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Mr.Children 全シングルとアルバム配信スタート(前編)〜丁寧に時代と向き合い、歩んできたバンドの新たな一歩

Mr.Children 全シングルとアルバム配信スタート(前編)〜丁寧に時代と向き合い、歩んできたバンドの新たな一歩

5月10日から、Mr.Childrenの全シングルと全アルバムがダウンロード配信、および、サブスクでも楽しめるようになった。

私達はついつい、アレがダメなら次はコレ、みたいに考えがちだ。音楽業界だったら、CDはダメだから次は配信、みたいに。でも実際には、ダメだと思われているものにこそ、掛け替えのない良さがあったりする。Mr.Childrenというバンドは、音楽の届け方が変化していく中、ドラスティックな方向転換ではなく、過渡期なら過渡期なりに丁寧に時代と向き合い、歩んできたバンドである。

例えば2016年に桜井和寿が始めた「I ♥ CD shops!」のキャンペーンは、彼自身がCDショップを訪ね、常日頃、作品の流通に寄与してくれている店員の人達との交流をはかる、心温まるものだった。

また、『REFLECTION』のアルバムをリリースする前、まだ皆が知らない新作を中心にツアーしたのも、いざ作品集を手にした時の喜びを最上級にお膳立てするものだったし、彼らほどパッケージをアートとして捉え、有能なクリエイターとコラボしてきた人達は居らず、しかも『REFLECTION』の場合、CDとUSB音源を同梱し、USBにはmp3とハイレゾを用意し、無味乾燥になりがちなUSB端子をクリスタルな三角錐のオブジェにあつらえ、大いに楽しませてくれたものだった。過渡期なら過渡期なりに丁寧に時代と向き合い、歩んできている証拠である。

もちろん配信を無視していたわけじゃなく、シングルは配信でも旺盛にリリースされてきた。シングルの場合、即座に届けることにより、その楽曲が孕む今という空気感すら、リアルに届けられる場合がある。

さらに25周年のメモリアル・イヤーに、「Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25」と「Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25」という2作のベストを出す際には、配信のみのリリースを選択した。ここらあたりから状況は変化した、というか、このベストの反響は絶大であり、配信の向こうで自分達を待ってくれてた新たな聴き手を感じ取ったかもしれない。そしてベストという“総論”の次は“各論”とばかり、今回の全作品の配信へつながったと考えるのが自然なことだろう。

この時点で彼らがCDを過去のものにしたのではない。繰り返すが、過渡期なら過渡期なりに丁寧に、というのは、ひとつの選択では済まない根気がいることなのだ。

ところで今回、この配信開始のニュースのなか、「遂に!」の言葉が踊ったのが、サブスクである(この略語、なんか響きが“音楽的”じゃないので好きになれないが(笑))。さっそくこちらの方は、個人的に馴染みがあるSpotifyで利用してみた。

サブスクに馴染みのない人達もいるだろうけど、難しく考える必要はない。ネット上に巨大な音楽ライブラリーがあり、自由に利用できるようになった、ということだ。Spotifyには「This Is Mr.Children」という、90曲のプレイリストもあった(実は今、それを仕事場に流しながら、この原稿を書いているのである)。

最初は違和感というか、そもそも90曲を、誰がどんな意図で選曲し、並べたのかが気になった。なぜ21曲目が「CANDY」で、その次が「車の中でかくれてキスをしよう」なのか、理由が知りたかった。

きっとこれは、筆者がCDにおける“ベスト・アルバム”の感覚で受け止めようとしたからだ。でもさすがに90曲ともなると、途中でそうした感情もなくなった。

Mr.Childrenの音楽が、リリース時期や曲調、歌詞内容に関係なく、ランダムに延々流れていく。すると、いったんそれぞれの楽曲の目鼻が引っ込み、音はひとつの“環境”と化した。90曲もの物量のマジックでもある。だからこそニュートラルに、「あれ? これ…、いい!」、みたいに、新たな魅力をディスカバリーするキッカケにもなっていく。

実はサブスク。使う前と後では印象がガラリと違うものだった。最初は音楽に積極的じゃない人が、何となく聞きながすために利用するのだと思ってた。しかしここは巨大な音楽ライブラリーなのであり、好奇心が強ければ強いほど、引き寄せられる場所なのだ。

当然、興味の向くまま沢山聴けば、耳も肥える。アーティストへのリスペクトも芽生える(これは非常に重要なことだ)。影響力あるプレイリストに選ばれ、サブスク内のチャートの上位を占め、この世代の音楽ファンに認められることが、さらにその外側の新たな音楽ファンへの最高のプロモーションにもなりそうだ。でもそれには、魅力的な音楽じゃないといけない。

アーティストは、ともかく作品を聴いて欲しいのだ。出来るだけ先入観なしに、出来ればその作品の総てを聴いて欲しい。この強い気持ちは、音楽産業とは別の場所に存在する。

さて、さっきからずっと仕事場に流れていたSpotifyのプレイリスト「This Is Mr.Children」の90曲目は、「終りなき旅」だった。この曲順はわかる! 僕だっておそらく、最後はこの曲を選んだことだろう。

後編は5月18日(金)13時掲載予定

文 / 小貫信昭

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