Interview

あの「ひそまそ~」はなぜ生まれたのか…!? 今期最大の話題作は“最終話が一番面白くなる”─アニメ『ひそねとまそたん』音楽担当・岩崎太整インタビュー

あの「ひそまそ~」はなぜ生まれたのか…!? 今期最大の話題作は“最終話が一番面白くなる”─アニメ『ひそねとまそたん』音楽担当・岩崎太整インタビュー

映画『シン・ゴジラ』をはじめ数々のヒット作を手がける樋口真嗣が総監督を務め、シリーズ構成・脚本に岡田麿里、キャラクターデザイン原案に青木俊直など、豪華スタッフが結集し今期話題となっているTVアニメ『ひそねとまそたん』。航空自衛隊を舞台に、ドラゴンとそれに搭乗する新人パイロットたちの交流を描くユニークな本作において、劇伴とOP・EDテーマの音楽を一括して担当しているのが、アニメ『血界戦線』などの音楽で注目を集めた音楽家の岩崎太整だ。

樋口監督とは短編映画『巨神兵東京に現わる』(2012年)からの縁となる彼が、『ひそまそ』の物語に沿って作り上げた独創的な音のグラデーションとは? そのこだわりに満ちた音楽について話を聞いた。

取材・文 / 北野 創


<岩崎太整(いわさきたいせい)プロフィール>
映画・ドラマ・CM等の様々な音楽を手掛ける作曲家。代表作に入江悠監督『SR サイタマノラッパー』シリーズ、大根仁監督『モテキ』、樋口真嗣監督・スタジオジブリ『巨神兵東京に現わる』、小泉徳宏監督『カノジョは嘘を愛し過ぎてる』、入江悠監督『ジョーカー・ゲーム』、松本理恵監督・アニメ『血界戦線』などがある。その他にも『東京駅プロジェクションマッピング TOKYO STATION VISION』音楽監督、舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』音楽監督など。

仕事ということを度外視したときにこそ、その仕事がいちばん面白くなるというイメージで

まず、岩崎さんが『ひそねとまそたん』の音楽を手がけることになった経緯について教えていただけますか。

最初は飲み屋でポロッと言われたぐらいなんですけどね(笑)。樋口監督と飲んだときの帰り際に「あっ! ちょっとお願いすることあるかも……」と言われまして。そこから1年間ぐらい音沙汰がなかったんですけど、僕が『血界戦線』のお仕事をする頃に(樋口さんが)ボンズさんとやることになるらしいことを知って、改めてお話をいただいたんです。

『ひそねとまそたん』という作品に対しては、どのような印象を受けましたか?

最初に資料をいただいたときは、単純に企画や設定が面白そうだと思いました。まだ脚本がどうなるかもわからない状態ではありましたけど、樋口さんの作品に対するイメージが明確でしたし、それを受けた岡田麿里さんの脚本もきっと面白くなるだろうと思って。企画としても無理がないというか、そうそうたるスタッフの方々ですが、僕にはその人たちが自然と集まっているように見えたんです。そういう意味でまっとうな作品になりそうだなと思いました。

岩崎さんが面白そうと感じた部分を、もう少し具体的に説明いただけますか?

お話の内容というより、手触りみたいなものなんですよね。例えば樋口さんが好きなものとか、僕が岡田さんの作品を見て感じたものとかが、そのままストレートに入ってる印象を受けました。

これはすごく変な言い方ですけど、“趣味”みたいな部分を大いに感じたんです(笑)。「仕事ということを度外視したときにこそ、その仕事がいちばん面白くなる」みたいなイメージというか。そういうところが、先ほど話した「(スタッフが)自然と集まっている」と感じた部分にも繋がってるんです。青木俊直さんがキャラクターデザインの原案に入っているのもそうですし。あとは僕が単純に受け手として「この作品を見てみたい」と思えたので、これはぜひやってみたいと思ったんです。

音楽を制作するにあたって、樋口総監督やアニメ制作サイドから何か要望はありましたか?

