佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 47

Column

西城秀樹が『寺内貫太郎一家』で歌った名曲「リリー・マルレーン」を聴く

西城秀樹が『寺内貫太郎一家』で歌った名曲「リリー・マルレーン」を聴く

6月4日の朝日新聞の政治面に、「亡くなった西城秀樹さんをしのぼう」という記事が掲載された。

色即是空アミダくじ空即是色アホダラ経‥‥党首討論における首相のあまりの言葉の空費ぶりに、まさに、虚無感におそわれる中において、クレイジーキャッツの「学生節」を口ずさみながら「寺内貫太郎一家」のDVDを数年ぶりに手に取った。亡くなった西城秀樹さんをしのぼう。
 (朝日新聞2018年6月4日 「(政治断簡)蹴飛ばせ、幕引きパターン 編集委員・高橋純子」)

それに触発されて久世光彦が演出したドラマ、向田邦子脚本の『寺内貫太郎一家』(第18話)を、久しぶりだったがあらためて観ることにした。

寺内貫太郎役の小林亜星と息子役の西城秀樹による、激しい取っ組み合いの親子喧嘩が評判になったこのホームドラマは、1970年代に高視聴率を誇った人気番組である。

祖母役の樹木希林が沢田研二のポスターに向かって「ジュリー!!!」と叫んだり、お手伝いさん役の浅田美代子が瓦屋根の上で歌ったりという、毎回お決まりの見せ場があるほか、タイトルバックを書いた横尾忠則を筆頭に、本職の俳優以外の人物が次々に出演するなど、なにかと話題が多い番組であった。

第18話はその頃に雑誌「文芸春秋」に掲載された「リリー・マルレーンを聴いたことがありますか」という記事を読んで、貫太郎が感銘を受けたという設定で始まる。
したがって最初から最後まで、様々なシーンに様々な「リリー・マルレーン」が流れてくるという、かなりの異色作であった。

ツイッターで検索したら、「第18回は、神回」というつぶやきがあった。

第二次世界大戦でドイツ軍が占領したセルビアでは、ベオグラード放送がドイツ兵に向けて士気を高めるために、ララ・アンデルセンという歌手が歌ったドイツ語の「リリー・マルレーン」のレコードを流していた。
ところが毎夜ラジオから流れてくるこの歌に、ドイツと戦っている連合国側の兵士たちも、熱心に耳を傾けて聴いていたという。

イギリス軍はドイツの放送を聴くことや、その歌を口ずさむことを禁止したが効果はなく、「21時57分にはベオグラード放送にダイヤルを」が合言葉になって、その歌は敵味方に関係なく、前線で戦う兵士たちに愛唱されていった。

ベオグラード放送は東部戦線だけでなく、アフリカ戦線でも聞くことができたが、連合軍の兵士たちにも好まれるようになったことで、「リリーマルレーン」が流れる3分間だけは、戦争を休止するという協定ができるほどだった。

やがて連合軍の兵士たちは思い思いの英語で歌うようになり、ドイツが生んだ世界的な女優で、ナチズムを嫌って米国に渡ったマレーネ・ディートリッヒがレコード化したことでヒットし、「リリー・マルレーン」は広く知られるようになっていく。

妖艶で知的な魅力を合わせ持つディートリッヒは 、“100万ドルの脚線美”とハスキーヴォイスでセンセーションを巻き起こした歌手でもあった。 反ナチズム活動にも積極的に協力したディートリッヒは、前線の連合軍兵士の慰問公演を数多くおこなっている。

さて、東京の下町である根津で石屋を営む一家を舞台にした『寺内貫太郎一家』では、開始早々の朝のシーンから軽快にアレンジされた「リリー・マルレーン」が、インストゥルメンタルで流れてくる。
朝ごはんにウドのおみおつけを作る場面に始まって、物語が進むに連れて要所要所に様々なヴァージョンが使われている。

石屋一家の家族や関わりを持つ人たちはそれぞれ、胸の奥に大なり小なりの痛みを抱えて生きている。
そんな痛みに寄り添うように、さりげなく「リリー・マルレーン」が流れてくる。

向田邦子は脚本の中で長男役の西城秀樹に、「一種の反戦歌だね」と言わせている。
そして貫太郎役の小林亜星には、熱い想いを秘めた表情でこう言わせていた。

「いや俺は、敵も味方も一緒に歌ったってとこが気に入った」。

ほんとうにいい歌は国境も、人種も、時代も、そして敵と味方も超えて、広く伝わるのだ 。

西城秀樹が番組の最後のほうに瓦屋根の上で、ギターを抱えて日本語で歌うシーンがとても良かった。
しかもそのときの歌詞がシンプルで、西城秀樹のひたむきなイメージにふさわしく、清々しい気持ちにさせられた。

春を待つ木の枝に 二人の心を結びつけ
また会うその日を 信じて別れた
憎しみもやがてとけ 平和な朝がいつか来る
あの日がもう一度 帰ってくるだろう ああ
リリー・マルレーン リリー・マルレーン

ここに出演していた樹木希林は今でも健在で、最新作の映画『万引き家族』(是枝裕和監督)がカンヌ国際映画祭で、最高賞「パルムドール」を受賞したばかりだ。

自伝を発表したばかりの梶芽衣子もまた、ロックバンドをバックに本格的な音楽活動を行っている。

しかし、西城秀樹はたくさんの人たちに惜しまれながら、つい先ごろ遠い国へ旅立ってしまった。合掌。


西城秀樹の楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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