作です。多くの観客が待ち望む彼の作品の魅力を教えてください。

田中 マクドナーの作品は、ブラックな笑いに溢れてますが、奥深い笑いが隠されている。人として笑ってはいけないのについ笑ってしまう。マクドナーを観るときは、いつもそこを楽しみにしています。今作もそうなんです。間抜けで自分のことしか考えていない人しか出てこないので、収集がつかなくなって、とんでもない結果にあたふたする。そんな人間たちの心の奥に潜む本質が浮き彫りにされていくところが魅力だと思います。

大東 言葉の妙技を感じます。セリフはただ面白いだけではなく、頭の中で次々に繋がっていく秀逸で軽快で壮大な仕掛けになっています。だから、脚本を読んで、立ち稽古が始まってから気づく面白さというものもあって。稽古をすればするほど楽しいですね。日本版も、イギリスのブラックユーモアが多いので、イギリスのことをわかったうえで観劇していただけたら、日本版も内容をより深く理解できるかも。それだけではなく、イギリスならではの“ディス”り行為もあったりするので、舞台を観たあとでも、イギリスの歴史や時代を調べてみると新たな発見があるかもしれません。

北イングランドの田舎町に住む住人とロンドンから来た都会の男が生み出す化学反応

田中さんはハリーを、大東さんはムーニーを演じます。それぞれの役どころを教えてください。

田中 ハリーは、元・絞首刑を下す死刑執行人、いわゆる“ハングマン”をしていましたが、死刑制度廃止とともに引退をして、北イングランドのとある田舎町でパブを経営しています。そこにやってくる人たちとドタバタが展開されてハリーは右往左往します。ポイントは、彼は一番実力のある死刑執行人ではないところですね。ピアポイントという歴史上で実在の人物が、NO.1としてドンと構えている。だけど、彼は虚勢を張って俺のほうがすごいと思っている、根の小さい男です。そのちっちゃさが好きですね。内心は気が弱くて自分に甘く、人に厳しいタイプ。しかも、権力に憧れがある、なんか嫌なヤツだよな(笑)。

大東 (笑)。ムーニーは、何者かわからないし、目的すらわからず、ハリーの経営するパブにやってくる謎の男です。ただ、とにかくみんなを不快にさせていく。自分から田舎に来たのに、どういうわけか、嫌悪感をあらわにするんです。出さなくていい毒をばらまいて、場をかき乱していく役どころです。

田中 大きな違いは、ハリーは北イングランドの田舎にいて、ムーニーはロンドンの匂いがプンプンする都会からやってきたという点です。

役づくりはどのようにされましたか。

田中 もともと、それほど役づくりをしないタイプなのですが、今回は、虚勢を張ったハリーを表現するために、大仰に見せる演技を心がけています。リアルなトーンではなく、小さくまとまらないように、すべてのシーンを大袈裟にやろうと思っています。

大東 僕は、演出の(長塚)圭史さんに「その場にいることを楽しんでくれ」とおっしゃってもらいました。なので、空間を楽しく支配することを意識しています。

キャスト・スタッフみんなでつくった翻訳

翻訳はマクドナー作品を数多く手がけられている小川絵梨子さんです。

田中 今作の、北イングランドの田舎とロンドンの都会の言葉のニュアンスや生活習慣の違いは、マクドナーにしかわからないですから。でも、それを日本語に置き換える。おそらく困難な作業だったと思いますが、僕たちも作品づくりに参加しながら圭史くんを中心にみんなで、意見を出しあって、小川さんの素敵な翻訳を基にいろいろ脚色させていただきました。

大東 稽古中は、みんなで脚本を完成させていく作業が楽しかったです。やはりイギリスですから、特に北のほうは独特の訛りがあって、今でも言葉に関しては試行錯誤をしています。

田中 僕はまだ馴染めてない(笑)。

大東 オリジナルの方言を作ろうか議論したんですよね。既存の方言だと、頭の中で地域を特定されてしまう。イギリスのパブではなくて、日本の居酒屋のような空気が流れてしまうので、それは避けようと思っています。この舞台にしかない方言を本番まで探っていこうと思っています。

圭史さんと仕事をさせてもらうと楽しい経験しかできない

演出家としての長塚圭史さんの印象を聞かせてください。

大東 僕は2回目の共演ですが、「圭史さんと仕事をさせてもらうと楽しい経験しかできない」と断言できます。それは圭史さんがあらゆるベクトルに好奇心を持っているからですね。マクドナーは何作か演出されていますが、今でも、マクドナーの真実のメッセージを見つけようと楽しんでいらっしゃる。脚本に対する好奇心に溢れて、謎解きを楽しまれている。だから、それに感化されてこちらも自然と楽しくなるんです。それ以外にも、圭史さんと哲司さんと共演できることも楽しみです。

田中 圭史くんとは、何作かご一緒しているけれど、自由ですね。他の演出家の方に比べると、稽古場で何をやってもいいし、どんな動きをしてもいい。共につくり上げていく感覚が楽しいですね。こちらから演技プランを提示しても、馬鹿にされずに「とりあえずやってみよう」となる。時には、馬鹿にされそうな提案もするけれど、それでも「ちょっとやってみましょう」とおっしゃってくれる。

ディスカッションのときのダメ出しは的確なんですか。

田中 圭史くんはダメ出しを押しつけることはしないので、みんなでいい方向に向けて話し合うこともあります。

大東 そうですね。稽古は、1週間ほど脚本と向き合う時間でした。そのなかで、僕やカンパニーで最年少の富田望生ちゃんが、年齢やキャリアに関係なく意見を出せる空気づくりをしてくださる。もちろん、違うものは「違う」とおっしゃられるし、「それいいね」と採用していただけることもある。思ったことを口に出せる楽しい環境づくりをしてくださっています。

1 2 >