LIVE SHUTTLE  vol. 268

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渡辺美里 30年前のミリオンセラー・アルバム『ribbon』の完全再現がただノスタルジックなだけではないのはどうしてなのか?

渡辺美里 30年前のミリオンセラー・アルバム『ribbon』の完全再現がただノスタルジックなだけではないのはどうしてなのか?

ribbon power neo
2018年5月26日 マイナビBLITZ赤坂

「ribbon power neoは、ribbonの再現ライブではありません。土屋礼央さんと一緒に、ラジオ番組とサタデーナイトライブのようなテレビ番組とコンサートが合体した時間にしようと思っています。」と、ライブの前日、渡辺美里は自身のブログに書いた。70年代から続くアメリカの公開バラエティ番組を引き合いに出すあたりはなんとも通好みだが、つまりは「新しい試みに挑みます!」というマニフェストだ。アルバム完全再現ライブということなら、彼女は2016年3月に1stアルバム『eyes』をその趣向でファンに届けているから、同じ企画では彼女自身が燃えなかったのかもしれない。

もっとも、今回のお題とも言うべき4thアルバム『ribbon』は、彼女にとって初のミリオンセラー・アルバムであり、発売前年の87年にCDとLPの売り上げが逆転してCDメガセールス期へとシーン全体が突入していく、その先駆けともなった作品だ。ということは、ファンが抱えている思い出の数もまた月並みではないはずで、だから発売から30周年のこのタイミングで、ただ記念盤がリリースされただけでなく、こうしたスペシャル・ライブが実現したことがすでに、ファンにとってはうれしい驚きだったに違いない。そして、案の定この日の夜の公演のチケットはたちまちソールドアウト。急遽設定されたこの早い時間の追加公演も、この日の進行役を務めた土屋礼央の表現を借りれば「1年分の運を使い果たし」たくらい幸運な人だけが目撃できることになった。

会場に入ると、ベリンダ・カーライルの「ヘヴン・イズ・ア・プレイス・オン・アース」が流れている。“あれっ!? この曲はあの頃の曲だよなあ…”と思っていると、続いてジョージ・ハリソンの「セット・オン・ユー」へ。完全に、『ribbon』が発売された1988年モードだ。やがて暗転すると、ステージ後方のスクリーンに、切迫した勢いで誰かが長い階段を駆け上がってくる映像が映し出される。そんなふうにして、美里自身の出演で当時大きな話題を呼んだ缶コーヒーのCM映像がたて続けに3種類上映され、会場の空気は完全に1988年にタイムスリップしてしまった。

土屋がまず登場して飄々とこの日のライブの趣旨を説明すると、バンドのメンバーを呼び込み、いよいよ演奏がスタート。演奏部分については、アルバムの曲順通りに曲が披露されていくことになるから、お客さんは1曲目が何なのか、もちろん承知していて、すかさず立ち上がった。本間昭光をバンマスとするバンドの演奏は、オリジナルの演奏をきちんと踏まえつつも、やはりライブだからこその高まりのなかでどんどん躍動していく。しかも、アルバム最初の2曲「センチメンタルカンガルー」と「恋したっていいじゃない」は、先の缶コーヒーCMのタイアップ曲として当時テレビでさかんにオンエアされ、またそれ以降の美里のライブでもステージを加速していくアップ・チューンとして人気の曲たち。盛り上がらないわけがない。

美里は、「恋したっていいじゃない」のエンディングにのせた最初のMCで「どんなライブになるのやら」と話す。「今この瞬間しかない、いい時間を楽しみたいです」。演出としての、30年前へのタイムスリップはあっても、彼女の声と存在感はやはり「いま、ここ」を強く意識させる。それは、彼女自身がつねに「いま、ここ」で情熱を燃やすことに集中しているからだろう。

ライブは、2曲、あるいは3曲ごと土屋が登場して、美里とのトーク・タイムが挟み込まれる。ステージ下手にサロン風に設えられたソファに座って、土屋が『ribbon』制作当時のエピソードを聞いていくのだが、そのようすはまさにラジオの公開番組のよう。だから、このライブ全体も『ribbon』というアルバムを生演奏付きで紹介していくラジオ番組と捉えればわかりやすいかもしれないが、もちろんどこでも放送されない文字通りのスペシャルな内容だし、そういうふうに割り切ってしまうには生演奏部分があまりにも贅沢過ぎる。

