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平井 堅「みなさんに育てられて20歳を迎えられました」──今や彼のライフワークとなったコンセプトライヴ〈Ken’s Bar〉開店20周年記念公演

平井 堅「みなさんに育てられて20歳を迎えられました」──今や彼のライフワークとなったコンセプトライヴ〈Ken’s Bar〉開店20周年記念公演

平井 堅が1998年より毎年開催しているコンセプトライヴ〈Ken’s Bar〉は、ライヴ会場を“BAR”に見立て、観客はお酒やソフトドリンクを飲みながら、“BARのマスター・平井 堅”の歌を楽しむというコンセプトを持ったアコースティックなスタイルで行うライヴである。
“開店”20周年イヤーの始まりとなる5月29日・30日にTOKYO DOME CITY HALLで20周年記念公演となる〈Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.1〉が開催された。

取材・文 / 松浦靖恵

果実もお肉も腐る一歩手前が一番美味しい。中年の生き様を歌で、今宵も心を込めて命がけで歌います

1995年に華々しいデビューを飾るも、その後はなかなかヒット曲に恵まれなかった平井 堅は、起死回生のひとつのきっかけになればという想いで、デビューから3年目の1998年5月に〈Ken’s Bar〉をスタートさせた。東京・大久保にあったON AIR OKUBO PLUSで行った第1回は50人ほどの観客の前で歌唱したが、徐々に動員が増え、その後「楽園」でブレイクした以降も、彼は会場の規模を変えながら〈Ken’s Bar〉を毎年開催している。その始まりは苦肉の策だったはずの〈Ken’s Bar〉は、今となっては彼が「ライフワーク」と公言するほど大切な場所になり、こうして20周年を迎えられるほど平井 堅の歌手人生になくてはならない存在になった。

20周年イヤーに突入した今回の〈Ken’s Bar〉は、20年前のスタート時と同じ日の5月29日と5月30日に開催された(注:29日は平井 堅FC会員限定のライヴ)。ステージには“Ken’s Bar”のネオン管が掲げられ、お馴染みの会場アナウンス「まもなく“開店”します」が場内に流れると、〈Ken’s Bar〉133公演目(5月30日)が幕を開けた。

ライヴの始まりを告げたのは「even if」。この曲はもともと「バーボンとカシスソーダ」というタイトルの自作曲で、その後、2000年に期間限定でリリースする際に「even if」とタイトルが変更された曲だが、〈Ken’s Bar〉では初回からずっと歌い続けている“Ken’s Barのテーマ曲”ともいえるこの曲を、この日彼は1曲目に選び、2曲目に平井 堅の歌手人生を大きく変えた、ブレイクのきっかけをくれた大ヒット曲「楽園」を選んだ。良いときもそうじゃないときも歌い続け、20年間ずっと自分の歌手人生の中にあった〈Ken’s Bar〉への感謝の気持ちが、この2曲には込められているように思えた。

原色の柄をアクセントにしたインナーに黒い細身のスーツを合わせた平井 堅が「Ken’s Barへ、ようこそお越しくださいました」と挨拶をした最初のMCでは、この日のライヴを同時中継している全国35ヵ所のライブビューイング会場名が書かれた紙を手にして、「老眼鏡が欲しい~」なんて言いながら一会場ずつ読み上げ、撮影カメラに向かって何度も“キメポーズ”。そして「26歳で始めた〈Ken’s Bar〉も20年経って、私も46歳になりました。果実もお肉も腐る一歩手前が一番美味しいと言います(笑)。中年の生き様を歌で、今宵も心を込めて命がけで歌います」と、言葉を続けた。

平井 堅のオリジナル曲の中からリクエストを募って即興で歌う“リクエストコーナー”は、もともとデビュー20周年時のアニバーサリーツアーでやった人気企画だったが、平井自身もリクエストによっては、しばらくライヴで歌っていない曲などを即興で歌うことが楽しいらしく、〈Ken’s Bar〉でも組み込まれるようになった。今宵のリクエスト曲は「ex-girlfriend」と「Sing Forever」。

爆笑トークを交えたリクエストコーナーのあとは、丁寧に紡いだ言葉と優しいメロディが心に染み入る「思いがかさなるその前に…」「魔法って言っていいかな?」を披露し、会場に平井 堅のバラードワールドが広がった。

〈Ken’s Bar〉は、新しいアルバムを携えたツアーや通常のライヴとは異なり、300曲近くある平井のオリジナル曲から彼がどの曲を選び、誰のどの曲をどんなアレンジでカバーするのかが観客にとって大きなお楽しみになっている。この日の最初のカバー曲は、先ごろ急遽した西城秀樹の「ギャランドゥ」をウッドベースのみのジャジーなアレンジを施してカバー。

西城さんを「先日、天国に逝ってしまった大スター」と紹介し、20年ほど前に一度だけお会いしたときに「本当に実在するんだ!」と驚いたことや気さくに声をかけてくださったことを振り返った平井は、「僕は70年代、80年代のキラキラした男性ソロボーカルの華の時代が好きなので、時代は違っても、キラキラした世界に(自分が)いるのであれば、僕は一曲一曲、みんなを驚かしたい。板(ステージ)に立ったときは、守りに入らず、秀樹さんに負けないパフォーマンスができるように頑張りたいと思っています」と言葉を続けた。

二部構成で開催する〈Ken’s Bar〉の前半、“ACT1”の最後は「ノンフィクション」を披露。どんなに悩み苦しんでも決して諦めずに生きることを決めた人たちに届く歌になったら……という思いで書いた曲で、彼は前半を締めくくった。