最初は80年代のシンセサウンドみたいなサントラを参考に渡されて「こんな感じはどうですか?」と言われてたんです。ただ、樋口さんからは(劇伴の)メニュー表的なものを何ひとついただいてなくて(笑)、1話ごとの内容を「ひそねの孤独」とか4行ぐらいの言葉にまとめた散文詩みたいなものをいただいたんですね。それと岡田さんの脚本を読んだ結果、参考音源とは全然違うものを作ってしまいました(笑)。

そちらの方が『ひそねとまそたん』という作品のイメージにマッチしそうだったと。

最初はもっと軽い感じのお話なのかなと思っていたんですけど、脚本を読んだらもうちょっと凛々しいお話に見えたんですね。それで「これは真っ向勝負をしないとダメだな」と思ったんです。

そういった作品と真摯に向き合おうという思いもあってか、今回の劇伴はフルオーケストラによる楽曲が中心になってますね。

いちばん最初に考えたのは「カッコつけてはいけない」ということなんです。僕はずっとカッコつけたような音楽を作ってきたんですけど(笑)、今回はそれをやめようと思って。別にオーケストレーションをやりたかったわけではなくて、例えば何かをこねくり回してカッコよくするのではなく、「カッコつけない」ということを第一のルールとして守り続けた結果というか。だから樋口さんと岡田さんには、僕が今までいろいろ塗って身体に付けてきたようなものを、ベリベリッと剥がされて丸裸にされたと思っています(笑)。

雅楽に対する理解を深めるために『古事記』や『日本書紀』を読んだりも…

その他に『ひそねとまそたん』らしさを出すために工夫されたことは?

物語の中に「巫女」というワードが出てきますけど、今回はそれに即した音楽として雅楽を取り入れています。それもよく見るような雅楽ではなくて、「国風歌舞」(くにぶりのうたまい:外来音楽が伝来する以前から存在する日本古来の歌舞)というものをやっていまして。演奏も専門機関の方にお願いしたんですが、まずそこの儀式や日本古来の音楽について説明を受けて、一緒にクリエイションをしていったんですよ。

劇伴ではそういう日本古来の音楽や楽器を、物語の展開にある程度即しながら少しずつスライドするように入れていくということをやっていまして、最初は西洋楽器から始まりますが、それがちょうどグラデーションになるように混ざっていって、最後は雅楽だけになるような部分も出てくるんです。

それは面白い試みですね。ただ、岩崎さんにとってもチャレンジングなことだったのでは?

そうですね。まず雅楽に対する理解を深めなくてはいけないので『古事記』や『日本書紀』を読んだりもしました。日本に存在する「国風歌舞」にはどういうルールがあって、この音の並びがどういうものなのかを理解しなくてはいけないと思いまして。アニメーションとしてもそうですけど、それを勉強したのは自分の中にもすごく不思議なものとして残ると思います。「日本という国はものすごく面白い!」と思いましたね。例えばこれが楽譜なんですけど……(波線と文字のようなものがセットになった記号の並びを見せる)。

えっ! これが楽譜なんですね!

そうなんです。でも、これは皆さんちゃんと聴いて勉強すれば、いつか読めるようになります。僕も最初は訳がわからなかったんですけど、今は読めるようになりましたから。(記号のひとつをさして)これは歌の歌詞と篳篥(ひちりき)の塩梅(えんばい/篳篥の演奏技法のひとつ)を表していて、「いい塩梅」とかの塩梅(あんばい)という言葉はここからきているらしいです。

この波のような線の高低が音階を表しているんですね。自分も雅楽のことはよくわかりませんが、こうして実際に触れると大変興味が沸きます。

雅楽には日本の伝統やこの国特有の面白さみたいなものが残っているんです。大宝律令(701年に制定された日本の律令)の頃からずっと同じことをやっているらしいですから。そんなものは他にはないと思いますし。

奥が深いですね。

僕はこの作品の実作業を始める前に、富山の八尾町というところで毎年9月1日から3日間だけ行われる「おわら風の盆」というお祭りを観に行って、この作品へのイメージを作ったんです。そこには二十歳ぐらいの女の子だけが参加できる踊りがあって、夜にひっそりと始まるんですけど、楽隊みたいな人たちが急に街の通りにやってきて、そこで女の子たちが踊りだすんですよ。

今回の劇伴では、そういった日本のトラディショナルな音楽にインスパイアを受けた部分が多かったと。

音楽的に直接影響があったわけではないんですけど、イメージはそこで何となく掴みましたね。あと、ひそねやDパイの女の子たちが、その踊り子さんたちと同じような年代なんです。そこには二十歳ぐらいまでという、切り取られた年代の女の子だけが持つ神々しさみたいなものを感じられたので、観に行って良かったなと思います。

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