山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 35

Column

野性の呼び声

野性の呼び声

法律やルールや効率化や経済効果とは無縁の方向にありながら、太古の昔から、生きとし生けるものすべての根幹を支えてきた感覚=“野性”。
都会に暮らす現代人がそれを失わないためには何が大切で、何が無用なのか。
HEATWAVE山口洋が鷹の目で音楽の本質を見つめる好評連載!


ジャック・ロンドンの名著「野性の呼び声」。

幼い頃からその本が家にあって、青年期に至るまで、言葉の意味を背表紙からじわじわと叩き込まれた。いつだって忘れたくなかったのは「野性の感覚」。たましいの独立と自由を求めているのなら、スポイルされちゃいけない。どうして目の前の信号を「尊守」しなければならないのか? 未だに僕はそれを疑って生きている。うまく真意が伝わるといいけれど。

ヘンリー・ソローの「森の生活」、ヘンリー・ミラーの「北回帰線」、LF・セリーヌの「夜の果てへの旅」、チャールズ・ブコウスキーの一連の作品、ダグ・ボイドの「ローリング・サンダー」、エトセトラ、エトセトラ。
この世界で正気と野性を保っていられたのは、これらの本のおかげでもある。

都会で感じる孤独は闇が深い。でも僕は独りで、一人ではなかった。

日頃から不思議に思っていること。

山に登るとき、すれ違う人々は挨拶を交わす。なのに、山手線で見知らぬ人に「おはよう」と微笑みかけたら、確実に頭がイカレていると思われる。この違いはいったい何なのだろう? 電車の中で誰かと目が合ったなら、なぜ微笑んではいけないのだろう? 今や老若男女を問わず、スマートフォンに夢中。コミュニーケーションの分断。人々の顔を照らすスマートフォンの光。正直、怖い。繋がっていると云う感覚はかなりの部分で妄想に近いと思う。

文学や音楽。この時代の荒野を生き延びるための力をずっと僕に与えてくれた。自由に生きることの意味。いつだって灯台のように僕を励ましてくれた。

20代の終わりに、僕はヴィジョンクエストというインディアンの少年がやる割礼のような儀式をやっていた。

人っ子ひとりいない広大な砂漠の真ん中で、自分を媒介として、宇宙と地球のエネルギーが通り抜ける「自分の場所」を探す。たった一人。そこに水だけで3日間滞在する。恐怖のあまり少年はヴィジョンを見る。村に帰って、少年はヴィジョンをメディスンマンに伝える。例えば少年が「転がる雷鳴」のヴィジョンを見たとする。すると、少年はメディスンマンによって「ローリング・サンダー」という名前を与えられる。彼はそのヴィジョンに向かって一生を生きていく。とても野性の理にかなっているのだ。

安易に人に勧められられることではないけれど、宇宙の中にたった一人で存在していた経験は、僕を確かに変えた。

遠くに砲弾の音を聞き、近くに自分の心臓の音を聴く。隔てるものすべてに虹を思い描く。境は超えるのではなく、ぼかしていくのだ。

実在する宇宙と自分が内包している宇宙は同じものだ。もっと云うなら、あなたも僕も、宇宙そのものだ。スポイルされなければ、それは誰にも備わっている感覚だと思う。

音楽の話をしよう。イギー・ポップのライヴ・パフォーマンスはいつだって野性の本能そのもの。マサイ族のように激しく、そしてしなやかだ。ジョー・ストラマーとメスカレロスが2001年に放った「Johnny Appleseed」にはアメリカ大陸にリンゴの種を植えてまわった開拓者としての野性のプライドが描かれる。インディアンの闘士、ジョン・トゥルーデルが1994年に発表した作品「Johnny Damas And Me」は彼の声霊が野生の鷹のように空を舞う。フィラデルフィア出身の若手バンド、ザ・ウォー・オン・ドラッグスは都会で生き抜くための孤独を歌う。僕のヒーロー、故ウォーレン・ジヴォンは一貫して、一度も群れることなく野性に死んだ。

