Review

Suicaのペンギンが“どうイジってもかわいい”理由がわかった。キャラクターデザインの匠が明かす仕事術『いきものとイラスト』(坂崎千春)

Suicaのペンギンが“どうイジってもかわいい”理由がわかった。キャラクターデザインの匠が明かす仕事術『いきものとイラスト』(坂崎千春)

「Suicaのペンギン」で知られる絵本作家・イラストレーターの坂崎千春。その作家デビューから20年の仕事をまとめた集大成として、記念本『いきものとイラスト』が刊行された。単純にたくさんのかわいらしいイラストが楽しめる作品集としてはもちろん、キャラクターづくりのテクニックも詰め込まれていて、実用書としての側面も大きい本書。キャラクター好きとしても「Suicaのペンギン」ファンとしてもおすすめしたい一冊だ。

文 / 柳 雄大


 ペンギンだけじゃない、生き物たちの秀逸なデフォルメ

作品タイトルが表すテーマ=“いきものとイラスト”。本書はおもに「いきものイラストギャラリー」「いきものを描く3つのこだわり」「いきもの作品の制作プロセス」という3章から構成されている。

CHAPTER 01は「いきものイラストギャラリー」。何はともあれ、最初の楽しみはSuicaのペンギンの作品集だ。これまでJR東日本のポスターやキャンペーンで使用されたもの、中には現在入手困難となったグッズのイラストも……。これらを見れば見るほど、“どうイジってもかわいい”キャラクターであることがわかる。ポーズ、表情、行動、コスプレ(!?)など、かなりのムチャをしてもぶれない良さ。それが“誰もが自分を投影できる”というSuicaのペンギンにおけるコンセプトの真髄でもある。また、そんなSuicaのペンギンには前身となった「坂崎千春の絵本のペンギン」が存在し、本書でもその姿を見つけることができる。

続いて、ペンギン以外の生き物シリーズ。坂崎千春といえば、Suicaのペンギンと並ぶ代表作として、千葉県PRマスコットキャラクターの「チーバくん」がいる。両者が同じデザイナーによるものだということは、意外に知らない人も多いだろう。真横から見ると千葉県の形になるキャラクターで有名だが、実はどの角度から見てもかわいく見えるよう工夫されていて、現在では着ぐるみなどでも大活躍している。ちなみにチーバくんは、公式設定によれば千葉県に住む“不思議ないきもの”とのこと(「犬」ではないらしい)。

他にもダイハツ工業の企業キャラクター「カクカク・シカジカ」、宝島社『このミステリーがすごい!』のニャームズ&キャットソンなど、なじみのある人も多いであろう動物キャラがぞくぞく。坂崎千春が描く生き物はどれも特徴のとらえ方とデフォルメが秀逸だということが、まずは本章から見えてくる。

誰もがストレートに「かわいい」と感じるキャラクターには理由がある

CHAPTER 02は「いきものを描く3つのこだわり」。年齢や男女を問わず、多くの人がかわいいと感じられるキャラクターにはそれなりに理由がある。本章はそれらが“なぜかわいいと思えるのか”を著者自身が分析し、ノウハウを公開するというもの。ここからは結構「読ませる」チャプターになっている。

ここではまさに、生き物を描くときに特徴をとらえる単純化の作法が紹介されている(形だけではなく、色のつけ方などもシンプルなだけに奥深い)。そして、特にSuicaのペンギンなどに顕著な「擬人化」も大事なポイントとして解説。このパートでは、擬人化したキャラクターの動きの作例というかたちで、毎年ファンを喜ばせているSuicaのペンギンLINEスタンプが紹介されていた。LINEスタンプは、こうして印刷物に残る機会が少ないものなのでうれしいところ。

坂崎千春にとっては、生き物それぞれに対して“かわいいと思っているポイント”があるといい、それが随所に書かれているのが本章の楽しみだ。体型などのデフォルメはしつつも、生き物が持っている根っこのかわいさはそのまま再現しているところが、坂崎キャラクターが愛されるポイントなのかもしれない。

“あのキャラクターが世に出るまで”がわかる

CHAPTER 03ではより具体的な仕事内容として、貴重なワークフローが公開される。イラストレーター必見なのはもちろん、坂崎千春ファンにとっても展示会などではなかなか見られない貴重なもの。特に、Suicaのペンギンが登場する絵本『ペンギンのおかいもの』で、大量のペンギンであふれる見開きページの(本人も作画にそうとう苦労したという)ネーム~ラフの過程は圧巻だ。

ここでは絵本のほか、単行本、キャラクターデザインなど4つの企画(作品)の始まりから完成までを紹介。それぞれの作品に携わった関係者たちのインタビューもあり、客観的に坂崎千春の人物象がうかがい知れる。特に書籍編集者のコメントはどれも興味深いものばかり。

充実のディスコグラフィーに加わる新たな一作として

そして巻末を飾るのが「坂崎千春 作品リスト」。キャラクターデザイン、絵本、連載、関連商品、展覧会に至るまで、20年分の仕事の数々がまとめられている。ここは特に資料的価値があり、ファンにとって永久保存版になることは間違いなさそうだ。

『いきものとイラスト』は、坂崎千春のこれまでの仕事をたたえる内容でありつつ、本書そのものに携わったスタッフによる構成やレイアウト、装丁もまた優れた仕事だと思えた。坂崎千春キャラクターのファンとしては、20年のディスコグラフィーに加わる良書がまた一冊増えたという事実をまずは喜びたい。

書籍情報

いきものとイラスト キャラクターデザインから本づくりまで。

ビー・エヌ・エヌ新社
著者:坂崎千春
定価:本体2,000円+税
仕様:A5判/144ページ
オフィシャルサイト

坂崎千春

絵本作家・イラストレーター。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。ステーショナリーメーカー制作室のデザイナーを経て、1998年よりフリーのイラストレーター・絵本作家として活動を始める。2001年、JR東日本のICカード「Suicaのペンギン」のキャラクターデザインをきっかけに、さまざまな企業や団体のキャラクター制作を手がける。また、絵本作家として40冊を超える作品を出版。エッセイの執筆、単行本や雑誌の装画、挿絵なども数多く手がける。毎年、展覧会や展示会などを開催している。