満員のオーディエンスにとってみれば、それはまずノスタルジックな感動を運んでくれるものだったろう。個々の曲は近年の彼女のライブで演奏されることがあるから、その時々で曲ごとの魅力を意識することになるのだけれど、こんなふうにアルバムの中の1曲として演奏されると、やはりどの曲も発表当時の時代の空気を強く感じさせる。それは、1曲1曲を丹念に作るのは当然のこととして、しかもアルバムとしてのトータリティを明確に意識して作品化されたアルバムだからこそ生じる現象だろう。

そして、30年という時の流れのなかでファンそれぞれが自分の思い出でふっくらさせたアルバムは、この日の公開ラジオ番組風トークのおかげで、いっそうの奥行きが感じられる作品になったに違いない。「ラジオ番組とサタデーナイトライブのようなテレビ番組とコンサートが合体した時間」を作り出す、この新しい試みはなんともナイスな企画だったが、でも終わった後で振り返れば、飛び切りのスーパー・ボーカリストにして、目の前で語りかけてくれているように感じられる素晴らしきラジオ・パーソナリティである渡辺美里だからこそ可能なコンサートであることに思い当たった。

アンコールには、『ribbon』の半年後にシングルとしてリリースされ、今回の30th Anniversary Editionに収録された「君の弱さ」を披露。美里は「当時、次のアルバム『Flower bed』を予感させた曲です」と紹介したが、この日も前向きな予感を残してステージを締めくくった。その予感は、6月から始まる全国ツアーにつながっていくのか? あるいは、すでに本間と制作を進めているという新曲につながっていくのか? いずれにしても、30年前を思い出させながら、しかし今を感じ、未来を感じさせる、いかにも渡辺美里らしいライブだった。

取材・文 / 兼田達矢

ribbon power neo
2018年5月26日 マイナビBLITZ赤坂公演

セットリスト
1.センチメンタルカンガルー
2.恋したっていいじゃない
3.さくらの花の咲くころに
4.Believe
5.シャララ
6.19才の密かな欲望
7.彼女の彼
8.ぼくでなくっちゃ
9.Tokyo Calling
10.悲しいね
11.10 years
ENCORE
1.君の弱さ

その他の渡辺美里の作品はこちらへ

ライブ情報

M・Evolution Tour 2018

6月29日(金)東京・町田市民ホール
7月3日(火)北海道・札幌市教育文化会館大ホール
7月6日(金)北海道・北見市民会館大ホール
7月8日(日)北海道・中標津町総合文化会館しるべっとホール
7月14日(土)高知・高知市文化プラザかるぽーと大ホール
7月16日(月)香川・ハイスタッフホール(観音寺市民会館)大ホール
7月21日(土)東京・昭和女子大学人見記念講堂
7月25日(水)静岡・静岡市民文化会館中ホール
8月11日(土)宮城・仙台市若林区文化センター
8月17日(金)新潟・新潟県民会館大ホール
8月19日(日)栃木・小山市立文化センター大ホール
8月22日(水)埼玉・埼玉会館大ホール
8月24日(金)東京・かつしかシンフォニーヒルズモーツァルトホール
8月31日(金)愛知・東海市芸術劇場大ホール
9月2日(日)福岡・福岡国際会議場メインホール
9月4日(火)岡山・倉敷市芸文館
9月7日(金)広島・広島JMSアステールプラザ大ホール
9月9日(火)大阪・NHK大阪ホール

渡辺美里

1985年デビュー。翌年「My Revolution」がチャート1位となり、同年8月、女性ソロシンガーとして日本初となるスタジアム公演を西武スタジアムにて成功させる。以降20年連続公演という前人未到の記録を達成し、渡辺美里の活動の中でも代名詞的な存在となる。2005年西武スタジアムに終止符を打った翌年、2006年からは、毎年「美里祭り」と題して様々な都市でLIVEを開催。渡辺美里の活動は音楽だけにとどまらず、ラジオのパーソナリティー、ナレーション、2012年、2014年はミュージカル「アリス・イン・ワンダーランド」で不思議の国を支配する『ハートの女王』を演じるなど、様々な分野にチャレンジし続けている。そしてデビュー30周年を迎えた2015年は、19枚目のオリジナル・アルバム『オーディナリー・ライフ』を携えて、5月から47都道府県で「美里祭り」を開催。
2016年1月9日には30周年の集大成と31年目のスタートとして、横浜アリーナでの公演を大成功させる。2016年にはオーケストラとのコラボレーション・コンサート全国ツアーを開催。2018年は前年に続いて全国ツアーを開催予定。数多くのヒット曲と代表曲を持つ、名実ともに日本を代表する女性ヴォーカリストである。

オフィシャルサイト
http://www.misatowatanabe.com/

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