さぁ。一歩ずつ進もう。自分の夢に向かって。もはや、それは自分のために見ている夢ではないのだから。

感謝を込めて、今を生きる。

イギー・ポップ

1947年、米・ミシガン州マスキーゴン出身。1967年、「ザ・ストゥージズ」を結成。当時のサイケデリック・サウンドへのアンチテーゼともいえる荒削りなギターと衝動的なヴォーカル、ステージ上での激しいパフォーマンスが注目を集め、“パンク・ロック”の先駆け的存在となる。1973年にバンドを解散し、1977年から2003年にかけてソロとして15枚のスタジオ録音アルバムを作り上げる。2010年、ストゥージズ名義で『ロックの殿堂』入り。ローリング・ストーン誌選出「歴史上最も偉大な100人のシンガー」第75位。Q誌選出「歴史上最も偉大な100人のシンガー」第63位。2017年にフランス芸術文化勲章の最高位『コマンドゥール』を受章。QUEENS OF THE STONE AGEのジョシュ・ホーミとのコラボレーションを綴る最新映画『アメリカン・ヴァルハラ』が公開されたばかり。

映画『アメリカン・ヴァルハラ』オフィシャルサイト

イギー・ポップ「Real Wild Child (Wild One)」


ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロス

1999年に結成されたジョー・ストラマーのバンド。オリジナル・メンバーはジョー・ストラマー(vo&g)、アンソニー・ゲン(g)、スコット・シールズ(b)、マーティン・スラットリー(key&g)、パブロ・クック(perc)、スティーヴ“スマイリー”バーナード(ds)。リチャード・フラックも様々な効果音、楽器で参加している。2002年にストラマーが亡くなるまでに3枚のアルバムを制作、最終アルバム『ストリートコア』は没後の2003年10月20日に発表された。

ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロス「Johnny Appleseed」


ジョン・トゥルーデル

1946年、ネブラスカ州オマハでサンテ・スー族の父と、メキシコ人の母の間に生まれ、ネブラスカ州ニオブララのサンテ・スー保留地で育つ。17歳で抑圧的な高校から逃れるために海兵隊に入隊、ベトナム戦争に二度従軍。退役後大学でラジオ放送について学び、インディアンの互助組織「インディアン・センター」を設立、サンフランシスコ湾に浮かぶ無人島アルカトラズ島を占拠するなどアメリカインディアンの権利運動を牽引。この島でFMラジオ局を開設し、「ラジオ・自由のアルカトラズ」としてインディアンを囲む様々な問題を問いかけた。その後、デニス・バンクスらとともに「AIM(アメリカインディアン運動)」の中心的メンバーに。1979年、逮捕されたAIMメンバーの処遇改善を求めてFBIに抗議行動を行い、その12時間後、妻子と義母5人の家族全員を不審火で失う。1982年より、ジャクソン・ブラウンやボニー・レイットの支援を受けて詩人、作家、音楽家として活動。1986年、コマンチ族・カイオワ族のギタリスト、ジェシ・エド・デイヴィスと組んだ最初の曲『Original A.K.A』は、ジョンの詩とインディアンの伝統音楽、ロック、ブルースが編み込まれ、ボブ・ディランに「本年度最高のアルバム」と絶賛された。ミッドナイト・オイルやピーター・ガブリエルとも共演。2015年逝去。

ジョン・トゥルーデル「Johnny Damas And Me」


ザ・ウォー・オン・ドラッグス

2005年、米・フィラデルフィアでカリスマ的フロントマンのアダム・グランデュシエルとソロ・アーティストのカート・ヴァイルを中心に結成。カート脱退後はメンバーチェンジを重ね、アダムを軸とした編成で活動。2011年の2作目『スレイヴ・アンビエント』はメディアなどで絶賛を受け、翌年に初来日。世界ツアーを経て、2014年に3作目『ロスト・イン・ザ・ドリーム』を発表。独自の広がりを持つ音像と深い世界観で高い評価を得る。2017年に通算4作目『ア・ディーパー・アンダスタンディング』をリリース。同アルバムは2018年1月、第60回グラミー賞最優秀ロック・アルバムを受賞した。

ザ・ウォー・オン・ドラッグス「Pain」


小説「野性の呼び声」

著者:ジャック・ロンドン
翻訳:大石真
出版社:新潮社

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(Bass)、細海魚(Keyboard)、池畑潤二(Drums)とHEATWAVEとして活動。2018年3月31日、渡辺圭一が脱退。現在、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“YOUR SONGS 2018”で全国を廻っている最中。6月29日には仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend”を東京・下北沢GARDENで開催する。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』が好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

山口洋 SOLO TOUR “YOUR SONGS 2018”
6月10日(日)豊橋 HOUSE of CRAZY
6月16日(土)千葉 Live House ANGA
7月27日(金)熊本 ぺいあのPLUS
7月29日(日)福岡 ROOMS
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MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend
6月29日(金)東京 下北沢GARDEN
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山口洋×藤井一彦(THE GROOVERS)OUR SONGS 2018
7月13日(金)吉祥寺 STAR PINE’S CAFE
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