30分の休憩を挟んでスタートした“ACT2”の始まりは、アルバム『Ken’s Bar』にも収録された「The Rose」(ベッド・ミドラー)をカバー。この日は「歌詞が素晴らしいので、自分の言葉で訳した」日本語詞をステージ後方のスクリーンに投影しながらフェイバリットナンバーを届けた。

続いて、邦楽のカバー「愛を伝えたいだとか」(あいみょん)、「渇いたkiss」(Mr.Childern)を披露。平井は「あいみょんの独特な言葉選びのセンスに刺激を受けている」「(「渇いたkiss」は)よくある東京の景色を、匂い立つような情景描写をしていて。聞くたびに自分もこんな詞が書けたら」と話していた。彼は様々な曲をカバーすることで、自分が書かないような言葉や思いつかないようなメロディを知り、シンガーとして自分がこの曲をどう歌うのかを知ることで、平井 堅のオリジナリティとは何なのかを追求し続けているのだろう。

MC後は5月30日にリリースしたばかりの43枚目のシングル「トドカナイカラ」を披露。映画『50回目のファーストキス』(長澤まさみ・山田孝之ダブル主演)の主題歌として書き下ろしたこの曲は、好きになった相手にどんなに愛の言葉を伝えても、どんなに楽しい一日を過ごしても、彼女は次の日にはその記憶が消えてしまうというこの物語の設定に寄り添いながら、募る恋の甘い香り、想いが届けば届くほど不安な気持ちにもなってしまう恋心の切なさ、ギリギリで届かないもどかしい気持ちを繊細に描いている。

軽やかな「キミはともだち」のあとは、「POP STAR」のライヴパフォーマンスではお馴染みの着ぐるみ“あらいぐまのアックン”と“モグラのモックン”が登場し、ステージを華やかに彩る。平井 堅と観客と着ぐるみたちが一緒に振り付けをするシーンに胸がキュンとなってしまったのは、こんなにも平井 堅はみんなに愛されているんだなと思える光景が広がっているからだろう。

“ACT2”の最後に届けたのは〈Ken’s Bar〉が生まれた同じ日の1998年5月にリリースされた曲だった。平井は「この歌がライヴに欠かせない大切な曲になったのは、みなさんがライヴに来て、喜んでくれて、成長させてくれたからです。みなさんに育てられて20歳を迎えられました」と紹介し、「Love Love Love」を歌った。

アンコールの1曲目は、「トドカナイカラ」と同日発売されたニューシングル「知らないんでしょ?」(テレビ朝日系ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』主題歌)を、シルクの白いパジャマとサンダル姿で歌った。このいでたちは、「知らないんでしょ?」のMVで、夜道で見知らぬ女性に執拗に後をつけられている平井 堅が着ていた衣装(こちらは柄の入ったシルクのパジャマ)から派生したものだろう。彼にはほとんど照明が当たらない暗いステージの後方スクリーンには、黒や赤の歪んだ幾何学模様が次々と映し出され、不穏な空気を持った世界を会場内に漂わせた。

彼がこの日披露した新曲2曲、恋の甘さと苦さと切なさを抱えたラブソング「トドカナイカラ」と、人間が抱える、始末におえない重い感情を刻んだ「知らないんでしょ?」は対照的な楽曲かもしれない。けれど、「知らないんでしょ?」を歌い終えた平井 堅はこんなことを言っていた。「容姿や所有物で比較したり、嫉妬をしたり。そういうものを認めながらも、美しいものがきちんと心の中にあると信じながらこの曲を書いた」、と。

ラストナンバーは、1998年5月30日にリリースしたシングル「Love Love Love」のカップリング曲であり、第一回〈Ken’s Bar〉でも歌った「強くなりたい」を、グランドピアノの弾き語りで届けた。ヒット曲がひとつもなかったあの頃の平井 堅から生まれたこの歌には、“これから何があっても自分は歌い続けるんだ”という覚悟が刻まれている。そして、その覚悟は今もこれからも決して変わることがないからこそ、彼はこの歌を最後に歌ったのだろう。ステージを去る前に彼は「今日はどうもありがとうございました! 30周年を目指して頑張ります!!」と叫び、笑顔でステージをあとにした。その笑顔には、自分には歌い続けていける大切な場所があるんだという喜びが溢れていた。

Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.1
2018.5.30@TOKYO DOME CITY HALL SET LIST

〈ACT1〉
M01. even if
M02. 楽園
M03. ex-girfriend
M04. Sing Forever
M05. 思いがかさなるその前に…
M06. 魔法って言っていいかな?
M07. ギャランドゥ(西城秀樹)
M08. ノンフィクション
〈ACT2〉
M09. The Rose(ベッド・ミドラー)
M10. 愛を伝えたいだとか(あいみょん)
M11. 渇いたkiss(Mr.Children)
M12. トドカナイカラ
M13. キミはともだち
M14. POP STAR
M15. Love Love Love
〈ENCORE〉
EN01. 知らないんでしょ?
EN02. 強くなりたい

平井 堅(ひらい・けん)

三重県出身。1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。1998年よりコンセプトライヴ 〈Ken’s Bar〉の開催をスタート。これまでにシングル42枚、オリジナルアルバム9枚を発表し、累計3,000万セールスを記録。2017年は、大阪城ホール、日本武道館にて〈2017 Special Live!! “THE STILL LIFE”〉、7月に河口湖にて〈Ken’s Bar 2017〉を開催。また7月12日にはベストアルバム『Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2』を発表した。

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